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第I編 激動の10年を振り返る

第2章 10年の主な出来事

3.社会資本を巡る議論

3.1 省庁再編と特殊法人改革

3.1.1 省庁再編

(1)国土交通省の発足

 1996年11月にスタートした行政改革会議における議論をもとに,中央省庁等改革推進本部が「政治主導の確立」,「縦割り行政の弊害を排除」,「透明化・自己責任化」,「スリム化目標を設定」を4本の柱に据えつつ関連法の整備等を進め,2001年1月6日,21世紀の幕開けとともに,それまでの1府22省庁を1府12省庁に再編成し新体制がスタートした(表-1参照).


表-1 新体制一覧
府省等名省庁再編以前府省等名省庁再編以前
内閣官房内閣官房外務省外務省
内閣府総理府本府
金融再生委員会
経済企画庁
沖縄開発庁
(金融庁)
科学技術庁大蔵省
文部科学省科学技術庁
文部省
厚生労働省厚生省
労働省

     
国家公安委員会国家公安委員会
(警察庁)
農林水産省農林水産省
経済産業省通商産業省
防衛庁防衛庁国土交通省北海道開発庁
国土庁
建設省
運輸省
総務省総務庁
郵政省
自治省
法務省法務省環境省環境庁

 国土交通省は,「国土の総合的かつ体系的な利用,開発及び保全」,「そのための社会資本の整合的な整備」,「交通政策の推進」,「気象業務の健全な発達」ならびに「海上の安全及び治安の確保」を図ることを任務とし,人々の生き生きとした暮らし,これを支える活力ある経済社会,日々の安全,美しく良好な環境,多様性のある地域を実現するためのハード・ソフトの基盤を形成することを使命として,北海道開発庁,国土庁,運輸省,建設省の4省庁が統合されて誕生した.
国土交通省は,所管する幅広い行政分野に関し,多様な行政ツールを最大限に生かした施策を展開していくため,本省に13局が置かれるとともに,地方支分部局,施設等機関,審議会,特別の機関,外局等から構成されることとなった(図-1参照).



図-1 国土交通省組織図

(2)地方支分部局と研究機関の改編

 国土交通省には,地方支分部局として地方整備局,北海道開発局,地方運輸局等が設置された.特に,旧港湾建設局と旧地方建設局を統合し新たに発足した8つの地方整備局ならびに北海道開発局においては,新たに本省から法律等67本に上る許認可等の事務ならびに多額の予算(2001年度事業費ベースで合計4兆円余)が移管されることになり,地域における社会資本整備の核として,地元自治体・経済界等との間に新たな協調・協力関係を築きつつ,個性豊かで活力に満ちた地域社会を実現・支援していくことが期待されている.
 また,2001年4月には,国土の利用,開発および保全のための住宅・社会資本に関連する技術であり,国土交通省の所掌事務に関わる政策の企画および立案に関するものの総合的な調査,試験,研究および開発を行うことを目的として,国土交通省の土木研究所,建築研究所,港湾技術研究所を再編して国土技術政策総合研究所が新たに設置された. さらに,国民生活および社会経済の安定等公共の見地から確実に実施されることが必要であり,国が自ら主体となって直接に実施する必要がないが,民間の主体に委ねた場合には必ずしも実施されないおそれのある研究開発を実施することを目的とする独立行政法人として,土木研究所,建築研究所ならびに港湾空港技術研究所が同日設置された.


(3)省庁再編のメリット

 国土交通省においては,4省庁が統合されたメリットを活かした施策を数多く展開しているが,そのうちの代表的な2例を紹介する.
国土交通省への再編にあたっては,それ以前から旧4省庁で協力し,再編後の総合的,統一的な政策展開の基礎とすべき国土交通省の使命,国民の視点に立ってより良い行政サービスを提供していくための基本的な方針の策定作業を進めた.策定にあたっては,途中の段階で案を公表し,各種シンポジウム,PIなどを通じて意見・提案を募集しつつ,2001年1月30日に「国土交通省の使命,目標,仕事の進め方」として公表した.
 また,従前は9本別々であった事業分野別計画(道路,交通安全施設,空港,港湾,都市公園,下水道,治水,急傾斜地,海岸)を一本化した「社会資本整備重点計画」が2003年10月10日に閣議決定された.重点計画においては,横断的な重点目標を設定(例:公園,道路,河川,港湾,民有地等を一体とした緑化指標)するとともに,省庁間の事業連携を一層推進(例:国土交通省,農林水産省,環境省共通の汚水処理人口普及率)することとしている.


