土木学会・地盤工学会 合同調査団


(目次)
1. はじめに
2. 降雨の概況
3. 土砂災害
 3.1 熊本県水俣市宝川内集地区 (詳細)
 3.2 熊本県水俣市深川新屋敷地区 (詳細)
 3.3 鹿児島県菱刈町前目 (詳細)
 3.4 福岡県太宰府市三条 (詳細)
4. 都市水害


 1.はじめに

 平成15年7月18日ごろから20日にかけて、それまで日本列島上に停滞していた梅雨前線が活発化し、九州各地に“ゲリラ的”な集中豪雨をもたらした。この豪雨によって、洪水災害や土砂災害が発生し、人、住家、公共土木施設等々に多大の被害をもたらした。とりわけ、熊本県をはじめとする九州地方で合計23名が犠牲となった。
 土木学会ならびに地盤工学会では、本災害の社会的重要性に鑑み、九州地方を中心とした産・官・学のメンバーからなる合同調査団(団長:善 功企、九州大学西部地区自然災害資料センター長)を編成し、2度に渡り水俣市での現地調査を実施した。また、別途、団員は数グループに別れ水俣市以外の被災地の調査も行った。あわせて、土木学会地盤工学委員会斜面工学研究小委員会(委員長:後藤 聡、山梨大)は、7月25日から27日まで、熊本県、鹿児島県における土砂災害の現地調査を実施した。本文はこれら調査結果の速報である。

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 2.降雨の概況

図-2.1 7月20日02:00JSTにおけるレーダエコー図
 九州北部に停滞した梅雨前線は,19日未明には,太宰府で1時間降雨量104mmという観測開始以来の記録的集中豪雨をもたらした。また,日雨量は300mmに達した。その後も,梅雨前線は九州北部に停滞し続け,19日夜半から20日明け方にかけて,水俣で1時間降雨量81mmを記録するなど,熊本,鹿児島,宮崎,長崎の各県において日雨量200mmを越える豪雨をもたらした。
 今回,南部九州に豪雨をもたらした降水系の本体はクラウドクラスターであるが,特に水俣市や菱刈町で豪雨となったのは,この降水系の中の微細構造によるものと推測される。微細構造はレーダデータによって確認できる。図-2.1に,水俣市で1時間降水量が最も多かった20日02:00JSTのレーダエコー図を示す。衛星画像で見られるクラウドクラスターに対応して九州全域にかかる広い降水域が確認できる。その中で特に強い線状降水系が3本見られる。九州西海上の降水系は梅雨前線本体のものである。甑島と紫尾山の下流に伸びる降水系は地形性線状降水系であり,このため水俣市と菱刈町周辺で集中豪雨となった。

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 3.土砂災害

図-3.1 被害が甚大であった4地区の位置
図-3.2 水俣市深川における降雨状況の推移
 今回の豪雨による土砂災害箇所は,土石流等が12箇所,がけ崩れが85箇所である(国土交通省調べ;8月4日現在)。これらの土砂災害によって,九州全域で死亡者23名,重軽傷者21名,住家の全半壊98棟,一部破損86棟などの被害が発生した(消防庁調べ;8月1日現在)。本文では,被害が甚大であった図−3.1に示す4地区の状況について述べる。図-3.1には,平成9年7月10日に土石流災害が発生した出水市境町針原地区も示している。水俣市宝川内からの距離は約10kmである。

  3.1 熊本県水俣市宝川内集地区

 平成15年7月20日(日)04時20分ごろ集川上流の斜面崩壊による土石流が発生し人家を襲った。死亡者15名,住家全壊13棟,半壊1棟。
 土石流が発生した水俣市宝川内集地区は,水俣市役所の南東6.5kmの山間に位置する。宝川内集地区は,宝川内川の谷筋の最も下流部にある集落で,標高は90〜100mであり,集川が横切って宝川内川に合流している(写真-3.1)。集地区は扇状地となっており、約1.7km上流の斜面の崩壊に伴う土石流が合流地点付近の民家を巻き込んで(写真-3.2)大きな災害となった。土石流は途中にあった3基の治山ダムを乗越え、また、地山ダムを崩壊して(写真-3.3)、一気に集落まで流れ降りた。図-3.2は、水俣市深川における熊本県の雨量計データと土石流発生時刻を示したものである。土石流発生時刻4時20分ごろの1時間降水量は91mmにも達していた。土砂災害と降水量が密接に関連していることが推測される。なお、発災後、防災情報伝達システムにおけるヒューマンエラー等の問題(避難勧告伝達の遅れ)が指摘され、防災対策の上で、ソフト対応における課題を残した結果となった。 今回の災害と平成9年7月の出水市境町針原地区の土石流災害には多くの共通点がある。両者を比較したものを表-3.1に示す。今後、より詳細な類似点・相違点の検証が必要であろう。
写真-3.1 被災後の水俣市宝川内集地区
写真-3.2 倒壊した家屋と倒壊を免れた家屋 写真-3.3 崩壊した治山ダム
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  3.2 熊本県水俣市深川新屋敷地区

