受賞作品/関係者リスト


 序 文
amano

 

 

美しい日本の風景を実現するために

 

天野 光一 土木学会景観・デザイン委員会委員長
日本大学 理工学部社会交通工学科 教授
 デザイン賞も今回で第10回目を迎えた。10年の歴史の中で103作品が受賞している。これらの作品群は、我々が目指すべき風景の道標となりえたのであろうか。ふりかえると、アレックス・カー氏の「犬と鬼」中で、いかに我が国の国民と技術者が日本の風景を破壊し、また展望を持っていないかと指摘され、小生は大きな衝撃を感じた。景観法が成立し、その中で、「良好な景観は国民共通の資産である」等、高らかな理念をうたい上げられると同時に、良好な景観を形成する有効な道具を提供された。しかしながら、我が国の風景に対する展望を示されたわけではない。本委員会としても何らかの展望を示さねばならない時期であることは十分に承知しているが、その展望を、「道標」と示す役割もこのデザイン賞にはあると考えている。
 昨年(2010年)12月、景観・デザイン委員会主催の研究発表会が開催された。シンポジウムでの中村良夫先生の講演をお聞きになった方も多いと思う。風景の発生から始まった極めて興味深い講演であったが、全貌は他の機会に譲るが、風景づくりには、パースペクティブな概念によるものと、ハイパーテキストな概念によるものとがあるということであった。小生の解釈では、前者は、シーン景観の形成に関わる、いわば具体の物のデザインに近いものであり、後者は、ある領域の中での視点を定めない、まちづくりを含めた風景のデザインに近いものであろう。本年の受賞作品を見ても両方のデザインがあることに気づかされる、もちろん、「景観」をかかげたデザインであるから、片方だけに偏ることはあり得ないが。たとえば、最優秀賞の「雷電廿六木橋」は、パースペクティブな概念によるデザインに近いものであろうし、特別賞の「八幡堀の修景と保全」は、ハイパーテキストな概念によるデザインに近いものであろう。過去の受賞作品について見ても、パースペクティブな概念によるデザインの多かった初期から、徐々にハイパーテキストな概念によるデザインが増えつつあると感じられる。また、奨励賞の「景観に配慮したアルミニウム合金製橋梁用ビーム型防護柵アスレール」も新たなタイプである。場所を特定しない、標準製品の受賞は初めてであろう。こんなものも受賞するのかという感想も聞こえてきそうであるが、風景にとって重要な要素ではあろう。このような広がりを見せているデザイン賞だからこそ、我が国の風景の道標になりえていると信じる。
 研究発表会のオープニングセッションにおける、田村幸久前委員長の基調講演を聞かれた方もおられるであろう。お叱りを覚悟でいえば、土木技術者が良い構造物を、良い風景を実現するための格闘の歴史を語っていただいたと思っている。具体的に参考になるだけでなく、これからも頑張ろうという「元気の出る」講演であったと考える。景観が人口に膾炙されない時代の氏に対する逆風とは異なる逆風にさらされている我々にも元気が与えられた講演だったと思う。本年のデザイン賞受賞作品を見て、さらに勇気づけられて元気を出して頑張っていただきたいと考えている。
さて、内輪話が過ぎた、話を始めに戻そう。小生は、デザイン賞の歴史は、風景づくりの道標になりえたし、未来も変わらず道標を示していくものと信じる。これまでの成果を何らかの形でまとめられないものであろうか。それを、アレックス・カー氏に送りたい。それを持って、政治家諸氏に、役人に、技術者に、そして国民に説明して回りたい。これを道標として、美しい日本の風景を実現しましょうと行脚したい、これは、小生のわがままな欲望であろうか。最後に、デザイン賞を受賞した作品群が、我が国の風景づくりの道標であり続けることを願って筆をおきたい。
 総 評
shimatani

 

 

2010デザイン賞の選評を終えて

 

