調査報告 第一報


1. 白河市公設市場での洪水被害

 阿武隈川とその支流である堀川の合流付近で8月27日及び30日の2回にわたり決 壊(幅200mほど)し、浸水による被害が出た(図-1参照)。ここは、自然堤防であ り、河川改修計画によるに堤防は整備されていない。約1平方km の範囲で地盤から約 1.5m程までの高さで冠水し、市場の物資や施設に大きな被害が出た。ところが、現地 調査を実施すると、通常の冠水被害では考えられないような状況が見られた。図ム1 の黒色点線で示す場所で、基礎の洗掘による建物倒壊や2mを超える地盤の侵食である (写真-1参照)。通常、破堤箇所近くでは流速も早いために、建物の一部破損や地 盤の侵食が見られるが、冠水域の下流では、水の勢いも弱まり水面がゆっくり上昇し ていく為に、このような状況は見られない。現在推定している原因が、本流である阿 武隈川の水位と浸水域の地形にあると考えている。つまり、集中豪雨が終わった後、 本流の水位は徐々に低下していたが、冠水した場所はプールのように水が停滞してお り水位はそのままであった。図-1中の黒色点線で示す地点は築堤工事が途中かまた は終わっていた場所であり、河川への唯一の出口となっていた。そのために、本流の 水位低下と共に、この付近の水塊がすべて1点に集中したものと考えられる。部分倒 壊したアパートの壁に残された洪水痕跡を下に流速を推定すると約3.5m/sにも達して いたことがわかった。幸い、付近に住民がいなかったために人的被害がなかったが、 思いもかけない被災パターンであった。(98.9.5:9.11修正、今村記)

図-1写真-1

2. 福島県西郷村での土砂被害

 西郷村小田倉にある障害者施設「からまつ」荘の施設が土砂で埋まり、5名が犠牲に なった。地滑りが起こったのは8月27日朝4時50分頃であり、当時室内での見回 りは行われていたが、野外での監視はなかったようである。当初(現地調査前)、建 物のすぐ裏山の斜面が崩壊したものと思っていたが、実際に土砂くずれが起こったの は、140m程離れた山の中腹であった。くずれた土砂は約10〜15度の緩斜面を滑り落ち 、建物を直撃したものと思われる(写真-2参照)。「からまつ」荘以外にも2箇所 で地滑りが見られたが、いずれも土砂崩れは低い位置で起こっており、建物も「から まつ」荘より斜面から離れていた。 「からまつ」荘の中で被害を受けた建物部分は、廊下により斜面側とその反対側の部 屋に分かれており、斜面側の部屋で睡眠をとっていた4名が犠牲になっている。この 内3名は同じ部屋に畳の上で休んでおり一瞬で土石流に呑み込まれた。一方、違う部 屋でベッドの上で休んでいた方は土石流の中に取り込まれずに押し流されように外へ 出されたという事である。たたみとベットの高低差はわずか50cm程度であると思われ るが、この高さの違いが生死を分けたと思われる。(98.9.5.今村記)

写真-2

3. 阿武隈川上流部での被害の特徴

 阿武隈川では、過去に昭和61年8月に洪水被害の経験を持つ。これ以降、河川改 修が行われ、今回本流での破堤による被害はなかったが(現在確認している範囲で) 、一方、支流と本流との合流部や河川の湾曲部において越水、破堤や大規模な侵食が 見られ大きな被害が出ていた。前者の例が白河市公設市場周辺での浸水であり、後者 が西郷村羽太橋の落下である(写真-3参照)。羽太橋のすぐ上流では大きく河川が 湾曲しており、さらに農業水用の堰があった。堰を越えた濁流はダムを流下するよう に活きよく流れ落ち、湾曲により遠心力が加わって、相当に早い流速が生じたものと 思われる。その結果、橋を支える陸側が侵食され橋桁が落下したものと考えられる。 (98.9.5.今村記)

写真-3

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