土木学会誌4月号モニター回答

対談 新世紀のコンクリートを考える

 この対談の結論を一言で言ってしまう事を許されるならば次のように言えると思う。すなわち、コンクリ−トは、「生物である」と。人間の赤ちゃんでもそうであるが、いくら優秀な親から産まれても、十分な栄養と十分な愛情と適した環境の中で育てられなければ、立派な人間にはならないと言う事である。もし、どこかの国の子供たちのように、0歳〜3歳までの、脳の発達に一番重要な時期に、地下壕に押し込められ、親や他の人間の愛情に十分に触れることなく育った子は、その後、いくら栄養や愛情を養父母から与えられても、何らかの障害を持ってしまうのである。コンクリ−トも、配合は適正でも、材齢が若いうちに、きちんとした施工と養生がなされなければ、その後いくらメンテナンスを施しても、耐久性の低い、弱いコンクリ−トになってしまうのである。この事を避けるために、自己充填コンクリ−ト(私は、ハイパフォ−マンスコンクリ−トとして学生時代学んだ)を紹介され、さらに、照査の方法として、今まで分かっていながら、なかなかその具体化が難しかった耐久性の予測手法をご提案されていることは、素晴らしい進歩であると思った。昨今のコンクリ−トに関する一連の報道に対する土木屋としての一つの回答であるようにも思えた。今後は、設計段階からメンテナンスも考えた、より長寿命のコンクリ−ト管理システムを確立していく必要があるようにも感じた。なぜなら、コンクリ−トが使われている土木構造物には、国民の生活を根元で支えているものが多く、それを大改修すると、国民に非常に大きな不利益を生じさせるからである。
(日本鉄道建設公団 松田康治)

 示唆と教訓に満ちたお二人の話題、そしてうまくリードされた聞き手があいまって、特集の冒頭を飾るにふさわしい内容だったと思います。
(伊戸川環境総合企画 伊戸川善郎)

 対談の中で岡村先生が「土木学会で技術者資格を認定して技術者を評価することを考えている」と言われていましたが、単に資格を作るだけでなく、資格のレベルに応じてその処遇を明確に差別化して欲しいと思いました。レベルの高い資格を取得した人に対して大きな権限を与える事により、より魅力的な資格制度が構築されるのではないかと考えます。
(大成建設(株) 松原洋明)

 トンネル崩落自己と関連して、何が原因なのか大学の後輩に聞かれることが最近多い。対談の内容は、その答えも含めて様々なことが数ページにまとめられており、非常に興味深かった。わかりやすい説明で、おそらく初心者であっても、何らかのイメージをつかむことが出来たであろう。しかしながら、土木周辺での最新の話題が少し少なかったように思う。産・官・学の三者がいかに協力をしていくかという話し合いの中で、教育現場ではインターンシップを導入して大学を5年制にしようとする動きがあることなどは、大学に在籍しているだけの私でも知っていることである。もっと踏み込んで、最新の話題も取り入れて話をして欲しかった。対談の内容は、コンクリートをそれほど専門に学んでいない現場の施工技術者に対して、最低限知っていて欲しい内容が多くあるように感じた。対談の趣旨と反するかもしれないが、大切な内容に関して解説の欄を設けて深いところまで掘り下げることができたらよかったように思う。
(鳥取大学 里田晴穂)

 本記事中における両先生の技術者教育に対する熱意および危機感に大いに感銘を受けました。その一方で、先生方から見られた私ども若手技術者のレベルは、そんなに低いものなのかと正直ショックでもありましたが、こうした率直な御意見を伺いありがたく思いました。しかし、私自身は、土木教育も技術レベルも決してダウンしているようには思いません。ただ、土木工学は一種の経験工学的要素をもっており、分業化が進むにつれ"現場"などを実際に体験する機会が少なくなり、経験不足からくる未熟さが技術者のレベルダウンに繋がっているのではないかと考えます。本記事にもありますように、土木学会が、学校では学べない生きた技術者教育の場として、また技術者全体のレベルアップを支援する場として、これまで以上に重要性を増すものと期待します。
(新日本製鐵(株) 佐野 陽一)

 コンクリート問題に興味を持つ土木屋が一番期待していたメンバーではないでしょう
か。いろいろな意味でスリリングな気分で読ませていただきました。ただし、この対談から見えてきたのは、現在のところ「分析」と「反省」が過去に対する総括であり、「システム」と「教育」が未来への提案であるということに、コンクリートの課題が未だ内在されているような気がします。もっとも、それこそがコンクリートのまさに永遠の本質的問題なのかもしれませんが。コンクリートに対する時間からの挑戦はまさにこれから始まったものであり、もっと、新しく、かつ能動的な技術アプローチが考えられないものかなあ、と自分の中に課題感を持ちました。
(新日本製鐵(株) 冨永知徳)

 本対談は、現在のコンクリートの材料、施工、社会制度、技術者のあり方等について、歴史的、社会的背景をふまえて行われており、技術者の端くれとして、非常に興味を持って読ませていただきました。
 会社や組織の技術力といったものは、言うなれば、技術者一人ひとりの技術力の集大成なわけです。現場に従事すれば、その場で様々な問題を、皆何らかの形で対処し、解決してきているわけですから、要は、このノウハウを如何にシステマチックに組織が吸い上げ、これを展開するかが重要となってきます。今でこそこの取り組みは盛んに行われつつありますが....。ともあれ、21世紀を目前にした今、土木構造物を安心して次世代に残すべく、全社会的なシステムを構築することが急務だと感じました。
(住友建設 技術部 山本哲也)

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