ジョイントセミナー
Joint Seminar

コンクリート工学に関するJSCE-VIFCEAジョイントセミナー

(2005.12.8, ベトナム土木工学会連合, コンクリート委員会)

JSCE-VIFCEA ジョイントセミナー 実施報告


1.はじめに

土木学会コンクリート委員会(委員長:丸山久一 長岡技術科学大学理事・副学長))は,2005年12月8日にベトナム社会主義共和国(the Socialist Republic of Vietnam:以下,ベトナムと略)のホーチミン市で,ベトナム土木工学協会連合(Vietnam Federation of Civil Engineering Associations:以下,VIFCEAと略)とコンクリート工学に関するジョイントセミナーを開催した.翌9日には,日本とベトナムの連携を探るためのワークショップを実施した.前者は,国際委員会・学術交流基金管理委員会の,また後者は土木学会H17年度重点研究課題「コンクリート標準示方書のアジア地域への展開戦略に関する研究」(代表者:前川宏一 東京大学教授)に対する助成により実施したものである.ワークショップ終了後,ベトナム有数のプレキャストコンクリート製品工場と,メコンデルタのミトーで吊橋の建設現場を視察した.本稿では,これらの概要について述べる.

2.ジョイントセミナー

JSCE-VIFCEAジョイントセミナー(以下、セミナーと略)は,ホーチミン市工科大学(HCMUT)で開催された.この大学の前身は1957年に設置された技術センターに始まり,1973年に工科大学として衣替えをした組織で、11学部、学生約10000人、教員約850人からなる。土木工学科は,約3500人の学生と125人の教員からなる非常に大きな組織である。大学のキャンパスは、ホーチミン市の中心から約4kmの距離に位置している。

セミナー開催の経緯は、アジアの中で今後最もその発展が注目されている国としてベトナムにターゲットを絞り、ゼロからスタートした。当初、ベトナム土木学会の会長であるLu教授とコンタクトをとり、セミナー開催の約束を取り付けたが、土木学会のカウンターパートがVIFCEAであることが明らかになり、改めてVIFCEAと協議し、最終的にホーチミン市で開催することに決定した。VIFCEAはベトナム土木学会やベトナムコンクリート学会等からなる連合組織である。ベトナム側の実質的なコーディネーターは、ホーチミン市工科大学の土木工学科建設材料学講座で土木工学科の副学科長を務めるDr. Nguyen Van Chanh氏である。セミナー開催に関する協議の過程では、実施そのものやその形態、経費等について緊迫したやりとりもあったが、最終的には先方も覚悟を決めて大変有益なイベントにすることができた。

セミナーのオープニングセレモニー(写真- 1)では、ホーチミン市工科大学の副学長のDr. Le Van Nam教授及びホーチミン市土木技術者協会会長のDr. Huynh Van Hoang教授から歓迎の挨拶があった。日本側を代表して堺が挨拶をした。挨拶では、「このセミナーがセミナー参加者だけでなくベトナム建設業界にも貢献することとなり、またこのセミナーを通じて日本とベトナムの土木技術者のネットワークを形成する一助になることを期待しする」ことを強調した(写真- 2)。セミナーは、約200名の参加者があった(写真-3)。

セミナーにおける講演内容は以下の通りである。


(1) K. Sakai (Kagawa University)
The JSCE Durability Design of Concrete Structures and a Proposal to Vietnam Construction Industry

(2) N. T. Dich (Vice-president of Vietnam Concrete Association)
Some Peculiarities of Concrete Technology in the Condition of Hot Humid Climate of Vietnam

(3) K. Uji (Tokyo Metropolitan University)
Roller Compacted concrete Dam and Utilization of Fly Ash in Japan

(4) H. Yokota (Port and Airport Research Institute)
Performance-Based Design of Concrete Structures - JSCE Standard Specifications for Concrete Structures on Structural Performance Verification

(5) T. D. P. Oanh (Hazama Corporation)
Study on the Heat of Hydration of Mass Concrete - Case of DaiNinh Hydropower Project: CW2 - DaNhim Spillway Concrete

(6) T. Yoshioka (Oriental Construction)
The Latest Technologies of Prestressed Concrete Bridges in Japan

(7) T. Kawai (Shimizu Corporation)
State-Of-The-Art Report on High-Strength Concrete in Japan - Recent Developments and Applications

(8) N. Hung (Chau Thoi Concrete Corporation 620) and N. V. Chanh (Ho Chi Minh City University of Technology)
The Development of Durable High Performance Concrete in Vietnam)

(9) A. Matsui (Nghi Son Cement Corporation)
The Introduction of Cement and Concrete Technology in Vietnam and Japan

(10) T. Fukushima (Pacific Consultants International)
Saigon East-West Highway Project

(11) T. D. P. Oanh (Hazama Corporation)
Wet Shotcrete


セミナーの論文集が刊行されたが(写真- 4)、その中には実際には講演されなかった論文2編が含まれている。なお、上記講演の内、(5)、(10)、及び(11)は論文集には含まれていない。日本側の講演内容の内、RCDコンクリートと高強度コンクリートについては、ベトナム側からの要請に基づいたものである。ベトナム側の講演については、実質的には温度応力問題とHPCの適用紹介のみであり、その他は、日本のゼネコン及びコンサルタントによるプロジェクト3件の紹介と、太平洋セメントの現地法人であるギソンセメントによるベトナムのセメント・コンクリート事情についてであった。ベトナムへは、日本の主な大手・準大手のゼネコンが進出しており、ホーチミン市の空の玄関タンソンニャット空港を降り立つと、空港施設の建設JVが日本のゼネコンであることを示す看板が目に飛び込んできた。この他,国道・橋梁の改修工事,ダム,港湾などにも多くに日本企業が進出しているようである.また,ゼネコンだけではなく,多くのコンサルタント会社もベトナムで仕事を行っていると聞いた.セメントの製造が需要に追いつかず、日本のゼネコンが困っているという話を聞いて、ベトナムのインフラ整備が急激に膨らんでいることを実感した。今回のセミナー開催にあたっては、日本企業から経済的支援を受けたようである。

