受賞作品/関係者リスト


 序 文
amano

 

 

風景づくりを担う技術者たちよ

 

天野 光一 土木学会景観・デザイン委員会委員長
日本大学 理工学部社会交通工学科 教授
 本年はデザイン賞の授賞を始めて11年目となる。昨年度は10周年を記念して、その間にデザイン賞を受賞した作品について「風景をつくる土木デザイン フォトコンテスト」を開催した。その結果は土木学会景観・デザイン委員会のホームページで公開しているが、土木技術者以外の様々な方からも応募があった。応募作品や入選作品を見ると、土木デザインに関わる者が考えるのとは若干異なる視点の写真も多数見られ、我々が優れたデザインとして授賞し世に問うた作品が我々の思った通りにまたそれを超えて徐々に受け入れられていることを感じた。昨年のデザイン賞作品選集に、デザイン賞は我が国の風景づくりの道標であると書かせていただいたが、土木技術者だけでなく一般の方々にも認識されているということは、まさに「道標」としての役割を多少なりとも担うことができているものと胸をなでおろし、かつ意を強くしているところである。
 しかし、我々の眼前には大きな命題が提示されている。いうまでもなく、2011年3月11日に発生した東日本大震災に関わる問題である。我々は幾度となく洪水や地震等の災害後の風景は見てきた。しかし、震災後各所で「古今未曾有」という言葉を見るが、まさにいまだかって経験したことのない被災の風景が、それも信じられないほど大規模に広域に展開している。被災地の悲惨な風景を見るにつけ、風景づくりを担う技術者として何をどのように発信していけばよいか、自問自答を繰り返している。もう一度地元の方々が私のまちだと胸を張れる風景を取り戻すこと、日本国民にとって後ろ指さされない風景を実現することが重要であると考えるが、安全、安心第一だというような声も聞こえてきそうである。景観法にもあるように、美しい景観は国民共通の資産であり、安全、安心ならば風景はどうでもよいとまでは誰も言わないと思いたい。今回の被災地の復興については、景観・デザイン委員会の委員長としてではなく、個人の責任として批判を覚悟で、ある程度の安心、安全を確保しつつ、風景の再生をすべきであり、更には今回の災害を契機として新たな風景の創造にも挑戦してほしいと主張しておきたい。
 我々風景を担う技術者は今何を考えるべきであろうか。高度成長期の一部の計画・設計のように経済重視で景観、風景やデザインが二の次であったように、この災害を契機として、安心、安全重視で、風景が二の次になることは、断じて避けなければならない。
 我が国の風景、景観に関わる展望を示すことはそれ自体簡単なことではなく、復興計画の中で、もしくは災害を想定した中で風景に対する展望を語ることは更に難しい。もちろん、風景に対する展望を語らなくてよいわけではないが、まずは良い「デザイン」を粛々と実現させていくことが重要であると考える。
 復興に関わる様々な仕事で多忙であることは重々承知であるが、このデザイン賞の受賞に触れた技術者の方々におかれては、自身はもちろん周辺の方々にもお話しいただいて良い「デザイン」の作品を是非応募していただきたい。多数の良いデザインの作品を紹介していくことがまずは良い風景を実現していくための一歩であり、その事実を認識しながら議論していくことは、安心、安全を重視せざるを得ない復興の中での風景の在り方、また、必ずや安心、安全を強調されるであろう今後の様々な空間や構造物のデザインを考える際の風景の展望の議論に結びつくものだと信じる。
 今こそ、風景づくりを担う技術者が、自身の倫理観、プライドを確立し、「デザイン」という行為を通じて、我が国民が誇りうる風景を作り上げていかねばならない時期だと考える。
 総 評
kitamura

 

 

選考を終えて

 

