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ワンデイセミナー59土木計画学ワンデイセミナー シリーズ第58, 59回
我が国の環境・地域・交通の今と未来 −新たなかたちづくりに向けて−
第3部 パネルディスカッション

「これからの計画の制度と土木計画の役割」


 日 時:平成22年6月22日(火) 15:30〜17:00
 場 所:日本大学理工学部駿河台キャンパス 1号館6F CSTホール

 パネリスト(敬称略):浅野 直人(福岡大学法学部教授)
              小幡 純子(上智大学法科大学院長)
              久保田 尚(埼玉大学大学院教授)
              竹内 健蔵(東京女子大学現代教養学部教授)
              松岡 俊和(北九州市理事)
 コーディネータ:屋井 鉄雄(東京工業大学教授)

 目 次

    パネルディスカッションのねらいと論点
    パネルディスカッション
     【第一ラウンド】環境・地域・社会資本にかかわる現行制度の課題
     【第二ラウンド】今後の計画、評価にかかわる制度のありかたについて


■ パネルディスカッションのねらいと論点

第2部の総括とパネルディスカッションのテーマ

屋井:それでは、二日間にわたったセッションの最後のパネルディスカッションを進めてまいりたいと思います。
 ただいま司会の鈴木先生からご紹介いただきましたが、ここにおられる皆様方は各界で著名な方で、お忙しい中、このセミナーのためにお越しいただいております。特に浅野先生には、わざわざ福岡からお越し頂いておりますし、松岡さんには北九州から来ていただいております。また、松岡さんの略歴の中に兼職が入っておりませんが、直前に作りましたのでお訊ねする時間をとれなく大変失礼しました。不備がありましたことをこの場をお借りしてお詫びしたいと思います。
 これからパネルを進めていきますが、パネリストの先生方がお聞きになられていない第2部を若干レビューした後、パネルの趣旨を簡単にご説明したうえで開始したいと思いますので、5分ほどお待ちください。

第2部の総括

 後ろにスライドを出していただきました。第2部は4つのプロジェクトチームのうち3つがセッションを受け持ちました。最初の都市政策のセッションでは谷口先生からこのような2つの提案があり、特に二つ目の「良い街とは何か?」、これは寂れた中心部の高齢者だけの地区がいいのかというと、決してそうではない中で、都市計画でどのように人々の連携を図っていくかという、大変重要なご指摘でした。室町先生からは、交通土地利用分野での温室効果ガス削減効果がはっきり見えない、お金がいくらかかるかわからないと言われる中で、できるだけ埋没しないような位置づけが必要であると、小根山先生からは新実行計画における温室効果ガスの推計方法に関して、いかにCO?を推計(観測)するかという技術と、その技術のリテラシー等についてご提案があり、鈴木先生からは中期計画の体系、特にイギリスの例ですが、温暖化対策がどう位置づけられて、その位置づけがどう変わってきているか。そういうことをご紹介いただき、日本の法制化の方向性についても議論が必要であることをご提案いただいております。
 次の評価制度のセッションにおいては、岡本先生から、特に、費用便益比への過剰依存が問題ではないか、評価というものは意思決定をサポートするものであり、計画と一体となった評価へ発展させなければいけないのではないか、そういうご提案がありました。加藤先生からは、評価の技術として、時間価値によって結果が大きく異なってくることの課題をご指摘頂き、非常に難しいテーマですが、評価技術が社会的価値に依存していることを十分理解したうえで、社会的価値の選択、そのもとでの意思決定を理解しておくことが必要であるという、ファンダメンタルなご議論もいただいております。さらに、毛利さんからは工学技術に基づく評価、特に需要予測や費用便益比の評価などの適正な活用が必要であること、社会の決定行為との距離感、一定の距離をもつような使い方が必要でないかということ、また多様な計画・政策立案の重要性に関して、いつ実行するのか、やるか・やらないかの是非の判断やプライオリティーをどうつけていくか、時期・規模・負担をどうするかなど、さまざまな観点があり、単にやめる・やるという判断だけで評価するものではないというご指摘も頂きました。
 最後の手続き制度のセッションでは、藤井先生から計画性と柔軟性の両立は難しいというご議論がありました。皆さんの理解を助けるために補足しますと、計画には藤居先生がおっしゃるように、極めて綿密で硬直的な筋道を立てるような計画性もあれば、一方で長期を見渡すという、長期という概念も計画性にはあります。また、柔軟性という言葉も、まさにフレキシブルであるという特徴もあれば、場当り的であったり一過性であったりという場合もあります。これらは必ずしも対立概念ではなく、おそらく今必要とされているのは長期も考えながら一方で短期に見直す機会があるような柔軟な計画や制度、こういうものは対立しない中で求められる性質ではないかと思います。
 これは9年ほど前に作成したスライドです。当時長期計画は要らないと盛んに言われました。なぜかというと、この時は道路がやり玉に挙げられましたが、一度決めたら不変である、一切変えないからです。その結果公共事業の長期計画は原則廃止が時の大臣から表明され、長期計画に対するそのような印象は今も国民の頭の中に残っているのではないかと思います。一方で、当時から各国が力を入れてきたのは長期計画であり、先ほど矢嶋さんから上位のレベルで目標等を共有することが重要だとありましたが、そういうことが必要であると考えて各国がさまざまに制度を改善してきます。その中にPIを入れ計画の目標等を共有する努力を進めます。このあたりが共通するのではないかと思います。ただし、その条件として、長期計画といえども3年とか4年で改定し、その方向が同じでいいかどうかの確認判断を多くの市民に向けて発信し、意見を求め、決めていく。こういう手続きの改善を同時に行ってきたのだと思います。
 また、生物多様性オフセットと公共事業制度の見直しの必要性、このあたりについては、費用が増えることばかりではなく減ることもあると、そういう制度を新たに開発していく重要性を福本先生が示されております。さらに、費用便益比は効率性基準にすぎないということです。矢嶋さんが「今日の3つのセッションは結局金と環境と意思決定ではないか」とまとめられました。確かにB/Cと言っている限りお金ですが、それは効率性の基準だけでいいかという論点です。効率性は結局、時間価値の高いお金持ちが便利になる施策であれば一番大きいという当たり前のことに戻るだけですから、それだけではいけないことは皆さんわかっています。構想段階への評価導入については、矢嶋さんから、SEAの法制化、評価の制度化が進む中で計画の手続きはなかなか法制度化に向かわないが、相変わらずの行政内部の対処でいいのだろうか、判断材料評価と判断決定との混同があり、変にリンクしてしまっているではないか、という課題の提示がありました。そして、目的ベースの必要性を判断することが大変重要であり、上位レベルでの施策・戦略をいかに共有していくか、手続き制度が大変重要であるというご提案だったと思います。

パネルディスカッションのテーマ

 このようなことが第2部で議論されましたが、パネルディスカッションでは、セミナーの全体テーマ「我が国の環境・地域・交通の今と未来 〜新たなかたちづくりに向けて」のなかで、パネルのテーマが「これからの計画の制度と土木計画の役割」です。これについて外部の皆様から忌憚のないご意見をいただき、特に我が国の環境・地域・社会資本にかかわる計画の制度や事業の制度等が持っている現状の課題、あるいは今後のあり方について広く議論ができればと思っています。ご意見を踏まえて今後の小委員会活動に反映させていければ大変ありがたいと思っているところであります。

パネルディスカッションの基本構成

 パネルディスカッションの進行ですが、これから第一ラウンド・第二ラウンド、可能な範囲で第三ラウンドまで進めたいと思っています。第一ラウンドでは環境・地域・社会資本にかかわる現行制度の課題のようなことで、パネリストの皆様方はそれぞれかかわる分野がございますので、そういったことに照らして話題提供いただければありがたいと思っています。第二ラウンドは今後の計画、評価にかかわる制度に着目してご意見をいただき、第三ラウンドでは、これは土木学会主催、他の学会後援ということでやっておりますので、特に土木分野に対する何らかのエール、期待をいただければ大変ありがたいと考えております。こういう三部構成になっています。

