Civil Engineering Design Prize 2002, JSCE
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選考結果 授賞作品/関係者リスト 選考委員 選考経過 総評
総評
杉山和雄 杉山和雄(千葉大学教授)
景観・デザイン委員会 デザイン賞選考小委員会委員長
 当初、隔年開催の予定であった本景観・デザイン委員会デザイン賞の選考を昨年に引き続き本年も開催することになったのには二つの理由がある。一つは、昨年は準備不足などで応募できなかったが本年は応募したい、といった開催要請が幾つもあったことによる。もう一つは、審査に携わった関係者としても、日本には他にも良い事例は沢山あるという思いがあり、引き続き開催して、それらの作品に応募してもらうとともに、本賞の定着を図りたいと考えたためである。
 その結果、51作品の応募があり、一同安堵したのであるが、審査直前になって11作品が応募を辞退するという知らせが入った。それらは主として事業主からの理解が得られなかったためと聞いているが残念なことである。本賞の趣旨は、デザインへの貢献や実現への貢献において「この人がいなければこの作品は実現しなかった」という個人に光を当てることを重視しているため、組織名ではなく、個人名を記載して応募することを求めている。この点が、在任期間が短く、担当者が変わる事業主にあって、誰の名前を出すかで悩み、応募を躊躇う理由となるのであろう。しかし本年は、そうした場合でも、組織的な働きにより優れたデザインが実現したと考えられる場合には、組織名を記載することも認めている(昨年は個人名のみ)。発注者側の幅広い理解と支援をお願いすると共に、発注者側技術者のデザイン開発における役割と関与の仕方の明確化を図ることもこれからの課題であろうと思われる。
 応募辞退に加え、竣工規定違反(本賞では長寿命と耐久性が要求される土木固有の要件を重視して、竣工後2年以上という規定を設けている)が1件あったため、39作品が審査対象となった。昨年より数が少ないという意味ではやや寂しい感があり、最優秀賞3点、優秀賞10点という賞の数も昨年よりは少ない(昨年は最優秀賞5点、優秀賞12点)が、全体的な作品のレベルは遜色ないものであったと思っている。
 長寿命と耐久性、あるいは公共性という土木固有の要件を満たしつつ、まとまりのある形と景観を形成するためには、小手先の化粧や飾りで取り繕うのではなく、言わば「素顔美人」となることを目指さねばならないという思想は広く認識されてきたように思われる。それでも中には華美な飾りに身を包んだ作品があり、思想の定着にはいま少し時間がかかることを感じさせた。また、構造物に植栽を施したのでデザイン賞の対象になるだろう、と考えて応募したのかなと思わざるを得ない作品もあった。植栽を施したことが失敗の原因であったという例は多くないにしても、本体自体を美しく、まとまりのある形にする工夫をせずして植栽だけを施しても小手先の飾りにしか見えない。こうした作品は早々と選考対象から外されることとなった。
 次のステップは、キラリと光るものがある反面、欠点も目につくという作品に対する評価である。欠点の方がより大きいと評価された作品は選から漏れることになる。構造に新規性や面白さはある、あるいは手順を踏んだデザインプロセスには好感がもてる、しかし造形性の低さ、ディテールの粗雑さがそれを上回る作品は落とさざるを得なかった。折角設計対象の幅を拡げて広域的に整備しようとしているにもかかわらず、個々の形を洗練させ、全体としてのまとまりを求める作業が手薄になっている「もったいない」作品もみられた。キラリと光る面を最大限増幅し、欠点を少なくする姿勢が重要であろう。
 最後に、選考の過程で多くの委員から出された意見を記しておく。それは、我々はもっと関連部局に働きかけて、整備対象を拡げた方が良いのではないかというものである。川で言えば、堤外地のみを整備・デザインするのではなく、堤内地のたとえ一部でも取り込むことができ(例えば津和野川)、一体としてデザインすることができるならば、より魅力的な空間が創れるのではないかというものである。ぜひ今後の課題として頂きたい。
選考を終えて
大熊孝 審査を終えて

