土木学会平成27年度全国大会を迎えて

「地域とともに確かな未来を築く土木技術 ~新たなる第一歩~」

平成27年度土木学会全国大会実行委員会
委員長 丸山 隆英(国土交通省中国地方整備局長)

 平成27年度土木学会全国大会を,9月16日(水)から18日(金)までの3日間,岡山大学津島キャンパスを主会場として開催いたします.
 岡山での全国大会の開催は初であり,中国地方での開催は平成19年に広島大学で開催して以来8年ぶりとなります.土木学会は昨年創立100年を迎え,今年,新たな100年に向け一歩を踏み出しており,学会最大の行事である全国大会をこの地で開催できますことは,中国地方の社会資本整備を担う中国地方整備局といたしましても大変喜ばしく思います.
 開催地である岡山市は,近畿と九州を結ぶ西日本の東西軸と日本海と太平洋をつなぐ南北軸の結節点に位置し,道路・鉄道・空路等の交通網が集中する中枢拠点機能を担っている人口約70万人の政令指定都市です.市域を旭川・吉井川の2つの「大川」が貫流し,水と緑あふれる豊かな自然環境と温暖で晴れの多い気候や自然災害の少なさとが相まって,美しさと暮らしやすさを兼ね備えています.また,古代吉備国の時代から水陸交通の要衝として栄え,江戸時代前期には池田光政,池田綱政の二代の藩主に仕えた津田永忠による新田干拓,百間川の開削等の土木事業など,めざましい業績を遺し,現在の岡山市の基礎が築かれました.
 昨年は全国各地で災害が多発した年でした.近年の雨の降り方の局地化・集中化・激甚化や地震・火山活動の活性化は,我が国の災害が新しいステージに入ったことを示唆しているように思われます.ソフトとハード両面の対策を組み合わせることにより,国民の命を守り,社会経済活動の壊滅的な被害を回避していく必要があります.
 中国地方でも,昨年8月の岩国土砂災害,広島豪雨災害,12月豪雪等,多くの災害が発生しました.特に広島豪雨災害では,土石流が山麓の住宅地を直撃,死者74名と甚大な被害が生じました.改めてお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りいたしますとともに,被災された方々にお見舞い申し上げます.土木学会では災害直後より地盤工学会と合同で「広島豪雨災害合同緊急調査団」を派遣し被災状況調査を行い,昨年10月には調査報告書をとりまとめ,会員及び一般市民の方を対象とした報告会を開催しました.
 さて,人口減少対策が重要な政策課題となっており,政府全体で地方創生に向けた対策が推進されていることは皆様御承知のことと思います.その一環として国土交通省も,昨年7月に「国土のグランドデザイン2050」を策定し,今後の国土構築の理念として,各種都市機能を拠点にコンパクトにまとめ,これらをネットワークで結ぶことにより,質の高いサービスの提供と新たな価値創造を可能にするという,「コンパクト+ネットワーク」の考えを提示しています.
 今後この理念を踏まえ,国土計画,広域地方計画等の見直しが行われていくこととなります.ともすれば,費用対効果分析に偏りがちだった社会資本整備の必要性の議論の中に,このような長期的・戦略的視点を加えていくことは大変意義あることと思います.
 今大会のテーマは,「地域とともに確かな未来を築く土木技術~新たなる第一歩~」とさせていただきました.土木学会はこれまで土木技術者の高い使命感により社会基盤の整備を通じて我が国の社会経済の発展に大きな役割を果たしてきました.一方で,現在我が国は,多様で頻発する災害,切迫する巨大地震の脅威だけでなく,人口減少社会の到来,インフラの老朽化など様々な課題に直面しており,安全安心で持続可能な社会を構築してゆくために,土木技術の果たすべき役割は引き続き大きいものと考えます.また,これらの課題には,市民の参画,市民との連携など地域との協働によって立ち向かっていくことが不可欠となっております. 我々土木技術者は,次なる100年のスタートに立ち,「今,土木技術者がやるべきこと,できること」は何かを考え,次世代の子供たちに「強くしなやかで美しい国土」を引き継ぐために新たなる第一歩を踏み出す必要があります.
 全国大会は,学会として最大の行事であり,特別講演会,年次学術講演会,研究討論会が基幹事業として位置づけられております.特別講演会では,岡山藩郡代津田永忠顕彰会会長の小嶋光信氏をお招きし,世界遺産登録を目指す津田永忠の事績である土木遺産についてご講演いただきます.全体討論会では,パネリストに他分野の方をお招きし,次なる100年を見据えた土木の役割について討議していただきます.また,特別企画では,「地域の安全・安心に向けた新たなる第一歩〜広島土砂災害を教訓に〜」と題して,今後想定される災害への対策に関するメッセージを伝えたいと考えております.
 多くの土木技術者が岡山の地に集い,市民とともに新たなる第一歩を踏み出すべく,活発な交流が行われますことを祈念いたしまして挨拶とさせていただきます.