想定されるディスカッションの論点

 想定されるディスカッションの論点ですが、今日の朝あるいは昨日の議論を踏まえて、計画の枠組みや目的・手段という内容に関わるものや、計画の評価にかかわるもの、手続きにかかわるもの、計画を決めた後に起こる訴訟等を含めたさまざまな問題などが論点として想定されております。
 以上、長くなりましたがイントロとしてお話をさせていただきました。

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■ パネルディスカッション

【第一ラウンド】環境・地域・社会資本にかかわる現行制度の課題

屋井:早速ですが、第一ラウンドということで、若干の自己紹介を含めまして、今申し上げたような内容でご発言をいただいていきたいと思います。順番はお座りの順でお願いしたいと思います。
 今後、EIA法の中に構想段階の環境配慮書が入ってくる予定ですが、浅野先生は、その法制化をまさに先頭に立って、やってこられたお立場でございますので、そういうところのご苦労話も含めて、環境とか社会資本制度の課題等についてご発言いただきたいと思います。よろしくお願いします。

地球温暖化対策と長期的視野による取り組みの重要性

浅野:SEAの話を始めるとかなり長くなってしまうと思いますので、最初に最近気になっていることをお話ししたいと思います。すでにお話しがあったと思いますが、地球温暖化対策基本法案は廃案となりました。どうしてかといいますと、衆議院では可決されましたが参議院に送付されたものの審議未了ということとなり、参議院は選挙がありますから参議院での継続審議はできませんので、審議未了のすべての法案が廃案となりました。しかし、アセス法は参議院で先議され可決されましたので、衆議院で継続審議になっています。ですから、これは廃案になったわけではありません。
 地球温暖化対策基本法案は廃案になってしまったのですが、鳩山前総理のお声がかりでできたものですので臨時国会で可決されるだろう考えておりますが、この法案に関して一般に関心が集まっている点は、例えば排出枠取引制度の導入、環境税の導入、再生可能エネルギーの全量固定価格買い取り制度を導入、などです。
 もう一つ2020年25%削減の中期目標が議論の種にされていますが、いろいろな反対意見もありますが、25%の目標は最終的に国際合意ができたときにこの数字を日本は2020年の目標にしますと言っているだけで、国際交渉がまとまらなければこれは我が国の目標としては確定しないと法律に書いてあります。
 この基本法案は審議会での論議を経ることなくできた法案であるとして評判が悪いのですが、法案を作った人たちはそれなりに一生懸命考えて「2050年までには80%削減します」という長期目標についても法案の中に入れています。こちらの長期目標については、何の留保も無しに決められています。これはすでに政府の国際的な約束になってもおり、国内でも法案が通ればこれが政策目標になるわけで、この点は目立たない話ではあるのですがとても重要なことだと考えております。

 先ほどの屋井先生のまとめの中でもお話がありましたし、このセミナーで盛んに議論されていた長期の視点は、これまでこの国であまり公式に論議されることがありませんでした。しかし、2050年に80%削減という数字は唐突な数字ではなく、IPCCが言っていることが正しいのであれば、世界全体の温室効果ガスを50%削減するために先進国はこのくらいやらなければいけないということが先の洞爺湖サミットでほとんど合意されてきているということです。ですから、政治的な駆け引き抜きに本当にやらなければいけないことをしっかり国の法律に書いておくということはとても大事なことですので、もし点が法律に明記されることができるならば大きな意義があると言えましょう。
 そのうえで、基本法案が通った時に税を導入するとか排出取引をするとか言っていますが、それだけで80%削減が実現できるはずはないのです。こういう政策実現手法だけを議論していて2050年になって何もできていませんということではこまります。基本法案では温暖化対策の基本計画を作ることになっていますが、長期的な視野で基本計画を作ることになります。基本法案の中には交通に関して温室効果ガス削減のために何をやらなければいけないか出ていますし、地域社会形成についてこういう施策を講じなければいけないことが抽象的な文言で書かれていますが、これをどうプログラム化して2050年までに具体的に実現していくかがしっかり書きこまれた基本計画でなければ意味がないと思います。
 それを5年・10年の時間内でどう具体化するかが、実施計画という形で書かれていくという筋道が基本法案では考えられています。80%を一遍に削減できるはずがないですから施策を積み重ねていって80%にもっていかざるを得ない、2049年から急にストンと下げることは不可能ですから今から下げていく努力をしなくてはいけません。その通過点として2020年に何%になるかはという話であるはずです。ですから、2020年の25%から話を始めるのではなく2050年の80%から話を始めることが大事で、中央環境審議会の地球環境部会も総合環境政策部会もこのような路線をこれまで貫いてきたつもりです。
 残念なことに政局の中ではこういう議論はなかなか通用しないですが、実現の可能性があるかどうかは別にして、お見せしている図は名古屋市がお考えになったものです。当時は2050年の削減量を75%としておられますが、これだけの施策をこれぐらいの年次に進めていけば2050年には75%を削減できると名古屋市ではお考えになったようです。これは名古屋大学のチームが中心になり作ったものですが、こういうものをご覧になってもおわかりだと思いますが、何か一つの決定打で効果が上がるかというとそれは無理です。ところが、世間では環境税を導入しさえすれば一遍に問題が解決できると思う人がいたかと思うと、最近は国内排出量取引制度さえ導入しればいいのだそうです。しかし、そういうのではだめです。コンクリートから人へと言われますが、温暖化を考えたらコンクリートの中に人の要素を入れなければいけない。
 つまり、インフラをしっかり整備する中でいかに上手に80%に辿り着くか、これも考えに入れていく必要があります。一つの施策だけで80%削減が実現できるはずがない。これをどう総合化するかという大事な問題について知恵を絞って議論することが全くできていないことは本当に残念なことです。残念ながら目先の次の株式総会で自分の首がつながるかどうかしか関心が持てない経営者の方々、あるいはせいぜい自分の任期中だけ無事にやればと思っている公務員の方々、研究者は自分の理論が受け入れられるかどうかにしか関心がない、その辺に大きな問題がありそうです。これが今、大変気になっていることです。このセミナーでお考えになったことが、私が今気になっていることに対する解につながることを期待しております。
          

 

屋井:ご紹介欄に地球温暖化問題を中環審の中で長らくやってこられた点を掲載させて頂きましたが、非常に心強いご発言を冒頭にいただきました。どうもありがとうございます。

 続きまして、小幡先生にお願いしたいと思います。最近テレビで小幡先生をお見かけした方もいらっしゃるかと思います。事業仕分け第二部会で大変ご尽力いただいております。評価にもかかわるお仕事ですが、評価はこのセミナーの重要な課題でもありますので、その時のご苦労話も交えて、道路を含む交通や都市の事業の評価・課題等についてのお話をいただければと思います。よろしくお願いします。

小幡:私は行政法を専門にしております。事業仕分けの話がございましたが、本職は、法律屋でございます。道路や土木、社会資本整備とかかわりをもちましたのは、もともと「道路の設置管理の瑕疵」、国家賠償責任の研究をやっておりまして、国家賠償訴訟というのはまさに行政法の一分野ですが、もともと、道路・河川、社会資本にかかわるところの災害・事故が起きたときの責任をどうするかということを専門に研究しておりました。
 それとの関連で公物法、環境法、道路計画、パブリック・インボルブメントなどについても今日ご発表いただいた先生方共々研究させていただいたこともございますし、社会資本整備関係の行政法を専門にしております。都市計画関係の訴訟についてですが、主に最高裁で、このところ、判例がいろいろアクティブに動いているというお話しがすでに屋井先生からあったかと思いますが、私、今は法科大学院で判例ばかりをみておりまして、判例の読み方もなかなか奥が深くそれほど単純ではないところがございます。後でこの冊子にも書かれていることについてコメントさせていただきます。

