黒目川の川づくり

所在地:埼玉県朝霞市溝沼 地図
事業者:埼玉県新河岸川総合治水事務所(施工時)
      現 埼玉県朝霞県土整備事務所

 

受賞者

氏名
所属(当時)
役割
穴吹一彦 セントラルコンサルタント(株)水工港湾部主任技師 ・デザイン案の作成
島谷幸宏 国土交通省土木研究所河川環境室長 ・改修計画策定委員会委員長
・デザインの総合監修
篠塚正行 埼玉県新河岸川総合治水事務所長 ・地域と連携した事業実現に向けた関係者間の調整
矢野義雄 セントラルコンサルタント(株)水工港湾部部長 ・多自然型伝統工法を生かしたデザインの提案
小野寺敬 セントラルコンサルタント(株)計画部副技師長 ・市民参加によるデザイン検討体制実現に向けた調整
黒目川流域川づくり懇談会 ・住民参加による計画づくりの提案
・利用面・環境面からのデザイン案の提案
黒目川に親しむ会 ・施工段階における三者協議(市民・行政・施工会社)での提案、工事説明会への協力
埼玉県新河岸川総合治水事務所
(現・埼玉県朝霞県土整備事務所)
・地域と連携したプロジェクトの実現
・施工中・施工後のモニタリングと次工事への反映
朝霞市 ・黒目川改修計画策定委員会設置に向けた幅広い関係団体の連絡・調整

 

講評
 河岸段丘上にある北朝霞の駅を出て、坂道をくだってゆくとやがて緑ゆたかな河川敷に出る。川に沿って上流に向かうと、草叢からはトノサマバッタがつぎつぎに飛び上がり、わたしを迎えてくれた。川のなかにはアオサギとコサギが優雅な姿を見せてくれる。桜並木だけでなく、わずかに残ったヤナギやサワグルミもうれしい。それに、川にかかったいくつもの橋の上から川面を覗き込んでいる人をたくさん見た。
 川辺に立ち、段丘面に並び立つ企業のビルやマンション群を見ると、開発の進む東京郊外で「よくも残ったふるさとの川」という印象をもった。だが、これは正しくない実感であるとも思える。というのは、黒目川は、「残った川」ではなく、「残した川」だからである。治水と環境とを両立させながら、市民参加の議論のなかで、これだけのすばらしい空間を残した。ゆるやかな蛇行を大切にし、人々が歩きながら、変化する川の表情を楽しむよう、いくつもの努力がさりげなく風景のなかに埋め込まれていた。(桑子)

 一言で言えば、整備前後の違いが分かりにくい工事である。工事目的は、治水上の河積の拡大にあるが、固定されていた低水路の河床幅を広くし、流れを自由にした。そのことで淵や瀬、寄り洲等の発達とそこに自然に植生が形成されることになった。従来の工法では河床高をそのままにし、川幅を広くすることで河積の拡大をめざすが、現況河道を一律に掘り下げることで既存の河畔植栽を保全している。全般に過去の土木工事の痕跡を修復しているようであり、新たな工事にあたっても従来の技術基準より裁量を多くし、デザインされていると思われる。川や山地など自然景観の豊かな地形では、工事や人為の痕跡を少なくする技術が求められるが、本事例は過去の工事を修復し、さらに流れに川をデザインさせるという発想が評価の一つのポイントと考える。(山道)