【日 時】9月17日(木)13:30~14:20
【場 所】岡山プラザホテル(新館4F鶴鳴の間)
【参加費】無料(一般参加可)
【司 会】橋本成仁(岡山大学准教授)

第103代(平成27年度)土木学会会長 JSCE President
日本工営株式会社 代表取締役 会長 Chairman of NIPPON KOEI
廣瀬 典昭 氏(Noriaki HIROSE)
土木学会フェロー会員 JSCE fellow
講演題目:次代に繋ぐ土木技術者の「志」と「熱意」


講師略歴:
昭和43年 3月 東京大学工学部土木工学科卒業
昭和43年 4月 日本工営株式会社入社
昭和49年 6月 米国スタンフォード大学大学院土木工学専攻修士課程修了
平成20年 6月 日本工営株式会社 代表取締役 社長
平成26年 9月 日本工営株式会社 代表取締役 会長


 昨年は土木学会の創立100周年にあたり,磯部前会長のリーダーシップのもと様々な記念事業が行われました.100周年宣言では,「あらゆる境界をひらき,持続可能な社会の礎を築く」ことを土木学会の目標とし,それを行動に移すための最初の一歩としてJSCE2015が策定されました.
 その背景には,現在我々を取り巻く社会・自然環境が,非常に複雑で不透明な時代に入っているという認識があります.日本における人口減少・少子高齢化の確実な進行,我が国特有の地理的条件に起因する地震や火山活動,異常気象に伴う自然災害の激化・複合化,さらには老朽化するインフラの維持管理,更新・機能強化,これに加えて,原子力発電所事故による汚染の影響への対処や,エネルギー供給の見直しなど,対応すべき課題が山積しており,国土と地方経営にかかわる大きな変革が必要となってきています.一方,情報通信技術や流通機能の強化によって世界の各地域との結びつきはより緊密になっています.このような時代の変化を踏まえて作られたJSCE2015を確実に実行していくことと共に,それを担うべき土木技術者の育成が重要です.
 土木技術者は,産業界,官界,学界など,それぞれの立場で役割を果たしてきています.そして,その集合体である土木学会が主として担うべき役割は,(1) 学術研究・技術開発およびその現場への適用と,(2) 土木を担う人材を育てる教育,即ち,土木技術をもって社会に貢献しようとする「志」と「熱意」を持った人材の育成です.
 これまでの本邦土木史ならびに土木学会の100年史を顧みると,今日の我々が享受している経済・生活水準は,先達の英知によって築き上げられた数々の社会インフラ資産の上に成り立っていることに気づかされます.この掛け替えのないレガシーを大切に引き継ぐと共に,次代が必要とする新たな社会基盤資産を創造していくことが土木技術者の責務です.時代の推移とともに自然環境や社会環境が変わり,その結果,社会のニーズや事業の進め方が変わることがあるとしても,土木技術を持って地域の人びとのために貢献しようとする土木技術者の基本姿勢は決して変わりません.これまでの土木史を形成してきた先達の生き方に,その手本を見出し,その技術への探求心や,事業遂行への「志」と「熱意」を学び,継承し,実践していくことは土木技術者として非常に大切なことです.
 土木事業は多くの専門分野の集積で成り立ち,様々なバックグラウンドを有する利害関係者との合意形成を必要とするため,土木技術者にはより総合的な視野を持つことが求められます.これからは,個性ある地域を創出する事業や,途上国・新興国などへの我が国で蓄積してきた技術や知見による貢献がさらに求められますが,国内外を問わず,地域の人々との交わりを通じて事業を完遂するには,当然,その土地の歴史や文化と風土,価値観に関する理解が必要であり,それを踏まえた合理的な判断と,それを説明し相手の理解を得るコミュニケーション能力が必要です.どのような現場でも,たとえ言葉の違いがあったとしてもそれを乗り越え,自らの事業に対する「志」と「熱意」をもって,その力を発揮できる技術者を育てていくことが土木学会の使命であると考えます.