島谷 幸宏(九州大学大学院工学研究院教授)
景観・デザイン委員会 デザイン賞選考小委員会委員長
 今年の審査作品29件のうち、特別賞1件、最優秀賞3 件、優秀賞4 件、奨励賞3 件が受賞することになった。デザイン賞の選考は、応募された写真や書類に基づく1次審査を経て、複数の審査員が現地を訪ね、じっくりと眺め、評価する。2次審査において、実見者が作品について写真を投影しながら講評する。その講評を聞いたのち、投票が行われ、その結果を参考に審査員からさまざまな意見が交わされ合議で賞が決まる。
 今年の2次審査の投票の結果、4件が満票となり、そのうち1件が特別賞、3件が最優秀賞に選ばれた。
 特別賞となった近江八幡の八幡堀は長い時間をかけて地域が大切に作り上げた優れた景観であって、論議を待たない特別なレベルに達しているとの審査員の大方の意見より特別賞に選ばれた。
 最優秀賞の多摩川の宿河原堰は油圧式転倒ゲートを用いることにより、視線を遮ることなく、河川の広々とした空間を活かしつつ、構造物があることによりかえって魅力的な水辺の空間が演出されている。上屋がなく水平面が強調されたことにより、落水の表情を際立たせることに成功している。構造形式の工夫が景観の向上に大きく寄与しており、土木構造物の景観設計の王道との評価を得た。今後の堰のデザインの方向性を示す構造物であろう。
 油津運河は必要以上とも思える長さの木橋の存在感が全体の景観の質を大きく高めている。この木橋は多くの人に利用されており、すでに地域の人の生活の一部となっている。空間全体の細部にわたるデザイン上のきめ細かい配慮、大胆なレンガを用いた空間の処理などデザイン技量の高さが際立っている。文句なしの最優秀賞であろう。
 雷電廿十六木橋は、なにより橋梁線形のゆるやかなカーブがやわらかく美しい。審査委員からの背後のダムが男性的であるのに対し、廿十六木橋は女性的でセクシーであるという表現がこの橋の評価を定めた。橋脚の横スリットも嫌味がなく橋脚に表情を与えている。
 優秀賞は4件に与えられたが、川崎ミューザデッキはデザイン力が、各務野自然遺産の森は地形処理が、梼原の街並みは地域の共働と木を使った町づくりが、地下鉄七隈線はヒューマンスケールのかわいらしいデザインが、それぞれの観点から優秀賞のレベルを超えていると評価され、受賞した。
奨励賞は優秀賞の次点として位置づける群と新しい分野でまだ評価軸が十分に定まっていないが今後の景観整備の向の方向性として奨励できる群に大別できる。本年度は3件のいずれも後者の群に属する作品であり奨励する内容について言及したい。
 板櫃川は周辺の公園を河川の空間として取り込み川幅を拡大することにより、自然の回復と人が川と触れ合える空間を見事によみがえらせたことが評価された。一方、狭くなった橋梁部と河川地形の処理、公園と川のつながりの地形処理などについては課題が残ると評された。しかしながら、稠密な市街地においても周辺の土地を活用し川幅を拡大する手法の有効性は示されており、都市の河川整備の方向性として奨励されるとして賞が与えられることになった。
 由布院湯坪街道は看板、けばけばしい外壁、道に張り出した陳列台などが景観を悪化させつつあった。そこで景観の専門家と地域住民、行政担当者が協力し景観の現状を調査し、5つの地域ルールを作り街道の景観を向上させようとした作品である。徐々に景観が改善しつつあるものの、街道全体の景観が向上したとは言い難いとの評であった。しかしながら、ソフトな対策により景観を向上させることは、日本の景観向上にとっては大変重要であり、ソフトな取り組みに対して光を当てたいということから奨励賞を与えることとなった。
 最後既製品の橋梁専用ガードレールであるアースレールが受賞した。デザインレベルはまだまだであるとの指摘もあったが、デザイン上一定のレベルには達していること、製品のレベル向上が景観の質を保つためには重要であることから、製品のレベル向上の努力を奨励すべきということから受賞となった。
奨励賞に関しては、湯の坪街道のように時間の経過や関係者の努力により大幅な景観向上が将来行われる可能性があることから、奨励賞を受賞した作品であっても土木デザイン賞への応募が来年から認められることとなった。

