土木学会誌7号モニター回答
特集 リスクマネージメント入門

 この特集により,リスクマネージメントの内容と必要性を理解することができた。また,リスクを認識せずに何も対策を講じないのと,認識した上でマネジメントの方法として対策を講じないのでは,その意味が全く異なることを改めて認識した。
 最近,天災だけでなく,企業の人災事故によるリスクの発生を,多く耳にする。企業がリスクマネジメントを行えば,企業活動は,社会に安全を保証した上での効率の追及になる。今後,天災によるリスクに加え,日常的な企業活動におけるリスクに対してもマネジメントが必要になるものと思われる。
(鹿島建設 新保裕美)

 私たちの身近で、事件、事故、災害が毎日絶え間なく発生している中にも、あらゆる分野においてリスクが存在することを再認識しました。 そして、それに対するリスクマネージメントがどのように実行されているか、また、そのリスクマネージメントに対して責任を担うべき人々が、実は人任せにしているのが現実であることを記事から知ることができ、認識を新たにしました。
 今回の特集は、土木とその周辺分野に関し、それぞれの分野ごとの手法を身近な事例を用いて説明してあり、大変理解しやすかったです。
 今後、世間一般で問われている問題を「土木分野では−−−−」という視点からとらえたような特集を組んでもらえることを期待します。
(熊谷組 道村未佳)

 今回の特集を一読してリスクマネージメントの難しさを痛感するとともに面白く読ま せて頂いた。ただ今回の特集に国土計画、地域計画のトピックがなかったのは残念であった。首都移転問題にしてもリスク分散の視点が盛り込まれているはずであるし、 第二東名、名神高速道路の計画も同様である。
 また、ISO14000シリーズは環境リスクのマネージメントの能力をしめすはずが、環境 面ですすんだ企業であることのお墨付きとしてひとりあるきしてしまっているのではなかろうか。業界の中でも先導的役割を担ってきた荏原製作所の藤沢工場によるダイオキシン汚染とそれによるISO返還を決定したことは記憶に新しい。環境汚染を引き起こさないようにマネージメントすることは勿論重要ではあるが、万が一起こってしまった場合でも適切に処理する能力も同時にISOの中に折り込まれているはずである。
 このような認証=お墨付きという間違ったただすこともリスクマネージメントを普及 させていくには必要なことだと考える。 (大阪大学 松村暢彦)

 リスクマネージメントについて、ここまで学問的に確立されたものであることに驚き、勉強不足を反省し、同時に新しい時代の土木技術者としてありたいという新たな意欲を感じました。内容については、入門としてあらゆる角度からの解説であり、一度にはとても理解できるものではなく、自分の専門分野から「実効ある導入」に向け勉強しなければと思います。本誌においても、具体的な事例紹介等を含めて機会があれば解説をお願いします。
(ジオスター 田中秀樹)

 研究分野では、以前からリスク分析の意義や枠組みが提案されていた。最近の災害や環境問題からリスクマネージメント導入の必要性が認識されてきたときに、このような特集が組まれ、興味深く読ませていただいた。リスクの定量化では、基本的にリスクの起こりやすさと、その影響度により構成されるが、「土木やその周辺分野への適用」において、リスクマネージメントでは、それぞれの分野で、さまざまな枠組みが考えられることが分かった(リスクマネージメント・リスク評価の流れが、著者によって異なり、統一的ではなかったように思えた)。ただしリスクマネージメントの特徴や効用を、より理解するためには、従来の手法と大きく異なる点が示されると良かったと思う。従来の方法と比較し、リスクマネージメントを導入することにより改善できる点と、かかってしまうコストとのトレードオフ関係なども知りたかった。また「リクスマネージメントは重要であるが、多くの企業にとって決定的な要素ではない」ことからも、導入による問題点があったかどうかも知りたかった。「あらかじめリスクを軽減する方法を用意しておくことにより、より大きなリスクに対してチャレンジすることが可能になる」というように、リスクマネージメントを前向きに捉えた枠組みがつくられると良いと思った。
(長野工業高等専門学校 柳沢吉保)

 土木構造物を建設する際、土質、地震、台風等の自然条件に関係するリスクがまず頭に浮かぶ。しかし、特に海外プロジェクトにおいては、計画段階から運転までを見た時には、単に自然条件だけでなく社会条件や住民対応等のリスク、さらに、カントリーリスクやプロジェクトリスクと呼ばれている種々のリスクを考え、その軽減策を常に考慮しプロジェクトを運営していくことが重要であることがわかった。土木技術者だからといって狭い範囲のリスクだけでなく、経済関係や災害、施設・設備の運転上のリスクまでを考えることの重要性を強く感じました。
(千代田化工建設 野本 均)

 今回の特集は、21世紀の社会資本整備を進めていく上での政策決定過程において、その骨格を成すと思われるリスクマネージメントについて、多角的な視点から11編にわたり、わかりやすく解説されており、入門編として大変ためになる内容だった。
 特に、リスクマネージメントを土木プロジェクトに適用する際の要点がまとめられている「リスクマネージメントとは」(小林潔司京大教授)は、21世紀の土木技術者が、自然、社会、経済に関わる複雑な内容を持つ土木プロジェクトのリスクマネージメントを他人任せにしてはいけないこと。金融分野のデリバティブの基本方程式(放物型偏微分方程式)と有限要素法による圧密方程式との対比を例に、リスクファイナンスとリスクコントロールというリスクマネージメントの手段を土木技術者自ら技術開発し、人材育成を進めていくことの必要性と意義を本質的な視点から論述されており、インパクトのある内容であった。
(北海道開発局 梅沢信敏)

