東海豪雨災害 土木学会調査団 

第一回視察(平成12年10月3日)報告

視察参加者: 計10名


視察の概要

 第1回目の合同調査においては,名古屋市周辺,特に庄内川・新川水系および天白川水系における災害中でも,河川災害・都市型の水害の側面を中心にして視察を行った.現地の案内は主に建設省中部地方建設局河川部河川管理課長境道男氏,同地建庄内川工事事務所副所長 川坂敏博氏にお願いし,愛知県河川課ならびに名古屋市下水道局には現地にて,災害の概況及び当時の状況を含め,情報提供いただいた.

行 程

1−1.野並ポンプ所
1−2.天白川
2.庄内川・一色大橋(越水現場)
3.庄内川・万場堤防(基盤漏水)
4.西枇杷島周辺
5.新川破堤地点
6.新川洗堰
7.矢田川・成願寺堤防(法面崩壊)
8.矢田川・名鉄橋梁(橋脚周辺洗掘)

災害の概況

 愛知県を中心として台風14号および秋雨前線の影響により,9月11日から12日にかけて集中豪雨に見舞われ,特に名古屋市を始めとする尾張東部では総雨量500mmを超える観測史上最大の雨量を記録した.名古屋地方気象台では総雨量567mm,時間雨量93mmという豪雨を記録した.
 そのため,県内の河川では軒並み水防警報が発令され,建設省管理の庄内川や愛知県管理の新川・天白川では,計画高水位を超える過去最高の水位を記録した. 庄内川の枇杷島地点(河口から約15km)では,12日4時に過去の最高水位7.54mを,2m近く上回る9.36mを記録し,計画高水位=9.08mを約30cm超過した.また,春日井市でも総降雨量445mmを記録し,このため庄内川支川八田川で,計画高水位=5.92mを2回超過した.さらに,庄内川支川新川の久地野地点では,12日の3時に過去の最高水位6.60mを上回る7.32mを記録した.その下流にあたる16km付近(名古屋市西区地内)で左岸堤防が破堤し,氾濫面積5km2,浸水家屋は6000棟にもおよぶ大きな被害が出た.その他,名古屋市を始め広い範囲で浸水被害等が発生した.
 9月11日からの豪雨による県内の被害の状況は人的被害として,死者6名,負傷者88名,建物被害として全壊15棟,半壊56棟,一部損壊167棟,床上浸水26,531棟,床下浸水38879棟であり,昭和34年の伊勢湾台風以来の大規模な浸水被害となった.さらに,道路の損壊・冠水・河川の破堤,がけ崩れ,農地の流出・埋没・冠水,鉄道等の不通,電気・ガスの供給停止など,その被害は甚大であった.
 公共土木施設被害としては,河川722件,道路521件,その他262件合計1,505件その被害額229億円(以上9月26日現在,愛知県まとめ)である.  県,地元市町村,関係機関,ボランティアなどの参加も含め,関係者が復旧作業に取組んだ.
 

1.野並ポンプ所・天白川

1−1 野並ポンプ所
 野並ポンプ所所長・高麗氏(名古屋市)より,ポンプ所の概要と当時の運用や周辺の状況の経過説明を受けた.
 当ポンプ所は,都市域の排水を目的とし,集水域は頻繁に冠水被害が起きている(平成3年の豪雨(計画以上の降雨)において周辺道路において70cm程冠水).
 平成11年5月に運用開始された.当時,周辺住民にも説明の会が持たれ,その際には50mm/h(名古屋市の計画降雨)の雨に耐えられる設計である点が説明されたが,それについて住民が理解できたのかという点と,完成・運用によって浸水被害から解放されるという誤解があったのではないか,ということが危惧されている.
 当ポンプ所は,常時無人で,遠方監視および遠方操作によって運用されている.また,一つの部局が複数のポンプ所(4,5カ所)を管理しており,統合的であるとはいえ,異常な豪雨時の即時的な対応を迫らせた際にそれぞれのポンプ所すべてを管理するのは大変な状況にある.
経過の概要:
 降雨状況:雨量記録(名古屋市土木事務所天白川改修出張所)によると,9月11日の18時から3時間の間に65mm/hr以上の激しい豪雨(計画は50mm/hr)となり,計画規模を大きく上回り,18時過ぎに全5台のポンプが作動開始した.18時から流入渠の水位が急上昇し,全ポンプ作動していたが20時台には流入渠側水位はすでに周辺地盤高(道路)を超えた.その後も翌日12日の5時までの間に10mm/hrから55.5mm/hrの降雨が続き,7時までに止んだが, 12日の午前に最大冠水位は周辺地盤高から2.4mとなり,周辺地域の住居の1階は水没するに至った.
 ポンプ所の主要施設はこれによる冠水に至らなかったものの,ポンプに供給する外部燃料タンク上部の燃料供給ポンプ(地盤高から1.8m,平成3年の豪雨時冠水位より約1m高い)の冠水により,12日午前2時前に停止した.即時にポンプ一台を遠隔停止し,燃料の節約のためさらに3台を3:41に遠方停止し,一台のみの作動となった.その後,ボートと燃料の手配を行っていたが現場に職員がボートで9:30頃に到着,燃料供給ポンプを現場にて手動で強制運転する事に成功したため,13日10時過ぎには全ポンプの運転を再開した.排水には長時間を要し,冠水位が道路地盤高を下回ったのが翌13日の6:30,全ポンプ停止は同10:30頃となった.

