研究討論会

21世紀のシビルエンジニアリングを考える

―土木技術者の未来を語ろう―

伊藤喜栄

Yoshishige ITO

フェロー会員 土木施工研究委員会委員長(大成建設梶j

 


はじめに

 わが国の社会資本整備をこれまで担ってきた建設業界は,バブル崩壊とその後の低成長期を迎え,高コストや談合問題など厳しい批判にさらされている.さらに経営環境の変革や工事量の減少に対処するため,今後の土木のあるべき方向を真剣に考えていかなければならない時期にある.建設業を構成する各土木技術者も元気を失っている傾向にあり,うつむき加減になっているという見方もある.これらの状況に対して,本当に土木技術者の現在・未来が悲観的なものであるのかどうか,土木技術者がどのように倫理や技術を確立すべきか,また将来の方向として何かを見出せればと考えこの研究討論会を開催した.今回は外部から土木を歴史的に見ておられる田村喜子氏(作家,「京都インクライン物語」で第一回土木学会著作賞受賞),松平定知氏(日本放送協会,NHKスペシャル「テクノパワー」放映)のお二人を迎え,話題を提供して頂くこととした.

 

話題提供の概要

【田村喜子氏(作家)】

 土木技術者「田辺朔郎」が琵琶湖疏水を造った話を京都インクライン物語に書いた.田辺は北海道の鉄道建設にもかかわっていてその話は「北海道浪漫鉄道」に書いてある.使命感に燃え,土木のロマンを持った男であった.取材で現場の土木技術者に話を聞く機会を持ったが,ものを造る数多くの人々の一人一人が建設に携わる自覚と誇りを持っている.完成後はだれが造ったかの記録もなく,市民にとって空気のようなものにしか感じないものであっても,その基礎を造り,人のために尽くす土木の心を持っている.うつむく必要はない.堂々と胸をはって土木のロマンを持ち続けてほしい.

松平定知氏(日本放送協会)

 皆様の助力を得てテクノパワーを作ることができた.平均13%前後の視聴率であり,この種の番組では歴史に残るものとなった.土木の素晴らしい技術力がCGの表現と相まって共感を得たものと思う.現在の建設は確かに順風ではないだろうが,元気を出してほしい.神戸大地震の復旧のように力をあわせれば素晴らしい活動ができる.田村さんが土木の応援団長ならば私は副団長を勤めたい.

 

質疑応答

 お二人の話題を受け,フロアーの人達に挙手でアンケートを取った.「土木に誇りを持っている」が大部分,「社会から

研究討論会の状況

 

好意的に見られていない,理解してもらえない」が2/3程度であった.またフロアーから計7名の方に質問を頂き,これに対して次の回答を得た.

【松平定知氏】

社会に土木を理解してもらうには努力が必要である.新聞,テレビなどを通じて積極的に土木をPRすべきである.「私たちは機能だけではないこのような街をつくります」という意見広告でも良い.プラス志向の土木プロパガンダをアグレッシブに展開し社会に発信してゆくべきだと思う.

【田村喜子氏】

 PRは全国版にこだわらず,地元あるいは地域から育てていって土木を理解してもらうことが必要だろう.どのようなことをすれば立派な技術者になれるかというご質問に対しては,素養を積むこととお答えしたい.田辺朔郎には技術だけでなく素養があった.素養は人間性の中に持っていなければならないものであり,尊敬できる技術者を決めて,その生き方を学ぶことをお勧めする.

 

まとめ

 300名が入れる大教室であったが,立ち見も出るほどの盛況であり,これからの土木技術者のあり方について非常に関心が持たれていることが読み取れた.講演者から現今の社会環境に悲観せず,土木のロマン,土木技術者の誇りを持ち続けよという力強い言葉を頂いた.また自分から積極的に発信せよ,素養を積んでより大きな技術者になれ,という貴重なアドバイスもあった.研究討論会の話題が21世紀の土木技術者の未来に何らかの形で役立てば幸いである.