我が国の社会資本整備に関わる法制度の課題

 このセッションが始まる前の質疑のところで法制度の問題などのお話がございましたが、日本の法制度は、社会資本整備を担っている事業者の方々、住民の方々、双方にとって十分なものではないという現実があります。今後は当然きちんと制度を作っていくべきという話になるわけですが、現状では法制度ができていないので、判例も救済のために動き出しているという状況になっております。
 例えば道路法などは非常に古い法律でして、最近論文を書くのに公物法を全部並べて横断的な検討をしたのですが、河川法は旧建設省関係で、旧運輸省系のものと違うなど、いろいろバリエイションはございますが、特に道路法はかなり古くなっています。そろそろ目的規定をきちんと直し、然るべき部分を現代風に合わせるような形の法改正が必要になってくるのではないかと思います。
 そこに計画法制をどう入れていくか、道路法の中に入れ込むのか、外出しで計画一般についての手続を定める法律を作るかなど、いろいろ可能性があるわけです。これからの動きはわかりませんが、政権も変わったことですし、民主党は法律を変えようという意識が比較的高いので、もしかすると古い法律を現代に合った形に直そうということになるかもしれません。それが本来の姿ですので、そうなった時に今まで学会等で積み重ねてきたものがまさに実を結ぶわけです。法改正ということになると、どういう法制度にするかという内容が大変重要になってくるとは思いますが、いずれにせよ、今後は可能性があると思います。

 最後に事業仕分けのことにも触れよということですので、少々お話しておきますが、事業仕分けにいくつか携わりましたが、去年の11月のものは予算の過程での事業仕分けです。予算というのは従来はどのように案を決めていたかと申しますと、各省がこういう事業をやりたいと言って財務省の主計局と話し合う、いわば閉鎖的な世界の中で決まってきたのです。事業仕分けでは、何を取り上げるかということ自体が問題になるということは確かにありますが、ただ、仕分けでは、皆さんが見えるような所で議論をします。その点で一つの価値があったのではないかと思います。
 その後独法と公益法人の仕分けがありまして、最近は、国交省の行政事業レビューに参加したのですが、これも一種の仕分けでして、霞が関の行政が自ら外部の有識者を入れて予算執行のレビューをするという新しい取組みだと思っています。
 基本的に新しい道路を作るか、ここの社会資本を整備するかしないかということ自体は、事業仕分けにはあまり馴染まないだろうと思っています。事業仕分けでやるべきことは、入札の仕方を工夫できないか、いつも同じ団体に委託しているのではないか、そういう方法についての細かな話です。したがって、本質的な政策論はやるべきではないと思っていますが、実際には少しなされていたかもしれません。
 最近の行政事業レビューで一つ問題になったのが道路の維持管理コストの削減でした。もう少し何とか削減できないかという話はやはり出てくるかと思います。行政が一番良いと思って今までやってきたやり方についても、もう一度見直して、さらに節約できる部分はないか、そのような目的から、視点を変える、発想を変えるということが必要になってくるのです。ただ、事業仕分け自体は、どの道路を整備するかというような政策的な評価とは異なるのではないかという感想を持っております。
          

 

屋井:事業仕分けのポイントがよくわかった気がしますし、道路法の改正などは可能性があるというお話しも大変心強くお聴きしました。どうもありがとうございます。

 続けて竹内先生にお願いしたいと思います。竹内先生は比較的土木分野に馴染みがある先生で、そのことをご存じの方も多いと思います。道路関係だけではなく交通政策の広い分野がご専門でございまして、今回の高速道路の無料化などで右往左往している状況がありますが、そのような迷走問題なども含めて、経済学者の立場から今後の交通政策、あるいは環境とのかかわりが増す中でどのような課題があるか等にも触れながら、ご発言いただけると思います。よろしくお願いします。

愛憎渦巻く費用便益分析

竹内:東京女子大学の竹内でございます。今ご紹介されましたが、私は、主に交通経済学あるいは公共経済学といわれている分野を専門としておりましていわば応用経済学を対象としております。昔は経済学というと金勘定のイメージで、儲かるか・儲からないか、いまだにそういう誤解をしている方が多いですが、最近は土木関係と経済学は仲良くなってきて、少なくともこういう場に参加されている方はそういう誤解を持っておられないでしょうから、本当にありがたいことだと思っています。今後ますます経済学の誤解を解いていかなくてはいけないと思いますが、そのためにさまざまな政策にかかわる土木計画とのコラボレーションでより頑張っていきたいと思っているところです。

 今日ここにお招きいただいたことは大変ありがたいことで、経済学の視点から実際の計画などをどうみていくかということが私の役目だと思います。私はそこの明確な答えを持っているわけではないですが、若干課題での依頼がございましたので、4〜5点ぐらいご紹介して一回目は終わりにしたいと思います。まず、再三出ております費用便益分析のお話です。説明責任をつけるためには、これは数字がビシッとでるので非常に説得力があり、このセミナーでもこれまでに再三お話しがあったと思いますが、非常に重宝します。ですから、過大な期待と言っていいほどの期待があり、非常に良いものであるという声があると同時に、その反面、憎しみも強く、「何でも金勘定しちまうのか」「鉛筆なめれば数字が変わるじゃないか、そんなものを信じてやっていいのか」といった批判も受けます。
 思うにこれほど愛憎が渦巻く理論もないのかと、好きな人はすごく好きで「もっとやれ」という方もいれば、一方で「こんなものは憎くったらしくてしょうがない」という方もいらっしゃる、アンチと支持する人がこれほど多いということは、それだけ重要だからこそ愛憎が渦巻いているのだと思うわけです。そのように非常に評価が相俟っている原因で一番大きいのは、全体の計画・制度の評価の中で費用便益分析をどう位置づけるのか、これが宙ぶらりんのところが一番問題だと思います。この点がしっかりしていないので、ああすればいい、こうすればいいと位置が定まらず、その結果、良い所・悪い所が出てきてしまうこともあると思います。もちろん費用便益分析だけで何でも決めるものではないし、かといって費用便益分析を全くないがしろにするべきものでもないと思いますが、その位置づけが明確でないことが今の混乱の最大の原因だと思います。
 そのほか敢えて言うなら、費用便益分析は経済学と現場の一番近い分野の理論であるいわれていますが、意外に費用便益分析の経済学的な理論的背景が知られていなく、単なる技術として使われることが多いようです。我々からみると補償原理、カルドア・ヒックス基準というのがあり、それに基づいてこれは理論的に正当化されるのですが、そういう話は世間ではあまり聞かないです。こういう点も認識してほしいということが一つの課題です。

 あとは、経済学ですから資金調達の話が関係するところだと思います。高度経済成長期は計画を片っ端から実行していきました。需要が旺盛でしたから資金のことは考えなくてもお金は後からついてくると、適当にやっていても何とかなるだろうということだったと思いますが、最近は資金調達をしっかりしないと計画そのものの実行ができない、資金調達の仕方を誤ると計画そのものに正当性がなくなる可能性があります。そこの認識を新たにすることが二番目の問題としてあるのではないかと考えております。
 三番目ですが、これまでよく言われているのは、ハード(計画)が実行された結果、都市構造が変わる、産業構造が変わる、立地が変わるということです。そしてその結果を受けて制度も具体的に変わっていきます。そこで一つ心配なことは、これとは逆にソフト(制度)の変化によるハード(計画)への影響です。制度・政策が変わることで計画が変わってくるという逆の方向が最近現れて、民主党政権になってなおさらこの認識を新たにしてところです。ハードに基づいて変わるのではなく、具体的な制度や政策といったソフトの変化によってハード(計画)が影響を受けてしまうということです。これについては時間があれば後で事例を挙げてお話ししたいと考えております。
 四番目は、マスコミが関係する問題だと思いますが、よく言われるのは、採算がとれる・とれないということだけでその計画をやっていいか悪いかを判断するという、最近そういう風潮が見えます。計画の持つ社会的な価値はあまり顧みられず、これこそ本当に費用便益分析が威力を発揮するところですが、テレビなどで「皆さんこういう道路を作ってもいいんでしょうか」と車が1台も通っていない道路を画面で見せ、これこそまさに公共事業の無駄遣いですと言うように持っていってしまうわけです。一部のマスコミさんを中心としたそういう判断で世論が形成されてしまう、世論もその主張を鵜呑みにしてしまう。その結果、社会的に価値のある計画がだめになることがあります。この誤った認識をどう改めるかということも課題だと思います。
 最後になりますが、これは自民党政権時代に一度廃案になった話で、最近民主党内で検討委員会が立ち上がっている、交通基本法に関する問題です。これがどうなるか私も非常に気がかりですが、この法律が通ることで計画分野もかなり大きく変わってくる話だと思います。いわゆる「移動権」の保障の話ですが、将来的に計画のありかたについて大きな影響を与えると思います。新聞やテレビの報道を見てもあまり目立っていない法律ですが、大事な話が進行中です。これと計画のかかわり合いも今後考える課題ではないかと思います。
 以上、今日は5点だけ説明させていただきました。
          

