2022年12月号 会長からのメッセージ


グローバル土木技術者を増やす必要性がある日本


上田 多門 土木学会第110代 会長

日本の建設産業は1990年代には世界一の大きさを誇り、地震国故の耐震技術は世界中が認める高い建設技術である。ところが世界主要国と比較すると海外事業の割合は小さく数%でしかない。つまり、グローバルに活躍する日本人土木技術者の割合が小さい。また海外の国と比較して、日本ではなく海外に基盤を移して、つまり、海外の会社で活躍する日本人土木技術者の割合も少ない。このことは建設産業に限らず日本人全体に言え、海外に基盤のある日本人は人口の1%でしかなく他の主要国と比較して低い。
日本人で海外で活躍する人の割合が少ない原因は、誰もが知っている英語能力不足である。以前教鞭を執っていた北海道大学での土木学生へ毎年行った調査でもこの点は明らかであった。さらに土木技術者としては、海外で必要とされる資格を、国内での仕事の仕組みから日本では身に付けにくいことが挙げられている。もう一つ忘れてならない点は、多くの日本人が日本での生活が最良と考え、海外で生活をする理由が見つからないという点である。いわゆる内向き志向である。この点は北海道大学の土木学生への調査でも示されていた。
このような状況は果たして好ましいことなのであろうか。土木分野はグローバルな課題と密接な関連がある。脱炭素という観点では、二酸化炭素排出量の約3分の1が建設産業分野からのものである。グローバルに土木が対応しなくてはならない点は自明である。今後建設事業が展開されていくのは開発途上国であり、その事業の多くが国際的である。グローバルな視点で建設事業を展開していかなくてはならないのは自明である。先進国ではインフラの整備を終え、これからは維持補修をしていく時代であり、過去のような建設事業の増大は望まれず、主要先進国が海外で建設事業に関与するのは自然なのである。なぜ日本だけ異なるのか。自然災害による復興で建設需要が絶えずあるなど、日本国内市場で満足している状況は打破すべきであろう。工業立国日本としてグローバルに事業を展開している他の産業を見習いたいものである。

写真1 夕焼けのプミポン橋、チャオプラヤ川(バンコク)
日本の建設事業の大半を海外事業に展開すべきであると言っているわけではない。まずは今より数倍程度増やし、10ないし20%を海外事業とする姿が、他の先進国と同等の建設技術を持っている日本の自然な姿であると考える。これに必要な土木技術者は、日本国内の日本人・外国人技術者、それに日本企業と連携する海外の技術者である。そのためには、官民での戦略策定、官民の組織でグローバルな業務経験を持つ人材の処遇改善、学生へのグローバル事業・技術者の紹介、といった産官学での取り組みが必要である。土木学会としては、現在、若い技術者を中心に自身でグローバル技術者に育っていくための仕組みを提供している。その一つの土木技術者の国際化実践小委員会(小沼恵太郎委員長)では、女性、外国人技術者も交えて活発な議論がなされている。今後の成果が期待される。
© Japan Society of Civil Engineers 土木学会誌編集委員会