■編集委員会から■


土木学会誌編集方針(2022-2023年度編集委員長,岩城一郎)

コロナ禍に加え,ロシアによるウクライナ侵攻など,国内外の情勢が見通せない中,土木学会誌編集委員長の大役を仰せつかることになりましたが,こんな時代だからこそ,土木学会誌の本質を見失わず,読者にとって真に有用な情報をお届けしたいと考えています.そのために編集委員長として心がけることは,編集委員個々の強みを生かし,その総和としての編集委員会のパフォーマンスを最大化することにあります.編集委員は,自分が得意とすること,長所と思う個性を存分に発揮し,編集委員会ではそうして吸い上げられた記事を最大限に尊重しつつ,客観的・中立的視点で議論を重ね,より良いものに仕上げていく.当たり前のことかもしれませんが,こうした作業を2年間にわたり誠実にひた向きに進めていく所存です.

土木工学は「市民のための工学」(Civil Engineering)であり,「健全で持続可能な社会」の実現に寄与するものです.デジタル社会の到来に伴い,土木事業においてもAIやIoT,ロボットが席巻する未来が想像されますが,最後の判断は技術者に委ねられます.自身の経験に照らしても,良い土木事業は技術力と情熱を兼ね備えた技術者によって成し遂げられるものと確信しています.また,その結果生み出されるインフラや環境を享受するのは市民です.本誌では,「土木と人」をメインテーマに,土木事業に携わる技術者・研究者,さらには市民の喜びや苦悩といったリアルな感情をあぶりだせるような会誌となるよう心掛けたいと思います.

2つ目の視点は「外から見た土木」です.批判を覚悟で申し上げると,土木業界はあまりに内向きです.我が国の土木が,外国から,異業種から,あるいは一般市民からどのように見られているか,どれくらい意識されているでしょうか?こうした外からの意見に耳を傾け,改善を図ることが今の土木には必要と思います.特に国際社会における我が国の土木の立ち位置を知り,そのプレゼンスを発信することは極めて重要です.ここでは,上田会長特別研究委員会とも連携し,海外に向けた学会誌の「英文化」,「デジタル化」にも踏み込みたいと考えています.

最後は「地域と土木」です,コロナに加え,首都直下型地震やその他の有事も想定される中,一極集中の時代が未来永劫続かないことは容易に想像される一方で,地方創生は遅々として進まない状況にあります.地域における社会インフラと環境の保全と防災なくして,地域創生など果たせるはずもありません.私自身,「地域の大学人」としてこうした課題に向き合ってきた経験を生かし,本誌では「地域と土木」のかかわり方についても鋭くメスを入れていきたいと思います.

今や土木学会の広報媒体は会誌だけではありません.SNSからラジオに至るまで,まさに多様です.他の媒体を尊重し,うまく分担・連携を図ることでその総体としての広報を目指したいと思います.この2年間,多くの困難の中での編集作業を余儀なくされるかと思いますが,編集委員が「無理なく,心地よく」編集に没頭できる環境を整えることに尽力したいと思います.そして,2年間の活動が終わった後に,少しでも多くの読者が,そして編集委員が,これからの土木と土木学会に対し,希望を見出せるような,そんな会誌にしたいと考えています.
© Japan Society of Civil Engineers 土木学会誌編集委員会