会長からのメッセージ


海外での日本製品となれない建設プロジェクト


上田 多門 土木学会 第110代 会長

半世紀ほど前は、日本が輸出する工業製品は安いが、品質が高いというものではなかった。筆者が40年前に米国に滞在した際も、当時の日本製と米国製の自動車を比べてその違いは明白だった。しかし、今や高い品質や機能を求めて、日本人だけでなく、世界中の人が日本製品を購入する。使いやすく、長持ちし、見た目も悪くない、という具合に使用者を満足させられれば、自然と購入者を確保できるのである。現在、筆者は中国で滞在する機会が多いが、日本製品のこの特徴を日常的に感じている。
土木構造物も工業による産物であることは変わらない。その意味では工業製品とも言える。しかし、大きな相違点がある。使用者が多数で、購入者が使用者の代表である点が、購入行動に違いをもたらす。使用者は自分の所有物のような感覚でどのような土木構造物が必要であるかを真剣に考えることはなく、購入者も、多数の使用者を代表した賢人として必要な土木構造物の選択を行う仕組みを活用できていない現状がある。また、何が必要な土木構造物であるか、それに必要な品質や機能は何であるかは、その国の自然環境、人々の生活や経済水準にも依存する。さらには、工業製品に比べて使用期間がはるかに長いという点が、購入選択基準を難しくしている。このような背景のもと、日本の土木構造物は、他の工業製品と比較すると海外での存在感が薄い。

写真1 コロラドリバー橋(提供:(株)大林組)
日本はインフラの海外展開を、政府開発援助(ODA)を中心に行ってきた。相手国は経済水準が低いことから、必要な土木構造物の品質や機能が、日本でのものと異なることも多い。しかしながら、先に述べたように土木構造物の使用期間は長く、生活や経済水準が高くなる将来も見据えて品質や機能を選ぶ必要がある。もう一つ忘れてならない点は、国によって時代によって異なる社会の要請である。日本で良かれと思っても、ODA受け入れ国で優先度が高いインフラは異なる可能性がある。
インフラの海外展開の今後としては、他の主要国と同様に、ODAだけに頼らない形を主体としていくべきである。全世界で必要な土木構造物はまだまだ大量にあるからである。グローバルな課題であるカーボンニュートラリティ(CN)に対応した建設プロジェクト、さらにそのプロジェクトを構成する土木構造物は世界各国で必要なインフラであり、CNに必要なインフラ技術を背景とした海外展開は、今後の方向性である。現在土木学会としては、国際展開プロジェクト形成検討小委員会(七條牧生委員長)を設置し、海外が受け入れてくれる具体的な建設プロジェクトの事例を提示することを目指している。建設プロジェクトの海外展開を支援する仕組みの構築、外国が行った海外展開プロジェクトの成功事例の分析・研究に鋭意取り組んでいる。
海外との比較から明らかとなる日本におけるインフラの実力を把握した上で、世界が現在および将来必要とするインフラを見抜き、日本の経済力に見合った市場規模で海外インフラ展開が進むことが強く望まれる。日本の建設産業の将来のためにも必須なはずである。
© Japan Society of Civil Engineers 土木学会誌編集委員会