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※このページの内容は土木学会誌2005年8月号に掲載されたものを一部修正したものです。執筆者の肩書きは執筆時のものです。

デザイン賞選考小委員会委員長 内藤 廣


 今ではご存知の方は少なくなったと思いますが、前川國男という建築家がいました。代表作は上野の駅前にある東京文化会館。戦後建築の巨匠で、その重厚な作風は一世を風靡しました。今年は生誕百年に当たり、大きな展覧会が予定されています。わたしもその展覧会開催の委員の一人です。先日、その会合に委員長である大谷幸夫さんがお見えになりました。大谷さんは、かつて東大の丹下健三研究室の中心人物で、その後都市工学科の教授をされた方ですが、丹下研でありながら前川國男に深く私淑されていました。寡黙なお人柄で、めったに言葉を発しません。その大谷さんが前川國男と丹下健三について珍しく語られました。
 君たちは本当に彼らのことを理解しているのか。彼らは、戦時中、止むにやまれぬ時期を過ごしてきた。その頃のあの人達の葛藤には想像を絶するものがある。そのすさまじい葛藤を経て戦後の設計があったのだ、と。どうすればこの国を建て直すことが出来るのか。西欧発のモダニズムを受け入れながらも、それにただ膝を屈して従うのではなく、この国独自の文化としてどのように昇華できるのか、設計もデザインもそうした必死の問いかけだった、ということを話されました。大谷さんの語りかけは、戦争を知らない世代への暖かい励ましだったと思っています。
 土木の先達の思いも同じだったのではないかと思います。戦後が風化する中で、戦争を知らない世代は、あらためて先達が過ごした時代とその心情を思い起こす必要がある、と強く感じました。何故なら、今、時代が大きく様相を変えつつあるからです。私見を述べれば、本当の意味での戦後の終わりがようやく始まりつつあるのではないかと思います。60年前を思い起こし、60年後を見つめる想像力が求められているのです。

 世の中の動きが少しずつ変わりつつあるのを感じます。ともすれば、これは明るい兆しが見え始めた景気の動向によるものと考えがちですが、私はそうではないと思います。これまで我が国のあらゆるシステムは、右肩上がりの高度成長を前提として組み上げられてきました。つまり、拡大傾向の社会を60年間ひたすら作ってきたのです。2005年、我が国の人口は初めて縮小傾向に転じます。これからは減り続けていって、百年後は今の半分ぐらいの人口になると言われています。次の百年を睨んだ日本社会の大きなモデルチェンジが始まっているのです。まだ不確かなものですが、明らかにこれまでとは異なる質の社会が産声をあげつつあるのを感じます。社会の動きはゆっくりと変わります。時として、目に見えないほど少しずつ動きます。しかし、どのようなわずかな動きであっても、決して押しとどめることは出来ません。
 少子高齢化、地方都市の衰退、首都圏の都市再生、地球環境問題、インターネット、携帯電話、金融のグローバル化、テロ、歴史問題など、われわれの身の回りの話題を俯瞰すれば、トピックには事欠きません。こうした事象は、絶えず日常生活に働きかけて変化を促します。日常生活を不安定なものにしようとします。
 しかし、人々の感情はそう簡単には変わりません。感情こそは一個人に属していて、すべての事象をそう簡単には取り込むことは出来ないからです。理性は物事の理解とともに整理がつきますが、感情は自ら納得しなければ動かないからです。感情は、ゆるやかに状況を内省していくのです。社会はそうした感情の集合体です。いわばこの集合的無意識を土台として、ゆっくりと変化していくのです。デザインや美しさは、この感情に働きかけるものです。風景や景観の善し悪しは、人々の感情に根ざしたものです。言い方を変えれば、デザインや美しさこそ、この集合的無意識に働きかけて、本当の意味での社会的な合意を生み出すことが出来るのです。本当の意味での社会変革の現れとなることが出来るのです。

 先に挙げたようなさまざまな事象に取り囲まれた人々の感情は、何を求めているのでしょうか。それをこの時代のエンジニアやデザイナーは、どのように理解し、どのような姿形で社会に送り出そうとしたのでしょうか。それを問い、さらに有用なツールとして鍛え上げる場が土木学会デザイン賞です。
 デザイン賞は出来上がったものに優劣をつける場です。このことに土木はまだ慣れていません。誉められれば嬉しいし、誉められなければ悔しい、これは極めて自然な心の動きです。挑戦には成功と失敗がつきものです。勇気を出す必要があります。誉められるとは限らないからです。しかし、デザイン賞は切磋琢磨する場所です。挑戦なくして進歩はありません。後世の人が見ています。時代の転換点に当たって、この分野の意欲や志が試されているのです。たくさんの応募を期待します。 

