土木学会誌7号モニター回答
環境リスク管理の現状と課題

 「コストあたりのリスク削減効果の比較」が本稿の主要課題の一つだと思います。しかしながら、実際にはコストありきから始まる環境汚染リスクの管理手法は難しい面が多いと思います。特に本稿がもう一つの主題としている「リスクコミュニケーション」の場であれば、ほとんどそうした議論は出しにくいのではないでしょうか。
 経験的なものいいで恐縮ですが「コストあたりのリスク削減効果の比較」ができるのは、環境リスクに関わる全ての選択肢が、利害関係者間で受け入れ可能なレベルの範囲内にある場合に限られるのではないかと思います。つまり、どれをとっても大したことはないという認識にたってのものであって、関係者の一部にでも、その状態がクリティカルであると思われれば、例え疫学的な有意差などの根拠を幾つも示しても、合意形成は困難ではないでしょうか。
 環境汚染リスクに限った場合は、【個人的なリスク・見えている影響期間・実施することとその結果の間の不確実性】という組と、【社会的な不安全・見えていない評価期間・確率的であるが確実な影響】という組の間で、議論を分けなければ、リスクの評価やマネジメントの提言が難しいように思います。
 本稿では、そこのところを整理する意図がないのでやむを得ないことなのですが、やはり理解しにくいし、他の記事におけるリスクマネジメントの扱いとは異質な議論になっている感じがつきまといます。生活者にとって最も日常的で身近なリスクでもある環境汚染リスクが、あまりリスクマネジメントのシステム的な面では扱われていない、遅れているように感じられました。そこがこの記事の主旨かも知れませんが、少し残念です。
(伊戸川環境総合企画 伊戸川善郎) 
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