土木学会誌12月号モニター回答
海底浚渫土の高盛立処分技術の開発

 港湾工事に伴って発生する浚渫土を有効に利用する事例の一つとして興味深く拝見した。ところで、日本の海岸は年間160haの割合で侵食が進んでいるとの報告がある。海岸侵食が進行すると、海水浴や景観などと関わりの深い砂浜が失われるばかりでなく、波の打ち上げ高が増大したり、しぶきによって背後が塩害にさらされたりと複合的な弊害が生じる場合が少なくない。このように海岸が侵食して困っている場所もあれば、逆に砂が堆積して困っている場所もある。いわゆる、航路埋没や河口閉塞などである。侵食量・堆積量をトータルでみれば侵食しているわけだから、堆積した土砂は侵食している場所へ還元するのが最も適切であると思う。最近では海岸法が改正されたこともあってサンドバイパスやサンドリサイクルなどの事例が増え、望ましい方向に進んでいると感じる。浚渫土を汚いもの、邪魔なものと捉えて安易に処分するのではなく、この事例のように関係者各位が貴重な資源という認識を持つことが何よりも重要であると考える。リサイクル率100%の達成は、広域的な観点からの需要に関するデータベース化、法的な規制緩和、技術開発などによって実現可能であると確信する。
(五洋建設(株)水流正人)

 海岸地域の開発に当たっては、大量の海底浚渫土が発生する割合が高く処理方法に問題がでてくる。この度の高盛立処分技術の開発は、環境に対しても影響が少なく盛土材としての利用も可能であり、多様な利用が考えられる。陸上でも発生する残土処理の技術開発にも大いに役立つものと思います。
(愛媛大学工学部 二神 治)

 強度に乏しくそれ故に陸上利用の難しかった浚渫土の用途を広げたということで価値の高い技術であると思います。ただ幾つか説明が判りにくいところが目に付きました。例えば強度管理方法の項で、ゾーンごとの設計一軸圧縮強度を下回る確率5%以下となるよう管理し、結果として強度の変動係数を20%まで抑えられたという部分では、うまく文脈をたどれませんでした。この部分は、循環型社会の形成を図っていく中で、この技術同様に扱いにくい不要物を用いてリサイクルの用途を探る場合、出来上がったものの品質管理に極めて重要な要素だと思います。せっかくの発表の機会なのですから、一方のリーダー的業界でもある基幹産業の技術紹介が、業界の枠を超えて広く社会の啓発なり刺激になるよう活用すべきだと思います。
(伊戸川環境総合企画 伊戸川善郎)

 土質,材料,環境が関連する壮大なスケールの建設プロジェクトに関する記事であった。浚渫土に加えて基礎掘削残土の処理も加わり,盛立計画の検討では大変な苦労があったに違いない。土を扱う際には,常に物性のばらつきが問題となり,評価を困難にさせるわけであるが,適切な強度管理技術を確立し盛土体の安定性を確保できたことは,技術者の方々の誇りであろう。
今回の記事は,大きなプロジェクトを支えるのが,土質,材料,環境に関する基礎的な知識と試験技術であることを痛切に感じさせるものであった。私のような若手技術者が,技術的な検討に積極的に参画できるよう,基礎的な事項を一つ一つ自分のものにしていくよう常に努めていきたい。
(大成建設技術研究所 石井裕泰)

 港湾工事で発生する浚渫土を、陸上の高盛立材として利用することにより、海洋負荷をゼロにしたことは、大いなる進展だと感じました。特に軟弱な海底浚渫土をただ単に強度をつけて盛立てるだけでなく、環境や安全にも十分に配慮をしている点が目を引きました。また、記事を読み進む中で、この技術開発がかなり難しいものであったかを感じとることができました。今後、この技術が多方面に応用され、さらにミチゲーションが生かされ、さまざまな用途への利用が可能な造成地が、たくさん産み出されることになれば良いと思っています。
(熊谷組土木部 道村未佳)

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