北村眞一(山梨大学教授)
景観・デザイン委員会 デザイン賞選考小委員会委員長
 選考を終えて思うところをいくつか述べてみたい。
 本年は13件に加え先行応募の1件を加え14件が選考対象になった。昨年の選考対象が31件であり、本年はその半数であった。応募時期が6月であることもあり3月の震災の多大な影響が見込まれ、応募期間を若干延長したが、応募件数が下回ったものと思われる。逆に言えば昨年の半数が応募していただけたことは、努力していただいた皆様のおかげと感謝しなければならない。
 14件の内訳は橋梁4件、河川・水辺6件、企業緑地1件、駅前広場1件、屋上緑化1件、柵等1件であった。応募作品の内訳は例年の傾向と特に変わるものではなかった。そのうち優秀賞4件、奨励賞2件が受賞となり、最優秀賞や特別賞は選ばれなかった。いずれの優秀賞もこれは優れているというものがあり、力作であった。奨励賞作品は、全体や細部のコンセプトのつめが弱いように感じた。
 また民間の施設に関しては、「公共性」の概念から入場がどの程度可能か、外部から可視が可能かまたその程度はどのくらいかなどの点から吟味し、審査及び受賞対象として問題はないことを確認した。
 優秀賞の作品を個別に見ていくとしよう。
 「はまみらいウオーク」の橋は、同様のグループのデザインで川崎ミューザ・デッキ(2010年優秀賞)のスタイルと類似しているが、細部のおさまりが良く、全体のコーディネイトが優れて質が高い。特に日産本社ビルのデザインと一体とも感じられるほど環境になじんでいる。曲面ガラスのハーフ・チューブ形態がこの橋の最大の特徴で機能と空間の効果を高めている。天候の変化や夜景のライティングなど、時とともに変化に富んで印象的な空間を演出している。
 いたち川は、長年の都市河川における自然の復活にかけた工夫の足跡を表している。これも和泉川の自然に配慮した川づくり(2005年最優秀賞)と二人三脚で整備が進められてきたもので、近年の稲荷森の水辺デザインは和泉川とスタイルは類似しているが、旧河道を取り込んだところに工夫がある。もう一つの大きな特徴は、1980年代の沿川住民が川は危険だからと子供たちを遠ざけていた時代に、自然を取り戻し子供たちのふれあえる環境をつくるために、直線化された河道に低水路を設けるという発想で実現させたことにある。
 黒目川の特徴は一見して素直な自然な川を感じさせる川づくりである。茂漁川(2006年優秀賞)、遠賀川直方(2009年最優秀賞)の折衷型ともいえる。河川の堤防法線の概形は近代的で機能的な緩やかな曲線と直線であり特に工夫はない。しかし堤防法線の細部を見ると直線にこだわっていないことや、伝統工法の護岸、かごマットを用いた隠れ護岸、小水制工で自然風な柔らかい水際線を流れにつくらせているなどの工夫が見られる。治水上の目的と生物の生息環境との調整の一つの答えであろう。
 なんばパークスは、曲線を多用した空間形成上のおもしろさに植栽を効果的に使っている。屋上緑化の先進は博多のアクロスなど数多いなかで、在来種にこだわっているところに特徴が見られる。特に建築デザインは博多のキャナルシティと類似するが色彩を関西風土にあわせている。ヒートアイランド緩和効果もあるが、都市内の憩いの場所としての温熱環境の管理として有用であろう。樹木の冷却効果を発揮させるための灌水に中水を利用する工夫も生きている。
 土木施設の景観デザインは、設計の制約条件や建設される場所および周囲の環境に大きな影響を受ける。また複合施設や地区はその場の環境全体のコンセプトとコーディネート力が問われる。機能だけ経済だけの設計を要求される場合も多いであろう。そうした「他力本願」ともいえる置かれた状況の中で、景観デザインのチャンスを生かして景観を開花させる技術が求められるのではないか。時代と共に環境も人々の価値観も変わる。今回は十分な評価をされなかったものも再評価されるときが来るかもしれない。多くの土木デザインに携わる方々に期待したい。
inokuma

 

 

 

今後のデザインに期待する

 

