実行委員長挨拶

土木学会平成21年度土木学会全国大会を迎えて

「これからの日本の社会と土木」~利他行の土木~

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岡本 博
OKAMOTO Hiroshi

正会員
土木学会 平成21年度 全国大会実行委員長
国土交通省 九州地方整備局長

 平成21年度の土木学会全国大会は、来る9月2日(水)から 4日(金)の3日間、福岡市にある福岡大学七隈キャンパスを会場として開催いたします。

 九州での全国大会の開催は、2001(平成13)年に熊本大学で開催して以来8年ぶりとなり、さらに福岡市での開催となると、1993(平成5)年に九州産業大学で開催して以来、実に16年ぶりとなります。

 大会会場となる福岡大学七隈キャンパスは、福岡市の南西部に位置し、福岡市中心部から地下鉄で16分という距離にありながら、油山山麓北側の緑と水に囲まれた豊かな自然環境の中にあります。

 また福岡大学は、昭和9年(1934年)に福岡商業学校として創立され、今年で創立75周年を迎える記念すべき年にあたります。現在では9学部31学科と大学院10研究科32専攻、2万人を超す学生数を抱え、九州の私学で最大規模の総合大学として、その名声を高めてまいりました。

 今年度の大会テーマは、「これからの日本の社会と土木」として、これまでの土木と社会を振り返り、これからの社会に土木が果たす役割を皆様と一緒に考えていきたいと思います。

 土木の範囲は河川・道路・港湾・上下水道・鉄道・電力など幅広く、人々の安全・安心と豊かな暮らしは、これらの社会資本の上に成り立っています。20世紀後半の社会構造は、高度経済成長の中で、開発を基調とした社会資本整備が行われてきましたが、21世紀に入り、本格的な少子・高齢社会の到来、急速な経済のグローバル化、地球温暖化、環境や美しさを重視する国民の価値観の変化など歴史的な転機を迎えております。こうした時代背景のもと、昨今の社会資本整備・公共事業を取り巻く環境は厳しいものとなっており、土木のイメージが低下していることは、皆様の共通の懸念であろうと思います。

 一方、昨年末からの世界的な経済危機により、日本国内においても景気の後退による雇用危機が深刻な社会問題となっており、良質な社会資本を形成し、長期的な社会経済へのストック効果や雇用に対するフロー効果等をもたらす公共投資に対して、大きな期待が寄せられています。

 このような社会構造の転換期を迎えた今こそ、これからの社会に土木ができることは何か、もういちど原点に立ち返って、土木が果たす役割・使命を認識し、確固とした視点を持つことが必要だと思います。

 全体討論会では、この大会テーマについて考えます。その視点は多様ですが、土木技術者の原点とも言える、奈良時代の僧行基に焦点を当てて、行基が行った土木事業が、寺の外に出て、一般民衆を助けるために実践する行で、仏教の教えで言うところの利他行であり、この精神が土木の基本理念に相通じるという視点から、土木のあるべき姿に迫りたいと思います。

 大会行事としては、学術講演会、研究討論会、特別講演、全体討論会(パネルディスカッション)のほかにパネル展示及び国際関連行事が開催されます。パネル展示では、大会に参加する研究者、技術者だけでなく、市民の方々にも興味を持ってご覧いただけるよう、大会テーマに沿った幅広い視点から、土木のことを理解してもらえるような内容にしたいと考えております。

 土木学会全国大会は、土木学会の7つの研究部門が一堂に会する唯一の機会として、学会の最大かつ最重要行事でもあります。全国から一人でも多くの学会員に参加していただき、皆様の学術・技術の研鑚を積むとともに会員相互の交流、情報交換などを通じて、実り多い大会になりますことを祈念しまして、挨拶といたします。