デザイン賞選考小委員会事務局

 本賞は「土木学会景観・デザイン委員会デザイン賞(略称:土木学会デザイン賞)」として2001(平成13)年度に創設され、今回で5回目の開催になります。これまでの応募・受賞件数は、第1回64件に対して最優秀賞5件と優秀賞12件、第2回40件に対し最優秀賞3件と優秀賞10件、第3回33件に対し最優秀賞4件と優秀賞6件ならびに特別賞1件、第4回27件に対し最優秀賞2件と優秀賞7件をそれぞれ授与いたしました。

本賞の特色
 本賞は、(社)土木学会田中賞、(社)日本建築学会、(社)日本造園学会等の設計関連の諸賞の長所を取り入れながら、独自の選考方式を採用しています。すなわち、公募対象を公共的な空間や構造物に広く求めるとともに、新たに創出された空間・構造物はもとより、計画・制度の活用や組織等の活動などに創意工夫がなされたことで景観の創造や保全が実現した作品も含まれます。特に、作品自体を表彰するというよりも、当該作品に貢献した人物・組織(本賞では「主な関係者」と称する)に対し賞を授与するものです。
 したがって、褒章の対象者は、建設部門に属する方に限定せず、計画・制度の立案者をはじめ、積極的に貢献した行政担当者、NPOやNGO等の団体組織などさまざまです。

公募と褒賞の対象について
 本賞の対象には、道路・街路・広場・公園・駅舎・河川・海岸・港湾・空港等の公共空間をはじめ、橋梁・堰堤・水門・閘門・堤防・護岸等の構造物などが含まれます。
こうした公共空間や構造物等において、特にその周囲との景観的・空間的関連の持たせ方や、当該の空間・構造物の機能的要請などに対して、美的にどう解決したかという観点に照らして優れた作品を公募しています。
公募にあたっては、本賞の特色・応募要件や選考委員の「選考のポイント」を満たすと思われる作品を募ることとし、当該作品に従事した方々(主な関係者)からの応募とともに、広く一般の方からの推薦作品も受付けます。

応募要件
 ○竣工後2年以上経過(今回は2003年8月31日以前に竣工)していること。
 ○申請者(主な関係者)のうち1人以上が土木学会の「個人会員」であること。

選考の流れについて
 選考にあたっては、7名の選考委員で組織された「デザイン賞選考小委員会」によって次の流れで実施されます。
1)規定審査:応募作品の書類形式・応募条件等の審査。
2)一次選考会
 書類での審査。本賞の趣旨や各選考委員の選考ポイントに照らして、応募作品が一定の水準に達しているか審議。
3)二次選考会
 選考委員による応募作品現地評価に基づいて、最優秀賞と優秀賞を選考。現地評価では、応募書類に示された内容と現状とを照合するほか、スケール感や周囲との関係性などを調査。なお、応募作品の中で、すでに社会的に高い評価が定まっている秀逸な作品には「特別賞」が授与される。

応募手続きとスケジュール
 応募手続に必要な募集要項、応募書類書式、応募方法、選考方法などの詳細は、景観・デザイン委員会のWEBサイト(http://www.jsce.or.jp/committee/lsd/prize/)をご参照ください。
◆全体の流れ
1)一般からの推薦(期間:2005年7月1日〜8月15日)
2)エントリー(期間:2005年7月1日〜9月5日)エントリー期間を延長しました。
 上記のWEBサイトを通じてエントリーを実施。
3)応募書類送付(受付期間2005年9月1〜13日/消印有効)
 応募にあたり「主な関係者」の選定や事業者・設計者・施工者等の関係者間の調整に多くの時間を要するので、早めの調整を薦めます(これが理由で応募断念の例もある)。
4)選考の実施(期間:2005年9月〜2006年1月)
5)選考結果公表:2006年2月上旬頃にWEBサイト上にて公開。
6)授賞式および受賞者プレゼンテーションの開催
 2006年5〜6月頃に実施予定。その際、選考委員による講評および参加者らによる自由討論も行う。
7)作品選集2005の発行(6)の式典で販売/1冊1,000円)

みなさまに作品の推薦についてご協力のお願い
上述したように、本賞では応募に相応しい作品を一般の方から広く募っておりますので、積極的にご推薦くださるようお願いいたします(詳細はhttp://www.jsce.or.jp/committee/lsd/prize/recommend.htmlを参照)。推薦対象作品は、当該作品の関係者に応募依頼書を送付いたします。

本賞に関する問い合わせ先
デザイン賞選考小委員会事務局宛にお願いします。

● 2005年度デザイン賞選考小委員会事務局・運営幹事会
主査:岡田智秀(日本大学)/幹事:江本智一((株)長大)、中村泰広((株)鹿島)、八馬 智(千葉大学)、福井恒明(東京大学)、星野裕司(熊本大学)

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