2026年10月号 会長特別企画2026
DXで土木学会の未来を拓く
─信頼できる情報の蓄積とAIで社会貢献を高度化─
[座談会メンバー]
小林 三昭 氏正会員 JR東日本コンサルタンツ(株) 情報ソリューション統括本部 シニアフェロー
小松 淳 氏正会員 土木学会土木広報センター長、ID&Eホールディングス(株)経営管理本部 チーフエンジニア
三輪 準二 氏土木学会 専務理事
[座談会メンバー兼司会]
小澤 一雅 氏第114代 土木学会 会長
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三輪 準二 氏
MIWA Junji
1989年京都大学大学院工学研究科土木工学専攻修了、同年建設省入省。2022年国土交通省を退職。2023年6月
から現職。
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小松 淳 氏
KOMATSU Atsushi
1980年早稲田大学理工学部土木工学科卒業、日本工営入社。国内外業務の後、情報通信基盤の設計・運用、情報セキュリティ管理、知財管理、デジタル・アーカイブス構築を担当。土木広報活動には2004年から携わる。
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小林 三昭 氏
KOBAYASHI Mitsuaki
1958年東京生まれ。日本大学理工学部土木工学科卒。国鉄時代に東北新幹線工事に従事、JR東日本で建設工事部門システムなどを構築。その後JR東日本コンサルタンツ(株)にて鉄道GIS、BIMクラウドなどICT事業を構築。現在、同社シニアフェロー。
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小澤 一雅 氏
OZAWA Kazumasa
2018年10月より、東京大学大学院工学系研究科の社会基盤学専攻と精密工学専攻が共同で設置した「i-Constructionシステム学寄付講座」において、i-Construction/DXに関する研究・教育を開始。土木学会建設マネジメント委員会i-Construction特別小委員会委員長などを務める。
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土木学会は現在、会員サービスの向上、事務の効率化、未来への技術継承を見据え、基幹システムの刷新を含むDXを推進している。会長とシステム刷新の責任者である専務理事、情報発信を担う広報センター長、システム開発のエキスパートが、それぞれの立場から推進の方向性を議論した。
老朽化システムの刷新と会員サービスの抜本的向上
小澤―本日は「土木学会DX」をテーマに、議論したいと思います。学会では、佐々木葉第1 1 2代会長時代から継続してDXプロジェクトを推進しています。新5か年計画「JSCE2025」でも、会員・組織データベースの構築や、支部の負担軽減、情報の蓄積と公開、アウトリーチの強化などのためにDXを進める必要があることが指摘されています。事務の効率化においても、会員サービスや社会貢献の高度化においてもDXは必要不可欠な取り組みです。まずは、基幹システム刷新の責任者である三輪専務理事から、経緯と現状を紹介してください。
三輪―出発点は、事務局が利用する基幹システムが古く、関連する複数のOSのサポート終了期限が迫っていることにあります。これまでは財政状況を鑑み、極力コストを抑えるスタンスでしたが、会員システムを中心とする本部の各システムが連携できていないために、必ずしも事務が効率的とは言えない状況にあります。そこで、単なる更新ではなく、会員サービス向上を見据えた抜本的なシステムの改修を検討し始めたというのが経緯です。
複数のシステムベンダーに対してRFP(提案依頼書)を提示し、現在1社に絞り込みました。2026年度中に詳細な要件定義を詰め、2027年度からシステム改修に着手したいと考えています。
小澤―事務の効率化を起点としつつ、会員や社会をも視野に入れたよりよいシステムをつくろうということですね。広報センターでは、現状をどのように捉えていますか?
