関東の土木遺産 関東の土木遺産
土木遺産の概要 施設位置図 施設一覧
   
新潟県
えんじょうじずいどう
円上寺隧道
R3年度認定(2021)
1.名 称:
えんじょうじずいどう
円上寺隧道
2.完成年:
1915(大正4)年
3.諸元・形式等:
○円上寺隧道
 (1)構造:コンクリートブロック覆工による円形水路トンネル
 (2)延長:1.203km
 (3)内径:約3.6m
 (4)外径:約3.9m(コアボーリング調査から覆工厚150mm と推定)
 (5)勾配:1/545
 (6)用途:河川トンネル
4.推薦理由:

① 概要
円上寺隧道は、旧内務省が信濃川の大河津分水路建設により分断された旧島崎川の附帯工事として1913年に着工し、1915年に完成させた東西合併悪水路の一部として建設した河川トンネルである。
本施設は、坑口・覆工の全てがコンクリート造の山岳工法トンネルであり、日本最古級のコンクリート造水路トンネルと言われている。
現在、東西合併悪水路は二級河川新島崎川として新潟県が管理しており、その一部である円上寺隧道は建設から100 年以上経過しているが、幾多の災害からの復旧、懸命な維持補修及び最新工法による長寿命化が進められ、今も現役で活躍し続ける貴重な土木構造物である。

② 歴史的背景
旧島崎川流域は円上寺潟と呼ばれた大きな沼地と湿地が広がり、江戸時代から円上寺潟の干拓のため、日本海へ向け間歩堀が行なわれるなどしてきたが、大河津分水路建設までは治水効果が上がらず、本川の信濃川が増水するたびに、背水の影響から水害が発生していたといわれている。
1920年に円上寺隧道を含めた二級河川新島崎川が、その2年後の1922年に大河津分水路が通水に至り、古くから水害に苦しんできた地域の防災に寄与するとともに新田開発等の干拓にも成功するなど、この地域の保全と発展に貢献してきた。

③ 希少性・独自性
1)円形プレキャストコンクリート覆工を採用した底設導坑掘進
円上寺隧道は、当時の土木技術を駆使して建設された大河津分水路の洗堰(国2指定登録有形文化財)と同じく信濃川開削工区事務所地蔵堂工場が担当し、そこで混凝土塊(コンクリートブロック)が製作され隧道建設現場へ陸送された。この混凝土塊は、それまでの粗角石やレンガを模したものでなく、日本初のシールド工法トンネルである折渡トンネル(1917~1924年建設)と類似した小分割の円形セグメントとなっている。
また、多数組の拱架(平鉄物,蜻蛉金物,ボールト・ナットを含む組立式拱架)の使用を確認され、それまでの一般的な頂設導坑ではなく、国内の他のトンネルに先駆けアーチセントルによる底設導坑「新墺式掘進」が採用されていたと考えられる。
国外からの先進技術であった円形プレキャストコンクリート覆工を日本初のシールド工法事例より数年早く採用し、山岳工法によって1.2kmを約2年間で人力により掘進したという極めて希少な事例である。
2)冠木門「鳥居型」デザインの現場打ちコンクリート隧道ポータル
円上寺隧道の隧道ポータルは、当時としては先進的な現場打ちコンクリートであるが、同時期の切石積やレンガ積のトンネルで見られる「冠木門」(笠石と帯石によるパラペット,付け柱:ピラスター)デザインとなっている。特に円上寺隧道ポータルのような「鳥居型」と呼ばれる形は山岳信仰に通じるものされ、河川トンネルが水害を防いで地域が安全になるよう強く祈願したものと考えられる。
現場打ちコンクリートとして国内最古とされる道路トンネルの松坂隧道(1922年完成)ではピラスターが無いなど、このデザイン様式は現場打ちコンクリートが主流になるトンネル技術の発達とともに急速に失われていくことになる。円上寺隧道のような現場打ちコンクリートのみで造られた冠木門デザインの隧道ポータルは未だ確認できておらず、古い時期に先進的なコンクリート造が採用された偶然により、極めて独自性が高い隧道ポータルとなったものと考えられる。