3.1.2 特殊法人改革

 特殊法人改革については,行政改革大綱及び2001年6月に成立した特殊法人等改革基本法に基づき同年12月に閣議決定された「特殊法人等整理合理化計画」に沿って,全法人の事業の徹底した見直しを行い,これを踏まえ,組織形態について廃止・民営化等の見直しを行うこととされた.
その後,各法人所管府省が「特殊法人等整理合理化計画」の具体化を進めており,これまでに全77特殊法人のうち,46法人の組織形態について法制上の措置その他必要な措置を講じ(主なものは表-2のとおり),民営化,独立行政法人化することとしたところである.


表-2 特殊法人の民営化・独立行政法人化の例
特殊法人改革時期改革概要
都市基盤整備公団2004年7月独立行政法人「都市再生機構」に継承
地域振興整備公団2004年7月地方都市開発整備等業務は独立行政法人「都市再生機構」へ、工業再配置等業務及び造成土地等の譲渡等業務は「中小企業基盤整備機構」に継承
新東京国際空港公団2004年4月「成田国際空港株式会社」に移行
帝都高速度交通営団2004年4月「東京地下鉄株式会社」に移行
水資源開発公団2003年10月独立行政法人「水資源機構」に継承
日本鉄道建設公団2003年10月統合し、独立行政法人「鉄道建設・運輸施設整備支援機構」を設立
運輸施設整備事業団

[門松 武]


3.2 財政構造改革と公共事業批判

3.2.1 バブル経済の崩壊と財政構造改革

 1980年代後半,我が国には「バブル」と呼ばれた未曾有の好景気が到来した.この好景気は,1985年のプラザ合意以降の金融緩和政策により,大量の資金が株式や土地などの資産に流れ込み,株価,地価の異常とも言える大幅な上昇をもたらす形で発生した.「土地神話」という言葉が巷を賑わし,土地へ投資さえしていれば儲かるという投資熱に国民の多くがうなされていた時期である.
 しかし,1990年代に入ると打って変わり,わが国の経済は厳しい情勢に直面することになった.日経平均株価は1989年末に最高値を付けたのを最後に下落に転じ,地価も1991年頃から下落に転じた.いわゆるバブルの崩壊である.以降,今日まで続く長期的な経済低迷の時期に突入した.バブル崩壊以後の10年間で,わが国は株式,土地の資産損失だけで約1 300兆円もの国富を失った.これは,わが国の国内総生産(GDP)の2.5年分に匹敵する.こうした状況に対し,政府は1992年の「総合経済対策」から2002年度の「改革加速プログラム」までの都合13回,総額140兆円にも上る経済対策を講じてきた.
 このようなバブル崩壊後の景気回復に向けた対策にともなう歳出の増大は,大幅な減税の実施等とあわせ,我が国の財政を主要先進国中最悪と言えるほどにまで悪化させた.図-2に示すように,1990年度に6.7兆円であった国債の発行額は以降急増し,2004年度当初予算では36.6兆円にまで達した.歳出総額に占める公債の割合(公債依存度)は44.6%であり,国債の累計残高も約483兆円に達した.
増大する国の支出を抑制し,財政再建を図る取り組みは,バブル崩壊以降も継続的になされてきた.1997年には財政構造改革の推進の方針が打ち出され,「財政構造改革法」を制定し,歳出全般において聖域を設けることなく徹底した見直しを行うこととされた.その後,相次ぐ金融破綻を背景とした経済不況のため,一時的に景気回復に向けた取り組みが積極的に進められた時期はあったが,歳出抑制の方針は変わることなく今日に至っている.この方針は公共事業関係費についても例外ではなく,ここ数年前年を下回る状況が続いており,2004年度当初予算においては7.8兆円にまで減少している.これは経済対策で補正予算が組まれた1998年度の約55%の額にすぎない.
 歳出総額抑制の方針の中,公共事業関係費の削減に焦点が当てられるなど,公共事業に対する論調はその規模について言及されることが多い.これらはおおよそ,公共事業の経済的側面に関して論じているものであるが,一方で公共事業により整備する社会資本がわが国の国土利用に果たす役割という観点からの議論が不足しているのも否めない.



