土木学会誌5月号モニター回答

特集 土木遺産は、世紀を超える

 この特集を読ませて頂き、土木文化そのものの一般市民への広報不足を感じている。 木の未来は次世代に生きる子供達の土木への憧れ次第であると日頃から考えており、高度経済成長期に育った私達とは別の経済的な制約を受けながらの土木事業の進め方は、このような土木遺産或いは土木文化を如何に分かり易く説明、広報するかの私達の方法にかかっていると思われる。 今回の特集記事の内容を一般の可能な限り多くの人に読んで知って頂きたい。 
 鹿島建設梶@中込國喜

 土木構造物は、美術作品ではありません。その土木構造物が遺産となってくれる事はすばらしい事です。もともと、橋や道路など何らかの役割を果たすために作られたものが、本来の役割を終えても、もしくは本来の役割を果たしながらまた別の価値を生み出しているのです。遺産になるという事は「物」であった土木構造物が、長い年月を経て環境と調和し「作品」になるという事ではないでしょうか。今自分たちが建設・管理している「物」が「作品」となる日が来て欲しいと思います。 
 首都高速道路公団 福田朋志

 旅先でまたは出張先において昔整備されたインフラに出会うと、その時代の生活、息吹、技術者の情熱に触れたようで、とても楽しく好奇心を満足させられる。一方、100年後の人々は、我々が行っている現在の公共事業に対して、我々がこれまでの土木事業や技術者たちに感じるのと同じ思いを抱くであろうか。特集を読みながら、土木技術を学び、実践している者として若干の不安を覚える。特集においてこれまでの土木遺産についてだけでなく、このような視点で現在の土木事業についてコメントが欲しかった。 
 外務省 酒井浩二

 高度成長期が過ぎ、老朽化した土木構造物が増えはじめて、維持・補修というテーマが目立ち始めた現在に、「遺産」として捉えた今回の特集は、全国各地でいろいろと工夫をして保存・活用を図っている状況がよくわかって面白かった。 本来要求されていた機能が満足に果たせなくなったことを認めた上で、価値観の方向転換、再利用を図るというのは、多くの市民が土木構造物への「愛着」を感じてこそはじめてできることだと思うし、インフラの再整備に市民意識を反映させやすい事例だと思う。 ただ設計に携わる者としては、旭橋のように「ある事自体が当たり前の日常風景」となって、あまり手を加えない自然な形で、自分の設計した構造物が、いつまでも残ってくれることを期待してしまうのは、身勝手な話なのだろうか?
 北海道開発コンサルタント梶@田中雄太

 土木遺産に関する新しい表彰制度が創設された。論じられているように、これまで「縁の下の力持ち」として影ながら生活を支えてきた土木の「普及・広報活動」のひとつとして有力だと思われる。  土木遺産の広報として、一般社会に対してどれほどの情報を発信すべきか、あるいは関心を寄せられるかわからないが、遺産の現役時代の効果や先達が成し得た成果、先人が使用した当時の先端技術、製作・工事の過程、解決した技術的困難などアピールすべき点は多々あると思う。  表彰にあたっては基準や根拠とともにそれらの情報が十分に示されることを希望する。是非データベースが構築されることを期待したい。  ただ、地域づくりへの活用についても触れられているが、今回の特集が"土木遺産は社会に有益だから存在し続けるという発想のもとに"展開されており、逆に土木遺産とその保存がが地域づくりの制約にならないように願う。 
 国土庁 中本 隆

 建築物と比べて注目されることの少ない土木遺産についての多面的な記事は魅力的であった.私としては,明治以後の近代土木技術の遺産よりも,5-3信玄堤や3-1玉川上水など近世やより古い土木遺産に興味をひかれた.今回の特集では,保全や活用が中心であったが,土木技術の革新が歴史や文化に与えてきた影響(例えば潅漑による農業生産の増大)について記事も載せて欲しい.
 大阪府立大学農学生命科学研究科 夏原由博

 今回の企画もなかなか興味深かったと思います。しかし、そのアプローチが主に計画的な分野や文化的な方向にとどまっていたことは残念だと思います。年月を生き延びた土木遺産には、それだけで技術的な面で我々が学ぶ根拠があるのではないのではないかと思います。我々がこれから作る構造物に期待する目標の寿命を達成した構造物がそこにあるわけですから、そこから古きを知り、それを新しき構造物に生かしていくべきではないでしょうか。また、LCC的な面からそれらの遺産を逆解析し、評価していくというのも、評価手法そのものの発展のために有効なことではないでしょうか。また、ヨーロッパの国々は都市を再生して行くときに、外観を残しながら内側のみをリフレッシュしたり、極端な場合は戦災で破壊された町を元通りの外観で再建したりしているようです。そのような行動は、我々とは多少違った考え方というかこだわりでなされているのでしょうが、そのような他国での動きも書いていただけたらと思いました。アクアラインや明石大橋も今は新品でもいつの日かは土木遺産です。私たちは、莫大なお金をインフラに使いながら、子孫に遺産を本当に残せるのでしょうか。 
 新日本製鐵(株) 冨永知徳

 土木遺産の学校教育的な意義については、十分に取り上げられていなかったが、それについても忘れることができないと思う。特に昨今の学校教育では、「総合的学習の時間」がホットな話題であり、学校や地域に立脚した学習内容が求められているこの「時間」では、身近な土木遺産は格好の教材となりえるからである。 
 金沢大学 伊藤 悟

 この記事を読み、歴史的遺産よりも近代の土木構造物のことを考えた。4月号の「対談 新世紀のコンクリートを考える」ともリンクするが、最近の報道に見られるコンクリート構造物に対する世間の不信感は、土木技術者として放っておくことは出来ない。高度成長期のような突貫工事を強いられる状況化でも品質の良いコンクリート構造物を造らねばならなかったように思う。今後も工期の制約の中、コンクリート構造物を造っていかねばならないが、後世の人々に、「負の遺産」と言われるものだけは造らないようにしたい。出来れば、本当の「遺産」を構築していきたい。 
 日本鉄道建設公団 松田康治

 土木構造物は、神社仏閣と異なり、それ単独ではなかなか文化遺産として価値を見出しにくく、土地にすむ人々の思い入れや山や川などの周辺風景と一体で評価されるため、土木遺産としての評価・判断基準があいまいなものにならざるを得ない感がします。本特集からも、試行錯誤しながら評価方法や保存再生方法の整備を進められている現状が伝わってきます。私は、本特集を通じ、"文化"という抽象的で概念的なものに対して、"工学"的な具体的な視点をどこまで具体的に盛り込めるかということに、この事業の容易ならざるものを感じました。
 新日本製鐵梶@佐野陽一

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