 この視察において次の事がわかった.(1)今回の豪雨は,計画大きく上回る降雨強度であり,ポンプの排水能力を大きく超えた流入量により,周辺が冠水するに至った. (2)ポンプ停止の原因は燃料供給ポンプが他主要施設よりやや低い位置にあり,冠水により停止したが,この高さは計画降雨超えた平成3年冠水位より1m高く,燃料タンクの設置位置について(タンクローリーの接近の制約上,傾斜の大きなスロープにできない)等の制約条件も考え併せて決められており,計画を超えた事態を想定下の余裕をどう考えるかという問題となっている,(3)説明会を開いて50mm/hrという計画に対応できるように設計されている,という事を住民がどのように理解できるのか,という問題があり,今回の豪雨のような計画を大きく上回る規模には対応しきれないということが,どのように説明されるべきなのか,という課題がある.

附随する情報(名古屋市)
 この集水域の境界を流れる郷下川が,11日9時頃に氾濫し,藤川との合流点付近にある地下鉄野並駅の出口から冠水した水が流入した.4つある出口の一つ(自転車駐輪場が管理)では止水板が立てられず,大量の水が流入し,他の2つの出口でも止水板を越水して流入した.野並駅に設置されている排水ポンプ2機(各1.2m3/sの排水能力)を起動させたが,推定で4,440m3が流入し,駅内部では地下鉄レール面より2mの高さまで冠水したとみられている.


 

1−2.天白川(2級河川,愛知県管理) (7.5km付近,野並ポンプ所隣)

愛知県河川工事事務所より,天白川の河川整備状況および昨洪水時の経過について説明を受けた.

河川整備の概況: 天白川は将来計画は1/100の計画(河口で1,700m3/s)を持っているが,暫定計画として1/5(河口で1,000m3/s)で現在進行している.これに対して,河口より4kmまでは完了しており,現在10.7km(植田川合流点)までの工事を実施している.8kmまでについては引き堤を行う予定.上流域の都市化が進み,現在では1時間程度の洪水の遅れとなっている.

本洪水の経過: 流域での11,12日の2日雨量は,植田川,日進ともに500mmを超え,時間雨量も午後7時以降60mm/hrを超える雨を2時間から3時間記録された.天白水位観測点(計画高水位T.P.+8.66m)では20時過ぎに計画高水位を超え,21:40頃に最高水位(T.P.+9.97m)となり,約10時間,計画高水位を超過した.この地点は,引き堤等の事業を行っている区間である.野並地点では天端まで数10cmの余裕があったものの,20:30分頃,下流の6.0-6.2km付近(引堤予定区域)での越水があった.
 


2.庄内川・一色大橋(越水現場)
 

 庄内川工事事務所の説明を受けながら,庄内川下之一色地点(国道一号線)4.4k付近右岸の河川整備状況および昨洪水時の経過について視察した.
現況の概略: 
 庄内川4.4kmでの計画高水位はT.P.4.7mであるが,現況天端高は左岸がT.P.+4.51m,越水した右岸が4.27mとなっている.右岸堤は,一色大橋下流において堤体断面拡幅をほぼ終了している.現在は50cm程度のパラペット壁を持っているが,対岸より20cm以上低い.計画高水位は現在の一色大橋(国道一号)の桁下面とほぼ同じ高さであり,架け替えが計画されている.
 