猪熊 康夫(中日本高速道路株式会社 名古屋支社長)
  これまで10回のデザイン賞では、東北地方の6県から7つの作品が選定されている。
 今年は、3月11日の東日本大震災のためもあってか、東北地方からの応募はなかった。また、全般として、応募作品が少なめであった。
 今年度は、応募作品の中から、優秀賞として、はまみらいウォーク、いたち川の自然復元と景観デザイン、黒目川の川づくり、なんばパークスの4作品を選出した。また、奨励賞として、白水川床固群、YKKセンターパーク及び周辺整備の2作品を選出した。残念ながら、最優秀賞に値すると判断された作品はなかった。これは、デザイン賞も11回目に入って今までの受賞作品が103作品に達しており、それらの作品に比べてもレベルが高く、最優秀賞と評価できる作品がなかったためとも考えられるし、作品が単純にあるレベルには達していなかったためとも考えられる。
 3月11日の大震災以降、必要な復興費用は、10~20兆円になるとの試算がなされている。また、今後、東海・東南海、南海の3連動地震など大規模な災害に対して、ハード・ソフトの対策をミックスした災害対策にも費用を投じていくことが必要である。さらに、震災後の節電に見られるように、エネルギーの節約を始めとする環境対策にも費用を投じていくことが必要である。このようなことから、土木施設も変化していくことを念頭に置かなければならない。既に、土木学会においても復旧・復興や地震・津波に強い国づくり、まちづくりにむけての提言がなされ、具体的な検討が開始されているところである。今後の土木におけるデザインに、今までにも増して、防災、環境といった観点が考慮され、良いデザインがなされることを期待したい。
 デザイン賞の審査委員を3年間努めさせていただいたが、今年が最終の年となった。関係者の方々にお礼を申し上げたい。
uzuki

 

 

土木学会デザイン賞の審査の難しさと楽しさ

 

 

卯月 盛夫(早稲田大学社会科学総合学術院 教授/参加のデザイン研究所 所長)
 私は本年はじめて土木学会デザイン賞の審査を担当した。これまで建築賞や都市景観賞の審査をしてきた経験から率直な感想を言うと、土木デザインの対象物の広さに若干戸惑った。小さいものではガードレールやボラード、大きいものでは4kmにおよぶ河川護岸整備が今回対象となった。また建設後の時間的経過も2年程度のものからなんと30年という作品までがエントリーされた。もちろん応募された作品を見てコメントするのは楽しいことではあるが、あまりに対象物の違いが大きいと、同じ審査基準ではなかなか比較できない難しさがあった。さらにこのような賞の審査方法の限界ではあるが、現場を見ないで写真だけで判断しなければならない物件もあり、それに対しては応募された方々に申し訳ない気持ちがいつもある。
 このような難しい条件の中で、私が高く評価したのは、今回優秀賞を得た横浜市の「いたち川の自然復元と景観デザイン」と大阪市の「なんばパークス」である。前者は言うまでもなく、30年という長い時間スケールの中で多くの関係者が、その時代毎に同じコンセプトを守りながらベストを尽くしてきた蓄積の深さと継続の重さに感動した。心から敬意を表したい。一方後者は、個別評でも書いたが、必ずしも敷地条件が良い状況ではない中で、人工地盤に緑地を造るという一見誰でも考えそうな単純なコンセプトを徹底的に追求し、こだわりながらデザインを突き詰め、さらに事業性にも十分配慮したこの潔さに拍手を送りたい。現場を見る限り、広場や庭園の維持管理は極めて行き届いており、その結果として多くの利用者が屋外空間と店舗を行ったり来たりしている。買い物とぶらぶら歩きが同時にできることこそが都市の魅力と私は思っているが、それをまさにひとつのプロジェクトで実現したことは、今後の再開発の先駆的事例として高く評されるだろう。
kuwako

 

 

景観デザインと身体的自己

 

 

桑子 敏雄(東京工業大学大学院社会理工学研究科 教授)
 土木学会デザイン賞選考委員を務めさせていただいて3年目となった。今年は昨年と比べて応募件数が少なく、現地実見も4件と少なかったが、やはり実見という行為は、景観を考えるうえで大切な要素であると、その重要性を再認識できた。というのも、景観は毎日の生活のなかでつねに知覚しているものなのであるが、景観をしっかりと評価するには、景観を見ている自己を意識することが重要だからである。
 今回は、黒目川、白水川床固群などの河川関係の候補を実見した。それらの評価対象は、それぞれ固有の河川空間のなかに置かれていることで、その評価の対象の意味も異なっていた。黒目川は朝霞という都市郊外での河岸段丘、白水床固群では聳える大山の雄姿と水辺の楽校に隣接する小学校の校舎と校庭がそれぞれの対象の個性を引き立てていた。
 土木のデザインは、デザインされている対象がどのような空間構造のうちに置かれているかということが重要なのであり、デザインする対象そのものの特性によって周囲の空間も同時にデザインされることになる。対象と直接に対峙し、対象を包む空間に身を置くことで、対象のデザインと対象を包む空間のデザインとを同時に評価することができる。そうすることで、対象と空間に身を置く自己自身のありようも自覚されてくる。
 3年間の経験で、いままでほとんど目を向けていなかった道路のデザインにも目が向くようになり、また、同じ3年の間に実際の道路景観の整備事業(出雲大社参道神門通り、沖縄県国頭村辺土名大通り)に従事する機会を得た。どちらの事業でも行政関係者、市民と当該の空間に身を置き、社会実験を行いながら、あるべき景観を議論できた。そのようなプロセスを構築する過程で、この3年間の委員会での議論はたいへん役立った。このことを記して、委員を務めさせていただいたことへの感謝のことばとしたい。
nagumo

