平成11年6月1日
関西電力株式会社   土木建築室 土木部長   手 塚 昌 信 様

(社)土木学会 土木史研究委員会   委員長 大 熊  孝

宇治発竜所石山制水門の保全的存続に関する要請

益々ご清栄のこととお喜び申し上げます。

貴社におかれましては、石山制水門の老朽化に伴なう事故の危険性の増大、ならびに、それを回避しようとして一部でも改修しようとすれば既存不適格問題が生ずる等の理由から、石山制水門の全面的な改築を検討しておられるとうかがいました。

石山制水門は、『関西電力水力技術百年史』の中で自ら指摘されておられるように、ストーニゲートをもつ取水口制水門としてはわが国初のものであり、技術史上きわめて価値の高い構造物であります。また、石山制水門が南郷洗堰の存在を前提とした施設であるということは、石山制水門のような大型構造物が大正2年という早い時期に他で造られた可能性はないことを示しております。さらに、類似の河川構造物にまで範囲を広げましても、煉瓦で構築され花南岩の隅石で飾られた水門は、運河閘門・農業樋門の別を問わず近畿地方ではきわめて珍しい存在であり、しかもそれが現役で使われている意義はきわめて大きいと言えます。

土木史研究委員会では、近代土木遺産調査小委員会(委員長:新谷洋二)のもとで平成3年以来調査研究を続けてまいりましたが、その中におきましても、石山制水門は滋賀県に存在する第一級の土木遺産として分類されることになっております(報告書は平成12年に刊行予定)。また、これとは別に、平成8年に行われた文化財保獲法の改訂に伴ないまして、土木文化財に対する社会の認識が徐々に変わり始めたことも事実でありまして、貴社所有の読書発電所施設や、旧・八百津発電所が国の重要文化財に指定されましたのをはじめ、東京電力(山梨県)、東北電力(宮城県)、九州電力(宮崎県)の各施設が登録文化財のリストに加えられました。このように見てまいりますと、貴社は土木文化財に最も寛容な電力会社であり、土木学会関西支部にとってもきわめて誇り高いことではないかと思います。

さて、石山制水門に関しましては貴社内でいろいろとご検討されたこととは存じますが、同制水門の高い価値に鑑みまして、将来方針を再検討していただきますようお願い申し上げます。その際、全面的な改修か、全面的な保存かの二者択一ではなく、制水門としてのある程度の機能と、地域資産として保持すべき文化財的な価値とが両立・共生できるような途を、知恵と英断を持って選択されることを強く希望いたします。

                          


  


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