■ 土木学会第107代会長 就任挨拶
2019年6月14日
令和元年、これからの時代に必要な土木を考える
平成が終わり「令和」の時代が幕を開けました。土木学会も新たな取り組みに向け動き出そうとしています。創立100周年(2014年)では、「あらゆる境界をひらき、持続可能な社会の礎を築く」という100年ビジョンが宣言され、行動計画JSCE2015が策定されました。2019年はJSCE2015最終年度として、これまでの活動を振り返り、成果と課題を取りまとめるとともに、次代へつなぐ行動計画JSCE2020を策定していく年になります。
さて、土木界においてはいまだかつてない大変革の時を迎えています。
第一に、昨年6月の大阪府北部地震、7月の西日本豪雨、9月の台風21号、北海道胆振東部地震など気候変動の影響等により、各地で激甚化した自然災害が頻発しています。また、南海トラフ巨大地震、首都直下地震などの発生も懸念されています。こうした自然災害や巨大地震に対し、早期の防災・減災対策が求められています。
このような中、国は昨年12月に7兆円の「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」をとりまとめました。今後、この緊急対策を着実に実施することはもちろんですが、土木学会としても防災・減災の取り組みをハード・ソフト両面から進め、安全・安心な社会形成に努めていく必要があります。
第二に、我が国のインフラは高度経済成長期に集中的に整備され、それらは今後急速に老朽化していきます。建設後50年以上経過するインフラの割合は今後加速度的に高くなる見込みであり、それらを適切にメンテナンスすることは極めて重要です。適切なメンテナンスを行えば、長寿命化は可能であり、経年100年を越えるインフラも相当数あるものと思われます。このような状況の中、特に地方自治体が抱える膨大な数のインフラをいかにメンテナンスしていくかが最大のポイントであり、その仕組みづくりがこれからの課題であります。
第三に、我が国は深刻な人口減少と急激な少子・高齢化社会へ進展していきます。総人口は2008年をピークに減少を続け、2050年には1億人にまで減少すると推計されています。子どもの人口についても2019年には1,500万人となりピーク時から半減しています。すでに各産業間で限られた新規人材の争奪戦が始まり、建設産業においては「担い手確保」が喫緊の課題となっています。
担い手の確保には「働き方改革」や「生産性の向上」を着実に進める必要があります。「働き方改革」では長時間労働の是正や週休二日制の実現、さらには賃金アップなど労働環境の抜本的な改善を行なう必要があります。さらに、若手、女性、シニア、外国人等広範なダイバーシティの推進や、それに向けた環境整備も必要です。「生産性の向上」では、調査・測量から設計・施工・維持管理までの、あらゆるプロセスでIoTやAIを活用し、ロボット化や最新技術を駆使して飛躍的に生産性を向上する必要があります。
第四に、日本経済はアジア諸国の目覚しい発展の陰で相対的に地盤沈下しており、経済の低迷は否定できません。今後50年、100年先を見通して日本経済を持続的に成長させるためのインフラ投資を考える必要があります。このような状況の中、今後の日本の成長エンジンとして期待を集めているのが、スーパー・メガリージョン構想です。リニア中央新幹線の完成により、東京〜大阪間は1時間強で結ばれ、人口7,000万人の巨大経済圏が現出します。この巨大経済圏を支えるのが、リニア中央新幹線、北陸新幹線などの鉄道インフラ、新東名や新名神、大都市圏の環状道路などの道路インフラ、さらには4つの主要国際空港と2つの国際コンテナ戦略港湾などの航空、海上インフラであり、これらに対して集中的な投資を行なう必要があります。また、スーパー・メガリージョンと地方中核都市や地方都市を結ぶネットワークも強化する必要があります。このスーパー・メガリージョンの形成は、現在の東京への一極集中の是正にもつながります。
そのほか、インフラの海外展開は国を挙げて推進しているところであり、そのための環境整備や人材育成も行なっていかなければなりません。
そして、これら多岐にわたる活動について、広く国民・市民に情報発信するとともに、国民・市民からの意見にも耳を傾け、相互理解を深めながら進めることが肝要です。
これらの課題認識のもと、私としてはこれまで培ってきた鉄道技術者としての視点から、今後のメンテナンスやインフラ整備のあり方について議論を深め、情報発信していきたいと考えています。
土木学会は、年代・職域・性別の異なる多くの方々で構成されています。これらさまざまな能力を持った方々の力を結集し、この変革の時代の多くの課題に果敢に取り組んでいきたいと思います。今後とも、会員の皆さま方のより一層のご協力とご支援を賜りますようお願い申し上げます。
Last Updated:2019/06/14