3.2 熊本県水俣市深川新屋敷地区
(1) 被害概要
 災害の種類:斜面崩壊・土石流。湯出川に面する南西側斜面が崩壊し土砂流が発生した。
 発生時刻:平成15年7月20日(日)04時15分ごろ
 被害状況:死亡者4名,住家全壊5棟,半壊2棟
写真-3.2.1 深川新屋敷地区被災現場の空撮
(7/21:国交省九州地方整備局)
写真-3.2.2 深川新屋敷地区の被災状況
(2) 災害発生状況と地形・地質
 湯出川に面する南西側斜面が標高250m付近で崩壊し,標高90m付近の緩斜面まで土砂が流下した(写真-3.2.1〜3.2.3)。標高差約160m,流下距離は水平約300m,斜距離約340mの土石流である。崩壊幅は,崩壊部や流下部では10m程度であり,堆積部で20m程度である。平均勾配は約30度であるが,下部斜面で25°,中部斜面で30°〜35°,上部斜面で40°〜45°と上部ほど急傾斜となっている。特に崩壊部付近は50°に近い。標高110m付近から下部斜面となっており,民家や畑が分布する。
 地質的には,凝灰角礫岩の上部に安山岩が分布する構造であり,その境界は明瞭ではないが標高220m付近と判断される。よって,崩壊は上記地質境界に近い安山岩分布域で発生した可能性が高い。崩壊地を含む斜面には,表土や崖錐堆積物が1m〜2mの厚さで分布しており,上記の安山岩や凝灰角礫岩を被覆している。また,凝灰角礫岩と岩錘堆積物の間に火砕流堆積物が挟まれている(写真-3.2.4)。今回の崩壊は,この表層部分が崩壊したもので途中の斜面の土砂をはぎ取りながら流下したと推定される。凝灰角礫岩は,斜面下方ではかなり風化し軟質化しているが,斜面中腹では比較的新鮮な部分も確認された。安山岩は,崩壊地の約50m北側に崖を形成しているが,崩壊地付近では亀裂に沿って風化が進行し緩んだ岩盤ないしは崖錐堆積物に近い性状である(写真-3.2.5)。最上部の崩壊は表層崩壊であるが,崩壊部付近は弱い谷地形を呈しており滑落崖の上部にはガリーが形成されている。かなりの流水があったものと推定される。崩壊もこの流水が関係した,すなわち流水による侵食が進行したことが直接の原因とも推定される。また,写真-3.2.6に示すような地下水の噴出孔もみられた。流下した土砂は,河川まで達せず直前の水田で停止している。流出土砂量が少なかったことや下部斜面が人工的な階段状の地形になっており家屋と合わせて減勢させる役目を果たした可能性も考えられる。新屋敷地区周辺は,山頂部に安山岩溶岩が分布する地質構造であり,安山岩の形成する急崖が尾根を取り巻くように連続している特徴がある。今回の崩壊地以外でも,この急崖下部を頂部とする斜面崩壊が発生しているのが見えた範囲だけでも数ヶ所で確認された。
写真-3.2.3 流下部の状況
幅約10mで杉をなぎ倒し、表土を削っている
写真-3.2.4 斜面下方の露頭
凝灰角礫岩と崖錘堆積物の間に火砕流堆積物
(ハンマーの部分)が挟まれている
写真-3.2.5 崩壊部の直ぐ下に露出する安山岩
割れ目に沿い風化が進行し、一部は土砂化している
写真-3.2.6 地下水の噴出したと考えられる孔
その上部から染み出した水で湿っている

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