■ 土木学会第113代会長 会長就任挨拶
2025年6月13日
「課題解決先進国」を目指して ─土木の力で未来を拓く─
第113代土木学会会長に就任した池内です。古市公威初代会長をはじめ、歴代会長が築いてこられた系譜に連なることを大変光栄に感じるとともに、その重責を担うことになり、身の引き締まる思いをしております。
私が土木の道を志したきっかけは、中学生の頃に内村鑑三の『後世への最大遺物』を読んだことでした。とりわけ「われわれの生まれたときよりもこの日本を少しなりともよくして逝きたい」「一つの土木事業を遺すことは、(中略)永遠の喜びと富とを後世に遺すことではないか」という一節は、胸に深く刻まれ、今も私の志の原点となっています。
現在、私たちの社会は、かつて「課題先進国」と呼ばれた段階を既に超え、少子高齢化・人口減少、インフラの老朽化、気候変動に伴う災害の激甚化・頻発化などの複数の構造的課題が同時に進行する時代に入っています。これらの課題は、社会の持続可能性そのものを揺るがすものであり、私たちに制度、技術、価値観の「再構築」を迫っています。
しかし、見方を変えれば、これらの課題を乗り越えることによって、日本は「課題解決先進国」として、世界に先駆けて持続可能な社会像を提示できるはずです。
そのためには、従来の枠にとらわれない新たな取組が必要です。自然科学と社会科学の知見を融合し、分野横断的な連携を図る総合的なアプローチが求められています。土木分野はもともと多様な関係者と協働しながら社会基盤を支えてきた領域であり、こうした課題解決において重要な役割を果たせると考えています。
土木学会としても、このような総合力を発揮できる人材の育成や、多様な専門家が自由闊達に意見を交わすことができる場づくりをさらに進めていく必要があります。異なる立場や視点が交差することで、実効性のある解決策が見いだされ、学術と実務の橋渡しも可能となります。学会がこのような機能を果たすことの重要性は、今後ますます高まっていくものと考えています。
私はこれまで、気候変動に伴う災害の激甚化・頻発化に対する「適応策」に取り組んでまいりましたが、今後は、会長プロジェクトとして、気候変動の「緩和策」にも取り組んでいきたいと考えています。
既に、まちづくりや交通、水管理、インフラ整備などの分野において、各主体による取組が進められていますが、現状ではそれぞれの取組が個別に展開されており、全体像を体系的に把握することが難しい状況にあります。
こうした取組の構造を俯瞰し、体系的に整理するとともに、緩和策をより効果的に進めていくために、障壁となっている事柄を明らかにし、その克服に向けた方策についても、学会として積極的に議論し、発信していくことを目指します。 土木の力で社会の未来を切り拓くべく、学会がその先導役となれるよう、皆さまとともに歩んでまいりたいと考えています。どうぞよろしくお願い申し上げます。