漢那 肇(Hajime KANNA)
正会員:土木施工研究委員会委員長・片山ストラテック株式会社 代表取締役
副社長
1.はじめに
21世紀迄わずかとなる中,本格的な高齢化社会を迎える前に社会基盤を整え
るという必要性は依然として高いものがある.
しかし現今の経済・社会情勢から今までのペースでの投資を続けることは望
むべくもなく,既存のやり方では社会基盤整備に大変時間がかかるといわざるを
得ない.
また,災害への備えという緊急を要するものがある一方,環境への配慮,自
然との共生等コストアップ要因になるものも多く,限られた投資の中でいかに効
率よく社会基盤整備を進めるかが大きな課題となっている.
人々が豊かで安全な社会の実現を望んでいることは当然のことであり,その
夢を実現させるために建設技術開発がどんな役割を果たせるか市民工学であるシ
ビルエンジニアリングの真価が問われているといっても過言ではない.
この様な時宣を得て,土木施工研究委員会,建設マネージメント委員会との
共催で研究討論会を持った.
21世紀の社会基盤整備の推進に対し,我々を取り巻く環境の変化を折り込み
,建設技術開発はいかにあるべきかについて検討を行った.
2.話題提供の概要
それぞれの立場より主張ないし話題提供があった.
堀井秀之(東京大学工学部教授):21世紀の技術開発:納税者に魅力的な公共事業の提 示とそのための技術開発
技術開発を行うに当たっては,納税者への理解,すなわち納税者にとって魅 力的で,説得力を持つ公共事業を提供することが必要である.この際,コンセプ トの提示,本質部分の提示,メカニズムの調査を行うことが必要になる.また, 今後の大学の役割としては,基礎的研究が工学的問題解決にどれほど重要である かを実証しなければならない.
渡辺和足(建設省大臣官房技術調査室長):21世紀の社会基盤整備に向けての建設技術 開発のあり方
建設技術開発会議において,21世紀の建設分野における技術研究開発の方向 性としては,安全と安心の確保,経済活力の維持,自然生態系と地球環境の保全 ・回復,多様な交流・連携のためのネットワーク化の推進,国際社会への貢献が 必要であると報告されている.また,公共工事の品質確保等のための行動指針中 間報告より,品質確保等のために,発注者と民間の技術の結集(VE方式,DB 方式,特許工法の活用,建設コンサルタントにおける技術競争の拡大),ISO9000 シリーズ等の公共事業への導入,CALS/ECの公共事業への導入,技術者資格へ の海外との相互認証が必要であると報告されている.
高津浩明(東京電力建設部建設企画グループマネージャー):21世紀の社会基盤整備に 向けての建設技術のあり方
電力界は,バブル崩壊後景気の長期低迷,経済の低成長と言った状況下で, 電力料金の値下げの要請,電力規制緩和の推進・競争原理の徹底より発電市場, 流通設備の自由化が図られた.東京電力土木部門では,技術開発ニーズの掘り起 こしとセーズの調査・分析,課題の抽出,各課題の順位付け,予算を踏まえた課 題の選定によって研究開発テーマを選定し,土木・建築技術センター,研究所, 社外委託において研究開発が行われている.
石橋忠良(JR東日本建設工事部担当部長兼構造技術センター所長):建設技術開発の ありかた
JR東日本では,線路近接工事のコストダウンと安全施工,鉄道施設の機能 アップと設計,施工技術を主な技術開発分野として,開発目標を明確にした上で 開発専任者,プロジェクト担当者により開発を進めている.今後は,地上設備の 高架化,地下化,設備の改良,延命,メンテレス化,健全度評価,検査の省力化 を積極的に行っていく予定である.また,官・学・民相互の共同開発を推進する とともに,建設会社の技術開発においては,トータルコストダウン,信頼性の高 い施工法の開発が望まれている.