洪水時の経緯: 
 庄内川は春日井(総降雨量512mm)付近を中心とした降雨に伴う出水により,枇杷島地点(15km)にて12日2時過ぎから7時頃まで計画高水位を超過した.下之一色においては,同日4:30頃から右岸4.4km付近にて越水が始まり,約200mにわたって最大約30cmほどの水深でパラペット壁上を同日6:30頃まで越水した.水防活動によって,パラペット壁上に土嚢積みされ,その後まもなく越水は止められた.堤防上は道路となっているが,不法駐車や違法廃棄車両がパラペット壁際にあり,水防活動の妨げとなっていた.越水した水は,主に付近の坂路を流れ下り,約190戸の浸水被害(4戸が床上)となった.裏のり面の崩落は起こらなかった.また,最高水位時には一色大橋の桁下端が水面に付く状況となり,通行止めとなった.また,流下するゴミが溜まり,洪水後も河道内に残されている.

3.庄内川・万場堤防(8km付近右岸,基盤漏水) 
 

 万場大橋下流8.2km付近の500m程度の区間における,堤防の浸透水の噴出について,建設省庄内川工事事務所の説明の下で視察を行った.
 枇杷島地点では,9月12日に7時間程度計画高水位を上回っていた中で,当該区間において堤防裏法面下端付近での噴水が見られた.堤防単体の整備はほぼ終わっており,下端付近の堤体内部には排水ドレーン(暗渠)が埋設されており,法面下端は堤脚保護工(ブロック)および,道路側溝ブロックで固められている.噴水はこれらブロックの境界において起きており,一部は噴砂した.視察当時には,一部にごく少量の噴水が見られた.当時は小規模な釜段工を組んで対応をしている.
 暗渠があるのにさらに堤内地側から噴水していることから,この噴水は基盤漏水とみられ,工事事務所ではその対策として堤外側に遮水鋼矢板を深く打ち込むことで対応するとしている.

4.西枇杷島周辺(車内より視察)
 

 県道67号線を中心に,西枇杷島町の当時の状況について説明を受けた.町役場をはじめ,町の面積の6割以上が冠水となり,この県道付近は1.5m以上の冠水となった.また,災害ゴミの撤去が視察時には終了しており,店舗等の大半がすでに再開している状況であった.

5.新川破堤地点(左岸,合流点より16km付近)
 

 愛知県河川工事事務所の説明を受けた.破堤地点は,12日3:30頃と推定されている.破堤幅は100m程度であり,堤防の仮復旧作業は14日深夜まで続いた.主に岐阜県と三重県から100台以上のダンプによって土砂(ズリ)が仮復旧用土砂として輸送されたが,冠水域が広域となったことから道路のアクセスが難しかった.視察時は破堤原因解明のための堤体コアボーリング調査を行っている最中であった.この時点では直接の破壊形態については不明であったが,県は堤防強化緊急検討委員会を立ち上げ,原因解明と県内の河川堤防強化対策に関する検討を行っている.
 当時,11日の19時台には破堤地点(対岸は水場川ポンプ所,水位計あり)での水位が計画高水位を超え,約8時間経過した翌3:30頃に破堤したとみられる.周辺氾濫域での水深は2m以上となるところもあった.氾濫域の排水は,堤防仮復旧が進んだ時点で建設省の排水ポンプ車氾濫区域の排水は14日早朝に概ね完了した.
 
 


6.新川洗堰(庄内川19.4km付近右岸)
 

 洗堰の越流水深は最大2.5m程度となり,流量は最大270m3/s程度と推定されている.また,越流部の床止めブロックおよび隣接する道路が,内部土砂の吸い出し等により一部破壊した.
 

7.矢田川・成願寺堤防(矢田川左岸2.2km,法面崩壊)
 

 中部地建の説明の下で,成願寺地先における矢田川堤防の法面すべり崩壊を視察した.当該地点の崩落は堤防道路路肩においてガードレールを固定する埋設コンクリート塊が法面側に傾斜したことをきっかけとして,路肩付近への道路排水の集中等により路肩が崩れやすくなり,すべりのきっかけとなったと見られる.法面勾配は1:2程度である.この他の地点においても多数の法面崩壊が起きており,道路排水の集中がそのきっかけとなっているとみられることから,路肩付近の天端からの浸透を避ける方法や排水路敷設等によって回避することを検討している.
 

8.矢田川・名鉄橋梁(6.4km付近,橋脚周辺洗掘)
 

 高水敷上の土盛り部分(コンクリートで被覆されていない部分)にある橋脚周辺が,洗掘された現場を視察した.これまでに庄内川工事事務所は,高水敷きの橋梁下の部分はコンクリート等で被覆するよう,指導しているとの事であるが,当該橋梁はそのようにはなっていなかった.