会長新年挨拶


サステナビリティと日本の土木


上田 多門 土木学会第110代 会長

新年おめでとうございます。
就任の挨拶で申し上げた世紀的な二つの事態、新型コロナウイルスによるパンデミックとウクライナ情勢はいまだに根本的な終結の糸口が見えていない。決して晴れがましい気分で新年を迎える状況ではないであろう。しかし、これまでの長い歴史を見て明らかなように、人間の叡智(えいち)が何とかこれらの困難を乗り越えていくことを期待している。
土木学会会長という立場上、他の学協会の関係者と意見を交わすことが多い。国内外を問わずほとんどの学会が21世紀のグローバルな課題である持続可能な開発目標(SDGs)、特にカーボンニュートラル(CN)に関心を示していることが強く印象に残った。建設分野内外の識者が指摘するように、SDGsあるいはCNの達成にはインフラ施設が大きな役割を果たす。インフラ施設の構築により、貧困撲滅、教育機会の提供、ジェンダー差別の解消など、多くのSDGsへの貢献という正の側面と、全二酸化炭素排出量の3分の1程度が、インフラ施設の構築と維持補修という建設工事に関するものであるなどの負の側面がある。現時点ではあまり語られていないが、CNに必要な種々の施設(セメントや鉄鋼製造業がCNを達成するための施設、二酸化炭素貯蔵施設、再生可能エネルギー生産施設など)もインフラの大きな役割である。土木学会としてもこの点を自覚し、国内外で主体的な役割を果たしていく必要がある。
そのためには、土木学会を支える日本の土木の実力が重要な要素となる。土木学会の役割の中身・質は土木の実力次第だからである。会長プロジェクトとして、日本の土木の実力を自身で確認する作業を研究者・技術者の若手の方を中心に進行いただいている。それと呼応する形で、本誌の特集は「世界からみた日本の土木」であり、海外の外国人や日本人、海外から日本へ来た外国人の視点で、日本の土木の実力を鋭く語ってもらっている。土木の実力の指標の一つであるD&Iに関しても新たな視点が示されている。海外からの視点で見るとわれわれが気づかない日本の土木の強み、弱みが見えてくる。
冒頭に申し上げたウクライナ情勢に対しても土木に期待されている貢献がある。破壊されたインフラの復興である。日本で培われた自然災害からの復興技術がウクライナでも役立つのは明白である。SDGsあるいはCNへ土木として貢献するためにも、日本の土木技術を世界各国で生かすことが必要である。世界における日本の土木の実力を把握した上で、より多くの国内土木人材がグローバルに活躍することが期待される。
© Japan Society of Civil Engineers 土木学会誌編集委員会