田中豊明(土木施工研究委員会特定委員長・佐藤工業):建設各社に対するアンケート 調査結果
土木施工研究委員会に参加している29の建設会社に技術開発に対するアンケ ートを行った.調査結果として,各社の技術開発の現状については,技術開発担 当者数は約半数が減少傾向にあり,研究開発費は過去3年間変化のないことろが 半数を占めた.開発された土木技術の活用・普及・展開については,開発技術の 実績作りを優先している.将来の予測としては,社会基盤整備のスピードの推移 は遅くなるという予測が多く,公共投資額の推移は減るという予測が多い.今後 の技術開発分野としては,環境・エネルギーに関するものが多かった.官,学へ の期待については,建設技術開発において国は指導的役割を,大学等の教育機関 は人材育成,基礎研究に加えて実用教育,学際研究,社会人教育と言った役割を 期待している.
3.討論
技術開発というテーマは非常に範囲が広いので「しくみ」「分野」「インセ
ンティブ」の3つの切り口で討論が行われた.
「技術開発のしくみ」
◎官・学・民の役割分担
◎官・学・民・共同研究の充実と人的交流の活発化
◎民間技術活用の為の評価方法の確立
◎競争原理を導入し,民の活力に期待
◎先端的基礎研究は官主導
「技術開発分野」
◎ソフト技術
・合意形成の為の技術
・何が起きるか予測し,シュミレーションする技術
・妥当性,環境影響,波及効果等の評価技術
◎環境保全
◎エネルギー
◎防災
◎部門の壁を越え,広範な分野を巻き込んだテーマ
◎コストダウン
「技術開発のインセンティブ」
◎商売の道具としてメリットがある様に実際の使用の促進
◎技術入札方式(VE提案)でいい技術が受注しやすくなる制度
◎技術に対して費用を払うシステムづくり
◎1社の特許でもいいものは使用
◎評価方法の確立
4.質疑応答
・今の技術審査は適正な評価が行われていないのでインセンティブがないので はないかと言う指摘に対しては,企業の客観的な技術力評価は難しく,現在どう したら高められるか模索中であるが,実績を評価するために発注者自身の評価能 力を高めることが必要であるとの回答があった.
・環境保全の高度化とはどういうことかという質問に対しては,電力事業は山 間地に施設を創っているため,残土処理等の問題を独自の方法により,環境保全 に対応できるよう研究開発に費やす費用について考える方針である.
・品質保証するしくみを適用するためには建設会社に求めることは何かという 質問に対して,建設省では,開発技術の安全性を保証するための試験結果等のプ レゼンテーションがあれば使用し易く,東京電力では,得意分野における独自性 とコンサルタントを受け入れる柔軟な姿勢を望むという回答があった.
・日本の技術開発を,外国企業と比較した場合どうかという質問に対して建設 省では,国内と比較して材料が良く安価であれば外国材料を使用するが,労務は オープンでないため難しい.JR東日本では,基本的に安価であれば使用も検討 する.しかし,設計においては性能型ならスペックが変化すると積算体系等,発 注システムも変化することになる上,施工において工期の遅れが見られる場合も あるため信頼性に問題がある.安全性等,全権を委ねるのは問題があり,工法は 安全でも人命にかかわることもあるため,むしろ委託できるしくみを提示してい く方が必要ではないかという意見も出された.
・学術論文と工学論文に何を期待するかという質問に対して,学術的論文は学 術的で役に立たないとのことだが本来そういうものであり,工学的工夫を行い良 いものを作ったという場合,論文とは別に掲載するべきである.予算なり,時間 なり限られた中で現場で行われたものが良い研究になり,それを多く持っている ところが良い会社ということになればよいと考えているとの意見が出された.
5.おわりに
今回のテーマについては大変に間口が広く,意見が出尽くせなかったと思わ
れるが,活発な議論がなされ,全員が共通の認識をもつことができた.
人々の夢を実現させる為の土木工学の役割の重大さ,そして技術開発に対す
る建設会社の役割の大きさも改めて理解された.
今日のご意見を参考とし,土木施工研究委員会,建設マネージメント委員会
等でさらに検討を進めていきたいと考えている.
パネリストの方々,討論に参加された方々,アンケートなどにご協力いただ
いた方々に,深甚な謝意を表したい.