● 全国大会について 東北大学にて記者会見

栢原英郎会長は、平成20年度全国大会最終日に記者会見を行い、今回の大会の意義や成果について発表しました。


東北大学にて記者会見


栢原会長のコメント要旨は以下のとおりです。

 今回の全国大会は、従来から実施している学術講演会や研究討論会の他、報告会やパネル展示、技術調査なども盛り込むことにより、土木学会会員のみならず、広く市民の方にお知らせするための様々な行事を実施しました。
 また、昨今、大会開催地である東北、仙台でも発生した地震災害等に係る対応などの災害リスク管理、全世界での対応が求められている地球温暖化防止に係る対応、土木以外の分野との連携による社会貢献、国際競争力の向上などについて、研究討論会において、様々な分野の方々による討論を行うことにより、土木学会としての今後の学術研究の方向性などについて確認しました。


 次に、(1)災害リスク管理、(2)地球温暖化防止、(3)異分野との連携、および(4)国際競争力の向上の観点から、今回の全国大会の成果のポイントを説明します。

(1)災害リスク管理
  • 5月12日の中国四川省の大地震、6月14日の「岩手・宮城内陸地震」、7月24日の「岩手県沿岸北部で発生した地震」、また、昨日も北海道十勝沖で震度5弱の地震が発生するなど、地震災害等の災害リスクへの対応が国民から強く求められている。
  • 新潟県中越地震をきっかけにして、東北日本にも分布する活褶曲地帯(かつしゅうきょくちたい)への注目が高まった。
    (参考:新潟県中越地震2004.10.23、新潟県中越沖地震2007.7.16)
  • 研究討論会では、この地域の地震は、傷ついた地盤の地形変形が長期にわたり進行し、対応も長期にわたるため、災害の現象と復興の過程を時間軸上で整理し、技術的課題を集約することの重要性を確認した。
  • 具体的には、中越地震の調査結果をもとに、斜面崩壊土量や斜面勾配と流動土砂の移動距離の関係が明らかになり、今後の山間地の危険度予測に反映することが可能となった。
  • また、地下に埋設されている管路の新しい継手、新幹線の脱線逸脱防止装置の開発などが報告された。
  • さらに、国際関連行事のひとつとして、世界工学団体連盟(WFEO)の関係者が一堂に会し、「災害リスクマネジメント」に関する深い議論が行われた。議長は、土木学会石井前会長である。
  • このシンポジウムでは、WFEO会長であるオーストラリアのバリー・グレアーさんから、災害の前後および災害時のエンジニアリングの責任について基調講演がなされた。
  • また、四川大地震に関する調査、復旧技術支援、台湾や日本などの地震対策や耐震技術の報告、日本学術会議の地球温暖化に伴う気候変動がもたらす水災害への適応の提言が国際紹介された。
  • 各国代表者からは、
    • 土木学会が実施した地震災害調査や海外支援のノウハウを各国でどのように生かしていくべきか、
    • 四川の大地震対応のように大規模な協力がなぜ可能なのか
    という質問があり、土木学会が中心となった横断的な学会連携や海外のカウンターパートとの共同が、参加した9か国の代表者から評価も得られた。ほぼ同じ気候や国土の成り立ちを共有するアジア諸国を中心に、土木学会の貢献度をさらに高めていく必要性を、会長として確信した。
(2) 地球温暖化防止
  • 研究討論会では、CO2削減などの地球温暖化の防止のための「緩和対策」および、温暖化による災害の影響を小さくするなどの「適応対策」の現状について報告がなされた。
    • 国内では、バイオマスのCO2保持機能への経済評価の確立と限界集落対策を同時に目指すこと、
    • 発展途上国では水資源管理の改善により、貧困の解消と温暖化への適応を同時に目指すこと
    が議論された。
  • つまりキーワードは、「コ・ベネフィット」。地球環境問題を単一の問題としてとらえるのではなく、それと関係の深い課題を同時に解決することが必要である。
