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JSCE Magazine,“Civil Engineering”

土木学会誌

■土木学会誌2012年12月号モニター回答


■ 第21回 「ブラックボックスの罠」と土木技術者 小野 武彦

現在、土木業界において解析手法の高度化・IT化が進み、また安易に検索エンジンにより調べたいことの概要が瞬時に調べられるよう便利な社会になっている。しかし、そういった手法が高度化していくのに反して技術者の現場の直感力、判断力が昔に比べて劣っている気がしてならない。高度成長期に比べて、工事件数がおしなべて少なくなっているのは明らかであり、そう忙しくはないはずなのに「現場の事故」がなくならないのはなぜだろうか? ある現場では、クレーン車が倒れ、またある現場では土留壁が壊れ、あるシールド現場では、異常出水や土砂の流出事故が起きている。土木技術者が解析数値を過信し、現場を把握すること《直感力》を怠ったことが原因なのか? 今の技術者は、昔の技術者に劣らず優秀なハズで、その技術者に本来持っている技術を発揮させない「何か」があるのだろうか? バブル崩壊後の過度の効率至上主義により、コスト削減されいろいろなものが見落とされているのではないだろうか? 景気が落ち込んでいる今だからこそ、技術者倫理をもって自ら考え判断し技術する技術者を目指したい。
(所属:阪神高速道路(株) 氏名:山田清敬)

解析手法の高度化やIT化が伸展することに伴い、技術者がものごとを本質的・感覚的に感じ取る機会が喪失していくことへの警鐘に共感する。指摘されてみればまったくその通りなのだが、しかし、改めて意識してみれば我々は文書作成、計算に始まり図面やイラストを描くことまであらゆる作業に、現代のIT化の恩恵を受けており、しかもそのことに日ごろ無意識でありがちである。文書を手書きではなくPCで打ち込めば打ち込むほど、例えば漢字を忘れていくように、IT化の恩恵にすがって生きることの「副作用」に、できるだけ意識的でありたい。
(所属:国交省 氏名:鈴木高)

ブラックボックスの罠に陥ってはいけないという警鐘には、全く同感です。コンピュータの進化により、難問であってもブラックボックスからは解がアウトプットされます。その解が、求めているものかどうかを判断する「直感力」を常に保持し続けることが重要なのだと思います。近年は、設計から施行までのあらゆるステージでコンピュータが活用されていますが、単純化した手計算を経験したり、現場での現象の把握に努めること等で「直感力」を養う必要があると考えます。それらの上で、ブラックボックスは技術を活かす有用なツールであり続けると思います。
(所属:メタウォーター(株) 氏名:楠本光秀)

設計のブラックボックス化については、まさに本記事に同感である。解析が複雑になればなるほど、シンプルな置き換えによるチェックが必要不可欠になると考える。また、解析の過程のチェックのみならず、入力される条件が現地の情報に合っているのか、そもそも解析手法に間違いはないのか、設計の条件が事業の目的に適合しているかのチェックも併せてできることが、これからの技術者に求められていると考える。
(所属:東京急行電鉄 氏名:鶴長輝久)

■ 第94回 東京建設コンサルタント 岩熊 まきさんに伺いました

建設の色々な分野へ、女性が進出してほしいと常々願っています。その期待を持っての意見です。技術者としてプロフェッショナルの意識を持つべきについては、男性、女性に関係はありませんし、技術者としては、当然の気構えです。今の男性中心の建設業界で、女性が、男性と同じ条件で仕事を続けることは、大変なことと理解できますが、これは、土木学会誌の対談です。資格も必要とは思いますが、一つの仕事の道具でしかありませんので、男性には思いもよらない女性としての感性をもって、ひとりの人間として、どのように仕事に向き合って来られたか、その辺りの心構えも知りたかったように思います。副題が“若い女性技術者への期待”ですから、もう少し、突っ込んだ内容にして欲しかったし、現在の会社でのお仕事についても知りたかったように思います。
(所属:小柳建設 氏名:金原義夫)

■ 第101回  新永間市街線高架橋 ─帝都の玄関に続く赤煉瓦の高架橋─ 阿部 貴弘

記事の見出しからはどこの高架橋なのか全くわからなかった。冒頭部の“有楽町のガード下といったほうが通りがよいかもしれない”との読者思いの補足説明によって記憶が呼び覚まされ、親しみを持って読み 進めた。私自身、東京勤務の時には「ガード下」には幾度となくお世話になった。通行はもちろんのこと、内部空間にある飲食店に数多くの思い出がある。次に「ガード下」を利用する際には、ドイツを想起し、地下にある松丸太の基礎を想像することだろう。思い入れのある土木構造物の歴史を知ることは、非常に愉快である。
(所属:電源開発(株) 氏名:小林憂三)

