土木学会土木史研究委員会
 
平成17年11月9日
鹿児島市長 森 博幸 様
土木学会土木史研究委員会委員長
日本大学理工学部教授     
伊東 孝

潮見橋の保全的活用に関する要請

拝啓 時下益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。

さて、(社)土木学会土木史研究委員会では平成13年3月、『日本の近代土木遺産―現存する重要な土木構造物2000選』を刊行し、その後も土木学会HP上にて逐次改訂しております。潮見橋は改訂版で追加され、Aランクに評価されています(最新版2005年7月3日更新参照)。本委員会ではAランクを国指定の重要文化財級の重要文化財級に該当するものと位置づけております。

鹿児島県鹿児島市谷山中央と谷山塩屋町の境に現存する潮見橋は「石造アーチ橋」として創設年(明治23年)が古く、3連アーチの優美な造形をもち、しかも市街地で現役として活躍する全国的にも貴重な橋であります。

潮見橋は、和田川に架設されていますが、鹿児島市に残された唯一の3連の橋となりました。側壁の石積みは扇形にこそなっていませんが、その形状は甲突川にあった石橋を髣髴とさせるものであります。さらに石材の地の色をそのまま利用していながら、川辺の情景と絶妙なバランスをとり、絵画的雰囲気をも醸し出しています。

しかし貴市におかれましては、潮見橋が和田川の拡幅工事の際、河川拡幅の障害になるとの視点で、撤去される計画と伺いました。 21世紀の地域づくりは、地域のアイデンティティをどこに求めるかということが最も重要となります。20世紀は、便利で暮らしやすい地域づくりを目指してきましたが、それは必要条件であっても、十分条件ではありません。個性のない町には魅力はありません。暮らしやすく、かつ他に代えがたい魅力のある町、住民が「誇り」にできる文化の存在する町こそが、これからの地域づくりの目指すべき方向と考えます。

潮見橋は、地域の歴史を今に伝える重要な構造物です。壊すのは容易で、しかも安価におこなえますが、郷土史を伝えていくことは現代に生きる者の務めといえます。潮見橋は、それを目に見える形で伝えることができるのです。 潮見橋は近代土木遺産としての重要性、希少性、ランドマーク的なデザインとスケールから見て、十分「誇り」にできる文化資産であり、建設当時の関係者の意気込みや努力、チャレンジ精神の感じられる「貴重な遺産」といえます。まずはそのことを是非ご理解いただきたいと思います。

和田川の拡幅工事は洪水対策として始まったものと認識しております。住民の安全を確保するという公共工事の重要性も充分認識しております。しかし歴史的構造物の維持管理と保全に取り組み、歴史的文化遺産を尊重したまちづくりも、地域の有力な魅力づくりの方策です。 地域を活性化するためにも、代替不可能な文化財である潮見橋の保存・活用を含めた和田川の拡幅工事の再検討をしていただけますよう、強く要請いたします。総合的にご検討いただけますよう、切望いたします。

敬具

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