 

屋井:大変重要なポイントを5ついただきました。これらも後ほど皆様方で議論していただきたいと思います。愛憎渦巻くB/Cですか。直ぐに使わせていただきたくなるすごく良い言葉をご提示いただきました。どうもありがとうございます。

 続きまして、松岡さんです。今日のパネリストの中では地方行政に携わる立場でここにお並びいただいております。環境モデル都市の推進は北九州市が非常に有名です。まさにその推進役として大変ご活躍されています。現場の立場でのご苦労等も踏まえたお話しがいただけると思います。よろしくお願いします。

環境都市北九州市の取り組みと課題

松岡:北九州からまいりました松岡と申します。先ほどのお話の中で環境覇権主義のような言葉がありましたが、今まで環境というのは非常に日陰の身でしたので、お許しいただければと思います。
 私ども北九州は、今のご案内にございましたように、25%かどうかは別にして、環境モデル都市として低炭素社会づくりを先兵としてやるということで、石田先生はじめ、ご指導の中でやっております。環境モデル都市になり一番良かったことは何かと問われ私が必ず答えることは、本当に初めて自分たちの街のことを考えたことで、そういう機会になったことが私たちの街にとって一番良かったことです。
 実は、今まで自分たちの街のことをやっているつもりでしたが、いつも中央に従属して自分たちの地域の資源、人の資源などを真剣に見つめていなかったのです。白紙の中でこの街をどう設計しようかというときは本当に難しかったですが、市民と一緒に議論し合いながら初めての機会であったことが一番良かったことだろうと思います。私はたまたま環境局に所属しておりますが、我々は低炭素社会というのは豊かな社会とコベネフィットでなければならない、例えば高齢化社会を迎える、そういう中で新しい社会づくりと低炭素社会づくりを両立させていかなければいけないということでやっております。ただ、非常に課題がございます。結論から申し上げますと、いわゆる行政の縦割りです。北九州市は比較的うまくいっておりますが、150のプロジェクトをモデル都市の中でやっております。でもやっぱり、この事業はまだ環境局の仕事、この事業は建設局の仕事、そういうところです。
 我々は今、社会づくりをやっているところですが、一つの例を申し上げますと、北九州はいわゆる「スマートグリッド」、全国で4カ所の拠点に選ばれました。これはエネルギー問題ですから環境の仕事であるとか、経済産業省の仕事であると言われがちですが、社会を見てきたときに、エネルギーのグリッドを作っていく、そのシステムを使いこなすのは誰かといいますと、そこにいる市民の方々が参加するコミュニティという部分です。非常にそういった部分になってきて、国でいうと環境省、そういうレベルになってきます。それから、エネルギーのグリッドに適した建物や道路という都市基盤を一緒に考えていく、私はそこが一番大事だと思っていますが、そういった所に関しては、国で言うとまさに国土交通省であり、そういう所の出番があるのだと思います。しかし、依然として、このグリッド問題に対しての捉え方はエネルギーセクションだけしか入っていないです。
 せっかくこれだけ社会を変革しイノベーションを興していこうという限りにおいては、我々自治体も国もそうですが、やはり社会の一つの目的に向けて総合力を発揮していく仕組みが必要だと思いますし、従来の制度の中では硬直化していて今の動き合わせてやっていくことはなかなか難しい部分もあるかと思います。
 例えば、ほかの国とはスピード感が全然違います。私はつい先日上海に行ってきまして、中国でさえ低炭素社会に対して方針を決めてすでに動き出しています。ぐずぐずしているのが日本です。議論は必要だと思いますが、そのあたりの部分を含めて制度疲労の部分も演じていく必要があるのかと思います。ということが私の思っている今の課題です。
          

 

屋井:温暖化対策を推進している立場から、いろいろとご苦労もあるでしょうが、エールをいただきました。今後、総合力を発揮するうえでも、インフラを担っている国土交通行政が積極的に貢献するべきだというご発言をいただきました。どうもありがとうございます。

 続けて久保田先生、ラストバッターですが、外部とは言いながらどちらかというと内部の先生です。この小委員会は「かたちワーキング」「人材(ひと)ワーキング」2つのワーキングがありまして、「ひとワーキング」の主査をお務めいただいております。今回のセミナーは、小委員会としてのセミナーではありますが、かたちワーキングで議論されてきた内容が多いものですから、ご登壇いただきました。かたちはあくまでかたちに過ぎず、それをいかに動かしていくか人材(ひと)が重要である、というお話しをいただけるのではないかと思います。よろしくお願いします。

契約制度の課題とまちづくりへの悪影響

久保田:埼玉大学の久保田尚です。よろしくお願いいたします。
 ご紹介いただきましたように私も土木の人間ですが、主にやっている分野は広く一般的に言えばまちづくりです。道路に関しては高速道路ではなく、生活道路とかちまちましたような道路が多く、公共交通についてはコミュニティバスなど、まちづくりに関わるようなことをずっとやってまいりまして、言い方を変えれば、まちづくりですから人と人との関係で何かをつくったり考えたりする分野です。そういうこともあり、通称「ひとワーキング」でいろいろ勉強させていただいたということかと思います。
 昨日・今日のセミナー、あるいはそれ以前に、最近の公共事業から我々のスタンスを見たときに私が非常に強く感じますことは、ある種の自己呪縛というか、非常にデフェンシブ、先ほどからマスコミのいろいろな情報がありますが、どうしても今、我々はそういう立場にならざるを得ないです。そこがある意味、こういう分野に携わっている人、特に若手に関して、かなり悪い影響を与えているのではないかというのが私の想いです。

 今、非常に強く感じることがありまして、自己紹介がてら一つの例を申し上げようと思ったのですが、よく考えましたら、今私がこれを申し上げるとおそらく小幡先生にまた仕分けられると思うのです。二ラウンド目には私はここにいないかもしれないですが、その覚悟で申し上げたいと思います。契約の問題ですが、先ほどこの分野は契約に問題があるとおっしゃっていましたが、実は、この分野はすでに仕分けマインドが完璧にいき届いておりまして、ある意味過敏に反応しています。とにかく透明でなければいけないということで、この部屋にいらっしゃる方はものすごい労力をかけて携わっています。甲側の方も乙側の方も莫大な時間をそのことに費やしています。例えば、随意契約はもう夢のような話ですから、プロポーザルを書くのに莫大なるエネルギーをかけていると、一方、甲側の方はそれを全部読んで評価しますが、きちんとした評価でなくてはいけないということで、老眼鏡が無いと読めないようなとんでもないエクセル表で評価して、これは65点とかやっているわけです。