■ 導入 地域インフラの担い手としての建設業 松本 直也

笹子トンネルで天井崩落が起きました。トンネルに限らず,このような事態が,特に地域で近い将来,増える可能性があると思ったのは,私だけでしょうか。財源が不足し,技術者が減少していく中,地方の土木構造物を保全に関して,いかに費用を確保し,どのように管理していくかは大きな問題であり,このようなリスクが存在することに正面から向き合わなければならないように思います。このような問題に対処していくには,地方の技術公務員による利用者との橋渡しと,民間によるコンサルティング,それから学会による指南,といった産官学の仕組みを早急につくることが重要であると思います。
(所属:東電設計(株) 氏名:恒國光義)

■ 記事1 地方自治体における技術公務員の役割と責務 中村 一平

記事(1)中の各種社会基盤の「満足度」と「重要度」のグラフを見ると,重要度は低いが満足度が高いグラフの左下の領域は‘広域・経済’に関するインフラであり,右上の領域は’身近・生活’に関するインフラであり,これからの地方自治体の技術公務員の役割の大きさを示しているようにも思います。一方,学会誌後半のページの学会会員の構成を見ると,地方公共団体の会員数は全体の5.5%で,参考までに,コンクリート診断士の業種別登録者数もほぼ同程度の比率です。コンサルタント,建設業の比率は,いずれも半数以上を占めています。単純に理解すると,技術公務員の役割の大きさに対する負担も大きく,産官学の連携の仕組み必須のように思います。
(所属:東電設計(株) 氏名:恒國光義)

技術公務員は、時代が求める社会基盤を整備し、その維持管理も担ってきました。それらに必要な事業費が相応に確保されていた時は、技術公務員の存在感は相対的に大きかったと想像しています。残念ながら近年は、事業量の減少と行政改革による人員削減との相乗により、技術公務員の人数は大幅に減少していると認識しています。このため、総合的マネージメント能力だけで社会基盤施設の整備と維持管理をしているように見受けられることが多々あります。ユーザーである住民へのサービスレベルを低下させないため、専門的知識に根差したマネージメント能力を発揮しうる技術公務員体制が維持されることを望みます。
(所属:メタウォーター(株) 氏名:楠本光秀)

国の統一された基準通りに公共事業を実施していればよかった時代は過去のものとなりつつあります。地域の特性に応じた事業実施が求められており、地方の技術職員としての説明責任の重要性が増しております。当該記事は地方の技術職員が求められている内容を体系的、網羅的に整理されたものであり、大変り分かりやすい内容となっていました。ただし、一般的な内容に終始していたため、もう少し具体的に踏み込んで欲しいとも感じました。
(所属:福島県 氏名:小林元彦)

■ 事例2─1 建設会社の新たな取組み 地域インフラを新たな視点から ─エコミーティングの導入─ 加藤 徹

建設会社の新たな取組みとして、エコミーティングの導入事例を説明していた。基本的に発注者と合意の上、設計変更とならない範囲で行われている。しかし、技術提案や評価点向上のために行われるのではなく、本質的には環境付帯工事として、当初の工事価格で反映させておくことが重要である。例えば、積算においてイメージアップ経費というのがあったが、同様に、自然環境向上に関する率計上の経費として、検討すべき問題だと感じた。
(所属:高山運輸建設(株) 氏名:高澤 謙二)

■ 事例2─2 建設会社の新たな取組み インフラの町医者 ─地域建設業の複業化・農工商連携による6次化─ 西山 周

「インフラの町医者」という表題に興味を惹かれ読ませていただくとともに、企業ホームページの方も拝見させていただきました。公共事業縮小化の流れの中で、地域とのつながりに経営的な視点を向けたところに「インフラの町医者」たる覚悟が読み取れます。一住民の立場で意見を言わせていただけるなら、今後、以前のような建設バブル的な時代が訪れることは想定しづらいですが、地域インフラの担い手としてはこのような地域密着型の企業が住民から望まれるととも会社としても生き残って欲しいと感じました。
(所属:一般財団法人 日本水土総合研究所 氏名:橋 直樹)

