土木学会土木史研究委員会
 
平成16年8月2日
井戸敏三 兵庫県知事 殿
(社)土木学会 土木史研究委員会
委員長 伊東 孝(日本大学理工学部教授)

平木(水路)橋の保全的活用に関する要請

益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。

さて、(社)土木学会土木史研究委員会では平成13年3月、『日本の近代土木遺産―現存する重要な土木構造物2000選』を刊行し、その後も土木学会HP上にて逐次改訂しております。平木(水路)橋は平成14年7月の改訂版で追加され、Bランクに評価されています。本委員会ではAランクを国指定の重要文化財級、Bランクを都道府県指定の重要文化財級に該当するものと位置づけております。

兵庫県加古川市野口町に現存する平木(水路)橋は「煉瓦+石造の水路橋」として創設年(大正4年9月)が古く、小規模ながら拱矢比1/5の優美な造形をもち、しかも全国的にも希有な英文銘版をもつ貴重な施設であります。

平木(水路)橋は山田川疏水事業の一環として建造され、溜池の平木池に導水するため高堀溝に架設されました。しかし疏水の最末端に位置するため、通水が充分でなく、本来の機能を発揮できずに昭和24年頃に放置されました。高堀溝も江戸時代に掘られた灌漑水路です。したがって高堀溝と平木橋は、近世と近代の複合遺産であるとともに、周辺景観は、水利の乏しい印南野台地で、水との闘いを象徴する地域の歴史的空間といえます。

しかし貴県におかれましては、平木(水路)橋が東播磨南北道路建設の予定路線内に位置するため、橋の移設を視野に入れた計画案を検討していると伺いました。

21世紀の地域づくりは、地域のアイデンティティをどこに求めるかということが最も重要となります。20世紀は、便利で暮らしやすい地域づくりを目指してきましたが、それは必要条件であっても、十分条件ではありません。個性のない町には魅力はありません。暮らしやすく、かつ他に代えがたい魅力のある町、住民が「誇り」にできる文化の存在する町こそが、これからの地域づくりの目指すべき方向と考えます。

平木橋は、地域の歴史を今に伝える重要な構造物です。壊すのは容易で、しかも安価におこなえますが、郷土史を伝えていくことは現代に生きる者の務めといえます。平木橋は、それを目に見える形で伝えることができるのです。

平木(水路)橋は近代土木遺産としての重要性、希少性、ランドマーク的なデザインとスケールから見て、十分「誇り」にできる文化資産であり、建設当時の関係者の意気込みや努力、チャレンジ精神の感じられる「貴重な遺産」といえます。まずはそのことを是非ご理解いただきたいと思います。

東播磨南北道路は、臨海部の国道2号加古川バイパスと内陸部の山陽自動車道という二つの東西幹線を南北に結んで、安全で快適な高速サービスを提供、交通渋滞の緩和に役立つものと期待されています。既に計画決定を行い、土地買収が進行している現状変更の困難さは承知しております。道路という公共交通施設の重要性も充分認識しております。しかし歴史的構造物の維持管理と保全に取り組み、歴史的文化遺産を尊重したまちづくりも、地域の有力な魅力づくりの方策です。

地域を活性化するためにも、代替不可能な文化財である平木(水路)橋の保存・活用をふくめた東播磨南北道路計画の再検討をご検討いただけますよう、強く要請いたします。

平木橋フォーラムの開催について

2004年12月24日、平木橋の現位置保存を目指し、平木橋フォーラムが開催されました【パンフレット】。12月26日付の神戸新聞では、平木橋フォーラムに約200人が参加し、橋の現地保存や利活用について熱心に議論したと報じています。

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