 労力がかかることは透明性ということで否定できないですから、そこは我慢します。ただ、この仕組みの決定的な問題はまちづくりに悪影響があるという、あるいはまちづくりを破壊しかねないということです。例えば、今のことで言うと、いろいろな手続きがありますので契約が成り立つのが6月か7月、8月ぐらいになってしまいます。私が経験したある所では、10月に県道を歩行者天国にするという大実験をやったのですが、業者が決まったのが8月です。8月に決定した方が10月の大実験をやるわけです。警察との交渉で実験のようなものをやるのが精一杯で、その前の地元とのやり取りなどはこの仕組みの中ではできるはずがないです。もっと問題なのが、3月31日までA社のAさんという方が地元に入り一生懸命商店街の方と膝詰談判でこの街をどうしようかという話をしていたのですが、4月1日になったらパタッと来なくなるのです。最初は年度が変わったのでしょうがないと思っていましたが、ゴールデンウィークが過ぎる頃からだんだん商店街の方たちが心配してきて、A社のAさんはどうしているかなぁと市役所に電話してみると、「いや、ちょっと今…」こうなるわけです。6月・7月になり何で何も来ないんだろうと思っていたら、7月に急にB社のBさんという方が名刺を持って来まして、「今年度ここのまちづくりをやらせていただくことになりました」と会ったこともない方が急に来られて、去年の話をしようとしてもB社もBさんも全然知らないのです。要するに、今は年度ですべての契約が切れますので、今の計画ではまちづくりという営々とつないでいくべき試みに民間の方は入れないのです。

 こういうことではまちづくりが破壊されますし、同じぐらい重大な問題と思っていますのは、この分野の若いコンサルタントたちのモチベーションが続かないと思うのです。以前は、確かにある面で問題があったかもしれないですが、あるコンサルタントの方が日本で10年・20年ある都市に張り付いてその街を育てるということをやってきたのですが、そういうコンサルタントの方がこれで絶滅するわけです。これのプラス・マイナスをわかっているつもりですが、まちづくりの観点からのマイナスに対して今、何のケアも無いということが非常に問題だと思っています。例えば、単純に契約を3年契約にしてくれるだけでもいいと思っています。今は透明性を否定することはできません。ただ、透明だけど泡が立っている、といったような工夫を考えましょうというのが私の言いたいことです。終わりです。
          

 

屋井:泡が立っている透明という表現は初めてで,新鮮にお聞きました。私も昔の経験を思い出しましたけれども、PIをある地域でやっていて、なぜか4月から10月ぐらいまでパタッとなくなるのです。11月ぐらいになるとまたPIを始めようとなるのですが、関係者の立場からいうとこれではもたないですよね。住民本位になっていないわけです。どうもありがとうございます。

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【第二ラウンド】今後の計画、評価にかかわる制度のありかたについて

 実は時間にそれほど余裕がないのですぐに第二ラウンドに入らせていただきます。第二ラウンドは第一ラウンドと密接に関連しておりますので、すでにお話しいただいたことの続き、あるいは全く新たにでもかまいませんが、このセミナーで形を重視していたこともありまして、できるだけ計画や評価、あるいは計画の手続きの制度のあり方について言及していただくと大変ありがたいと思っています。

 今度は順番を逆にさせていただきまして、松岡さんからお話しをいただきたいと思います。よろしくお願いします。

エネルギー分野の概念を都市計画法のなかへ

松岡:先ほど今の制度は若干制度疲労というお話しをさせていただきましたが、実は私、皆さんがいるので言うわけではないですが、都市計画法は本当に大好きな法律です。都市計画法は、みんなの福祉をどういうふうに設計していくかということを早い段階からやっていきながらそこに魂がこもっていけば、みんなに幸せをもたらす法律だと前々から思っております。
 低炭素社会づくりは、どういったまちづくりをするのかという、ある意味では最初の設計をするのは都市計画そのものです。ただ一つ、事業をやっていくうえでこういう要素を入れてもらいたいというのは、まず都市計画ですが、設計で平板な中に線を引いていく部分がありますが、そこにある意味で成長の概念を入れていただければと思います。実は、その中にはエネルギー分野の概念を都市計画法の中に入れていただき、それをどう使いこなしていくかという、そういったファクターを都市計画法の中にしっかり入れます。また、そこに住んでいる人たち、そこで事業を営んでいる人たちがそこにもたらされた基盤をどう使いこなしていくのかという意味では、都市計画は北九州市で言うと市の全体構想的な部分だと思いますが、そういうものをしっかり織り込んでいただければ、行政なり市民が目指す大きな柱になってくるのだろうと思います。皆様方はご専門ですので、そのあたりを今後ご議論していただいて、まさに都市計画法自体の覇権主義を作っていただければと思います。以上です。

屋井:どうもありがとうございました。 それでは続けて、久保田先生よろしくお願いします。

地方の首長の呪縛と学会のルール提案

久保田:先ほどは契約のお話しをしました。いろいろ気になっていますが、次に指摘したいのは首長さんです。我々土木が自己呪縛に陥っているのと同じように首長さんは今、非常に自己抑制的です。なぜだか知りませんが、自分で仕分けをやっている市役所がたくさんあります。
 何のためにブームになっているのかわかりませんが、首長さんが仕分けチームをつくりいろいろやっています。自分たちが今までやってきたことを仕分けするとか、いろいろな評価を入れたりして今、ものすごく厳しい目で自分自身を見ようとしています。それはもちろん悪いことではないですが、それも副作用として新しい前向きのことが一切できなくなっています。ほかではやっていないやや奇抜なことをやろうとした瞬間に、いつ誰に仕分けられるかわからないという、そういう恐怖心に陥っていると思います。それで日本のまちづくり経営が非常に停滞していると思っています。

 先ほどルールの決定の話がありましたが、私も賛成です。我々が今持っている決定ルールは、基本的には松岡さんがおっしゃった都市計画法しかないです。交通計画でかかわる所で言うほかの部分については一切、決定ルールというのは無いです。したがって首長さんが決心するかしないかはそこにかかっているということです。それに関して決定ルールを作るのも一つの手だと思います。先ほど新しい法律ということが出ていましたが、それも一つ方法だと思いますが、一足飛びにはいかないだろうと思います。一つの提案をしたいのですが、学会がルールの雛型を作って自治体などに提案してみてはどうでしょうか。そのルールに従って自分がモノを決めることが自治体や市民から評価されるだろうと、首長さんが思われるような適正なルールを作り、それを提示するのです。

 これには一応例がありまして、アメリカで、生活道路整備の手続きのためのルールを「ITE」という学会が提案したのです。例えばどこかにハンプを作る、必ず反対があります。それをどういう範囲でどういう投票をして賛成がこれだったら入れるとか、あるいはある市の中でやりたいという所が何カ所かでてきた時にある一定の予算の枠内でどこを優先的にやっていくか、こういうルールでこういうふうに点数をつけてこういう手続きのもとで優先順位をつけなさいというルールで、それをITEが示しているのです。それをアメリカのいろいろな自治体が採用し、適用しています。このプロジェクトをNTMP(Neighborhood Traffic Management Program)といいますが、私は最初、統一の名前なので連邦予算がついてそれにより自治体がやっていると思っていましたが、連邦保障制度ではないということがわかりまして、実際は学会が一方的に提案したルールだけで、各自治体がそれに従ってやっているようなのです。
 私はそういう方法もあると思いまして、政府や首長さんにものを言うのも我々の一つの仕事だと思いますし、一方で、「こうやるとうまくいきますよ」という仕組み自体の提案もしてみたいと考えております。以上でございます。

屋井:私もITEのメンバーですが、ほとんどのメンバーはコンサルタントの方です。ですから、コンサルタントの方中心で作ったルールで社会が動いていると理解していただいても良いと思います。「Institute of Transportation Engineers」そういう学会です。どうもありがとうございました。
 それでは、続きまして竹内先生にお願いしたいと思います。先ほど第二ラウンドでお話ししてもということがありましたので、よろしくお願いします。