■  事例3─1 建設コンサルタントの新たな取組み インタビュー コミュニティデザイン 山崎 亮

今をときめく「コミュニティデザイナー」山崎亮氏のインタビュー。近頃建築の雑誌等にも登場することも多いが、むしろgreenz.jpで紹介されるようなソーシャルデザインの模範例としてもよく語られる。山崎氏の活動にしてもそうだが、地域を豊かにするデザインを考えれば考えるほど、もはや土木だの(建築だの)といった分野への分類はほとんどナンセンスだと思えてくる。実際、土木屋たちが「これからは地域の時代だ。これからの土木は、地域を豊かにするゾ」と今考えている以上に、既にそれぞれの地域では地域に根差したソーシャルな活動が様々に繰り広げられているのであり、むしろそうした、既になされている動きに目を向け、心を開き、「融け込んでいく」ことこそ、土木屋には求められているのだと思う。
(所属:国交省 氏名:鈴木高)

■ 事例3─2 建設コンサルタントの新たな取組み 地域でできることは地域で 川口 均

「地域でできることは地域で」という題目を拝読し、どのようなことができるのか気になる記事であった。公共工事が縮小傾向にある昨今の時代に大手の企業でなく、地元の企業が業務活動のスタンスを広げて、地域でできることを増やし伸ばしていく取り組みは良い取り組みであると思う。地域でできることが増えることで、地域の活性化の一翼を担ってくれることを期待いたします。
(所属:東京急行電鉄(株) 氏名:勇 龍一)

■ 津波シェルターを用いて被災地で復興を 元田 良孝

これまでなら,特集の最後のページには「編集を終えて」というような後記があり,別の記事へ進むのですが,今月号では,特集の直後に論説委員の頁が配置されていました。この並びをみて,記事と論説をリンクさせ,かつ,ページも連続すると,内容により重みが増すのではないか,と思いました。なお,今月号の特集と論説との直接的なつながりは,ないと思います。
(所属:東電設計(株) 氏名:恒國光義)

■ 28個所の踏切除却による交通渋滞解消と空港アクセスを 向上した京急蒲田駅付近連続立体交差事業 吉住 陽行、内田 康一

国道15号に設置されていた踏切の立体化工事の進捗については、毎年の箱根駅伝で変化が見られたことを記憶している。箱根駅伝の中でも踏切に注意しながら走る選手や、踏切に足を取られた選手もいたが、踏切が除却された今、そのような光景を見ることは無くなることとなる。道路と鉄道の立体交差事業については、長い年月がかかる中で、様々な工法の工夫等がされてきたことが分かった。立体交差事業については、地元の強い要望等の成果であるため、立体化後の地元の更なる発展についても、期待したい。
(所属:東京急行電鉄(株) 氏名:勇 龍一)

京浜急行にとどまらず、都市の開かずの踏切問題は深刻であると考える。その中で、比較的大きな幹線道路と交差する箇所で残っていた京急蒲田付近の連立が完成したことによる利便性の向上に期待している。この連立は直上高架が多用されていたことから、注目していたが、この特集によりその詳細を知ることができた。側道用地の用地取得については、特に都市部においては困難を極めるということから、このような短期間で連立本体の完成が早く出来る工法は、周辺住民にとってもメリットのある工法ではないかと考える。既存線との取り合いについても高架と曲線が絡む部分であったことから、かなり条件が厳しかった考えられるが、一晩で切り替えを行った技術水準の高さはもっと注目されても良いと感じた。
(所属:中野区 氏名:諸井 敬嘉)

■ 津波リスクの可視化とリスクコミュニケーション ─GIS─VR手法によるリスク認知と共有─ 吉川 弘道、羽田 誠

国民に分かりやすく津波リスクを認知、共有してもらうため、リスクコミュニケーションの実施手段としてGIS-VR手法に移行することは、防災上有効であると感じた。特に、ソフト技術が一般化され、本稿で言うところの仮想空間でのアバター表示、つまり可視化が簡単にできるのであれば、小学校などにおける地域防災教育の授業に役立つであろうと思った。
(所属:高山運輸建設(株) 氏名:高澤 謙二)

近年の数値シミュレーション技術の高精度化によって、かなり正確な津波被害の予測が可能となってきていると思われますが、それらの解析結果をどの様に防災・減災に役立てるかが重要であり、大きな課題であると再認識しました。精度の高い解析結果を得ることができても、そのデータのみを示す手法では地域住民に伝わり難い部分も多いと思いますので、バーチャルリアリティを活用した可視化や仮想体験は、災害の恐ろしさをよりリアルに実感でき、実際に災害に直面したときの状況を想像し易い非常に有効な手法だと思いました。PCの高度化やクラウド化の発達と共に、リスクコミュニケーションがより一層向上していくことに期待したいと思いました。
(所属:東洋建設株式会社 氏名:山野 貴司)


© Japan Society of Civil Engineers 土木学会誌編集委員会