小松―広報の視点からは、今回のシステム刷新は単なる効率化ではなく、「何を発信し、社会にどう受け止められたか」を把握する基盤づくりだと考えています。土木学会は1987年に11月18日を「土木の日」と定め、続く1週間を「くらしと土木の週間」として、市民に向けたイベントなどさまざまな広報活動を展開してきました。
しかし、東日本大震災のとき、メディアの報道は米軍や自衛隊の救援活動が中心となり、大奮闘した土木界の様子はほとんど取り上げられませんでした。
そこで、「『伝える』から『伝わる』へ」というキャッチフレーズを掲げて「土木広報アクションプラン」をとりまとめ、関係団体が協力して全国的・持続的に取り組むことにしたのです。2015年には、戦略的広報の専任組織として、土木広報センターが設立されました。
学会が広報戦略を実行する上で重点を置くメディアも、マスコミでの露出が最重要視されたかつてとは違い、現在はSNSやオウンドメディアの比重が圧倒的に高まっています。具体的には、参加型イベントなど対面での活動と、その報告をウェブサイトなどで発信する活動をセッ
トで行うようになっています。
しかし、われわれの発信がどれだけ届いているかを総合的に把握したり、活動実態を体系的・一元的に記録したりという点で、現行のシステムでは限界があると感じています。
小澤―小林さんは土木学会の会員でもあり、JR東日本の基幹システム開発を長年にわたり手掛けてこられました。その経験を踏まえ、学会のシステム刷新やDXについて、どんな課題意識を持っていますか?
小林―私は国鉄時代の末期に入社し、分割民営化でJR東日本が誕生する激変期を体験しました。そこで痛感したのが、「データの重要性」です。JRになって最初の仕事は、旧国鉄から継承した鉄道構造物に関する膨大な設計情報・図面・線路平面図を全てスキャニングし、インデックスを付与して検索できるデータベースを構築することでした。
このデータベースは、2002年の従来の「設計管理者制度」に代わる「認定鉄道事業者制度」への移行に伴い、技術基準類の整備や業務(工事)の記録、構造物の設計図書の履歴管理を可能にするために構築され、今でも運用されています。
明治時代からある構造物も、現役である以上これから先もメンテナンスしながら存続させていくことが重要と考えます。
質の高いデータを核とした社会貢献と技術継承の実現
小澤―それぞれの視点から、現状の課題が浮き彫りになりました。次に、具体的にどのようなDXを目指すべきか、また、何を期待するかを伺います。
三輪―事務局の視点でぜひ実現したいのは、ペーパーレス化と事務効率の向上です。職員には、それによって生まれる時間をより創造的な会員サービスや仕事のやり方の改善に充ててほしい。また、会員のメリットとしては、シングルサインオン(SSO、一度の認証で複数のシステムやサービスを利用できる仕組み)の導入、キャッシュレス決済のさらなる推進、マイページでご本人の学会活動履歴を参照できる機能の整備などがあります。使い勝手はかなりよくなるはずで、学会サイトの利活用が増えることを期待しています。
小松―社会貢献の視点では、情報の「永続性」と「信頼性」の担保が鍵になるでしょう。特に災害時の調査速報などは、中間成果であっても、誰がいつ発信したのかを明確に記録し、信頼できる情報源として永続的に保全する必要があります。また、個々の会員がどのような委員会や行事に参加したかというID管理を徹底することも重要だと考えます。これによって会員の学会での活動実績が可視化され、所属する組織内での評価や技術者としてのキャリア形成にも寄与できるでしょう。
小林―ID管理は非常に重要ですね。建設現場の入出場管理のように、学会の会議やセミナーへの参加を自動でトレースできれば、事務負担も減り、正確なデータが蓄積されます。
もう一つ、私が期待しているのは、土木学会に聞けば何でも答えてくれる「(仮称)土木技術AI」の構築です。これからの生成AIの賢さを決めるのは学習データの質です。学会が持つ過去のアーカイブや論文・図書、学会誌は非常に高品質な学習データになります。これをAIが解釈できる形で整理し、デジタル情報として残すべきでしょう。例えば、現役で使われている構造物の建設時の設計計算書・図面を所蔵・更新し、AIに学習させておけば、今後起こり得る災害時の復旧計画などに生かすことも可能になります。
小澤―おっしゃる通り、質の高いデータを保有している土木学会は、技術継承の点においても大きな貢献が可能となりますね。
知能革命時代の広報戦略と「AI最適化」の視点
小澤―AI活用の話が出ましたが、今後ますますAIの活用が進むことを考えると情報の見せ方や発信の仕方も大きく変える必要がありそうですね。