費用便益分析の現実と期待のギャップ

竹内:先ほど自分が言った課題に自分でコメントするということになりますが、若干細かくお話しをしたいと思います。
 先ほど愛憎渦巻くという表現をして我ながらすごくいい表現だと思ってしまいました。私は「愛」の立場でも「憎」の立場でもない人間ですが、費用便益分析を攻撃するほうの立場から言うと、費用便益分析はあくまで効率的な指標であって公正を取り扱う指標ではない、つまり発生した純便益がどこに発生したかということまでは語らないということです。そこを無視して効率的に資源が使われているからいいと言うだけではまずいだろうと思います。したがって、費用便益分析だけを使ってB/CがいくつだからこれはOK、これはNGという話ではなく、便益がどこにどう分配されているかという視点が欠落していることが問題だと思います。
 逆に費用便益分析を擁護する立場で言いますと、やっぱり費用便益分析はお金で話をするものだという考えが先行するあまり、金勘定で物事を判断する、と誤解されがちです。費用便益分析には経済学にもかかわっていますから、このことを通じて、やっぱり経済学はお金の話であると判断されることもあります。金で釣る、汚い、物を売ったり買ったりの金のやり取り、などと費用便益分析には悪いイメージがまとわりつくわけです。
 これとは違う話で、以前、交通事故被害者の方々から話を聞いたことがあるのですが、交通事故減少便益の算定に関して、「人命を金額で評価する。こんなことは許せない」とものすごく怒る方がいるわけです。たぶんその方の頭の中にあるのは「お金は汚いもの」であり、「人の命を売り買いするのか」という思い込みがあるのだと思います。
 実はそうではないのです。費用便益分析では○○がいくら、とすぐに金額換算して話を進めますが、これはあくまでも売り買いするとか、儲けるとかではなくて、共通の価値の尺度としてたまたま貨幣を使っているに過ぎないのです。これがあまり知られていないのは不幸なことです。要するにお金に換算するのが嫌なら大根でもいいわけです。その結果、例えば環境被害の額は「大根3本」、混雑の緩和の効果には「大根2本」でいいのです。お金より便利な価値の尺度があればそれは何でもいいわけです。金額にするから汚いとか、金勘定で物事を判断する、という言い方をされてしまうのです。単に皆さんが理解しやすい便利な共通の価値尺度として、たまたまお金があったので使った、というだけのことなのです。ここがかなり誤解されていて費用便益分析は汚らしいものというイメージがありますので、この点を払拭しなければいけないと思います。
 あと一つ注目したい費用便益分析についての心配は、環境に関することです。たとえば現在の日本の道路整備に関する費用便益分析では、環境のコストは、一応議論の対象にはなっておりますが、現段階では明確に貨幣価値換算していません。世間は、環境に対して非常に敏感であり、環境費用を費用便益分析に入れると計画がかなり大きく変わって環境に優しいプロジェクトが出来上がるのではないかと、そういう幻想が残念ながらあります。
 ところが、皆さんご承知のとおり、時間価値の評価するときに、これが1円・2円変わるだけでガラッと便益の総額が変わります。特に混雑解消効果の強い道路整備計画では、時間節約便益の大きさで環境のコストは跡形もなく吹き飛んでしまいます。費用便益分析ではこれが現実なのに、国民の方々には環境に対する過大な期待があり、そこのギャップを何とかしないといけないという気がしております。

資金調達と計画の制度のありかた

時間が無いので端折っていくつか一括で話してしまいます。資金調達の話と制度・計画の話を若干申し上げました。私の頭にあったのは、具体的な制度変化の事例として道路の一般財源化です。自動車関係諸税が一般財源化されたことで、実際にもう兆候が表れておりますが、政治家による恣意的な道路予算の削減や増加が増え、これまであったような計画の長期的・安定的な実施ができなくなってくることがあります。道路特定財源の利点として、かつて計画の安定的な実現とありましたが、これがいま崩れる可能性を秘めています。そういう意味で資金調達に関する制度をしっかりしないと計画そのものが影響を受け、狂ってしまうということがあります。
 整備新幹線も同様です。都市の人たちのお金によって整備新幹線が建設されるならば、都市の人は自分が使わない地方の新幹線整備になぜ自分がお金を払うのか、不公正だ、といわれれば、計画はストップしてしまうかもしれません。資金調達の制度が受容されないと、計画の実施に正当性がなくなることになります。そういう意味で資金調達と計画の関係は大事です。高速道路の無料化の話もまた同様です。高速道路を無料化するかしないかとうことで料金制度が動揺・迷走しています。この結果何が起こったかといいますと、鉄道などが打撃を受け、鉄道整備計画がぐらついてきています。ソフトである道路に関する制度がフラフラしている結果、ハードである計画が全部狂ってしまいます。政権が代わるとどうしてもそういう状況になってしまうのですが、それでは困ります。そういう意味で長期的に安定的な計画の実現のために制度をどうするか、これは政治家にしっかり考えてもらわなければ困るという気がしております。

 それから、どうしても計画の必要性が、採算がとれる・とれないということだけで判断されてしまうというお話をしました。これについては私も一つ体験したことがあります。研究室にいた時にあるテレビ局から電話があり、空港の赤字ランキングを作りたいがどうすればいいか教えてほしい、という問い合わせがありました。ランキングと一言で言ってもそんなに簡単ではなくて難しいですよと申し上げて、もし仮に赤字ランキングが作れたとしても、単に赤字だからこの空港はいらないと言えるものではないですよ、という話しをしたのですが、それっきり電話が来ませんでした。それで私はテレビ出演の機会を失ったということになります。赤字だからこの空港はもう必要ないと派手に語れば私はテレビを通じて有名人になったのではないかと思いますが、私は出演しても使えない人間と思われたようです。
 赤字だと悪い計画で、車の走らない高速道路はいらないとマスコミはつい言ってしまうものですから、詳細を知らない純粋な国民の方々はそういうものだと思い込んでしまいます。高層マンションには非常階段がありますが、普段住民はエレベータを使いますので非常階段を使いません。誰も使わない放置状態の非常階段をマスコミが見て「この非常階段は誰も使っていません。こんな非常階段があってもいいのでしょうか」とは言いません。
 それと同じことで、道路や空港も非常階段と同じ利点があるわけです。もちろん利用可能性の便益の大小はありますが、実際に使われなくてもそれが存在すること自体に意義があるいうことはよくあります。リダンダンシーといいますか、いざというときに使えるという効果があるからこそ、たとえ普段人が使わなくても作っておくべきものはあるわけです。問題は、その額がどれだけであるのか、多額の費用をかけてもそれ以上の便益があるかどうかということを議論すべきなのに、人が実際に使う・使わないだけで判断がなされてしまうのが現状です。一般の国民の方々の発想をどう変えていくかということが求められています。

交通基本法の移動権

 最後に交通基本法、移動権の話を少ししましたが、交通基本法の移動権を法律上に明記すると、私は法律の専門家ではないので誤解があったらお二方に修正していただきたいのですが、移動権という言葉を人質に取られて、どんなときでも移動の権利を保障しろということになってしまうのではないかということを恐れます。例えば今の鉄道運賃は高いので移動権を阻害するものであるから、採算度外視でタダにしろとか、安くしろということになりはしないか、あるいは航空会社が路線を廃止してしまったら移動の権利が阻害されるので、無理をしても飛ばせとか政府が代わりに国営航空会社を作って移動の権利を保証しろと言われた時に、果たして今の日本にそれだけの余力があるだろうかと心配です。 したがって、移動権という言葉を正式に表明する以上は、計画する立場からすると、それに見合う財源があることを明確に言っておかないと計画が実行できないことになるわけです。つまり、一旦移動権を確立すると、考え過ぎかもしれませんが極端に言うと、どんな過疎地方でも網の目のようにバスの路線をひけ、どんな赤字空港でも作れ、1人しか乗客がなくても飛行機を飛ばせ、どんな新幹線でも作れ、国民はこの権利を持っているのだから国交省はそれだけのことをするべきだということになってしまいます。それだけの計画を実行する財源の裏打ちに関する指摘がほとんど議論されていないように見えます。計画を立てる立場の人々は、この法律が今後どうなっていくかをしっかりと見ていく必要があるという気がいたします。
 長くなってしまい申し訳ありませんでしたが、以上です。

屋井:第一ラウンドのご発言を展開して詳細にご説明いただきました。先ほどは愛憎渦巻くB/Cだったのですが、今度は愛憎渦巻く大根になってしまいました。いろいろご提案いただきました。交通基本法についても本小委員会で議論の対象にしていましたが、計画との関係において詳細な検討が必要だというご提案をいただきました。どうもありがとうございます。今度は小幡先生にお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