 

 

デザイン賞はどこに向かって発進すべきか?

 

 

南雲 勝志(ナグモデザイン事務所 代表)
 今年のデザイン賞の感想は何と言っても応募数が少ないことであった。年々少なくなる傾向にあったが、全体で13点という数字はデザイン賞として深刻な問題である。震災の影響か、はたまた不況のせいか?と考えられなくも無いが、Gマークの応募は平年より1ヶ月遅く開始したにも関わらず、過去最高であった。
 そもそもデザイン賞の目的は土木という専門性の高い分野の中で、よりデザインを重視した作品を選定することで、その向上を計る事はもちろんであるが、何より一般市民に対し土木デザインの魅力を伝え、より豊かな社会づくりへ繋げていく事だと思っている。そういう意味では一般市民に向かってその魅力を分かりやすく発信していくことが重要であり、プレゼンテーションもその成果をより表現して欲しい。そこが曖昧になるとデザイン賞の意味も価値も薄れてくるのではないか。審査する側も同時にその視点を忘れてはいけないと思う。
 今年のもう一つの傾向として河川系の応募が多く、逆にまちづくり系が極端に少なかった。河川は専門外であるが、多自然型、生物多様性等を踏まえた環境保全、そして防災やアメニティーなど市民生活との関わりの中でより重要性が増して行くのだろう。中でも「いたち川の自然復元と景観デザイン」は30年に渡り一貫して継続した取り組みとして高く評価できる。ただ難しさはあるだろうが、手摺りや橋梁など付属施設にもう少し丁寧なデザイン処理を期待したいところであった。そこに分野を超えたこれからの新しいデザインの可能性があるはずだからだ。「はまみらいウォーク」はまさに土木技術とデザインの融合として高く評価した。しかしながら極めて目を見張る一歩抜き出た作品という意味ではやや弱く、残念ながら最優秀賞無しという結果に終わった。
 全国で行政や市民と共に奮闘している設計者のより多くの応募を期待し、デザイン賞が一般に認知され、そこからまちづくりや景観が広く社会全体のものとして広まっていくことを期待したい。
nishimura

 

 

土木学会デザイン賞のゆくえ

 

 

西村 浩(ワークヴィジョンズ 代表/北海道教育大学芸術課程 特任教授)
 3月11日東日本大震災という未曾有の大災害に見舞われた今年、はじめて土木学会デザイン賞の選考に関わることになった。本賞も11年目を迎え、土木分野でもデザインへの意識がだいぶ浸透してきたものと思っていたが、今年の応募総数はわずか13件。震災の影響もあるかもしれないが、こんな時だけに余計に残念な状況ではないか。東北の被災地の復興しかり、低成長時代を迎えて藻掻き苦しんでいる地方都市の未来に向けて、今こそ土木デザインの力が試される時なのだ。最優秀賞の該当なしという今年の結果も実に残念なことだ。
 選考については、選考委員が各々数件の作品を実見して、その報告を元に議論を行う例年通りのスタイルで行われたが、私にとっては少々消化不良の選考経過となった。残念ながら落選となった作品の中には「これは残してもいいのでは?」と思うものもあれば、優秀賞受賞作品には未だに疑問符がつくものもある。ただ、そのいずれも私自身が実見をしていない作品なのだ。今更ながら、もっと強く意見を述べるべきだったと悔やみもするが、その時私には、実際の空間を体験していない作品に対するリアリティがなかった。本賞の選考委員をはじめて経験した者として敢えて提案させていただくが、実見対象となった作品については、やはり選考委員全員が足を運び、実際の空間を視察した上で議論をすべきではないかと思う。実物を見た人間と見ていない人間が、議論の同じ舞台に立つことはやはり難しい。
 こういうと、必ず厳しい運営予算の話がでる。賞設立から10年が経過しても、事務局の方々も選考委員も皆、未だボランティアという状況である。土木の分野にようやく定着してきたデザインへの思考が後退しないためにも、本賞の価値を一層高めていくことが大切で、土木全体で力を合わせて、その運営基盤を支える仕組みを早急に整える必要があるように思う。次年度は、より多くの作品の応募と活発な議論で、土木学会デザイン賞の盛り上がりに期待したい。
miyagi