図-2 一般会計税収・歳出総額及び公債発行額の推移

3.2.2 公共事業を巡る議論

 特に,昨今の公共事業をめぐる論調は「公共事業=悪者」とするものが大多数を占めている.「無駄な公共事業による支出が財政を悪化させるとともに,国債残高の膨張を生み,後世に大きなツケを残している」といった批判や,「欧米先進国と比較して高すぎるわが国の公共投資の規模を引き下げるべきである」という批判など,様々な公共事業批判が見受けられる.さらには「無駄な公共事業」が転じて,「公共事業は無駄」という極論までが飛び交う状況にある.公共事業は国民からの税収を原資とするものであり,無駄をなくし効率的な執行が求められるのは言うまでもない.しかし,これら批判の中には根拠のないものも見受けられ,それが世間で大いに語られている現状は,公共事業の本質や公共事業の果たす役割について,世間に偏った認識を与えかねないことが危惧される.
 公共事業批判のうち,「公共事業による支出が財政を悪化させている」という財政破綻主因論について検証すると,およそ次の事実が確認できる.近年急増する国債発行額の大半は赤字国債であり,図-2に示すように,公共事業に充てられる建設国債は,2004年度当初予算における国債総発行額36.6兆円のうち6.5兆円に過ぎない.しかも,建設国債の発行額は赤字国債のそれとは対照的に,1998年度の17.1兆円をピークにその発行額は年々減少を続けている.
 歳入面については,1990年度には約60兆円あった税収が,2004年度は42兆円弱にまで落ち込み,この間に税収が約18兆円減少した.歳出総額は1990年度に約69兆円であったものが,2004年度はピーク時より減少しているものの約82兆円と,13兆円ほど増加している.歳出が増加する一方で税収が減少し,両者のギャップが拡大しているのがここ数年の状況であり,その不足を補うための国債の発行額が急増している.そして,国債発行額の増加は医療費や年金などの義務的経費に充てられる赤字国債の急激な拡大に起因しており,公共事業に使われる建設国債の発行額は逆に減少している.この事実から財政悪化の主因は公共事業のための支出であるとする批判は,説得力に欠けるものであることが伺える.
 次に,欧米先進国と比較して高いとされる公共事業費についても,わが国国土の有する地理的ハンディキャップに依存するところが大きい.細長く伸びる国土全体がその中央を走る脊梁山脈に分断され,小さな平野が分散するわが国の地勢は,道路網や鉄道網を整備する際にコストのかかるトンネル・橋梁を多数必要とする.さらに地震多発国であるわが国においては,その対策を講じる必要性から,欧米先進国と同様の社会資本の整備を行うためには,よりコストがかかることになる.このようにわが国と欧米先進国との間には国土条件に大きな差があり,公共事業費の大小を持って単純に比較することには問題があると言えよう.
 数多くの公共事業批判が存在するように,現在,公共事業は高い関心を持って語られている.その中で偏った情報を基づく誤解ともいえる批判により,国民の多くが公共事業の本質を見誤ることのないよう,適切な評価がなされることが望まれる.そして,公共事業に携わる者はそのための情報を広く提供することに努めていく必要がある.


[門松 武]