大熊 孝(新潟大学教授)
 今回は2度目のデザイン賞ということで精神的には少し余裕を持って選考させてもらったが、選考対象39作品中、今回新たに見に行った2作品を含め、現地で見たことのあるものは7作品に過ぎず、今年も十分に現地視察できなかったことが悔やまれる。審査にあたっては、必ず複数人が現地を見ていることを前提としているが、時間的・財政的問題で納得のいく現地視察ができていないのも事実であろう。その意味では写真が重要であり、特に竣工時だけでなく、その後の変化を伝える現状写真が不可欠であると感じた。今後は、応募にあたっては現状写真の添付を義務付けることを提案しておきたい。
 また、私が専門とする河川関係は応募が4作品と少なく、これも残念であった。しかし、最優秀賞3作品のうちの1作品に「小浜地区低水水制群」が、優秀賞10作品のうち2作品に「浦安 境川」と「津和野川河川景観整備」が選ばれた。特に、菊池川小浜地区の水制群は、治水上の機能を目的とした事業で、環境・景観などの整備事業でないものが最優秀賞を獲得したという点で大変うれしく感じた。今後も、「用・強」を主目的としながら、それがそのまま「美」に昇華している作品が多く登場することを期待したい。
 それは、河川事業に限らず、環境・景観整備を目的とした事業では、往々にして「作り過ぎている」ように感じるからである。目一杯にデザインされており、うるさく感じるものも少なからずある。土木構造物は長年月にわたって機能するものがほとんどであり、風雨に曝され、変化していく存在であり、人々からも飽きられずに、親しまれるものでなければならないと考えている。今後は財政難で投資も減るので、あまり華美なものはなくなると思われるが、贅肉を殺ぎ落とし、自然の変化に強い自然素材系を中心に、シンプルにデザインしていくことが求められるのではないかと考えている。
加藤源 周辺への働き掛け、社会性の獲得へ

加藤 源(株式会社日本都市総合研究所代表)
 私は都市計画、中でも都市デザインを専門としている。また、土木学会員でもない。その私に土木学会デザイン賞の選考委員になれとの依頼である。若干の戸惑いを感じながらも、土木施設のデザインは都市空間のデザインにおいて重要な構成要素であり、また何よりも土木学会の自由闊達さ、懐の深さに敬意を評してお引き受けすることとした。都市デザインは様々な施設により都市空間を構成し、また景観を形成することであり、さらにこれらのための制度、手法の活用、事業化方策の組み立て、関係者間の調整等に係わる取り組みである。そこでは一つの施設のデザインはその施設が置かれている空間に的確に脈絡をつけることが必然で、そのためには周辺への働きかけ、周辺のコンテクストの受け止め、さらにこれらのために他との調整、手法の導入等が求められることになる。
 土木施設のデザインについても、それが単体として存在することが許される場合は皆無と言って良く、周辺との関係性、殊に周辺の自然環境や都市空間に対する働きかけ、そのための努力が問われることになる。 
 選考に際しての私の視点、関心は、作品そのものデザインの良し悪し、すなわちデザインの総合性に加えて、この点にあった。このことについては、選考のポイントにも記しておいた。審査を終えての感想は、この視点から意に叶う作品は残念ながら極めて少なかったということである。私は建築設計のコンペ、コンクール等の審査に加わることも多いが、建築設計についてもこの点は共通している。そこに建築設計が未だ充分に社会性を得ていない背景がある。土木デザインがより高い社会性を得るために、またこの賞がより高い社会的な認知を獲得するために、広い意味で周辺に働きかけている作品が登場することを期待して止まない。
齋藤潮 審査を終えて

齋藤 潮(東京工業大学教授)
 選考委員会に臨んで、ひとつの作品に対する評価が選考委員で面白いほどに異なるということがよくわかった。ただし、各人の得意分野とする方面の作品については、その仕上がりよりも他の案件が問題視される傾向があった。たとえば技術的に新しい工夫があるかどうかや設計の意義自体へ論が及ぶ。また、困難な設計条件を克服していると読める作品については、その努力を認め、評価すべきだという主張もなされる。いっぽう、得意分野でない方面の作品では、各人の美意識にもとづいて仕上がりそれ自体の印象が素直に問題にされるようだった。以上のどれが評価態度として妥当なのかはよくわからないのである。しかも選考過程ではこうした評価の対立がかなりの頻度で生じた。どうしても容認しがたいという主張が議論を重ねてついに振い落とされ、あるいは最後まで残る。そういう評価のシェイプアップが繰り返された。選考委員は複数分野から選出されなければならないという理由がまさにここにあるということは、よく理解できたのである。やっかいなのは、設計関係者に知人がいる場合である。このときこそ、批評する立場におかれた各人が、批評眼とその一貫性をいっそう厳しく問われるのである。知人の仕事は無碍に否定しづらいという心理を乗り越えて、信ずるところを主張しなくてはならない。自分が否定的な評価をしだということが、後日知人本人に知れたときに気まずいことになりはしないか、などという不安がよぎるのだが、それも振り捨てなければならない。こうしたしがらみから離れて選考作業に集中するために、選考時点に設計関係者名を伏せなかったこれまでの選考方を今後は改めるべきだと思う。たとえ設計関係者名が既に知られている場合でも。
澤木昌典 「地」のデザインの難しさ