  以上のように第10回のデザイン賞は、非常に幅広い内容となった。景観計画やプロダクツの分野が奨励賞を受賞したことにより、土木デザイン賞は新しい分野に一歩踏み込んだことになる。国土の景観デザインをリードする役割を担うデザイン賞のこの一歩がどのように発展していくのか、少しドキドキであるが楽しみである。
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時間の経過

 

猪熊 康夫(中日本高速道路株式会社 企画本部 環境・技術部長)
 今年度の最優秀賞のうちのひとつに選ばれた雷電廿六木橋は、完成後12年を経過したループ橋である。山中に造られたループの美しさ、コンクリートのエイジングをテーマとしたデザインが完成後も想定したとおりに推移したこと、視点場が数多くあるがそのいずれからも破綻のない異なった表情を見せること、などが評価されたと考えられる。
 また、優秀賞のうちのひとつに選ばれた川崎ミューザデッキは、完成後7年を経過した歩道橋である。活気ある川崎駅に西口前に都市内再開発にともなって建設された歩道橋であるが、既存の施設と再開発によって建設された新しいビルディングをつなぐ形の美しさ、デッキ上とデッキの下の全く異なる表情、などが評価されて受賞に至った。
 特別賞に選ばれた八幡堀の修景と保全は、長年に渡る地区のたゆまぬ努力により、堀の景観が形成されている。
 これらのいずれもが、ある一定の完成を見た後に、それなりの年数を経て、今回の受賞となっている。デザイン賞では完成後2年以上経過していることを、応募の条件としているが、上記の作品は、一定の年数の経過の後に、良い評価につながっている。
 優秀賞に選ばれた、福岡市営地下鉄七隈線のトータルデザイン、並びに、木の香りが息づく梼原の街並み景観は、個々のデザインもすばらしいが、全体としての調和を図っていることが特に評価されたと考える。
 一方、奨励賞は、目指すところが今後のデザインの向上に大きく寄与する可能性がある、という観点で選ばれた。

  湯の坪街道周辺地区 景観計画・景観協定・紳士協定は、趣旨に同意したことを景観協定加盟店として各店舗の店先に掲示し、自主的な形での街道全体としての景観の形成を図るものである。協定が時間をかけた中で見える形で表れてきている。また、景観に配慮したアルミニウム合金製橋梁用ビーム型防護柵アスレールは、「景観に配慮した防護柵の整備ガイドライン」に沿って開発された標準タイプのガードレールである。色彩などのバリエーションがあり、開発後約5年経つ。個別の場所を対象としたデザインではないが、様々な場所で使われている。ガードレールは、車両の衝突時などに交換の必要が生じるが、安定した製品の供給で、全体としてのデザインを向上に寄与している。
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目に見えないデザインの評価

 

 

桑子 敏雄(東京工業大学大学院社会理工学研究科教授)
 デザイン賞を選定する過程では、デザインであるから視覚的経験にもとづく評価を考えがちである。ところが、今年度は、視覚でとらえることの困難な候補が登場した。その代表格は、湯布院の「湯の坪街道周辺地区景観計画・景観協定・紳士協定」である。評価の対象となっているのは、ハードではなく、ソフトなのだが、提案されている景観の「ルール」や「ガイドライン」だけでなく、そうしたルール・ガイドラインを策定し、またそれを運用する「プロセス」なのである。
 「プロセス」が生み出すのは、時間の経過ののちに結果として現れる景観である。それは関係者が時間とどのようにつきあい、また時間の働きをどう生かすかということにかかっている。近江八幡の「八幡堀の修景と保全」は、そのような長い時間をかけてつくりあげてきた結果であり、あるいは、「油津堀川運河」も歴史の土台のうえにつくられたものである。これらの作品は、「結果」というよりも、これからも時の流れとともにその美を増してゆく「経過」といったほうが正しいかもしれない。いずれにせよ、積み上げられた時間の効果というものをどう評価するかということが問われているのである。
 「プロセス」ということでいうと、もう一つ、デザインとはデザイナーがするものか、という問題提起をしているのも「湯の坪街道」である。市民主体で策定されたルールに、関係者が「協力してくれませんか」とお願いし、聞いてくれる店もあれば、そうでない店もある。お願いする側、される側があって、それでも少しずつまちが変化していく。その一つひとつのコミュニケーションのプロセスをつくりあげてゆく「努力」をどう評価するかということも課題であろう。こうした人々の努力の集積が結局は対象の「デザイン」となっているといえなくもないからである。
 「結果を生み出すデザインの評価」ではなく、「結果として生み出されたデザイン」の評価をどのようにするかという問いに直面した今年度であった。
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3年間を振り返って