 平成15年7月20日(日)04時15分ごろ土石流が発生。死亡者4名, 住家全壊5棟,半壊2棟。
 湯出川に面する南西側斜面が標高250m付近で崩壊し,標高90m付近の緩斜面まで土石流となって土砂が流下した(写真-3.4)。標高差約160m,流下距離は水平約300m,斜距離約340mの土石流である。崩壊幅は,崩壊部や流下部では10m程度であり,堆積部で20m程度である。平均勾配は約30度であるが,下部斜面で25°,中部斜面で30°〜35°,上部斜面で40°〜45°と上部ほど急傾斜となっている。特に崩壊部付近は50°に近い。標高110m付近から下部斜面となっており,民家や畑が分布している。
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  3.3 鹿児島県菱刈町前目

 平成15年7月20日(日)08時15分ごろ斜面の崩壊が発生。死亡者2名,住家全壊1棟,半壊0棟。
 崩壊の形態は崩壊深の比較的大きな深層崩壊である。崩壊の規模は平均幅30m,長さ28m,面積840m2,平均崩壊深3.6m(最大崩壊深4.4m),生産土砂量(崩壊容積)3000m3である。なお,崩壊地内には崩土の約半分にあたる1500m3程度が残留している。崩れた斜面の下方,被害を受けた住宅地のがけ側には土留工が設置されていた。この土留工はすべり面の下端よりさらに下方にあり,崩土がその上を乗り越えて移動したが,その過程で損傷は受けなかった。
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  3.4 福岡県太宰府市三条

 平成15年7月19日(土)05時43分ごろ斜面の崩壊により土石流発生。死亡者1名。
 土石流災害発生地点は,太宰府天満宮から北西へ約500mの地点で県民の森がある四王寺山の南東側斜面である。今回の豪雨で再び氾濫した御笠川上流の右岸側にあたる。四王寺山の南東側では標高100m〜150m付近より下方に傾斜が緩く扇状地的な地形が拡がり,上方は標高350m程度の尾根までの斜面となっている。土石流は、九州自然歩道のある標高340mの尾根部南東斜面で発生した表層崩壊土砂が沢を一気に流下し,標高70m付近の住宅地まで達している(写真−3.5)。
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写真-3.4 新屋敷地区の土石流 写真-3.5 太宰府市における土石流
(国際航業(株)提供)

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 4.都市水害

写真-4.1 山王放水路側岸に設置された土嚢を超える流れ
(日本ミクニヤ(株)撮影)
写真-4.2 地下鉄博多駅出入口に設置された止水板と土嚢
 北部九州では,7月19日の集中豪雨により,御笠川流域の福岡市博多区,太宰府市,宇美川流域の福岡市東区,志免町,宇美町(図-4.1)および遠賀川流域の飯塚市などの都市部で,家屋,都市施設などの浸水被害が発生した。
 福岡県太宰府市では,午前4時から5時の間に最大時間雨量99mm,連続降水量(19日1時?19日8時)315mmに達する豪雨が発生した。その結果,2級河川御笠川の上流に当たる同市三条地区などで土石流が発生するとともに,下流の福岡市内では総降水量が1/5程度であったにもかかわらず,博多駅周辺において2級河川御笠川およびこれに合流する山王放水路(雨水排水路)が氾濫し(写真-4.1),駅周辺ビルの地下階,地下鉄駅構内などが浸水した。4年前の99年水害の再来となった。当時の降水量は,太宰府市で最大時間雨量77.5mm,総降水量180mmであったため,今回の水害は99年水害を上回る規模の流量であったと推測される。しかしながら,前回規模を想定した洪水対策(超過確率1/50,基準地点における計画高水流量730m3/s)としての河川改修はまだ完了していなかったため,その中途段階における水害対策のあり方が問題となっている。図-4.2に,博多駅周辺における御笠川および山王放水路からの越流地点を示す。99年水害では,図中のNo.1から6付近にかけて越流が生じたが,中でもNo.1から3付近において比較的多くの越流が生じ,No.6付近は軽微な越流であった。しかしながら,今回の水害では,前回水害で軽微であったNo.6付近から下流のNo.7にかけて越流量が増加したと言われている。この付近は未改修区間であった。博多駅周辺では止水板等による浸水防御がある程度実施された(写真-4.2)。未明の水害だったため対応に遅れが出たところもあったが,今回の水害でも,地下鉄入口から泥水が流入し,地下鉄博多駅構内が浸水した。
 前回の99年水害と異なった点は,御笠川上流域の太宰市で,前回を大幅に上回る降雨量が発生したため土石流や斜面崩壊が発生し,土砂などが下流に流下・氾濫し,被害を拡大させたことである。また,前回越流のなかった御笠川上流においても越流が発生した。
図-4.1 御笠川および宇美川における主な越流地点(×印) 図-4.2 博多駅付近における越流状況

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