3.ワークショップ

ワークショップは、セミナーと同じ会場で12月9日の午前中に行われた。丸山久一コンクリート委員会委員長の挨拶に続いて、東京大学前川宏一教授による土木学会コンクリート委員会における広範な活動内容についての紹介があった。これに対して多くの質問があり、日本に関する関心の高さが窺われた。

ベトナム側からは、ハノイ土木工学大学のLu教授が、前建設大臣が会長を務めるVIFCEの活動内容や政府との関係等について説明した。また、ホーチミン市土木技術者協会の会長で元建設副大臣のHoang氏は、ベトナム建設業界の現況を紹介するとともに、若い建設技術者の教育・訓練のためのセンターを開設したこと、日本から学ぶことがたくさんあること等について述べた。ハノイ土木工学大学のBoi教授は、ベトナムの土木技術の現状について述べた。3人の話は、日本に対する大きな期待を滲ませる内容であった。

ワークショップでの議論から、最終的に以下の「ワークショップ宣言」を採択した。

(1) JSCE-VIFCEAワークショップ参加者は、コンクリート示方書に関する委員会を設置することに合意する。

(2) JSCE-VIFCEAワークショップ参加者は、共同研究ネットワークを形成するための努力をする。

(3) この合意を実現するために、両者はできるだけ早く適切な手段を講じる。

ベトナムは、コンクリートに関する示方書類が未整備であることから、土木学会のコンクリート標準示方書の情報を提供し、ベトナムの示方書作成に資することは国際貢献として有意義であり、コンクリート委員会の国際展開のひとつとして積極的に対応していきたいと考えている。現在、次のステップのための準備を進めている。

4.視察

12月9日の午後は、従業員数が約1200名のコンクリート製品工場Cou Thoi Concrete Corporation 620の見学を行った。この会社は、2000年に創設された新しい組織であり、プレキャストコンクリート製品工場としてはベトナム随一とのことであった。この会社は、国がその資本の10%を有する組織である。広い構内では、30度近い気温の中、各種のプレキャストコンクリートの製品が製造されていた。ISO9001を取得していたが、製品の状態は日本の標準からすればまだまだの印象を持った。また、従業員が仕事の終了時刻の4時きっかりに一斉にオートバイで帰宅する様は興味深いことではあった。

12月10日は、ホーチミン市から南東の方向に車で約2時間の距離にあるメコンデルタのミホーを訪れた。ここでは、ミホーと対岸を結ぶ中央スパン300mの吊り橋(Rach Mieu 橋)の建設現場を見学した。メコン川に2本の橋脚とアプローチ高架橋の建設中(全長2.6km)であった(写真- 5)。ベトナムでは、今後このような大規模プロジェクトが目白押しとなることが想像され、日本がベトナムの国造りに大いに貢献できると感じた。

その後、ボートでメコン川を下り、ココナッツ天然ジュースを楽しみながら(写真 -6)対岸の島へ渡った。ココナッツキャラメルやライスペーパーの製造過程を見学し、昼食にはエレファントフィッシュをライスペーパーに包んで食べた。最後は、メコン川の湿地帯を小舟で遊覧した(写真- 7)。

5.おわりに

タンソンニャット空港からホテルへ向かう道路の両脇にベトナム国旗とベトナム共産党旗が飾られていたが、これはホーチミン市でベトナム共産党の会議が開催されているためであるとのことであった。改めて、この国は共産党の一党支配の国であることを認識した。今回のイベントについてもいろいろな方面の許可が必要であったようである。しかし、セミナーについてはホーチミン市テレビで紹介されたと聞いた。

ベトナム戦争終結後30年が経った。現在、ベトナムの平均年齢は27歳とのことである。戦争で年長者が欠けていることに起因する。また、ベトナムの庶民の足はオートバイ(写真 - 8)であり、日本の昭和30年代の印象である。町中にはバイクタクシーが一般的のようである。然し、全体として大きなエネルギーを感じた。ベトナム人の教育熱心さとねばり強さ、そして若い人の活力は、ベトナムの今後の大きな発展に繋がることは疑いがない。

最後に、セミナーとワークショップ開催にあたり多くの方々の協力を得た。通訳の大役を引き受けて頂いたベトナム人で東京大学のウオック博士、ハイ氏、そしてディン氏、ホーチミン市滞在中に大変御世話になったギソンセメントの松井氏、パシフィックコンサルタントインターナショナルの福島氏,講演者各位、並びにベトナムでセミナー・ワークショップの準備をしていただいたChah博士に深甚の謝意を表する。また、土木学会からの助成に対して心より感謝申し上げる。


土木学会コンクリート委員会国際関連小委員会
委員長 堺 孝司(香川大学)

  

開会式


  

開会挨拶


  

参加者



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