 建設業に携わる者にとって、リスクマネ−ジメントは常に業務にかかわる課題です。
 客先との契約やサブコントラクタ−との契約にいかにリスクを最適配分できるかが問われ、また工事遂行における監理業務はまさに、リスクマネ−ジメントであると感じます。されに、契約時においては、工事完成後の保証期間に発生するかもしれない瑕疵に対するリスクまで考える必要があります。
 残念ながらリスク分析の過程でどうしても主観的判断によらざるを得ない点があり、最終的には事業環境等を考慮した上で、経営者の判断により決定がなされる現実があるように思えます。
 今後は、建設事業者にとって、成熟した建設市場の中で、新規事業を開拓するには、リスクがある程度予想される案件に挑戦していくこと、また、PFI事業に用いられるようなプロジェクトファイナンスを導入する機会が増すことにより、リスクマネ−ジメントが官民双方にとって、より重要性を増していくことと感じます。
(千代田化工建設 工藤正一)

 土木分野に関連する防災面を考えると大変面白い企画だと思われる。しかし土木工学に関心を持っている多くの方は,それぞれの分野及び関連での技術に関心を持っておられると思われる。そういう観点からは,巻頭論説及び1.のリスクマネージメントの発想の内容は興味あるものであった。それ以後の手法等の詳しい内容は,土木工学分野を専門としながらもごく一部の専門分野を研究している方には,あるいはより専門的に研究していくならば必要であると思われる。またそのような後者の手法までの掲載をしなくても前者の文でリスクマネージメントの必要性は理解でき,専門学会が紹介されているので関心ある方はレヴューができたと思われる。
(福山大学 梅田眞三郎)

 伊豆諸島周辺での連発地震,某一流食品会社による食中毒事件など,リスクマネージメントの重要性が叫ばれる中,今回の特集は興味深いものであった.建設業界を取り巻くリスクは複雑であり,それらに適切に対応したリスクマネージメントを我々技術者自身も行う必要があることを再認識することができた.
(住友建設 高橋直樹)

 3年ほど前に米国の大学教授によるコンストラクション・マネージメント研修の機会を得た。我々が工事を請け負った場合に当然行うべき施工計画、施工管理、工程管理、原価管理などというお馴染みの内容が盛り込まれていたが、その考え方が微妙に異なっており、とても新鮮な印象を受けた。中でもリスク分析は工程や予算をはじめとして様々な場面に応用されていた。
 不確定な要素や変動要因などをある確率分布に当てはめて、モンテカルロ法で期待値を算出(定量化)するという手法は、例えば防波堤直立部の期待滑動量を用いた信頼性設計法などのように、我が国でも取り扱われることが多くなってきた。考慮すべき各要素がどのような確率分布で表されるかといった根拠付けなどにまだ数多くの課題が残されているが、今後色々な場面に応用されるべき将来性のある分析手法であると考える。この特集をきっかけにして、今後直面する問題への適用を考えてみたい。
(五洋建設 水流正人)

 「リスクマネージメント」というと何やら難しそうな印象を持っていたのですが、本特集を読んでその要点がつかめたような気がします。特に興味を持ったのは、自然災害リスクの証券化によるリスクファイナンスです。阪神大震災や北関東・南東北地方の洪水など近年の大災害を見るにつけ、ハードによる対策や個人の自助努力には限界があると感じています。その一方で、我が国のように自然災害の多い国でこのような手法が有効に機能していくのか、まだ不透明な部分が多いようにも思います。今後も関連の記事を期待します。
(京都大学 市川 温)

 リスクマネージメントという言葉は、今回学会誌に掲載されたことによりはじめて意識して心に止めた。今まで、内容的にはある程度認識はしていた。建設業界は、社会資本整備を担う性格上、何か事故・災害等生じた場合国民生活に多大な影響を与えることとなる。確かに記事の中にも述べられている様にいくら気おつけていても事故・災害は起きるわけである。これを防ぐために多大の予算・資金を投入すことは資本主義経済の中では不可能である。かといって、基本的なスタンスとしては「災害ゼロ」を目指すこととしている。この両者を如何に調整・整理して行くかが今後のリスクマネージメントの課題である様に感じる。
(中電技術コンサルタント 佐々並敏明)

 土木におけるリスクマネージメントの問題が,アセスメント(評価),ミティゲーション(低減),ファイナンス(財政),といった多角的な観点から網羅的に議論されており,まさに入門と呼ぶにふさわしい内容だと思いました.全ての土木事業が将来における事業である以上,全ての土木事業がリスクを常に念頭におくべきである,という点も強く納得しました.また,これらの工学的視点からのリスクへの関わりだけでなく,土木事業の社会的受容,あるいは,社会的な合意形成のためにも,一般の人々と専門家との間のリスクコミュニケーションが必要であるとの議論されており(例えば,専門家からのリスクの十分な伝達と一般の人々のリスク解読力の必要性),これからの土木計画を考える上で示唆に富んだ内容だったと思います.
(京都大学 藤井 聡)

 各論文それぞれで、リスクの捉え方やリスクマネジメントの位置づけが様々であり、若干混乱して読みにくかった。全体像があればよかったかもしれない。予測誤差についてのきちんとした記述があることが、とても評価できると思った。
 土木の分野でリスクマネジメントが「遅れている」という認識であることに驚きを感じる。例えば何百年に一度という大災害に対して河川補修をする、というような場合の判断は、リスクマネジメントでなければ何なのか。
(京都精華大学 角野有香)
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