土木学会 平成29年度全国大会 -Japan Society of Civil Engineers 2017Annual Meeting-

基調講演会-会長講演

9月12日 (火) 13:50~14: 35 アクロス福岡 福岡シンフォニーホール

第105代土木学会会長
大石久和 OHISHI Hisakazu
一般社団法人 全日本建設技術協会 会長

学会歴
昭和42年 5月 土木学会入会
平成 6年11月 フェロー会員
平成24年 6月 土木広報アクションプラン小委員会 委員長
平成26年 6月 土木広報戦略委員会 副委員長
平成27年 3月 名誉会員
平成28年 6月 次期会長
平成29年 6月 会長

学歴・職歴
昭和45年 3月 京都大学大学院工学研究科修士課程 修了
昭和45年 4月 建設省入省
平成 5 年 4月 国土庁計画・調整局総合交通課長
平成 7 年 6月 建設省道路局道路環境課長
平成 8 年 7月 建設省大臣官房技術審議官
平成11年 7月 建設省道路局長
平成14年 7月 国土交通省技監
平成16年 7月 財団法人国土技術研究センター理事長
平成25年 6月 一般財団法人国土技術研究センター国土政策研究所長
平成28年 6月 一般社団法人全日本建設技術協会会長

講演題目: 土木の「領域」を再考し、主張ある土木を構築しよう

全国の「土木人」は、学問的な研究をはじめ、行政・教育・調査設計・工事・国土や公物の管理などに至るあらゆる分野で、その水準の向上のために懸命の努力を続けている。

その成果は、多くの人々が負担する税(公債を含む)や料金を原資とする資金で実施される主としてインフラ整備(鉄道・電力などの設備投資を含む)に反映されている。これらは、広い意味で公共が提供する「公共の安全と繁栄」のためのツールとなっている。

ところが先進各国のインフラ投資の経年変化をみると、この20年で半減させてきた国は唯一わが国だけなのである。他のすべての先進国は、イギリスは約3倍、アメリカは約2倍などとインフラ投資を伸ばして来たのである。

つまり、土木における大学の研究成果も民間企業などの努力の結晶も、国民へ還元という意味では年々その量を減少させ、ついには半減した。増加させてきた各国首脳は、「インフラ整備が自国の経済を成長させ、経済競争力を向上させる」と繰り返し述べている。

一方、インフラの整備水準は、インフラ投資が減少したこともあって先進各国と比して貧弱な水準に止まっており、国民の生活安全性や移動効率などは大きく劣後しているのである。こうしたことの影響もあって、わが国は世界のなかで唯一、まったくと言っていいほど経済成長しない国となってしまった。

そこで、ここでのメッセージは、こうした技術の発展の追求だけではない幅の広い土木の全体環境は「われわれが関心を寄せるべき領域である」という認識の獲得である。

国土環境の変化から人々の暮らしを守る

土木を「偉大な自然の営みのなかで人間の活動領域を確保するための知的生産のすべて」と考えると、近年の世界的な「自然・気象の凶暴化」とでもいうべき現象の多発は、かつて構築した「人々の生命財産を守るための土木の活動領域(フロント)」の拡大・再構築をわれわれ土木に突きつけている。
他国に比べその状況がわが国ではより厳しくなっているのは、土木が守るべき人々の高齢化であり地域の壮年人口の減少である。自然が厳しくなる一方で、「助ける人が減り、助けなければならない人が増える」のである。

自助・共助・公助のどれもが厳しい方向に変化しており、今後さらにその傾向が増す。さらに他の先進国では地震が少ないが、わが国では地震が多発しそれも活動期に入ったといわれる厳しさがある。自然と向き合う「フロントの再構築」は喫緊の課題である。

インテリジェントな「国土と公共公物」を形成する

法面は大雨によっても簡単に崩壊しないように対策する必要があるし、橋梁は落下がないように丁寧に管理しなければならない。しかし、崩壊や落下といった万が一の時でも、「人の命は落とさない」ことこそが究極の目標だ。
これを可能とする管理・保全を行うためには、驚異的に発達してきた人工知能とそれに情報を与える状態管理センサーなどの組み合わせが不可欠である。「国土が頭脳を持つ、公共公物が知能を持つ」というインテリジェントな国土と公共公物の環境整備は、不可避な今後の方向であると考える。土木はAIが最も活躍する分野なのである。

土木は他領域のすべての研究成果を最も貪欲に取り込む分野でありたいのである。

主張ある土木を構築する

国土に働きかけ、国土からの恵み(安全に暮らせる国土、効率的に生産・消費ができ、快適に暮らせる持続可能な国土)を得るための領域を土木と考えると、ここに土木としての「公への奉仕という哲学」をもった主張が存在する必然がある。
○「 社会全体のベストパフォーマンスの実現」を目指す他の存在がない状況のもとで…
○ 公共経済学がフランスの土木集団から生まれたように…
○ 土地を利用することで成り立つ土木が、土地に関する諸制度や国民の土地所有意識に無関心であってはならないように…