土木学会誌12月号モニター回答

住民参加の川づくり

 近自然型の川づくりといった環境・景観に配慮した河川工法の考え方が,日本においては行政ではなく住民の側から始まったことにまず驚いた.この町では,住民主体の「町づくりシンポの会」の活発な活動が行政への大きな働きかけの中心となっている.この例のように,住民側が公共事業に参画して行くにはかなりの努力と熱意が必要と想像されるが,住民の活動への行政の迅速な対応も見逃してはならないと思う.すなわち,ある公共事業を成功させるためには,当然のことながら,住民と行政間の十分な相互理解が必要であると考える.そう考えると,従来どおりの行政側からの公共事業の提案に対する環境的な面からの住民側の反対運動という図式ではなく,今後は環境・景観を考慮した公共事業を行政側が提案し,その公共事業の実施に向けて住民側の積極的な参加を要請するような方策が強く求められてくることも必然であろう.
(運輸省港湾技術研究所 米山治男)

 肱川水系小田川の住民参加の川づくりについては、近くに住んでいたこともあり、以前から気に留ていたので興味を持って読んだ。参考になった。
(松江高専 裏戸 勉)

 小田川護岸工事における住民参加の事例は、あるべき姿の原点であるように思う。運動のきっかけは、当初計画の護岸仕上げ(コンクリートブロック)が味気ないと指摘したところ、県側より「金が無い」と言われたため、住民が漬物石を提供して護岸として用いることになったということであるが、全般にわたって、通常の事例よりも住民と事業者側が相互に歩み寄ってよい結果を導いたという感想を持った。
 通常の場合では、事業者側は本音を出さず、住民をなだめるといった観点で代替案を用意し説明する、という方法が取られる場合が多いだろう。小田川の事例のように、腹を見せ合って協力して最適解を求めていく、という姿勢は素晴らしい。
 事業者は事業完了後現場を離れるが、住民は竣功物件と長期に亘って付き合っていく。今回の活動に参加した方々は、誇りと親しみを持って護岸を見守っていかれることと思う。素人である住民が理解してアイデアを出し、未来に亘って誇れるような構造物を事業者と一緒に創り出す、という今回のような事例があることを大変嬉しく思った。
(JR東日本建設工事部 川瀬千佳)

 公共事業は住民のニーズに応えるために行うものであり、事業を進めるには住民が参加することが理想である。しかし、実際に住民の意見を聞くと住民からあまり建設的な意見がでず、結局行政による強制的な事業推進が行われ、その結果行政が批判を浴びることが多い。
 本稿は行政とは逆に住民の立場にたった記事であり、住民の積極的かつ建設的な動きを述べている点に興味を感じた。河川改修に際し、「お金がない」とする県に対し、住民自らが寄付金を募り資金を提供した点、石積護岸にするため石を集めた点、スイスに自然護岸を学びにいった点など町全体の意識の盛り上がりがどのように成されたのか詳しく知りたいと感じた。
 私はいつも本学会誌を土木に携わる者としての観点から読んでいたが、本稿に関しては一人の住民としての視点から自分の住む町、自分の役割を考えながら読むことができた。本稿のような記事は、一般の人々の公共事業に対する意識を高めてもらうだけでなく、土木学会の活動への関心を持ってもらうためにも他の雑誌に寄稿してもらいたいと思う。
(鹿島建設 高村 尚)

 本記事における亀岡氏の話の中からは、住民参加一般における多数の示唆がちりばめられていたように思える。一つは住民の「参画(参加を越えた意味で)」がったこと、2つ目は「あそび」が住民参加型の計画を成功させていること、3つ目は住民感情から「住民知識」への発展がみられたこと、最後に住民参画を受け入れる側としての「行政」への適切な批判である。
 特に、コンクリート護岸が「味気ない」という住民の「感情」から、「多自然型工法」としての体系の「知識」として発展していったプロセスに興味を覚えた。街づくりという「住民」のステージの中での「専門家」としての関わり方については、近年様々な議論があげられており、その中の一つとして、この様な「感情」を「知識」としてまとめ、実行していく「情熱」にフィードバックしていく役割があるのではないかと感じる。
(都市計画設計研究所 平井一歩)

 近年、懸案となっているパブリック・インプルブメント実施例の生の声として良く状況が把握できます。様々な利害関係が存在している関係から、小田川のように川を自らのかけがえのない住環境として位置付け、自然環境改善に向けて住民の合意行動が形成されるケースはあまり耳にしません。小田川のケースについても裏の苦労が伺われます。近自然河川工法は、自然愛好関係筋では大変評価されており、今後、様々な河川改修工事での普及が望まれております。力学に傾注した現河川計画方法と異なり、まず河川周辺の動植物の生態保護を観点に河川計画が立てられます。住民が心より自慢できる河川環境を構築し、豊かな住環境創造のために、本工法が数多く検討されるように望みます。
 また、河川における漁協事業についても、近年、パブリック・インプルブメントの動きが活発であり、淡水魚の乱獲を抑制するキャッチ・アンド・リリース等の導入なども全国の河川で試験導入されております。様々な側面からの取り組みが、住民合意形成の大きな力に繋がっていくのではないでしょうか。
(新日本製鐵 石田宗弘)

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