 

 

小出 和郎(株式会社都市環境研究所代表取締役)
 土木デザイン賞の審査委員として3年間が過ぎた。今年度の総評とともに、3年間考えたことをまとめておきたい。
 今年の応募作品には完成後時間が経ったものが多く、適切な時期に応募することが必要だと思う。その中で、近江八幡の八幡堀は、堀の埋め立てを回避し、水辺空間を再生、まちの活性化を実現したという意味でその重みを感じさせる。特別賞としてふさわしいと思う。
 分野的には、水辺空間に関しての作品が多く質の高い作品が多かった。公園は数が増え、土木固有のデザインにつながるポイントが少ないものもある。街並については、仕組みや取り組み体制に注目すべきものが多い。キズを問題にするという議論も少なかった。今年の最優秀賞と優秀賞には極端な差はない。受賞者の方々の努力は高く評価するが、ここ3年間の中では傑出した作品が最も少なく、平均点も低い年であったのだろう。
 3年間の経験からは、“デザイン”を論じる場が多くない状況下で、土木学会の取り組みは優れたもので貴重だと思う。高齢化が激しい世の中で、たくさんの学生や若いコンサルタントのメンバーが熱心に参加していることも注目すべきことと思う。土木デザイン賞の幅を狭く考える必要はないのだが、賞の対象に街並みデザインやランドスケープの作品も多くなって、他分野の賞との境目がはっきりしなくなるのではということも感じる。ただ、これまでの受賞作について、都市計画、都市デザインやランドスケープの専門家があまりよく知らない(不勉強?)という現実もある。もっともっと知られてもいいはずである。
 審査に際して、周辺環境との関係性に注目したいとかいてきたが、辛口にいえば、応募資料のレベルは高くない。とくに、土木らしい作品に、説明不足というか、デザインの説明になっていない例が多いとおもう。この点は改善が必要であるし、また受賞するためにも必要な条件と考えてほしいと思う。
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デザイン賞の市民への普及を目指して

 

 

南雲 勝志(ナグモデザイン事務所 代表)
 本年度から選考委員会に加わらせていただくことになった。初年度は土木学会デザイン賞が何を基準に良いデザインとするかが、まず興味があった。本当は賞の定義がよりはっきりしていた方が、応募する側も選考する側もわかり易いとうっすらと思っていた。結果的には実見に行った委員の主観でまず判断し、それを受けてかなりの議論を経て決定し、最終的に選考会の客観としていく。という極めて民主的な選考方法であった。デザインの定義自体も変化しようとしている状況で、柔軟にかつ年度単位で対応出来る訳で、確かにその方が必然性があるのかも知れない。選考委員の任期が3年と短い事も潔くて気持ちがいい。
 個人的には、地をどう読み、そこに新たな造形をつくるかという直感的なデザインセンスと、それをどう具現化していくかというエンジニアリングのセンスがとても大事だと思っている。それが調和を持った風景をつくる。今回の応募作品では雷電廿六木橋や二ヶ領宿河原堰がまさにそうであった。一方最近のまちづくりでは事業が複雑化し、枠をうまく超えないと繋がっていかない。デザインや設計の前にプロジェクトチームをどう方向付けしていくかという調整力が大切で、それが結果を大きく左右する。油津堀川運河は多くの関係機関との調整と市民との対話の丹念な繰り返しであり、その中から総合力として新たなデザインが生まれていったと言える。
 低成長下、土木デザインはもう一度生活者の本質的な利益や豊かさに目を向けようとしている。そして気持ちよく暮らすための魅力的なデザインで、より広く社会に影響力を及ぼして行くことは間違いない。このデザイン賞の情報発進も含め、目線を専門家から、よりユーザー側にシフトし、「ああ、土木のデザインはこんなに面白いんだ。こんなに素晴らしいのだ。」と感じて貰えるファンをもっともっと増やしていく努力がとても重要になって来た。
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土木然としたデザインを