3.3 個別公共事業の事業評価システム

3.3.1 事業評価システムについて

 個別公共事業の事業評価については,建設省において1995年度からダム・堰および一部の高規格幹線道路について再評価を試行するなど先行的な取組みが行われてきた.
 1997年12月5日の「物流効率化による経済構造改革特別枠」に関する関係閣僚会合(第1回)にて,内閣総理大臣から関係閣僚に対し,事業採択後一定期間経過後で未着工の事業や長期にわたる事業等を対象に再評価を行い,その結果に基づき必要な見直しを行うほか,継続が適当と認められない場合は休止又は中止する新たな「再評価システム」を公共事業全体に導入すること及び事業採択段階における費用対効果分析の活用については,基本的に全事業において実施することについて指示が出された.それを受け,各省庁において内部での検討を進め,1998年3月27日の閣僚懇談会にて,関係閣僚(建設大臣,運輸大臣,北海道開発庁長官,沖縄開発庁長官,国土庁長官,農林水産大臣)から,1998年度より「公共事業の再評価システム」を導入すること,新規事業採択時の費用対効果分析についても,基本的に全事業について導入することについて報告がなされた.その後,1999年度には「事後評価」が試行的に導入された.
 2001年1月の省庁再編を受けて,事業評価実施要領の一本化を図るとともに,事業評価システムの更なる充実を図るべく,2001年7月に国土交通省所管公共事業の事業評価実施要領を策定した.この実施要領に基づき,全ての新規採択箇所について費用対効果分析を含めた総合的な評価を行うとともに,事業採択から5年未着工等一定の条件に該当する事業等について費用対効果分析等による事業の必要性の視点に加え,事業の進ちょくの見込みの視点等による評価を行い,事業の「継続」または「中止」の措置を講じることとした.以前との大きな変更点としては,再評価において,全事業において事業評価監視委員会で審議を行うこと,休止事業を廃止したことが挙げられる.
 2003年度からは,事業完了後の事業の効果,環境への影響等の確認を行い,必要に応じて,適切な改善措置を検討するとともに,事後評価の結果を同種事業の計画・調査のあり方や事業評価手法の見直し等に反映する「事後評価」を本格導入した.その結果,新規事業採択時評価,再評価から繋がる一連の事業評価システムが構築された.
 また,行政機関が行う政策の評価に関する法律(2001年6月29日公布)の成立に伴い,新規事業採択時評価と再評価がその中に位置づけられている.
なお,1998年度から2003年度に実施した再評価の結果,317事業を中止している(2004年3月末時点).


3.3.2 公共事業の抜本見直し

 2000年度には,自由民主党,公明党,保守党の三党から出された「公共事業の抜本的見直しに関する三党合意」(2000年8月28日)を受け,与党三党から示された見直し基準に加え,建設省が独自に定めた基準に該当する事業について,合計197事業において見直しを行い,187事業を中止した.その結果,中止した事業の残事業費は,約2兆4 000億円となった.


3.3.3 事業評価手法の向上について

 2003年7月に策定した事業評価実施要領に従い,評価手法に関する事業種別間の整合性や評価指標の定量化について検討するため,学識経験者等からなる「公共事業評価システム研究会」(委員長:中村 英夫(武蔵工業大学),以下「研究会」という)を設置した.
 研究会での5回の議論を踏まえ,2002年8月に研究会報告として,公共事業評価にあたっての基本等,すべての公共事業評価に携わる者の基本姿勢と現時点で考え得る評価の方法例を示した「公共事業評価の基本的考え方」を取りまとめた.現在は,本報告に盛り込まれた新たな評価手法である総合評価方式の試行に取り組んでいるところであり,2003年度に行われた高速自動車国道の事業評価における総合評価手法に既に反映されている.
 また,各事業における費用対効果分析のうち,費用便益分析について便益や費用の計測に使用している原単位等,事業分野間の考え方の整合性等が十分に図られていなかったため,公共事業評価システム研究会の下に設置した学識経験者等からなる「事業評価手法検討部会」(部会長:森地 茂(東京大学),以下「部会」という)での5回の議論を踏まえ,2004年2月に国土交通省になって初めて費用便益分析に関する統一的な取扱いを定めた「公共事業評価の費用便益分析に関する技術指針」を策定した.



3.3.4 事業評価結果の公表の充実

 事業評価の結果については,2001年度より全事業統一的な様式で,費用,便益,便益計測に当たっての主な根拠等を公表しているが,さらなる事業評価結果の公表の充実を図るため,各事業の新規事業採択時評価,再評価,事後評価の一連の経緯が一目で分かるよう,事業評価カルテとして一括整理し,2004年度から公表する予定としている.


