『日本の土木技術 100年の発展の歩み』

『日本の土木技術 100年の発展の歩み』 概要

 本書は土木学会創立50周年記念出版として発刊されたものです。土木学会が100周年を迎えるにあたり、ここに公開して、創立50年目の1964年時点すなわち近代100年の歴史を振り返った記録を留めておきたいと考えます。50年前に近代土木がどのように総括されていたのか,本書は全6章から構成されています。以下に各章のタイトルと、章の前書きを示します。

監修委員は以下の方々です。(50音順 敬称略)

 石原藤次郎(京都大学) 伊藤 剛(電力中研) 上田健太郎(前国鉄技研) 岡本舜三(東京大学)  川上房義(東北大学) 国分正胤(東京大学)
 佐合正雄(都立大学)  土本義雄 法政大学) 当山道三 (日本大学)  成岡昌夫(名古屋大学) 林 泰造(中央大学) 福内大正(前運輸省港研)
 松井達夫(早稲田大学) 水野高明(九州大学) 村上永一(建設省土研)  安宅 勝 (大阪大学) 横道英雄(北海道大学)

第1章 土木技術と国土の開発

 土木技術は土木事業をささえている技術であり,人の住むところ必ず土木事業が存在する。それは国土の保全,資源の開発,交通の整備,都市の建設などであり,そのいづれをとって見ても,国民の生産と生活の興隆と快適を推進してゆく基幹産業である。それゆえ人間社会がよりよき発展をのずむならば,土木事業が先行しなければならないし,その確立された基盤のもとにすべての国民は健全な生活を営むことができるのである。土木事業は都市農山村を問わず全国いたるところで展開され,そこでは,すぐれた土木技術が活用されている。そこにおいて土木技術は国土開発の総合技術ということができるのである。

第2章 水の利用と水との戦い

 わが国は世界で最も水に恵まれた国のひとつである。しかし,同時にまた水が多いためにこうむる災害も莫大なものがある。昔から「河を治めるものはよく国を治める」といわれるが,この事は,わが国によくあてはまるといえよう。わが国においては,国土を開発し産業の発達をはかる場合,常に,いかにして水の猛威から国土を守るかが重大な問題となるのである。 水資源の利用といっても,かんがい,舟運,動力,用水など時代によりその方法に種々変せんがみられ,また,水との戦いもわが国の場合,洪水防御,砂防,海岸保全など広い範囲にわたっている。これに対して,われわれの先輩はいままでにどんな努力と工夫を行ってきたであろうか。

第3章 交通路の整備

 ここにとり上げる「交通」とは人,物資の輸送を意味する。いわゆる交通は陸上,海上,空中の各交通路を通じて行われ,その具体的施設は鉄道,道路,港湾,飛行場などである。すなわち施設は主として交通路とターミナルで土木技術者の活躍する場でもある。 交通は安全,安心,迅速,低廉,正確などの諸要件を満たすためにもそれぞれの機能が発揮され,これらの多種多様の交通路が有機的につながって社会や産業を支えているわけである。交通路の機能は単に人や物資の物理的な位置の変更のみではなく,輸送における経済価値の変化をも生じさせるということから,近代社会における交通の重要性はますます高まっており,国の動脈としての交通路と,都市内交通路の総合的調整が大きな課題となっている。また,そのためには将来の輸送量に関する予測と計画の綿密な検討が必要であろう。 要するに交通路の整備は国土計画における「国土の全体と一部の有機的結合」と「国土と社会の有機的結合」を達成するためには不可欠のものであるといえる。 歴史的に見ると,わが国の交通路の整備は外国技術の導入にはじまる交通路ごとの個別的発展にまかせられてきた感がある。しかしながら,最近における高度の経済生活水準を維持し,より発展させるための交通需要の増加は火を見るよりも明らかであり,また産業の大規模化傾向は交通の総合性,計画性をさらに促進させる原因となるであろう。 以下に述べるように,わが国交通網の整備は,その誕生,成長,発展の経路を経て,いまや総合的飛躍の段階にあり,われわれ土木技術者に与えられた責任と任務はまことに重大であるといえよう。

第4章 都市の建設

  世界の歴史がたどるように,人間社会は近代化とともに都市化への方向をたどっている。わが国の都市化現象も,第1次産業にもとづく初期都市化からはじまり,第2次産業の発展にしたがい大工業都市化がうまれ,今日では第3次産業を中心とする都市化が芽ばえ,一部では管理中枢機能の集中による過大都市化の問題が発生している。そして,全国的に都市建設,再開発などへと問題が発展し,その中にあって,交通,供給処理,防災,生活,教育,文化などの都市施設が総合的に建設されてゆき,自然依存の都市から高度人工都市への傾向をたどり,土木技術への負担は増大しつつある。

第5章 材料の進歩と構造技術の進展

 われわれの目にふれる土木技術の産物の主たるものは構造物である。壮大な規模,強い迫力をもつ橋梁やダムを身近に見て,その造形の美に打たれる人も多かろう。 構造物の材料としては,天然に得られる木と石が古くから使われてきた。とくに石材の特性を利用した数々のアーチは今なお歴史的構造物として残っている。わが国でも石材は石垣あるいはアーチ橋にその成果をとどめているが,主流は木構造であった。しかしながら,木材や石材は大きなあるいは複雑な構造には適せず,よりすぐれた構造材料である鋼とコンクリートの出現にともない,いまやその主役を譲ってしまった。 もちろん,木材や石材もその特色を生かした使い方でまったく捨て去ることはできないが,ここでは現代の構造材料の代表である鋼とコンクリートについて,橋梁への利用を中心として眺めてみよう。

第6章 基礎技術の進歩

 土木技術の成果を実らせるには数々の基礎技術と,土木工学に包含される広い分野の学問の進歩が基礎になっている。 本編ではこれら基礎技術の中でも特色のあるいくつかの項目をとりあげてみた。まず,土木工学の中でもっとも重要な計測技術である測量と,すべての土木工事において切り離すことのできない土質工学・基礎工学とは,ともに最近目ざましい発展と変ぼうをとげたという点でユニークな存在である。 ダムとトンネルは自然にいどむという点で典型的な土木技術ということができよう。またこの両分野においては,わが国ではとくに太平洋戦争後,機械化施工の採用によって大革新が遂げられ,世界最大級のものが続々と完成されつつあるという点でも共通性がある。

日本の土木技術年表

 監修:高橋 裕(東京大学)

 

 

Page Top