 

 

宮城 俊作(奈良女子大学住環境学科/設計組織PLACEMEDIA)
 ランドスケープデザインを専門としている立場から、土木学会デザイン賞の審査にあたることになり2年目である。初年度は、専門とする分野がやや異なるということを強く意識したためか、評価軸の設定にやや迷いがあったのではないかと、後になって感じていた。しかし、今年は応募作品を前にして、自身の立ち位置について逡巡することもなく、純粋に景観を構成する「モノ」としてのデザインを評価することができたのではないかと思う。その結果でもあると思うのだが、これぞ土木構造物であると自他共に認めることのできるものを高く評価することになった。最優秀賞に選ばれた3作品は、橋梁、堰堤、運河と、まさにその代名詞ともいえるものである。これらが高い評価をうけることになったということは、それだけ、景観を構成する要素としてのデザイン性を期待され、且つまたそれに応えることができるようになっているということではないだろうか。これらの作品に共通する特徴は、土木構築物としての規模、確固たる存在感、そして恒久性を前提とした造形にみることができる。やはり土木のデザインはこうでなくっちゃ、と門外漢ならずともうなずいてしまうものであった。その一方において、街づくりやソフトな景観デザインを扱う分野には、目をひくものが少なかったようだ。このことは昨年度にも感じられたことで、何か根本的な要因があると思われる。具体的には、まず、時間とともに変化することを前提としているもの、とりわけ植物的自然を扱う場合の配慮や技術そのものにやや難点があるのではないか。さらには、特に都市の屋外空間の場合のように、周辺のコンテクストを読み取ることからスタートするというデザインプロセスへの意識が希薄なのではないかということである。しかし、これらを土木事業あるいはその制度的枠組みの中で実践することは、なかなかに困難なのではないだろうか。だとすれば、土木のデザインは、やはり土木然としたものにそのエネルギーを傾注してほしいものである。
yoshimura

 

 

 

一度立ち止まる/人々の共感を生むデザイン

 

吉村 伸一(株式会社吉村伸一流域計画室 代表取締役)
 一度、立ち止まる。計画・設計をやり直す。この国の公共空間整備では、これが重要かもしれない。と言うのは、今回最優秀賞の油津堀川運河、特別賞の八幡堀、優秀賞の各務野自然遺産の森は、いずれも当初計画を根本から見直した作品だ。さらにあげると、2009最優秀賞の津和野本町・祇園町通り、2008優秀賞の石井樋、五木村、2006最優秀賞の木野部海岸など、実にたくさんある。 一度立ち止まる決断を事業者(行政)がしていなければ、これらの作品は生まれなかった。見直し前と後では何が違うのか。それは、その地域やその街、その山やその川に蓄積された価値を読み取る力であろう。空間には歴史や暮らしの時間が蓄積されている。時空の価値を読み取る作業と市民の共感。それがあって、デザインに深みが生まれる。堀は埋めた瞬間から後悔が始まる。特別賞の八幡堀は、そのことを象徴的に物語っている。
 最優秀賞の油津堀川運河は、「造景の質そのものというよりはむしろ、それを通じて、地域に共感と活力を与えて誇りを構築すること」を目標にしたという。一般市民も自由に参加できる「油津デザイン会議」。地元の飫肥杉を使った屋根付き橋もここから生まれた。地元の大工職人が1/5模型を制作。屋根付き橋の天井に用いる杉材の曲げ加工機などが考案された。こうした取り組みを通じて、「堀川に屋根付き橋をかくっかい(架ける会)」ができ、日南市役所には「飫肥杉課」が設置された。「オビダラ(飫肥杉だらけ)日記」というWebページを見るとおもしろい。運河再生という枠組みを超えた新しい動き。市民や地元職人の参加がデザインの質を上げ、質の高い空間デザインが市民の心を豊かにする。
 この3年間、いろいろな作品を見る機会を与えられた。そこに住んでいる人の、その場所を訪れる人の心を豊かにする。空間に身体を置いたときの精神のやすらぎのようなもの。それを感じることのできる空間。人々の共感を生むデザイン。そういうことを学んだ。