[門松 武]

3.4 公共事業コスト構造改革

3.4.1 建設省における取り組み

 1993年度に設置した学識経験者からなる「公共工事積算手法評価委員会」において,公共工事の積算の仕組み等に関する検討がなされ,現行の積算手法は妥当である旨の評価を得るとともに,我が国と諸外国の建設費の実態調査を行い,その縮減方策について検討を進める必要があるとの指摘がなされた.
 このような背景のもと,建設省においては省内に内外価格差検討委員会を設け,欧米に調査団を派遣するなど,公共工事の建設費の実態把握に努めるとともに,この実態把握を踏まえた対応策の検討を行い,「公共工事の建設費の改善に関する行動計画」を1994年12月1日に策定,公表した.
 建設省が他の省庁に先駆けて策定した「公共工事の建設費の改善に関する行動計画」では,社会資本は国民生活の基盤をなすものであり,その安全性の確保の観点から高い品質が要求されていることから,所要の品質を確保することを前提とするとともに,設計・施工,工事中の環境・安全対策,維持修繕管理等をも含めたトータルコストを視野に入れ検討する必要があるとされている.このような点にも十分配慮し,我が国と諸外国の建設費の違いについて詳細な現状把握,原因分析等を行うとともに,建設費縮減のための諸施策を実施することを目的に行動計画が策定された.


3.4.2 公共工事コスト縮減対策に関する行動指針の策定

 1997年4月4日に「公共工事コスト縮減対策関係閣僚会議」において,公共工事のコスト縮減に関する政府全体としての取り組みを図るため,「公共工事コスト縮減対策に関する行動指針」が策定された.指針では,厳しい財政事情の下,限られた財源を有効に活用し,効率的な公共事業の執行を通じて,社会資本整備を着実の進め,本格的な高齢化社会の到来に備えるには,早急に有効な諸施策を実施し,公共工事コストの一層の縮減を推進していく必要があるとされている.また,公共工事担当省庁のみならず,その他の関係省庁も含め,政府が一体となった取り組みが不可欠であること,社会資本が本来備えるべき機能・品質を確保すること,コスト縮減の裏付けなしに,工事価格のみを下げることによって,下請企業,資機材供給者,労働者等の関係者が不当なしわ寄せを被るような状態を生起させてはならないこと,不正行為の防止等が留意事項とされた.
 政府の行動指針に基づき,公共工事担当の16省庁は,関係公団等の行う所管の公共工事を含む各省庁の行動計画を策定した.各省庁の行動計画には,事業内容・取り組み状況等を踏まえた具体的施策およびそれに基づく数値目標を盛り込んでいる.具体的施策としては,計画設計等の見直し,工事発注の効率化等,工事構成要素のコスト縮減,工事実施段階での合理化・規制緩和等の各分野において,計画,設計の見直し,技術開発,積算の合理化等の直接的施策,資材の流通の合理化,建設副産物対策等の間接的施策を広範囲に取り組むこととしている.なお,数値目標は,1997年度から1999年度までの3年間で,1996年度に対して10%以上の公共工事コストを縮減することとしている.
 これら政府全体での取り組みの結果,3年目の1999年度には,政府全体で9.6%,国土交通省・関係公団等で9.9%となり概ね目標を達成した.この間,工事ごとの現場における様々な工夫とともに,コスト縮減を意識した技術基準類の改定やVE方式など技術提案を促す入札契約方式の導入等が実施された.


3.4.3 新行動指針の策定

 3年間の目標期間は完了したが,コスト縮減については継続して取り組むべきであることから,2000年9月1日に,関係閣僚会議において,「公共工事コスト縮減対策に関する新行動指針」を策定した.新行動指針では,直接的な工事コストの低減に加え,工事の時間的コストの低減,施設の品質の向上によるライフサイクルコストの低減,工事における社会的コストの低減,工事の効率性向上による長期的コストの低減を含めた総合的なコスト縮減について取り組むこととなった.新たな目標期間は2000年度から2008年度までとしたが,数値目標については設定しなかった.政府の新行動指針に基づき,公共工事担当の16省庁は各省庁の新行動計画を策定した