澤木昌典(大阪大学助教授)
 初めての土木デザインの審査に携わり、新鮮さを感じながら楽しく過ごさせていただいた。端的な印象としては、橋梁など単体の土木デザインについてはその形態からとらえやすいが、その他のもの、特に市街地における作品に対する評価が難しいと感じた。その理由を自分なりに考えると、「地と図」の関係という図式で、「図」となるべきもののデザインは評価しやすいが、「地」のデザインであって欲しいものが「図」となってしまっていて、そこに違和感を感じざるを得なかったからだと思う。市街地の作品にそれが多いと感じたのは、私が都市を対象とした研究領域に身をおいているためでもある。それらは周辺の町並みとの調和・継承という点では、設計者の主張が強かったり、あるいはそれらへの配慮が少なかった。以前ならば、これはスケール感の違い、すなわち土木構造物のスケールとヒューマン・スケールとの違いによるものと単純に論じられていたかもしれない。確かに今回の応募作品の中にもスケール感の不調和がある作品も見られた。しかし、土木デザインの領域が、建築や造園・都市デザインといった領域と重なり、コラボレートをしながら同時に取り扱っていくことが多い今日、市街地空間というヒューマン・スケールの空間におけるデザインについては、機能美の追究や事業予算の制約などに流されずに、その場所の場所性や歴史的な文脈、住民や利用者のその場所への思い(イメージや思い出・希望・思い入れなど)をしっかりと斟酌して欲しい。入賞された作品には、少なからずそうした点への配慮が感じられた。こうした意見を持つ立場からすれば、選考過程ですべての作品を実地見聞できなかったのが残念であった。現場に立てば、ヒューマン・スケールの視点からその作品の置かれた環境を総合的に実感でき、設計者・施工者のみなさんがその場をどのように解釈しようとされたのかをよく体感できるからである。
田村幸久 形のオリジナリティーとは?

田村幸久(大日本コンサルタント株式会社専務取締役)
 昨年に引きつづき選考委員を務めさせていただいた。当初の方針では、隔年と言うことでのんびりしていたのが、急邊、毎年実施という事になり、あたふたと準備に入った感もあり、応募件数が少なくなることが心配されたが結果的には昨年より少ないものの、まずまずであった。しかしまだ賞の認知度が低いと感じた事と、直前で11件の辞退が出たのは残念である。主に事業者側の理解が得られなかった事が原因と聞いているが、作品とともに個人を顕彰するという趣旨が素直に理解されない土木界の体質には困ったもので今後の賞の行方が心配である。
 さて2回目ともなれば、少しは慣れて楽かと思いきや、選ぶという事は何度やっても難しいものである。作品によっては、評価に少なからず悩んだものもある。その中に今回、残念ながら入選しなかったが、下水処理施設の例がある。これは、下水処理場内に設けられた下水汚泥処理のための消化タンク群であり、その形状から通称、卵型消化タンクと呼ばれている。美しい卵形の形状は、消化機能の追及から生まれたものであり、欧米で開発され普及したものを我国に導入した先駆的事例である。機能美の典型のような美しい形態は斬新で、今までにない下水処理場の景観を創出した事は誰しも認める所であるが、形態そのものは欧米の事例とほとんど同じでデザイン上のオリジナリティーは乏しい。私としては、景観デザインの賞であれば少なくとも、そこに作者らのデザイン行為がなければならないのではないかと考えているので、このような事例の場合、デザインとしてどの様に評価するのか大いに悩んだのである。結果的には種々意見のある中で評価も分かれたうえ、他の理由もあり入選には至らなかった。つまる所、これは選考者のデザインに対する価値観にもよるものかもしれない。この種の問題は、橋梁についても見うけられ、今回の銀山御幸橋も主桁の形状はコニャック橋に非常によく似ている。今後も出てくる問題として、皆様の議論を期待したい。
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