随意契約の必要性,移動権へのコメント

小幡:何点か久保田先生からお話しがありましたが、悪しき一律化のような面があり、やはり随契でなければできないものもあるので、それはきちんと説明していただければよいはずなのですが、役所は一律に無くさなければいけないと思い込むようなところがあります。1年間という決まりについても本来見直す必要があります。PFIなどは複数年でやっているので、そのような多様性も認める方向に進むべきかと思います。
 移動権の話は、保護の対象になる権利とするかどうかは別問題でして、特に基本法などを作って「○○権」と名付けたものがどのように具体化されるかというのはおそらく別の次元の話になると思います。例えば、本当に過疎の所でバスが無くなったらどうなるかという議論は今でもありますので、法律を作ったので直ちに変わるということではないと思っています。

計画に関わる最高裁判決の状況

 時間が無いのでごく簡単にしますが、最高裁判決がこのところかなり出ておりまして、判例がかなりアクティブに動いています。屋井先生のペーパーにも出てきましたが、私の専門の行政法の中では、昭和41年の青写真判決というのがありまして、これは計画は青写真なのでこの段階では取消訴訟はできないという判決でしたが、平成20年9月10日の大法廷で変更になったという、何十年ぶりの非常に大きな判例変更です。少々説明いたしますと、土地区画整理事業で、まだ事業計画決定は青写真にすぎないので換地処分がなされるまで訴訟は待つべきだというのが従前の青写真判決だったのです。そうしますと、換地処分はまだまだ先なのに、そこで初めて法的効果が具体化するからそこまで待てというのではあまりにも救済が不十分になるということで、土地区画整理事業計画の段階で争わせる道を認めるべきだろうということで判例変更されたのです。
 つまり、本来は事前の参加システム、計画の各段階ごとの救済システムを立法で作るべきであるのに今は無いので、実効的救済をするためにはこの段階で訴訟を認めるべきだというのが最高裁判決の趣旨となっています。
 本来はきちんと計画法制をすべきというところは、屋井先生が抜粋していらっしゃるとおりでして、藤田宙靖裁判官は行政法学者ですから学者らしくこのようなことをおっしゃったのですが、ただ、これは土地区画整理事業の話なので都市計画一般の話ではありません。我々の業界でもこれが都市計画の計画決定にそのまま適用されるかというとそれは違うだろうというのが大勢の読み方になっておりまして、この判決は土地区画整理事業という法制のもとで敢えて救済を認めたものですので、そういう意味ではあまり一般化できないと思っています。
 ただ、やはり計画法制・立法がされるべきだという認識はもちろんありまして、国交省の都市計画課で都市計画争訴のあり方に関する調査業務ということで報告書が出ています。ここでも、計画に遮断効を認めて、前の上位計画については、一旦出訴期間を徒過するとそこはもう争えなくなる、計画で段階ごとに遮断効を認めていこうという、そのような立法をしてはどうかという議論がなされています。平成20年の最高裁判例は、あくまでも土地区画整理事業計画なので、そのようにご理解ください。ただ、青写真判決が変わったことはかなり大きな意味をもつことは確かです。

行政の計画裁量に対する司法の判断

 時間がありませんので、裁判所で何を争うかということについて、行政の計画裁量に対する審査の話を二点いたします。今まで都市計画については、計画をつくる専門家の裁量に任されているから裁判所は行政の判断を尊重すべきであり、裁判官自身はこれについては立ち入れないというような判断が多くなされていましたが、これにも変化が出てきています。一つは平成18年9月8日の林試の森公園の事件ですが、民有地に公園を作る都市計画だったのですが、その脇に公有地もあったので、隣に公有地があるのであればそちらを使うべきではないかという議論になりました。確かに民有地を使った方が良い点はあったのだと思いますが、一審判決は、傍らにあった西側官舎用地を公園に含めるべきであったのに、民有地を使ったことについて、考慮要素及び判断に著しい過誤・欠落があったという判決を下しました。広範な裁量があるとしてもその範囲を逸脱しているから違法であるというかなり激しいものです。二審は、一審を覆えしたのに対し、最高裁は違法になりうると差し戻したのですが、一審よりはトーンダウンしておりまして、公有地が傍にあるのならばそちらを優先して使うというのは、一つの考慮要素になるのでそれを考慮すべきであったのにしていないということを問題にしています。
 ただ、古田裁判官の補足意見というのがありまして、これは都市計画の側の方にとっては有難い判断だったようですが、たとえ公有地が傍にあっても、都市計画の目的達成に向けてより合理性の低い計画を立てるのは都市計画の本旨に反すると言っています。おそらく都市計画の現場の方にとってはこの補足意見があるので都市計画としての合理性に理解があったということになるのではないかと思いますが、いずれにせよ、裁判所の積極的な統制手法が現れています。
 もう一つの判決は、これは最高裁への上告が棄却になったので確定したのですが、道路の伊東大仁線の都市計画決定について違法という判決がでています。これは基礎調査の結果が客観的実証性を欠くと判示しているかなり珍しい判決です。初めは幅員が狭かったのを17mに変更したのですが、将来予測が妥当でない、或いは交差点解析が正しくないと、裁判所がかなり踏み込んでいます。このように、裁判所はこのところ積極的になっているということを、せっかくの機会ですので報告させていただきました。ただ、具体の事案では、読み取りはなかなか難しいですが、特にこの伊東大仁線の場合は、当該区間をバイパスにつなげるということが先に決まっていて変更決定を急いだ経緯があり、本来、変更計画の時にもう少し調査すべきであったという手続の問題があるのではないかと思っています。以上です。

屋井:今お話し頂いた目黒、伊東、浜松、我々にとっても有名な裁判になってきているわけですが、我々が話していてもお互いに十分理解できない部分があります。本日は小幡先生からご専門の立場でコメントしていただきましたので良く分かりました。直ぐに変わってしまうのではないかもしれませんが、将来的には変わり得ることも想定しながら、我々として準備をしないといけない、そのような理解で今日は皆さんお帰りいただけるのではないかと思います。どうもありがとうございます。
 それでは、お待たせしました、浅野先生よろしくお願いいたします。
          

 