  • このように、地球温暖化対策を進めるうえでは、多方面の問題を総合的に考える必要があるので、これまで災害対応や地域整備などの総合的な問題に取り組んできた土木界の経験を生かすことが望まれる。
  • 研究討論会では、CO2排出の少ない、建設資材、工法、構造形式の研究、間伐材や下水道、廃棄物由来のエネルギー利用技術、さらにエネルギー利用の少ない都市構造への誘導など、より広い分野に視点を広げながら、地球温暖化問題の解決に役立つ研究をさらに加速させることを提言した。
  • また、地球温暖化対策の具体的な技術の一つとして、木材の利用がある。
  • 土木では、古くは木材を多く利用していたが、現在ではほとんど使用されていない。しかしながら、木材は持続可能な材料で、炭素貯蔵効果がある。また、燃料として利用可能であるという長所もある。
  • 地球環境問題を考えるにあたっては、土木の分野でも木材の利用拡大を考え直す必要があり、日本森林学会や日本木材学会との横断的連携の必要性や、土木分野による木材の利用を広げる方策について討論が行われた。
(3) 異分野との連携
  • 第3に、土木と他の学術分野との連携、すなわち異分野連携の必要性が議論された。
  • 例えば、素粒子物理学では、より高いエネルギーで物質粒子をぶつけることによって、この宇宙を作っている根源的な素粒子を見つける研究が実施されている。
  • 一昨日(9月10日)、新聞やテレビでも報道されたように、ヨーロッパで世界最高エネルギーの加速器CERN(セルン)による実験が開始された。
  • このCERNと対をなす世界共同の加速器としてリニアコライダーILC(国際直線加速器)が計画され、その誘致に、我が日本,アメリカ,ヨーロッパ諸国,ロシアが手を挙げている。
  • 研究討論会では、産官学共同でのリニアコライダー開発への対応について議論した。
  • リニアコライダーは岩盤に50kmのトンネルを掘って作る必要があり、まさに土木技術が欠くことのできない技術である。
  • 我が国は、1ミクロンの狂いもゆるされない精密機器であるリニアコライダーを装備する50kmのトンネルを掘削できる世界最高水準の土木技術を有している。
  • リニアコライダーを支える日本の高い科学技術の一翼を担い、日本こそ、その誘致に相応しいことを世界へアピールするため、日本国内の異分野連携に、土木学会として力を注いでいくことを確認した。
(4) 国際競争力の向上
  • 最後に国際競争力の向上である。
  • 大都市圏を中心とした国際競争力を向上するためには、物流、道路、災害対策等、総合的な視点からの基盤整備をさらに進める必要がある。
  • 例えば、先般の首都高のトレーラー事故でも見られたように、不足の災害に対応できる道路構造に係る技術、欠落した箇所を迂回するリタンダンシーを高めるネットワークの形成とそれを実施する技術の必要性が指摘された。
  • 我が国の物の動き、すなわち、物流に関しては、港湾機能や空港機能をコンテナの大型化に対応させた国際的水準に戻すことが必要であり、そのためには、既存の施設の再生と、それらをつなぐネットワークの強化が不可欠である。
  • 以上のような、国際競争力を高めるインフラ技術の開発のために、土木学会としても陸海空の総力を結集し対応したい。
  • 今回の研究討論会で討議された内容は、国土形成や社会資本の整備、国際協力を考えるうえで、重要なテーマであり、それらの方向性が確認できたうえでも、今回の大会は意義あるものであった。
  • 土木学会においては、引き続き、学術的研究を通じて、他の分野とも連携しながら、国内・国外の社会貢献に尽力していく所存である。
以上

(記者会見では、会長の説明の他、久保田勝・実行委員長(国土交通省 東北地方整備局長)、鈴木基行・実行委員会講演部会長(東北大学大学院教授)からそれぞれ、大会の概要、各行事の概要について説明があり、記者の方々と質疑応答を行いました。)

Last Updated:2015/06/12