台風21・22号 土木学会調査団 

第1回視察(平成16年11月2日実施)報告

視察参加者: 計11名


視察の概要

 本合同調査においては,台風21号(2004年9月28〜29日)による豪雨災害について,三重県,特に宮川水系(宮川村,伊勢市,度会町ほか),赤羽川(紀伊長島町),船津川・銚子川(海山町)における水害および土砂災害について,視察した.本豪雨災害は,小流域に極めて強く降るという豪雨災害の特徴を持ち注目されている.現地の案内は主に建設省中部地方建設局三重河川国道事務所所長田中茂信氏をはじめとする同建設局関係者に案内をお願いし,三重県県土整備部,同県紀北県民局および同県企業庁には現地にて,災害の概況及び当時の状況を含め,情報提供いただいた.ここに深く謝意を表す.

行 程

1.宮川 右岸氾濫(伊勢市中島・大倉地区
2.横輪川(宮川水系) 越水・破堤 (伊勢市津村・円座・上野地区) 
3.宮川 三瀬谷ダム発電管理所被災
4.宮川村 土砂災害(滝谷・唐櫃・小滝地区)
5.赤羽川氾濫(紀伊長島町,JR橋脚流失)
6.船津川氾濫(海山町,越水)

災害の概況

 三重県や愛媛県の一部を中心に,台風21号および秋雨前線の影響により,9月28日から29日にかけて集中豪雨に見舞われ,特に三重県内については国土交通省宮川観測所(三重県宮川村)では最大時間雨量119mm,累積雨量753mm,尾鷲(気象庁)では最大時間時間雨量131mm(観測史上第3位),累積雨量876mmを記録した. 累加雨量はいずれも9月の平均雨量を上回る規模であった.四国でも累加雨量で400mmを超えるところがあった.
 そのため,県内の河川では軒並み水防警報が発令され,国土交通省直轄の宮川では29日16時に岩出観測点において計画高水位を55cm上回る最大水位を記録し. 櫛田川,雲出川でも危険水位を超えた.これらの下流流域では,無堤区間での氾濫や,本川の水位上昇に伴う背水による支川の氾濫・破堤が相次ぎ,深刻な浸水被害をもたらした.また,三瀬谷ダムにおいては,ダム堤体直下のダム管理所が水位上昇と流木により被災した.さらに,上流の宮川村では,多数の地すべり・土石流が発生し,家屋・人名(死者・行方不明者7名)が失われ,深刻な道路遮断が発生した.また豪雨域には,宮川流域南側に隣接する赤羽川・船津川・銚子川の二級河川の流域も含まれたことから,これらの河川でも氾濫を引き起こし,紀伊長島町・海山町・尾鷲市において,床上・床下浸水あわせて2000戸以上という深刻な浸水被害をもたらした.紀伊長島町では赤羽川のJR紀勢線橋梁の橋脚1基が流失した.
 10月28日から29日にかけての豪雨による三重県内の被害の状況は人的被害として死者・行方不明者10名,建物被害として全壊46棟,半壊23棟,一部損壊39棟,床上浸水2,532棟,床下浸水3,316棟であった.さらに,道路の損壊・冠水・河岸決壊,・埋没・冠水,鉄道等の不通,ライフライン(電気16,000戸以上・水道3000戸以上)・電話の停止など,その被害は限られた地域であったが甚大であった. 公共土木施設被害としては,河川97件,道路83件である. 被害金額では11月2日現在,公共施設災で4,300億円,各種産業において計8,900億が見込まれている.円県,地元市町村,関係機関,ボランティアなどの参加も含め,関係者が復旧作業に取組んだ.
 


1.宮川 右岸氾濫(伊勢市中島・大倉地区)
 宮川本川7km〜10.5km右岸での溢水による浸水被害について,三重河川国道事務所による説明を受けた. 右岸側のこの区間は山付き無堤区間となっており,県道22号沿いの中島・大倉地区の一部が,本川水位の上昇により冠水した.最も低い所で1.5m以上の冠水となり,場所によっては泥の堆積数cm程度みられた.左岸は堤防区間であるが,天端まで約1m以上残しており,越水することはなかった.
 また,蛇行湾曲区間にあたり,最高水位の痕跡から左右岸の水位に傾きがあることがわかっている. 
宮川の出水の概要:
 降雨状況:雨量記録によると,9月28日から29日の降雨は,宮川雨量観測点地点において119mm/hr以上の激しい豪雨となり,岩出水位観測点での水位は,29日15時には計画高水位を超え.16時にはそれより55cm高い水位を記録した.これにより,下流域では,無堤区間での溢水や,本川からの背水による支川での溢水・破堤等が多数発生した.

1m以上冠水した地区(公園近く)

泥の堆積

7km右岸無堤区間(中島地区)

対岸水位痕跡(

2.横輪川(宮川水系) 越水・破堤 (伊勢市津村・円座・上野地区)
 

 三重県県土整備部の説明を受けながら,宮川支川横輪川(二級河川)の宮川合流点付近(伊勢市津村・円座・上野地区)での越水・破堤状況について視察した. 
 宮川本川の水位上昇に伴い,横輪川下流域の水位は9月29日12時頃までに急激な上昇が続き,樋門等から堤内地への浸水もあったが,14時前後に左右岸で越水したことにより, 伊勢市津村・円座・上野地区の住宅地および水田耕作地が被災した.右岸では破堤し,16時頃までに越水によって起こったものとみられている.住宅地での浸水深は右岸で2.3m,左岸で2.9mとなり,床上浸水71戸,床下浸水7戸の深刻な浸水被害が生じた.