3.4.4 公共事業コスト構造改革

 工事コストの縮減については1996年度を基準とした縮減率でフォローアップしており,2002年度までの縮減結果は図-3のとおりである.引き続き着実に縮減が進んでいるがその伸びが鈍ってきており,これまでと同様の施策では限界が見えてきたと言えなくもない.図にはコスト縮減施策の実施の効果としてではなく市場の状況で変動する物価の下落である卸売物価,労務費等の下落を考慮した実際の工事コストの縮減率も示しているが,こちらは近年のデフレ傾向を反映して低減が進行しており,2002年度までに政府全体で20.6%,国土交通省・関係公団等で21.3%の工事コスト減となっている.しかし,引き続き,厳しい財政の状況の下,より効率的な予算執行が求められる中で公共事業のコスト縮減についての要請はますます強まっており,このような状況のもと,従来からの取り組みでは不十分と考えられ,抜本的な対応が求められた.
 2002年8月29日の経済財政諮問会議において国土交通大臣より「公共事業コスト構造改革」の取り組みに着手することが表明された.
 これまでの公共工事コスト縮減の取り組みに加え,公共事業コスト構造改革は,公共事業のすべてのプロセスをコストの観点から見直すことである.見直しのポイントとしては「事業のスピードアップ」,「計画・設計から管理までの各段階における最適化」,「調達の最適化」の3点となっている.公共事業コスト構造改革を推進する施策プログラムとして,国土交通省が2003年3月31日,政府が2003年9月18日に「公共事業コスト構造改革プログラム」を策定した.(図-4,図-5参照).国土交通省が他の府省に先駆けて取り組み始めた公共事業コスト構造改革は,政府全体としての取り組みとなった.これまでの考え方にとらわれることなく,成果をあげるためには,コストの観点からすべてのプロセスを総点検し,コストを取り巻く環境を改善することとし,直ちに実施できる施策のみではなく,「改革」として取り組むべき施策をとりまとめ,検討,試行,他省庁との調整を行った上で実施に移行する施策も含められている.また,必要に応じて施策を追加,変更し,プログラムを更新することとしている.



図-3 工事コスト低減の推移


図-4 コスト構造改革について


図-5 国土交通省公共事業コスト構造改革プログラム

 さらに,コスト構造改革の目標として,従来からのものに加え新たな取り組み事項も評価する指標を導入することとし,規格の見直しによるさらなる工事コストの縮減,事業のスピードアップによる事業便益の早期発現,将来の維持管理費の縮減も併せ評価することとしました.具体的な数値目標は,これまでに20%以上のコスト縮減を実施した2002年度と比較して,「2003年度からの5年間で,物価の下落等を除いて,総合コスト縮減率15%を達成すること」としました.
 具体的施策としては,国土交通省のプログラムでは,「事業のスピードアップ」については,事業の円滑な進捗を図ることに重点を置き,構想段階からの合意形成手続きの導入や協議・手続きの迅速化・簡素化,事業の重点化・集中化,用地・補償の円滑化を図るとともに,きわめて遅れている地籍調査の促進を図る等の8施策.「計画・設計から管理までの各段階における最適化」については,地域の実情にあった規格(ローカルルール)の設定の促進や設計の総点検,数値目標を設定し新技術の活用を促進するとともに,低コストの維持管理を実現するために管理の見直しを行う等の14施策.「調達の最適化」については,民間の技術力が一層発揮されるように,技術提案を重視する調達方式を導入するとともに,積算価格の透明性・説明性の向上を図り,民間の活力を期待するとともに積算業務の省力化等を推進する積算体系を導入する等の12施策.合計34施策となっている.
 プログラムの実施状況については,具体的施策の着実な推進を図る観点から,適切にフォローアップし,その結果を公表することとなっている.フォローアップでは,プログラムの各施策の実施状況と数値目標の達成状況を評価することとなっている.


[門松 武]

