関東の土木遺産 関東の土木遺産
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群馬県
どあいさぼうえんてい
土合砂防堰堤
R元年度認定(2019)
1.名 称:
どあいさぼうえんてい
土合砂防堰堤
2.完成年:
1941年(昭和16年)
2800選Bランク
3.形式等:
定半径アーチ式石積堰堤
表面 雑割練石積
中埋 玉石コンリート(配合 5:5) 諸元 堤長 112m
堤高 11m
容積 1,669.27m
設計者 群馬県(長谷川四郎・河野操) 施工者 群馬県
4.推薦理由:

湯桧曽川に建設された群馬県初のアーチ式堰堤で、砂防を目的として谷川岳と一体となって景観を形成する貴重な土木遺産である。

(土合砂防堰堤 建設の歴史)
土合砂防堰堤は、湯桧曽川に建設された群馬県で初めてのアーチ式堰堤で、全国的にも極めて早い時期のものである。

ダムサイトは、東黒沢、西黒沢の合流点直下の岩盤が露出した狭窄部で、広い堆砂池を有する好適地である。

湯桧曽川は荒廃河川であり、特に昭和10年の災害によりその荒廃状況は激甚を極めた。そのため、下流への災害を防止するべく通常砂防事業によって群馬県が築造したものである。

アーチ式堰堤の設計にはシリンダー公式を採用し、その形式はほぼ半円形に近く、構造は外側に雑割石を積み、中埋めに玉石コンクリートを施工したものである。

アーチ式堰堤では、越流水が集中するので、下流部の洗掘防止のために副堰堤、水叩き等の保護工を施工するのが通例であるが、本堰堤では、河床岩盤の状態が良好であるため、単独堰堤として施工したものである。また、ダムサイトの地形上、水通し幅を確保するとともに、落下水を中央に集める必要から曲線とした非常に貴重なダムでもある。

施工は県直営のため、作業員の確保に苦労した。特に築石は現地近くの原石を加工して使用したが、これに従事した石工はかつて上越線清水トンネルの建設に携わった新潟県側からの作業員で、その多くは、終了後も現地にそのまま居住し、それらの人々によって堰堤は完成した。また、流水の少ない時期に施工するため、冬の寒冷積雪期とぶつかり、現地の除雪、コンクリートの凍結防止に大変な苦労を伴った。

現地は、気象条件の厳しい谷川岳直下にあり、堰堤の老朽化が著しいので、昭和53年から54年度に下流壁面に被覆工を施工して補強し、停滞の安定を図っている。工法は美観を考慮して雑割石積とし、ロックボルトにより緊結を行ったもので、十分に当時の面影を残している。

当堰堤は景観にも優れており、かつては土合駅で降りた谷川岳への登山者がこの堰堤から流れ落ちる滝と谷川連峰を背景としてカメラに納めた観光の拠点でもあった。

(昭和10年9月の土砂災害)
昭和10年9月洪水は、台風の前面に伴う温暖前線によって起こされた豪雨によるもので、降雨は利根川水源域、特に烏川・吾妻川流域に集中し、大出水となった。この洪水は、それまで最高であった明治43年洪水の水位をはるかに超え、栗橋では1.35m、佐原では1.47m上回った。

利根川改修工事により施工した区間では、越水・破堤を免れることができたが、未改修の無堤部や旧堤部では、越水被害を生じた。また、利根運河左右岩が越水・破堤し、さらに小貝川筋左岸高須の堤防が破堤し、大きな被害を及ぼした。群馬県内では、旧倉渕村で総雨量402.5mmを記録し、長雨と短時間の豪雨は、烏川や吾妻川等の流域で約8,000カ所もの山地崩壊を引き起こした。

群馬県榛名町の出水状況 群馬県前橋市の出水状況
昭和10年の台風での被害状況 烏川(群馬県内)の被災状況

また、県境を越えた新潟県側(魚沼地方一帯)でも、未曾有の暴風雨に見舞われ、魚沼川の各所で山崩れが発生し、魚沼川で大氾濫となった。59集落で冠水、田畑の冠水は600町歩にも及び、一面濁流の大湖と化し、土砂災害も甚大であった。この災害を契機として、昭和12年度より魚沼川流域で直轄砂防事業が開始された。