小松―まさに今、「知能革命」が進行しています。2024年半ばからグーグルの検索結果のトップにAIが自動生成した独自の回答を表示する「AI Overviews」の提供が開始され、ユーザーはウェブサイトを訪れる前にAIの要約で満足してしまう状況になっています。これからは、自らのサイトを検索結果の上位に表示させるSEO対策(検索エンジン最適化)に加えて、AI対策へのシフトが必要です。つまり、学会の情報がAIに価値あるものとして認識され、引用・推奨されるように、データの状態を整えなければなりません。
小林―国は「AI基本計画」(2025年12月閣議決定)の中で、防災やインフラ建設・管理、公共交通などの分野でも、AI(AIエージェントやフィジカルAIを含む)の活用を促進していくとしています。そのためには、質の高い技術情報を学習させて、信頼性の高い答えが返ってくるAIの構築が必要です。一番重要なのは「高品質な土台(データプール)」を整えることです。AI活用を継続的に拡大していくため、データのサイロ化を招くことなく、セキュリティや情報漏えいのリスクを警戒しつつ、着実にデータ環境整備を進めていくことが求められています。
データベースの構築には手間とコストはかかりますが、一度整備してしまえば、その後システムが更新されたとしても、データをそのまま後世に継承できます。日本の多くの土木構造物は、メンテナンスを繰り返しながら使い続けていくのでしょうから、ぜひ今のインフラを使い続けることを前提とした「情報の資産化」を進めてほしいと思います。
小松―広報のキーワードも「土木」だけでなく、一般社会に浸透している「インフラ」という言葉を積極的に使うべきだと考えています。インフラの強靱化や老朽化といった文脈で、AIが学会の情報を適切に拾い上げられるように、キーワード戦略も見直す必要があるでしょう。
三輪―システム改修においても、こうしたAI時代への拡張性は意識しています。現行機能を単にリプレイスするのではなく、クラウド移行によって新しい技術を柔軟に取り入れられる基盤を作ることを目標にしています。
写真1 土木学会正面玄関にて
信頼できる土木情報を日本と世界へ発信するコアに
小澤―最後に、これからのDXの進め方と、土木学会が果たすべき役割についてご意見をお願いします。
小松―土木広報センターではAI時代に合わせ、前述の「土木広報アクションプラン」の見直しを検討しています。目指しているのは、あらゆる学会活動が「信頼ある情報源」として記録され、世界中のAIに引用される状態です。それは、土木の価値を次世代に伝え、適切な社会貢献を果たすための生命線となると信じています。
小林―DXを進めるにあたって重要なのは、組織横断的な「データの共有化」ができる仕組みづくりでしょう。JR東日本では、土木、建築、電気といった系統ごと、または設計・施工・維持管理・オペレーションの各段階でバラバラだった情報を共通データ基盤(CDE:Common Data Environment)として集約し、活用できる環境整備を進めてきています。
小澤―データを活用しやすい環境を構築するには、その仕組みづくりが重要なのですね。
三輪―システムの改修は大きな投資ですが、これは単なる事務のIT化ではなく、学会の存在意義を高めるための「基盤整備」です。会員、事務局、そして社会にとって、重要なプラットフォームとなるよう、整備を進めてまいります。
小林―「土木学会は名実ともに日本の土木技術の総本山である」と思っています。産学官の情報共有の場として、社会課題の解決に向けた重要な役割を果たしており、今も土木技術者の登竜門的存在でもあると認識しています。私が若いころは、土木工学は経験工学と言われ、先輩たちの背中を見て学ぶことから始まりましたが、これからは少子高齢化による人材不足が進む中、ノウハウを蓄積し、豊富な経験や暗黙知を有するエキスパート技術者を確保することは難しくなります。今こそ、先人たちの知識や歴史的情報をデジタル化して後世に残し、技術継承の土台を整えることが必須だと感じています。若い人を含め、会員が貴重なデータをどんどん活用して、新しい技術を創造できるような環境を整えていただければと思います。
小澤―調査研究部門にも膨大な研究成果が蓄積されています。土木学会で扱うインフラに関係するデータをより上手に利活用できる仕組みをつくれば、研究活動もさらに活発になり、それを教育活動にも自由な形で展開できるようになるでしょう。一般社会からの問いや疑問に対して、質の高いデータに基づき回答することも可能でしょう。また、分野間や他の学協会との連携を促進することにより、新たな価値を創造することにもつながる。さらには、学会の取り組みが社会へ波及して、日本全体が活性化する─。この先に、いろいろ夢が広がる可能性があるなと思いました。
学会のDXに取り組む上では、会員の皆さまにもご意見を伺いながら進めていきたいと考えています。今後ともご協力をお願い申し上げ、閉会といたします。本日はありがとうございました。