 

 

公共性をめぐる葛藤

 

 

宮城 俊作(奈良女子大学住環境学科/設計組織PLACEMEDIA)
 今年度で審査員としての3年間の任期を全うさせていただくことができました。この間、現地審査においては様々な風景に出会う機会を、また審査会の協議においては、審査委員の皆様のご意見から多様な評価の視点を学ぶ機会をいただきました。そのプロセスを通じて強く感じたことは、応募された方々と審査員の双方において、土木デザインの公共性をめぐる葛藤にきわめて多様な側面があるということです。特に、今年度の応募案件を審査する過程においては、そのことを深く考えなければならないケースが多々みられました。
 このデザイン賞は、設立時には公共事業を通じて創出された空間や景観を想定していたと思われるのですが、少しずつそのカテゴリーにおさまりきらないものが対象になってきたようです。このことが公共性の定義や評価の視点をめぐって、様々な表現や見解をもたらしたように感じます。あり体にいえば、民間事業を通じて創出されたものであっても、すぐれた公共性が認められるものがある一方、公共事業を通じて創出されたものにすべからく公共性が認められるわけではない、という状況が発生していることに対するスタンスのとりかたの違いです。
 このことは、土木デザインに関わる専門的職能のありかた、その存立の基盤をどこに求めるべきか、ということにもいずれ波及してくるはずです。最もクリティカルな問題として浮き彫りになるのは、「土木デザインに関わる業務のクライアントは誰なのか?」という問いへの回答であるでしょう。公共事業の場合には、納税者たる市民全般がそうであるという想定の仕方が可能ですが、民間事業ではどうなるのか、そのことへの対応のありかたを意味します。むろん、こうした問いへの回答は一朝一夕に出せるものではないでしょう。しかし、このようなことについて深く考え、デザイン表現の中に反映する努力を継続することによって、この土木デザインに関わる職能は鍛えられていくのではないかと感じます。
yamamichi

 

 

 

「つなぎ」のデザイン

 

山道 省三(NPO法人全国水環境交流会 代表理事)
 今年度のデザイン賞選考の私なりの視点は、「連たん」、「脈絡」、「ストーリー」といった空間的、時間的な「つながり」を評価のポイントとした。とくに川や山地等、自然地形上の土木デザインは、材料や技術が目立ち周辺とのつながりを断ち切るようなことや、人為による洪水等別のエネルギーが発生することは避けなければならない。
 今回現地視察を行った事例は、主に河川を対象としたデザイン例であった。この中でとくに印象に残った視点としては、1)従来の技術基準を遵守するのではなく、管理者、利用者との調整のもと裁量し、標準外のデザインが行われていたこと、2)自然の地形、形状や営力をデザインコンセプトにしたこと、3)従来型のデザインでは景観的にも機能面でも課題ありと判断し、修景、修復しようとするデザインが見られたこと、である。
 1)については、いたち川の河畔及び河道内植栽、手すりや園路の形状、管理用道路設置に対する裁量、黒目川の河床を含めた一律掘削、管理用通路の迂回等による植栽の保全。2)については、黒目川の低水護岸の撤去と河床の拡幅により流れに河床を形成させるという考え方。いたち川上流部の自然護岸の保全。白水川床固群の水辺の楽校部の自由な流れによる河床の造成など。3)については、白水川床固群の砂防堰堤面の魚道設置による修景、いたち川のコンクリートブロック護岸への着色ポラコン修景等がある。おそらくこの3つの視点は、今後のルーラルデザインの方向となると思われるが、特に河川管理では、種々の基準の見直しが始まっている。また、デザインに先立ち、計画用地に隣接する住宅、学校、公園・緑地用地や管理者との調整が一体的デザインを可能にするポイントである。とくにいたち川は、その効果を発揮した例でもあろう。