④ 地域のコミュニティー活動としての利用
長岡市寺泊地域において、円上寺隧道は郷土史の象徴的な存在であり、地元小学校の総合学習では新潟県文化財保護指導委員などによって地域の成り立ちに欠かせないものと説明されている。また、長岡市の社会教育部門により講演会やパネル展、周辺史跡と合わせた散策ウォーキングなど地域に根ざしたイベントが実施されるなど、郷土への愛着を深めるための活動に利用されている。

5.設計者・施工者:
信濃川開削工区事務所(旧内務省)
6.完成当初との改変状況(補修履歴等):

・隧道ポータル:改変無し
・トンネル覆工:主たる補修履歴は下表のとおり

時期 補修内容 備考
S58.10 全断面掘削巻立50.5m インバート部掘削巻立49.0m 台風18 号
S61.10 全断面掘削巻立75.2m インバート部掘削巻立100.2m 豪雨災害
H 元.10 アーチ側壁掘削巻立163.4m インバート部掘削巻立160.4m
~H30 レジンコンクリートパネル工法93.0m
7.「日本の近代土木遺産2800 選」ランク:
Bランク
8.所在地:
新潟県長岡市寺泊磯町~寺泊円上寺
9.管理者:
新潟県
10.管理者連絡先(同意を得ている担当部局・担当課・係名まで記入):
所属名:新潟県長岡地域振興局地域整備部
     与板維持管理事務所工務課 砂防・河川維持担当
住 所:〒940-2402 新潟県長岡市与板町与板乙5935-1
電話番号:0258-72-3187
11.選定された場合に実施を予定しているアピール方法(選定前ですので、選定されたら実施したいと考えている内容で結構です):
・表彰式は、毎年行っている土木学会関東支部新潟会主催の「土木の日講演会」の冒頭に行う。また、新聞各社などマスコミへの周知も併せて実施する。
・選奨土木遺産認定に関する看板を現地に設置し、住民らを招き祝賀イベントを併せて行うことで広く一般に周知する。
・「土木フェスティバル」等にて来場者に選奨土木遺産認定を広く周知するほか、2022年大河津分水路通水100周年記念イベントとも連携しPR活動を行う。
・地元小学校での総合学習や地域の生涯学習活動にて語り継ぐことで、歴史的価値を学んでもらうものとする。
12.選奨土木遺産に関する連絡ご担当者:
〒950-8570 新潟県新潟市中央区新光町4-1
担当者名:新潟県土木部監理課 企画調整室長 小林 加津春
電話番号:025-280-5838
FAX 番号:025-285-3572
E メール:

■円上寺隧道の周辺状況

・旧島崎川は信濃川の増水時に背水で逆流が起き洪水被害が生じたという
・沼地であったという円上寺潟は、干拓による水田化はおろか集落形成すら叶わなかった
・分水附帯工事により『円上寺隧道』が完成し、円上寺潟の“悪水抜き”も実現し美田となった

■新島崎川の治水履歴など


「ふるさとの百年・三島
(新潟日報事業社)」より引用

『新潟県産業遺産の旅(新潟日報事業社)』より図を参照し作成

① 干拓前の円上寺潟 ②江戸期の間歩堀 ③大河津分水開削が中止 ④明治16 年頃の須走川開削 ⑤明治36 年頃の東部組合悪水路(隧道は廃坑) ⑥大正2 年着工同4 年竣工の円上寺隧道 ⑦昭和43 年新円上寺隧道完成 ⑧大河津分水路完成後に広がった海岸部の陸地

■吐口(下流側)隧道ポータルと扁額


現場打ちコンクリートの冠木門デザイン

大正2 年起工・大正4 年竣工とある

■呑口(上流側)隧道ポータルと扁額


総コンクリート造だが石模様が施されている

隧道の完成を祝し「惟徳被生民」とある

■建設当時の工事設計書・竣功図


地蔵堂工場で混凝土塊が製作される

現場打ちCo造ポータルと円形の水路断面

■災害復旧や補修により懸命に維持されてきた覆工


参考:折渡トンネル(土木学会附属土木図書館デジタルアーカイブスより)との覆工の比較

・『円上寺隧道』を百年前にどうやって造ったのか?現代の土木技術者をも惹き付ける魅力がある

■オリジナルの覆工を外郭に残しつつ自立管工法で補強


・現代の土木技術者たちが、更なる長寿命化に挑戦し続ける

■底設導坑掘進「新墺(オーストリア)式」


円上寺隧道オリジナルの残存部

(参考文献)