昭和10年9月 湯の沢川(湯沢町)

(群馬県の景観への取り組み)
群馬県では平成30年度より「ぐんまの風景を魅せるインフラ整備」に取り組み始めており、既にモデル事業を選定し着手している。「ぐんまの風景を魅せるインフラ整備」とは、道路を走りながら、ぐんまの山々や街なみなど周囲の風景を魅せることや、「人々が歩きたくなる道路」や「触れたくなる河川空間」をつくることとし、地域の魅力を高めることを目的として、「もっと住みたくなる・もっと訪れたくなる・もっと自慢したくなる」群馬県をつくることしている

歴史的な構造物など、地域の歴史・文化・生活などの地域資源を活かすことなども盛り込んでいる。

(土合砂防堰堤の近くにある選奨土木遺産)
土合砂防堰堤周辺には、最寄りの鉄道駅となるJR上越線土合駅があり、目の前を走る道路は新潟県境へ繋がる国道291号である。

【JR上越線】
土合駅を含む群馬・新潟県境を走るJR上越線は、「清水トンネル関連施設群」として平成29年度認定の選奨土木遺産となっており、構成施設となっている清水トンネルの群馬県側坑口は土合砂防堰堤から国道291号を0.4km下った至近にあり、国道291号との上越線踏切からその坑口を見ることができる。さらに、国道を0.2km下った最寄り鉄道駅である土合駅には、土合構内土合斜坑ある。

【国道291号】
土合砂防堰堤脇を走る国道291号は、群馬・新潟県境を結ぶ国道で、平成19年度に選奨土木遺産に認定された「清水峠越新道」そのものであり、約4km歩くと、当時の面影を残す「国道開削当時の石垣」に至ることができるなど、他の選奨土木遺産と一体となって、谷川岳の大自然とともに選奨土木遺産を見学するコースが期待できる。

5.所在地:
群馬県利根郡みなかみ町
6.管理者:
群馬県
7.特記事項:
2800選Bランク
8.PR方法:
選奨土木遺産認定後のPR
  1. @谷川岳への登山とともに、谷川岳を楽しむコースのスタート地点ともなっている土合駅(平成29年度認定選奨土木遺産「清水トンネル関連施設群」の構成遺産:土合駅構内土合斜坑)から国道291号に沿って0.2km歩くと、上越線との踏切地点から清水トンネルの群馬県側坑口を湯桧曽川越しに見ることが出来る。そしてさらに0.4km歩き土合橋からは、流れ落ちる湯桧曽川の水しぶきを浴びながら土合砂防堰堤を間近に見ることができる。そして、そのまま国道291号に沿って約4km進むと清水峠越新道(平成19年度認定選奨土木遺産)の国道開削当時の石垣を間近に見ることができるなど、他の選奨土木遺産と一体となって、谷川岳の大自然とともに選奨土木遺産に触れる散策コースが形成される。
  2. A選奨土木遺産を見学しながら散策するコースのパンフレット作成などにより「土木遺産」を積極的にPRする。
  3. B認定後の秋に「@で示したコースを歩く親子ツアー」の開催を予定している。
9.連絡先:
群馬県沼田土木事務所水上事業所
〒371-0016 群馬県利根郡みなかみ町小日向416
TEL:0278-72-2093 FAX:0278-72-6451

位置図

下流面(右岸袖部より撮影)

下流面(国道291号土合橋歩道上から撮影)

堤名板

図面

アーチ部接近写真

堆砂状況航空写真

近隣「選奨土木遺産」位置図

JR土合駅舎外観

駅待合所でのPR掲示物

祝土木遺産資料

当時の工事写真

土合斜坑内に設置された銘板

土合斜坑と銘板

国道291号から見た湯桧曽川とその先の清水トンネル群馬県側坑口

国道291号土合橋から見た土合堰堤

国道291号脇に立つ「清水峠越新道の解説板」
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