■ 就任ご挨拶

2010年5月28日

第98代土木学会会長 阪田 憲次

第98代土木学会会長 阪田 憲次

この度、伝統ある土木学会の第98代会長にご推挙いただき、あらためて、その重大な使命と責任を痛感し、緊張いたしております。

初めに、近藤徹前会長におかれましては、昨年の政権交代に伴う逆風下にもかかわらず、泰然として、土木学会の目指すべき方向を指し示していただき、喫緊の課題でありました公益法人改革への対応をはじめ、様々な懸案事項の解決に優れたリーダーシップを発揮され、土木学会をお導きいただきましたことに、深甚なる敬意を表しますとともに、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

さて、土木学会とその会員である我々の営為は、国民の生命と生活をまもり、安全・安心を担保するものであります。わが国の活発な経済活動を支えるものであります。3K、6Kと言われる厳しい環境の下で、使命感に燃え、誇りを持って、社会基盤整備に力を尽くしてきたのであります。

それにもかかわらず、「コンクリートから人へ」のスローガンの下で、土木の営み、特に社会基盤整備が税金の無駄使いであるかのような誤った考えが世間に喧伝されていますことは、真に遺憾なことであり、残念なことであります。そのことに対し、決然と抗議をすることも必要ですが、それと同時に、このスローガンの背後にあるわが国の現状と土木を取り巻く環境の変化に目を向けるべきであると思います。

少子高齢化による生産人口の減少は、税収減および福祉予算の増大をもたらし、公共事業費の削減を余儀なくさせています。また、経済成長期に整備された社会基盤の多くが老朽化し、それに対する効果的な維持管理と長期効用が求められています。刻々と進行する地球温暖化による気候変動は、今までに経験しなかった洪水や渇水被害をもたらす恐れがあり、それらに対する対応策としての社会基盤整備が求められています。また、韓国および中国をはじめとする、東アジア諸国の経済成長とどのように向き合っていくかということも、わが国にとって重要な課題であります。とくに、港湾および空港の整備における、国際競争力の維持、強化は、グローバル化するわが国の経済活動にとって、極めて重要な前提であります。

今、我々がなすべきことは山積しており、それらの諸問題を放置すれば、近い将来、「荒廃する日本」を招来する恐れがあります。

土木学会とその会員は、これらの問題解決に、大きな役割を担うべきであると思います。そのためには、土木学会が抱える様々な問題に取り組み、その解決に努めなければなりません。会員の減少阻止の対策、財政基盤の強化、技術推進機構の改革と活性化、さらには、歴代会長の提言の具体化等、なすべきことは多いと思います。それらは、公益社団法人格取得後の土木学会の運営を考える上で、必須の問題であると思います。

公益社団法人として新たな出発をする土木学会が、100周年という区切りに向かって、社会において、何をなすべきかを考え、発言し、行動すべき時であると思います。

アメリカの神学者ラインホルド・ニーバーは、今から60数年前、マサチューセッツ州の山村の小さな教会での説教で、次のように祈りました。

主よ、われに与えたまえ
変えることのできないものを
受け入れる心の静けさと
変えることのできるものを
変える勇気と
その両者を見分ける英知を!

もとより、欠けたところの多い者でございますが、土木学会会長の大役に微力を尽くしたいと思います。会員の皆様方の格別のご協力、ご指導をお願い申し上げ、会長就任挨拶といたします。


Last Updated:2015/06/12