図-2 新墺式による掘進の例(丹那トンネル:平山復二郎, 山岳トンネル全より)

〔図はトンネルの上半部のみを示している〕
図-5 組立式拱架(アーチセントル)の例
(丹那トンネル:丹那より隧道工事誌より)

※当時の資料(左写真)から、アーチセントルの鉄トンボ・ボールト・ナットの使用が確認できる

・『円上寺隧道』はシールド工法ではないが円形セグメント覆工となっていて、シールドマシンを使用せず山岳工法によりどうやって底部までセグメントを嵌合できたのか謎である

■位置図1(長岡市全体)

■位置図2(寺泊地域)

■参考1([本邦最古の現場打コンクリート]である旨の確認について)

【本邦最古のコンクリート造水路トンネルとする理由】
大正2年に着工し同4年に完成した円上寺隧道は、山を掘って貫く山岳工法の総コンクリート製トンネルとしては日本最古級と認識しています。これを立証するだけの資料がない(または探しきれない)ことから推測の域をでませんが、当時はまだレンガや切石が材料の主流であったため、山を掘進し全てコンクリートでトンネルをつくったのは円上寺隧道が国内初だったと考えられます。また、これは土木学会「土木史研究委員会」による土木遺産調査で、コンクリ製で国内最古(道路は松坂隧道、水路は円上寺隧道)だと報道されたことがあります。
[2009 年4 月5 日徳島新聞]

■参考2(完成以降の改変状況の詳細及び改変による評価について)

■完成以降の改変状況の詳細

○隧道ポータル
・推薦書に記載したとおり、改変履歴や修繕跡が確認できないことから改変されてない。

○トンネル覆工
・完成時の写真や古い改変後の写真は現存していない。(河川法指定前の履歴に係る書類無し)
・把握している改変状況を下表に示す。
・昭和58年以降、災害等を起因に復旧した全断面掘削巻立箇所、インバート部掘削巻立及びアーチ側掘削巻立の実施箇所の資料が現存していないため、補修箇所の重複等がない前提で最大440m弱は改変された可能性がある。(約1200m中の約440m ⇒ 約36%程度の改変)
・近年の老朽化に伴う補修は下図及び写真のとおり、オリジナルが現存させたまま補修を実施する工法(自立管工法)を用い、延命化を図っているため、改変と捉えていない。

■改変による評価の影響について

○隧道ポータル
・全ては残存しているため、評価に影響はないと考える。

○トンネル覆工
・災害復旧等で一部が改変されたものの、延長の半分以上はオリジナルが残存していることに加え、老朽化対策により自立管工法で補修した箇所も対策工の外側にオリジナルが残存しているなど、その大部分が残存していることから、評価に影響はないと考える。むしろ、建設後100年以上経過し、老朽化が進行した施設を活かしながら補修し、現役で活躍していることは評価できると考える。

[トンネル覆工補修履歴]

施工時期 改変の可能性 単位:m 施工時期 改変なし(オリジナル残存) 単位:m
S58.10 全断面掘削巻立 50.5 H30~ 表面保護工 288.0
インバート部掘削巻立 49.0 レジンコンクリートパネル工 92.0
S61.10 全断面掘削巻立 75.2
インバート部掘削巻立 100.2
H1.10 アーチ側壁掘削巻立 163.4
合計(最大値) 438.3 合計 380.0

※全延長約1203m

[表面保護工]


標準横断面図[オリジナルの覆工の内側に被覆]

着手前・完成写真

[レジンコンクリート工](自立管工法)


標準横断面図
[オリジナルの覆工の内側にパネルを設置]

施工状況写真
前を見る 前を見る
Copyright (c)2004 jsce-kanto All Rights Reserved.