3.5 入札契約制度改革

3.5.1 透明性と競争性の向上に向けた取り組み

(1)90年ぶりの大改革

 我が国の入札・契約制度は,1889(明治22)年に会計法が制定されたことに始まる.制定当初は一般競争入札が原則とされていたが,不良不適格業者の参入等の問題が発生し,1900(明治33)年には指名競争入札が創設され,以来指名競争入札が公共工事の入札の基本とされてきた.
 しかしながら, 1993年に発覚した一連の不祥事により,指名競争入札の根幹である「発注者は公正で中立である」という前提に大きな不信が投げかけられ,従来の入札・契約制度の考え方を大きく転換し,「不正の起きにくいシステムの構築」という制度全体の枠組みを第一に考え,見直しを図ることが必要となった.加えて,この時期はウルグアイ・ラウンド多角的貿易交渉が進められていた時期でもあり,内外無差別の原則の徹底と入札・契約手続きを国際的になじみやすいものにする必要があった.
 これらを背景として,我が国の入札・契約制度は再び指名競争入札から一般競争入札を原則とすることとなり,1994年1月18日には「公共事業の入札・契約手続の改善に関する行動計画(以下,「行動計画」という)」が閣議了解された.建設業法において公共工事に参加しようとする建設業者に対して経営事項審査が義務づけられたのも1994年度である.なお, 1996年1月1日には「政府調達に関する協定」(WTO政府調達協定)が発行している.


(2)「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」の制定

 2000年には,公共工事の指名業者の選定に際して便宜を図ってもらうため当時の建設大臣に対する贈収賄事件(1996年)が発覚した.これを契機として,公共工事の入札・契約手続きにおいては透明性を確保することが必要であるとの認識の高まり,「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(以下,「入札契約適正化法」という)」が成立した.本法は,公共工事に対する国民の信頼の確保とこれを請け負う建設業の健全な発達を図ることを目的としており,基本原則として,(1)透明性の確保,(2)公正な競争の促進,(3)適正な施工の確保,(4)不正行為の排除の徹底,の4項目を明示し,各発注者に入札及び契約に関する情報の公表,施工体制の適正化に関する措置並びに不正行為等に対する措置等を義務づけた.また,各発注者が取り組むべき事項をガイドラインとして「公共工事の入札及び契約の適正化を図るための措置に関する指針」も定め,各発注者は,指針に従い,入札・契約の適正化を推進することとなった.


3.5.2 価格競争から技術力競争へ

(1)総合評価方式等技術提案を活用した入札契約方式

 競争性の確保,コストの縮減はいずれも公共工事の品質を確保することを前提としている.このため,1994年12月には「公共工事の品質に関する委員会」を設置し,品質確保に向けた検討が進められた.また,1998年2月には建設省で「公共工事の品質確保等のための行動指針」を策定した. 公共工事の発注者としては,「公正さを確保しつつ良質なモノを低廉な価格でタイムリーに調達し提供する責任『発注者責任』」を有している.その適切な実践のためには,「価格のみの競争」から「技術力を含めた総合的な価値による競争」への転換が必要であり,企業の技術力を的確に評価するスキームが重要と認識した.
 そのため,企業の技術力を的確に評価できる多様な入札契約方式を拡大していくことが重要であり,積極的でスピーディな施策展開を進めるために,ある程度の枠組みを整えた段階で現場において試行してみることが極めて効果的であるとされた.
 先にも述べたとおり,公共工事においては透明性,競争性の向上の観点から,一般競争入札の導入をはじめとした価格競争を原則とした入札・契約制度が採用されてきたわけであるが,これ以降,様々な入札・契約制度が試行されることとなった.
 さらに近年では,公共工事のコスト縮減を図りつつ,品質の確保を図る観点から,入札参加者の技術力を適切に評価し,適切な技術力を持った企業による競争を促進していくことが必要であるとされ,入札に参加しようとする企業の過去の施工経験や経験のみではなく,工事成績の評定結果を活用していくための環境整備が進められている.


(2)建設コンサルタント等の業務における取り組み

 一般に欧米諸国においては,コンサルタント業務の発注に際して,プロポーザル方式等の請負企業の技術力を評価する方式がとられているところであるが,国土交通省においても,技術的に高度なもの又は専門的な技術が要求されるものについては,1978年度より,プロポーザル方式が活用されている.1994年1月には,行動計画が閣議了解され,公募型プロポーザル方式が導入され,また,1996年より簡易公募型プロポーザル方式が導入されるなど,プロポーザル方式の拡大とともに,より技術的に質の高い業務成果が得られるよう制度の改善が図られた.
 さらに,1999年10月には「設計・コンサルタント業務等入札契約問題検討委員会」(委員長中村 英夫(武蔵工業大学))が設立され,入札・契約のプロセスにおいて,一層の競争性,透明性の確保等の観点から集中的な審議・検討が行われ,2000年3月には今後の基本的な枠組みと方向性を「中間とりまとめ」として取りまとめられた.
 これを受けて,受注する企業の技術者に重点をおいて評価する「技術者評価型プロポーザル」の導入(2000年12月)や,企業・技術者評価のための「業務成績評定要領」の策定(2002年9月)など,技術競争を重視した入札契約方式の拡大等を図る観点からの新たな取り組みが進められているところである.