戦略的環境アセスメントの法制度化の検討

浅野:最初に戦略アセスのことを話すようにと言われたのですが後まわしにしました。しかし、時間が無くなってしまいましたのであまり詳しいお話はできません。屋井先生も審議会のメンバーでいらして、実は屋井先生と私はいろいろな点で意見が合う、言ってみれば気が合うお仲間でありまして、審議の中では大変お助けいただいたことを感謝しております。
 いくつかキーワード風に乱暴な発言をしますが、どうも世の中にはアセスメントというのは公共事業をつぶす手段だ、あるいはつぶされる危険なものだと思っておられる方が多い。つまり、つぶしたいと思っておられる方はつぶす道具だと思っていますし、事業者は事業を邪魔するものだと思っている、そういう誤解が大変強く残っていると思います。それは、残念ながらアセスという制度が我が国では公害防止という関心から始まってしまい、定量的に基準を作り守らせることを意図して導入したところがあったからだろうと思います。しかし、これはまったくの誤りで、本来は環境にどういうインパクトを与えるかについての情報を得て、それを総合的な決定判断の中に組み入れましょうと言っているだけです。
 一つの我が国の不幸は、残念ながらいろいろな事情があって、最初にアセスを導入しようとした段階で法律が廃案になってしまい、閣議決定という行政措置でアセスを導入しましたので、この閣議の決定で縛られるのは国の公共事業だけでした。国の公共事業についてアセスを行うということでスタートしてしまったものですから、そこに大きな誤解の種が生まれたのです。つまり、公共事業の決定ということとアセスが当然のように結び付いてしまっている、これは大変不幸なことだったと思います。発電所は対象事業の中に入っていますが、閣議決定をした頃にはすでに省議決定で発電アセスはあったのです。ですから入ったということです。しかも、当時、9電力は公共企業だと殆どの人々が思っていましたので特に不思議には思わなかったのだろうと思います。今のように電力自由化で電力会社が企業経営的感覚を強く持たざるを得なくなってきている時代ではなかったのです。ところが、今や時代が全然違っていますので、この誤解を何とかとらなければいけない、これが今回のアセス法改正で一番苦労した点です。特に、政権交代がありましたので、ある意味、「行け行けどんどん」のような雰囲気の中でどのようにバランスよくことを進めるかということで、屋井先生共々苦労したということです。
 もう一つは、今回のアセス法改正は、先ほど矢嶋先生のお話を伺いましたが、矢嶋先生がおっしゃりたかった真意はたぶん後のほうでしょうし、その点については全面的に賛成ですが、前のほうのご説明は少しおかしいと思った次第です。公式には改正法案でSEAを導入したと言っておりますが、しかしあくまでも環境基本法で決めている環境アセスメントの枠組みは、閣議決定アセスをほぼそのまま引き写したものでございまして、それに基づいて環境影響評価法が作られており、その環境影響評価法を改正するのですから、環境基本法の枠組みから出ることは不可能です。
 SEAとは、本来国が作るさまざまな計画を長期的な視点でしっかり作ってもらい、その中に環境配慮をしっかり組み込む、というための仕組みです。たとえば、エネルギー計画について2050年まで考えて、石炭をどのぐらいの割合でセキュリティに入れる、石油はどのぐらいの割合で入れるということを国が大きな方針で予め決めておけば、電力会社が個々のサイトで石炭火力の設置計画を出しては叩かれるという事態を防げるわけです。それをやっていないので電力会社は個々の事業計画で叩かれてかわいそうな目に遭ったと、私は電力会社に対してかなり同情的です。SEAはできれば個々の事業ではなく、もっと上の段階で導入されることが望ましいと思っています。ただ、この国では、そういう上位の計画の策定に関する体系的仕組みが整っておりませんので、SEA導入といってもそれほど容易でないことも事実です。

今後の長期計画と戦略アセスの方向性

 先ほど屋井先生が長期計画撲滅のような動きがありそれはおかしいとおっしゃいましたが、私はそのご意見に賛成です。長期計画は必要です。ただし柔軟でなければいけないだけであって、ガラっと変わってはいけないが、状況が変われば修正できるという前提のもとで、やはり長期のビジョンがなければいけない。そうでなかったら2050年に80%削減をできるはずがないじゃないですか、当たり前ですよ! と思っています。
 要するに、戦略アセスというものには今回の改正法では本格的には手をつけられていないと思っています。むしろ今後だろうと思いますが、これは一歩だと田島副大臣もおっしゃっています。この一歩を突破しないと先に行けない。矢嶋先生の最後のほうのお話しは全面的に賛成と申し上げたのは、今の国の環境基本計画は環境・経済・社会すべて統合的に向上する持続可能な社会を目指そうと言っているわけです。そのことを考えると、モノ決めに際して効率性だけでなく社会の持続可能性を意識したものでなければいけないと思います。
 そのためには、松岡さんが言われた縦割り行政の問題点もありますし、ミクロの面では私も随契に泣かされておりまして、役所でやるさまざまな研究会は毎年コンサルタントを使って一からやり直しで、私は座長としていつも困っていますのでよくわかります。そういうミクロな面の手直しは、例えば3年プロジェクトで研究するなら3年の予算をつけてくれと言うとか、本当はそういうことをやらなければいけないです。とは言いながら、研究費審査で毎年毎年点数をつけて「あなたの所はBマイナスなので来年も削減する」というやりたくないことをやらされて、皆さんに大変ご迷惑をおかけしています。申し訳ありません。
 今後の方向としては、芽が十分に出ていないですが、長期の視点ときちんとした計画、そこは柔軟である必要があり、法律は大きな方針をガタガタ変えないための役割を持つ、これが基本法です。そのうえで個々の施策はそれに基づいて具体的に考えられていきますので、先ほど小幡先生がおっしゃったように、基本法ができたからと言って世の中がすぐに変わると考えるほうが余りに楽観主義だと思っています。しかし、基本法が一旦できた以上は、基本法の方向性をみんながいかに大事に育てていくかということが大事で、このことがきちんとできることによってたぶん世の中は良くなる、本当に環境・経済・社会の統合的向上かできる持続可能な社会が実現するだろうと思います。
 大変抽象的な言い方ですが、限られた時間ですからこの程度の発言しかできません。お許しください。

屋井:どうもありがとうございました。すでにお約束の時間が過ぎていまして、残念ながら第三ラウンドまでいかないですが、すでにエールも多数頂いておりますので十分といえば十分です.ただ,言い足りないとか、せっかくの機会なのでこの点だけは発言したいというパネリストの方がいらっしゃいましたらここで時間をとりますが、いかがでしょうか。

 (発言なし)
          

 

 実は松岡さんの飛行機の時間も迫っておりますので、そろそろ終わりにしたいと思いますが、最後に私から簡単にレビューをしたいと思います。
 今日は第一・第二ラウンドということで5人のパネリストの方々からお話しをいただいております。非常に多くの観点でいただいておりますが、敢えて一つずつ取り上げさせていただき、キーワード集にしていきたいと思います。全部で10項目なりますが、短い時間で申します。
 一番目は浅野先生から、2050年までに80%削減という長期の目標を、我が国が初めて持てるということで、「長期の目標」の重要性をご指摘いただきました。小幡先生からは公物法の道路の中の改定の可能性についてお話しをいただきましたが、それと同時に、特に法制度が持っている今の手続きの関係で、「住民と行政の両方にとって十分ではない制度」という現状があり、住民だけのためではなく、行政もリスペクトされて満足が得られる仕事をしなければいけないのですが、そうなっていないという問題もご指摘いただきました。
 竹内先生からは、これは言うまでもなく「愛憎渦巻くB/C」、そういう現状をいかに明確に位置づけていくかという問題。今回のセミナーでは、なぜ位置づけられないかということで、一層踏み込む必要性を感じました。松岡さんからは、「エネルギー分野等へ総合力」を発揮すること、そういう分野に土木や国土交通行政はもっと貢献できるというお話をいただきました。久保田先生からは、このままでは「単年度契約」によって「まちづくりの人材」がつぶれてしまうと、こういう問題は一般にはあまり理解されていないが大変重要だというご指摘をいただきました。
 第二ラウンドでは、計画や評価の制度について中心にお話しをいただいたわけですが、松岡さんからは「都市計画法」を取り上げて、この中にエネルギーをいかにうまく活用するかという、そういう概念を入れられないか、そういう方法があるべきだというお話をいただきました。
 久保田先生からは決定のルールについて、アメリカの例も参照していただいたわけですが、「学会が提案するルール」を浸透させていくことができるのではないかというお話をいただきました。竹内先生からは非常に幅広くご提案いただきましたが、「交通基本法」ができてくる中で計画・制度の関係性を深く議論する時期であろうというお話しもいただきました。小幡先生からは、「最高裁の判例」を3つほどご紹介いただき、きちんとしたコメントをいただきながら裁判所がかなり踏み込んできている実態と、それを今の時点でどう正確に理解しておくかについてお話しいただきました。浅野先生からは「SEA」というものが、決して社会資本の整備やその維持・管理と対立するのではなく、まさにそれらを進めるために必要とされるものであり、今回の法制化についてはその第一歩であり、今後、上位計画あるいは政策、法律分野へのSEAの法制化が図られることが重要であるというお話しをいただきました。
 非常に舌足らずなまとめで大変申し訳ありませんが、今日のパネルディスカッションは記録させていただいておりまして、特に外部の先生方からのご意見についてとりまとめさせていただき、後日、小委員会等のホームページ等を使い皆様にフィードバックしていきたいと考えております。司会の不手際もありまして予定時間を15分もオーバーしてしまいましたが、お忙しい中をわざわざご登壇いただきましたパネリストの皆様に敬意を表して、拍手をもってこのディスカッションを終わらせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。(了)
          

 

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