3.3 鹿児島県菱刈町前目

(1) 被害概要
 災害の種類:斜面崩壊
 発生時刻:平成15年7月20日(日)08時15分ごろ
 被害状況:死亡者2名,住家全壊1棟,半壊0棟
写真-3.3.1 鹿児島県菱刈町前目被災状況
写真-3.3.2 崩壊路頭部の地下水流出箇所
灰白〜乳白色で、換言状態で強風化を受けている
写真-3.3.3 崩壊面表層部
全体として風化が進行し、特に表層付近で
赤色〜赤褐色を示した箇所は強風化を受けている
(2) 災害発生状況(写真-3.3.1)
 崩壊の形態は崩壊深の比較的大きな深層崩壊である。崩壊の規模は平均幅30m,長さ28m,面積840m2,平均崩壊深3.6m(最大崩壊深4.4m),生産土砂量(崩壊容積)3000m3である。なお,崩壊地内には崩土の約半分にあたる1500m3程度が残留している。
 崩壊は極めて接近した時間のなかで少なくとも2回にわたって発生したようである。最初は移動方向に向かって右側部分が崩れ,それで不安定になった左側部分の崩壊が続いた。最初の崩土はその斜面上にあったスギの立木を伴って移動,小屋を壊し,百数十メートル下方の平坦部の水田まで到達している。崩土は流動性が高かったと考えられ,スギの流木とともに水田に拡散して堆積している。後続の崩土は前後・上下関係を保ちながらスギ・ヒノキの立木を伴って移動し,母屋を押しつぶして,そこで停止している。
 崩れた斜面の下方,被害を受けた住宅地のがけ側には土留工が設置されていた。この土留工はすべり面の下端よりさらに下方にあり,崩土がその上を乗り越えて移動したが,その過程で損傷は受けなかった。
(3) 崩壊地の地質・地形・植生
 この地域には第四紀更新世の安山岩質〜石英安山岩質火山岩類が広く分布している。これらは溶岩や火山砕屑岩から構成される。崩壊地付近では火山砕屑岩を覆って溶岩が分布している。溶岩は一部に原型を留めているところがあるが,全体として風化が進み,とくに表層は赤色〜赤褐色の強風化を受けている(写真-3.3.2)。また,崩壊で現れたすべり面の露頭に沿って地下水が流れ出ている部分は灰白〜乳白の色を呈し,還元状態で強風化を受けている(写真-3.3.3)。この露頭は難透水層をなしている。なお,溶岩はほぼ南方に傾斜し,斜面は流れ盤をなしている。斜面の中・下腹部では過去の崩壊や侵食による崩土が分厚く堆積し,崖錐を形成している。
 崩壊の発生地点は,川内川支流山田川の右岸側,丘陵(標高320m)南向斜面の中腹部である。斜面形状は縦断方向でみると,中〜上腹部は凸型,中〜下腹部は凹型をなす。傾斜は下腹部10-20度,中腹部25度,上腹部30-35度(頂上に近い斜面部位は15-20度)である。横断方向でみると,中・下腹部は集水型,上腹部は散水型をなす。崩壊は斜面の中腹部で発生している。
 植生は樹齢40-50年生のスギ・ヒノキの人工林からなる。ヒノキは斜面の上腹部に,スギは中・下腹部に分布している。崩れた斜面の上部にはヒノキが立っていたようで崩土とともに倒木となって崩壊地内に散在している。
(4) 崩壊発生のしくみと原因
 移動方向に向かって崩壊地の右側部分では,すべり面(露頭)に沿って崩壊地上端の滑落崖方向から地下水が流れ出ており浸透した雨水がこの部分に集中,地下水圧が上昇し右側部分の崩壊を誘発させた,それで不安定になった左側部分の斜面が続いて崩壊した,と考えられる。
 斜面下腹部に位置する住宅地のがけ側から地下水が常時湧出していた。この湧水は,崩壊した斜面の右側部分に集水した地下水から供給されているようである。崩壊が発生した斜面の上部には台地状のなだらかな地形が広がっており,地盤中には,こうした地形面から浸透した雨水が崩壊斜面の右側部分の地下に集まる地下水の通り道があるものと考えられる。
 地下水の作用に加え,地盤が強風化を受け,分厚い崖錐を発達させていたことも,崩壊深の大きな崩壊が発生した原因である。

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