3.5.3 電子入札の推進

 インターネットを通じて入札手続きを行う電子入札は,建設省が「建設CALC整備基本構想」を策定した1996年からCALS/EC(公共事業支援統合情報システム)の一環として取り組みを進めてきており,入札契約適正化法に基づく適正化指針にも位置付けられている.
 CALS/ECの取り組みは,建設省が1995年5月に設置した「公共事業支援統合情報システム(建設CALS/EC)研究会」(会長:大臣官房技術審議官)において調査・研究に着手し,1996年4月に「建設CALS整備基本構想」を策定するとともに,1997年6月には具体的に整備すべき内容を明らかにした「建設CALS/ECアクションプログラム」を策定した.さらに,省庁再編後の2001年5月には新たに「国土交通省CALS/EC推進本部」(本部長:事務次官)を設置して全省一丸となって取り組むこととし,国土交通省の前身である建設省,運輸省が個別に取り組んできた建設CALS/EC,港湾CALS,空港施設CALSを統一した「国土交通省CALS/ECアクションプログラム」を2002年3月に策定している.
 電子入札はこれらのCALS/ECの取り組みとして検討が進められ,2001年10月には建設工事及び建設コンサルタント業務の一部で試行を開始した.2002年度には様々な入札方式を対象にするなど試行対象を拡大し,2003年度からは,国土交通省が発注する建設工事及び建設コンサルタント業務において全面的に運用が開始されている.


[門松 武]

3.6 技術開発制度改革

 ここ10年において政府の科学技術政策は大きく進展した.まず,科学技術創造立国を目指し,科学技術振興を我が国の最重要政策課題の一つとして位置付けた「科学技術基本法」が1995年11月に成立した.それに基づいて,我が国全体の科学技術振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための根幹となる「科学技術基本計画」が,5年間の計画として1996年7月に閣議決定された.
 さらに,2001年1月の省庁再編によって,内閣総理大臣及び内閣を補佐する「知恵の場」として,我が国全体の科学技術を俯瞰し,総合的・基本的な科学技術政策の企画立案及び総合調整を行うことを目的に,従来からの科学技術会議を発展的に改組した「総合科学技術会議」(議長:内閣総理大臣)が内閣府に設置された.その後,2001年3月には,2005年度までを計画期間とする「第2期科学技術基本計画」が策定され,現在に至っている.
 国土交通省においては,「第2期科学技術基本計画」を踏まえ,2005年度までの技術研究開発の方向性を明らかにした「技術が支えるあす明日の暮らし 国土交通省技術基本計画」を2003年11月に策定した.本計画では,国土交通省としての最初の技術開発計画というだけではなく,「安全」,「環境」,「コスト」など国民の暮らしに関わる5つの目標を掲げ,これまでの作り手の視点から利用者の視点に立った技術開発へと大きく転換していることが特徴である.
 また,急速に変化する社会経済情勢に的確かつ早急に対応するため,建設以外の他分野を含めた連携を進め,広範な学際領域における建設技術革新を促進し,それらの成果を公共事業等で活用することを目的に,2001年度に建設技術研究開発助成制度を創設した.本制度は,大学等の研究機関の研究者等を対象に広く課題を公募し,競争的環境のもとで採択する課題を決定し研究開発費を補助するいわゆる競争的研究資金であり,2001年度から2003年度までに,応募総数215件,採択総数17件という実績をあげている.
 1972年度より建設省で実施してきた総合技術開発プロジェクト(特に緊急性が高く,対象分野の広い課題を産学官の連携により,総合的,組織的に研究を実施する制度)においても,効率的・効果的な社会資本整備や環境問題への対応,阪神淡路大震災に代表される地震災害対策等,昨今の技術開発に対する要求に対応し,生態系保全やコスト低減,災害対策をはじめとする19課題を新たに立ち上げ,それらの成果を種々の基準づくり,行政施策への反映を図ってきたところである.


[門松 武]



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