土木学会技術者資格制度の創設について

平成12年10月10日
平成12年10月11日改訂

1.資格制度設立の理念と目的

土木学会は、土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質の向上を図り、もって学術文化の進歩と社会の発展に寄与することを目的とする。(定款第4条)一方,土木技術者は、自己の専門的能力の向上を図るとともに、「美しい国土」、「安全にして安心できる生活」、「豊かな社会」をつくり、改善し、維持するためにその技術を活用し、品位と名誉を重んじ、知徳をもって社会に貢献することを求められている。(土木技術者の倫理規定)本来,土木事業は、それに携わる個々の土木技術者がその能力を活かして技術的判断を下し、良質の社会基盤が国民に提供されるよう成し遂げられるべきものである。
今回、新たに創設する資格制度は、倫理規定を尊重し、専門的能力を有する土木技術者を評価し、これを社会に対し責任を持って明示することを目的とする。これにより、 土木技術者の資質の向上を図り、優れた土木技術者が自信と責任を持って土木事業に貢献でき、これらを通して社会の発展に寄与することを主眼としている。

2. 既存資格制度との関係

土木学会の会員資格(個人)は、土木事業に関し、学識経験ある者または土木工学専門の教育を受け、その業務に従事している者であり、その能力評価は行っていない。ただし、特別会員であるフェローおよび名誉会員については、理事会がその経験および功績の評価を行うこととしている。
技術士制度は、技術的専門知識および応用能力と豊富な経験を有する優れた技術者のための資格認定制度であり、技術者の中から有能な者に技術士の資格を与えることにより、技術者に対する社会の認識と関心を高め、わが国の科学技術の向上、わが国産業の発展を図ることとしている国家資格制度である。国際相互承認を得られる資格として、その制度の見なおしが行われたところである。
その他に、各種学協会、団体が認定する土木事業に関連する資格が、多数存在している。
新たに創設する資格制度の特徴は、技術者倫理を始めとする一般的素養を尊重し、実務での経験を評価することと継続教育との組み合わせで運用し、資格のレベルを設定する点である。また、国際資格との相互承認も念頭に置くものである。これらの多くは、新しい技術士制度において目指すところと重なってはいるが、本資格制度は、土木学会自らが、必要な分野を設定し、技術者の評価基準と評価方法を定め、審査を実施するとともに、必要な場合には、資格を取り消すところまでを責任をもって実施することに意義がある。
したがって、新たに創設する資格制度は、一般に既存の資格と競合するものではない。既存の資格との棲み分けを考えるのではなく、上記目的に照らして、必要な資格を創設することを考えたい。ただし、既存の資格を勘案し、これと組み合わせて資格を認定することは可能である。

3.資格の活用

資格の活用は、本来、その評価方法や認定された技術者の資質を見た後、事業に関わり技術者を活用する者がその判断を下すべきであり、その創設前に資格を認定する土木学会が資格の活用方策を明示することは適当ではない。しかし、その活用方法が資格を取得しようとする技術者側のインセンテイブに大きな影響を及ぼすため、資格活用のイメージを示すこととする。
資格の活用には、企業内での活用と土木事業における活用が考えられる。企業内においては、取得した資格の分野とレベルに応じて、技術者の組織内ポストへの適用や参画する事業への適用をその給与を含めて配慮することが可能である。個々の土木事業においては、その規模や難易度等の特性に応じて、必要な技術者の分野とレベルを発注時に明示し、この要件に見合った技術者を直接活用できる体制をとることが可能となる。予め技術者を登録する制度と組み合わせて活用することも可能である。国際的な土木事業においても、創設される資格を有していることが技術者の活用に有効に機能するような資格制度を考えたい。高く評価・認定された技術者がより積極的に活用される資格制度を目指したい。
また、今回の資格制度を創設にあたっては、学会以外の関係者が入った技術者資格評議会において、その活用方法を含めて審議することとしている。

4.国際資格との関係

WTOをはじめ、技術者の国際的流動性を高めるために、技術者資格の国際相互承認が強く要請されている。
例えば、APEC技術者に必要な条件は、
(1) 認定又は承認された工学教育プログラムの修了、
(2) 自己の判断に基づく業務遂行能力の保有、
(3) 7年以上の実務経験、
(4) 重要なエンジニア業務における責任ある役割を2年以上遂行、
(5) 継続的な能力開発の実施、である。
その他の国際資格においても、必要な年限や教育プログラムの内容に多少の違いが見られるものの、認定又は承認された工学教育プログラムの修了、実務経験、継続教育を有していることを要件とすることは共通している。
新たに創設する資格制度は、これらの国際資格との相互承認も可能となる制度を目指すものであり、認定又は承認された工学教育プログラムの修了、実務経験、継続教育を有していることが要件となる。

5.工学教育およびそのアクレデイテーションとの関係

多くの国際的技術者資格の条件の1つに、認定又は承認された工学教育プログラムの修了が挙げられている。わが国においては、JABEEが工学教育プログラムの審査および認定を実施する予定であり、土木工学の教育プログラムについては、土木学会がこれを支援することが要請されている。
新たに創設する資格制度において、認定又は承認された工学教育プログラムの修了を要件の1つとする。

6.土木学会技術者資格の基本的考え方

以上から、創設する技術者資格の基本的考え方を下記のように提案したい。
(1)土木学会会員の中で希望するものが審査を受けられる。
(2) 資格は4レベルとする。
最低レベルの技術者資格は、全分野共通の資格とする。
最高レベルの技術者資格は、フェロー会員であることを要件のひとつとする。
(3)最低レベル以外の資格については、必要な専門分野を設定できる。
(4) 上位の資格を取るためには下位の資格を有することを条件とする。
ただし、経過措置として、当分の間いずれの資格も取り得る。
したがって、あらかじめ両者に対応する認定方法を定めておく。
(5) 認定又は承認された工学教育プログラム(大学又は大学院)を修了することを資格
要件とする。このことは、外国の資格との相互承認の場合に意味をもつ。
ただし、経過措置として、当分の間これを資格要件としない。
(6)資格審査は、書類、筆記試験、面接の中から適切な組み合わせを選んで行う。
(7)資格の登録期間は5年とし、継続教育成果の証明等によって、登録を継続する。

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