土木学会関東支部では例年,土木の日(11月18日)記念行事として親子見学会を開催しております。
今年は11月15日(土)に開催し,大人10名,子供8名の6家族,計18名の方々にご参加いただき,「荒川第二・三調節池工事」と「荒川知水資料館」の2か所を見学しました。
■荒川第二・三調節池工事の概要
荒川は,東京都と埼玉県にまたがる一級河川であり,その流域には日本の人口の約1割が集中する首都圏有数の人口密集地域が広がっています。一方で,昔から氾濫の多い河川としても知られ,特に江戸時代から昭和初期にかけては繰り返し大規模な浸水被害が発生しました。このため荒川では,流路の付け替えをはじめとした大規模な治水事業が長期間にわたり進められ,現在も整備が進められています。
「荒川第二・三調節池」はその治水対策の一環として整備されている大規模な治水施設で,洪水時に河道から水を一時的に取り込み,広い調節池内に貯留することで下流域の水位上昇を抑制し,周辺市街地の氾濫リスクを軽減する役割を担っています。
特に今回見学を行った第二排水門は,調節池内に貯留された水を洪水後に荒川本川へ排出するための排水施設であり,調節池と本川の水位に応じてゲートを操作しながら段階的に水を戻すことで,下流域の水位を安全に管理する役割を担っています。
■荒川第二・三調節池工事の見学
参加者は第二調節池の第二排水門に集合し,見学を開始しました。はじめに,荒川流域の特徴や調節池整備の背景についてスライドを用いた説明があり,クイズを交えながら荒川で治水事業が進められてきた経緯や工事概要を確認しました(写真①参照)。続いて,第二排水門周辺の施工過程について,タイムラプス映像を用いて学びました。そこでは,排水門が洪水時にどのように作動するのか,また,洪水後に貯留水を本川へ戻す際の仕組みについても説明を受けました。最後に,調節池で使用が予定されている建設用3Dプリンタの活用事例が紹介され,複雑な形状に対応した護岸ブロックの造形技術や,省人化・省力化に向けた活用状況について学ぶことができました。
説明後は,引き続き排水門に設けられた体験ブースにて,自由見学方式で各体験メニューを体験しました。現場で使用されている施工機械や維持管理技術を直接確認できる貴重な機会となりました。
3Dプリンタ体験では,「土木」の文字を造形したベンチ状部材を成形する様子を見学し(写真②参照),子供たちはビー玉やおはじきでの装飾作業に挑戦しました(写真③参照)。VR体験では,堤防・樋門の点検作業が仮想空間で再現されており,調節池内を自由に歩行したり,樋門上部の高所からの視点を体験するなど,普段立ち入れない場所を観察できる貴重な内容となりました(写真④参照)。MR体験では,専用ゴーグルを用いて排水門や堤防の構造を3Dで重ね合わせて表示し,施工手順や完成形のイメージを立体的に確認できる内容となっていました(写真⑤参照)。高所作業車体験では,作業台に乗り込み,上下動作の様子を体感しました(写真⑥参照)。油圧ショベル体験では,運転席に座り,操作レバーに触れながら機械の操作感を体験しました(写真⑦参照)。レジン製作体験では,荒川流域の草木をレジンで固めて,思い出の品となるアクセサリーを作りました(写真⑧参照)。体験中には参加者から質問が寄せられ,現場担当者の方々に丁寧に回答していただきました。最後に第二排水門前でドローンによる集合写真を撮影(写真⑨ ⑩参照)し,次の見学地へ移動しました。
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■荒川知水資料館amoaの概要
荒川知水資料館amoaは,荒川の成り立ちや流域の歴史,治水・利水の仕組み,河川環境に関する展示を体系的にまとめた学習拠点施設で,荒川と隅田川の分岐点に設けられた岩淵水門の隣に位置しています。荒川はかつて,現在の隅田川(旧荒川)が本流として流下しており,江戸から明治期にかけて市街地では大規模な浸水が繰り返されていました。こうした課題を解決するため,大正時代に洪水を安全に流下させる新たな経路として北区の岩淵地点から人工的に開削されたのが現在の「荒川本川(荒川放水路)」です。岩淵水門は新旧河道の分岐点に設けられ,旧河道側への過大な流入を抑える役割を担う,荒川の治水史を象徴する重要な施設です。
資料館には,これら荒川の治水の歴史や河川改修の意義を理解できる展示に加え,自然環境についての情報発信や小学校を主とした学習支援の拠点になっています。今回は,館内の見学の他、普段は入ることができない災害対策室を特別に案内してもらいました。また、災害対策支援船「あらかわ号」に乗船して水の上から荒川を体感してもらいました。
■荒川知水資料館amoaの見学
昼食後は2班に分かれて荒川知水資料館amoaを見学しました。館内では,それぞれの班に職員の方が同行し,展示内容について説明を受けながら順に見て回りました。荒川の成り立ちや流域の歴史,河川改修の歩み,災害発生時の浸水範囲や被害規模を示すシミュレーション映像などが展示されており,調節池での説明と関連づけながら,荒川全体の仕組みを立体的に理解することができました(写真⑪参照)。東京の地形の高低差を立体的に表した模型地図を用いた展示では,海抜0m地帯の多い東京の浸水リスクについて学びました(写真⑫参照)。あわせて,都内の著名な地点が浸水した場合のシミュレーション動画も上映され,被害のイメージを具体的に理解することができました(写真⑬参照)。また,洪水模型を用いて再現する展示では,子供たちが実際に操作しながら,災害時に堤防や水門がどのように機能するかを学ぶ姿が見られました(写真⑭参照)。
展示の後は,通常は開放されていない災害対策室も特別に見学させていただき,荒川全域をリアルタイムで監視する映像システムや,洪水時の体制について説明を受けました。見学の最後には,災害対策室のモニタ前で記念撮影を行いました(写真⑮ ⑯参照)。
資料館の見学後は,災害対策支援船「あらかわ号」に乗船し,荒川と隅田川が分岐する水域を周遊しました。水上からは,両河川の位置関係や岩淵水門の構造を実際に確認することができ,陸上とは異なる視点で荒川を体感できる貴重な機会となりました(写真⑰ ⑱参照)。これをもって,全行程が終了しました。
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■おわりに
今回の親子見学会も,関係者の皆様のご協力により無事に開催することができました。ありがとうございました。今年度は調節池という大規模治水施設と,河川管理の拠点施設である知水資料館を組み合わせた見学内容となり,荒川流域の治水の歴史から現在の管理体制まで,一連の流れを理解できる構成となりました。
調節池内での各種体験や,実際の排水門設備の近接見学,船上からの施設観察など,普段は経験することのない内容が多く,参加された皆様にとって貴重な機会となったことと思います。
今回の見学では,発注者・施工者に加え,もう一つの柱である設計コンサルタントの役割も紹介されました。子供向け教材として『うんこドリル:計画と設計』が配付され,構造物が完成するまでに「計画→設計→施工」の一連のプロセスがどのように関係しているのかも楽しく学んでもらいました。

土木学会関東支部広報部会では,土木という仕事に親しみと興味を持っていただけるよう,今後も楽しい見学会を企画いたします。「こんなものが見たい・知りたい」といったご意見がございましたら,下記までお寄せください。
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