土木学会 平成28年度 全国大会情報
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2016年9月号 特集企画

第101巻 第9号(2016年9月号)

特 集

「復興,そして創生へ 〜土木の力で地域を元気に〜」


企画趣旨

2011年東日本大震災や近年のゲリラ化する豪雨災害などによって,自然を制御する土木技術には限界があることが広く知られることになった.しかしながら,災害復旧や新たな復興において,土木の役割が重要であることもまた事実である.また,気候変動等の自然環境の変化はもとより,急速に進む少子高齢化や人口減少等の社会環境の変化への対応に,土木は大きな役割を果たすことが求められている.このことから,土木技術の限界と,災害からの復旧・復興における土木の役割を,震災から5年目の全国大会で改めて議論し,広く世の中へ伝える必要があるだろう.

本年の全国大会は「復興,そして創生へ.〜土木の力で地域を元気に〜」をテーマに仙台で開催される.復興・創生に関するこれまでの5年間および今後5年間の具体的な国の取り組みについては後述の記事を参照して頂きたいが,本特集では,先に述べたような社会環境・自然環境の変化にしなやかに対応しつつ,新たな知見と価値観を探求し,復興から地域創生を目指す土木学会と地域の取り組みを3部構成で紹介する.

第1部は,全国大会特別講演会に登壇して頂く竹村公太郎氏(日本水フォーラム代表理事)に古代から現代まで日本文明を下支えしてきた土木について振り返って頂き,未来の日本文明を再構築するための土木の展望について述べて頂いた.

第2部は全国大会全体討論会に関連した記事である.「地域を元気にする新しい発想と技術 〜若手研究者が考える地域と土木の未来〜」をテーマとして行われる全体討論会では,これまでの人口増加に追いつくための量的な拡大から,風土を生かした豊かで元気な地域づくりへの転換のための土木技術の方向性について議論する.本特集では,討論会パネリストをお願いした全国各地域・土木の各分野で活躍している新進気鋭の研究者に,当日の討論のベースとなる新しい技術や問題解決のアプローチ,先進的な取り組みをそれぞれのご専門の立場から紹介して頂いた.

第3部では自然からの恩恵を享受しながら文明的な社会を創生するということに,東北という地域が世界の中で非常に適している地域であることを,東北地方で復興および地域創生に活躍されている方々にご自身の活動内容や経緯・経験などをご披露頂くことで,明らかにしたい.高倉浩樹氏(東北大学東北アジア研究センター教授)には,シベリア極北地域の文化人類学研究の知見に基づいて,寒くて雪に閉ざされている一見すると不便なシベリアに住む民族がその土地の自然を巧みに生かし,豊かな暮らしをしていることをご紹介頂き,東北という地域の特性を踏まえた復興への考え方と土木への期待を論じて頂いた.高橋恒夫氏(気仙大工研究者・東北工業大学名誉教授)には,旧仙台藩領気仙郡出身の大工職人「気仙大工」の歴史・技術から,復興における街づくりに歴史・伝統・文化を未来へ継承することの大切さについて語って頂いた.岡崎正信氏(オガールベース株式会社社長)には,消費目的ではない人を集め,「稼ぐインフラ」を実現するための公民連携として,自身が中心となって手掛けるオガールプロジェクトおよび公民連携における産・学・官に期待される役割について語って頂いた.松村豪太氏(一般社団法人 ISHINOMAKI 2.0代表理事)には,被災した石巻において,復興までにかかる空間的時間的スキマを積極的に使い,自身が手掛ける新しく創造的で開かれた街をつくるための民間発のプロジェクトについて語って頂いた.大山勝幸氏(桃浦かき生産者合同会社・代表社員)には,桃浦の地域再生のために,震災後,漁業特区を利用して初めて法人による漁業経営を始めるに至った経緯と現状・今後の展望について述べて頂いた.川瀧弘之氏(国土交通省東北地方整備局長)には,震災からこれまでを集中復興期間として東北地方整備局が取り組んできた基幹インフラの整備とその効果について,また,今後5年間を復興・創生期間として取り組む「未来を創る復興」について述べて頂いた.

写真は震災前後および4年半後の女川の様子である.このような大きな被害を受けた多くの地域で,それぞれの地域の歴史や風土を生かした独自の復興・創生への試みがたくましく行われている.本特集が,地域を元気にする新しい時代の土木を考えるきっかけになれば幸いである.


本情報の原文

関連ページ(土木学会誌 Vol.101 No.9 September)


2016年10月11日更新
2016年09月03日更新
2016年08月06日公開