土木学会誌6月号モニター回答
土木学会誌の表紙について

 毎月届く貴誌を手にして、まず見るのは表紙である。表紙は昨年までの写真から図面に変っている。  明治期の土木技師たちが精魂かけて製図した図面である。墨入れし、着色したそれら図面は精緻できれいだが、決して絵画でなく今も生き続ける土木構造物や社会資本の設計図である事実に、圧倒させられる。  現代土木の最先端技術を駆使した長大橋や治水施設を上空から、地上から撮影した工事完成写真が表紙を飾る技術雑誌は、過去の貴誌以外にも多い。「要するに、こういうモノを造ったんだ」ということで、写真は見やすさの点で非常に優れているが何か味気ないものも感じていた。  一方、明治期の技術者の、技術の凝縮である図面を掲げた表紙には「迫力」と感じる。設計者の悩み・思考、施工者の工夫が、にじみ出ているからだろう。  現在の設計や製図も迫力ないどころか、当時より複雑な構造系の設計に対し正確で多様な解析手法を駆使でき、また製図だって精緻なものがそれも瞬時にできる。いうまでもなく、コンピュータのソフト、ハードの普及のおかげである。  しかし、設計成果の大量生産を期待される体制下において、設計と製図を一設計者が行い、その成果に自分の工学的考えを反映させるという本来望ましい設計体制というものを、現在の多くの技術者が受注業務の中で具現化するのは簡単ではない。したがって、現代のCAD図面を掲載したからといって、読者が迫力を感じるかどうかは疑問だろう。  貴誌が届くと、まず表紙を見て巻頭論説の裏の設計者や事業の説明を、一時むさぼり読む。このような貴重な図面や資料を雑誌の表紙にして、提供してくれることは非常に有意義なことだと思う。編集の方に感謝している。  願わくば、年間に表紙で写真を掲載しても、12枚の図面である。特集などで、または出版物で、さらに多くのこれらを紹介していただけるといいと思う。われわれ技術者は、過去のこれら図面や設計成果に学ぶ点も多いはずである。これらを収集−公開−活用といった「ライン」に乗せながら後世に伝えたい。
(株)桜井測量設計 飯野己子男

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