説明を受ける調査団
(パラペット堤防の上を約25cm越水)

左手前の家のピロティー天井の上
約20cmまで浸水した.

横輪川(奥が合流する宮川)
(本川からの背水による被災)

右岸破堤部(復旧対応済み)

破堤部(堤外側)

復旧堤の台風23号による侵食

すべり破壊部分(多数見られた)

浸水域の範囲(三重県説明ポスター)

3.宮川 三瀬谷ダム発電管理所被災  
 

 宮川本川の三瀬谷ダム(三重県大台町)の発電管理所の被災を,三重県企業庁の案内で視察した.

 本ダムの上流域においては,28日21時頃から29日昼頃にかけて700mm以上の降雨があり,明豆地点では,過去最大時間雨量125mmを記録した.本ダムでは28日23時頃から放流を開始し,29日10時頃には流入流量が計画高水流量毎秒4,650立方メートルを超えた.データの流失により,現在検証中とのことであるが,5,000m3/sは超えたであろうと見られている.29日11時前に,ダム直下流の発電管理所への浸水から全員避難し,11時過ぎには冠水・水没したとみられている.
 発電管理所は,主に下流本川の水位上昇により冠水した.また,ダム堤下流で水平渦により,流木が建屋の壁面を破壊した.
 

三瀬谷ダム(左手前の建屋が発電管理所.建屋の半分の高さまで冠水した)

ダム下流(水位最大時,トラス下端を越えた)

水没した発電管理施設

流木により破壊させた外壁

4.宮川村 土砂災害(滝谷・唐櫃・小滝地区)
 

 航空写真からは,宮川ダムより下流から,天ヶ瀬までの流域で集中して発生したことがわかっている.道路等から県が確認しただけでも60箇所以上とのことであった.視察では,滝谷・唐櫃・小滝地区における,人的被害・家屋の被害が発生したものを見た.後の検討(梅津教授)の中で,主に3つのタイプの土砂移動の現象が起こっており,(1)山腹崩壊,(2)尾根からの崩壊の発生,(3)谷筋の土石流,があり,人命・家屋に被災をもたらしてないものが広く発生していることがわかっている.

(1)唐櫃(2箇所)
   いずれも谷筋に発生した土石流.
   発生当時避難しており,死者はいない.
(2)小滝 (1名死亡)
   やや谷的な地形の山腹で崩壊した.
   国道を封鎖した.一部土砂・流木が宮川本川まで到達.
(3)滝谷第2崩壊地(4名死亡,1名不明)
   下端に人家と急傾斜揚壁のあった山腹での崩壊であり,谷部ではない.
   崩壊した部分の最大厚さは5m以上であり,そのすべり面でも,強く風化した岩がみられた.
   すぐ近くの他の谷筋で発生した土石流跡は新鮮な岩であったことから,
   水による深部への風化作用が局所的にあったのではないか,とみられている.
   滝谷第1崩壊地は,谷筋で発生した土石流であり1名が死亡した.
   

小滝崩落地(対岸,手前は唐櫃2地区)

唐櫃2地区(斜面)

唐櫃2(家屋跡,奥は宮川)

滝谷2地区(手前の急傾斜擁壁,家屋は流失)

すべり面の斜面を望む(強く風化している)

風化した岩(すべり面)

滝谷2対岸の土石流(新鮮岩が出ている)

宮川本川(濁りが残っている)

5.赤羽川氾濫(紀伊長島町,JR橋脚流失)
 

 紀伊長島町,海山町の被災については,三重県紀北県民局建設部の案内を受けながら視察した.これらの地域は,宮川流域に南接する地域となり,豪雨域がその境界を南北にまたいでいる.
 紀伊長島町を流域とする赤羽川(二級河川)での主要な被災は,JR紀勢線の橋脚1基が流失し,1ヶ月以上不通となった.視察当日は,すでに仮復旧対応が終わっていた.
 赤羽川流域では,三戸地点で総雨量1189mm,時間雨量最大151mm,3時間で401mmの猛烈な雨量を記録した.下流部の出垣内地点において,堤防高とほぼ同じ7.42mを記録し,9月29日午前11時前後をピークとして,下流部・中流部では,広く越水・氾濫した.老人福祉施設で約100名が孤立し,自衛隊による搬送を受けたほか,住宅は床上浸水が127戸,床下浸水が37戸の被害が発生した.
 マスコミでの報道が殆どなされていないが,豪雨域となった上流域での土石流・山腹崩壊が広く発生し,河道に広く土砂が堆積し,一部では支川の橋脚が埋没した地点もあるとのことであった.
  

赤羽川災害に関する説明を受ける調査団

JR紀勢線橋梁(赤羽川)仮復旧済み

6.船津川氾濫(海山町,越水)
 

 海山町は主に船津川と銚子川(ともに二級河川)の流域で成っているが,旧来は銚子川による被災が顕著であった.しかし本豪雨では,その雨域の分布により,船津川での出水が顕著となった.下流域の前柱地点では,堤防高を約1m越水し,町役場が深刻な浸水被害を被った.
 中・下流域での氾濫により,死者2名,床上浸水1504戸,床下浸水114戸の被害があった.また,
 出水低減時に,堤内側水位が河川水位より高くなったことで,逆破堤部が1箇所見られた.
 河口部は,砂州による閉塞があったが,出水時にフラッシュされたことが確認されている.

海山町役場前で説明を受ける調査団

逆破堤箇所(土嚢部分)

役場(見えている書類は,水につかり干されているもの.1階の机の上まで冠水した)

横線(記入)のあたりまで痕跡が見られる.
(役場向かいの建物内部)

 

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