Declaration
※このページの内容は土木学会誌2004年8月号に掲載されたものを一部修正したものです。執筆者の肩書きは執筆時のものです。

デザイン賞選考小委員会委員長 内藤 廣

 
昨年から,デザイン賞の審査に当たるという重い役割を引き受けています。今年は,杉山委員長の後を受けて,委員長という大役を担うことになりました。例年,この賞の審査は,審査過程で活発な議論が戦わされます。委員長の役割は,議論を活性化し,その内容を高め,応募作に対する認識を深め,委員が公平な目で審査に当たれる環境を作ることにあると思っています。わたしの専門は建築ですから,異色の委員長と思われるかも知れません。その自覚のもとに,審査には偏りがないように注意を払いたいと思います。一方,この賞の巾を広げる意味では,新しい風を送り込むこともできるかも知れません。

 デザイン賞は今年で4 年目になります。土木学会という堅いイメージの学会活動の中にこの賞が誕生したのは,画期的なことであったと思います。4年前までは,一部外者として土木学会や土木分野を外から眺めていたわけですが,デザイン賞が誕生したのはまことに時宜に叶ったことであり,学会の懐の深さを感じさせるものでした。
 公共事業を中心とした土木と民需を中心とした建築には深い溝があります。工学的には近接した分野でありながら,それぞれまったく異なる文化を育んできたといってもよいと思います。今はデザインが若者の間で人気があります。なかでも建築は若者の大きな関心事の一つです。もちろん,公序良俗からみれば,建築の百花繚乱は功罪相半ばするところです。我が国の風景がかくも乱れたのは,建築分野が責を負う部分が多いことは肝に銘じなければならないところでしょう。しかし一方で,我が国の建築デザインの先鋭的な部分が,西欧諸国と互角あるいはそれ以上の評価を受けていることも事実です。
 この状況を作り出したのが賞の存在です。建築分野での賞の存在が,建築デザインのみならず建築界の発展に大きく寄与したことは,まぎれもない事実です。大きな賞としては,建築学会賞作品賞,建築家協会新人賞があります。それ以外にも,いくつも特徴のある賞があって,新人からベテランまで,良い仕事をした人が褒められる機会が多いのです。褒められた人は悪い気はしませんし,受賞後に良い仕事に恵まれる機会も増えることになります。それ故,建築の設計を志す者なら,誰でも賞を取ることが大きな目標になります。
 なかでも,建築学会賞作品賞は最も権威のあるもので,これを目指して建築家はだれしも切磋琢磨するのです。それ故,論文等の他の学会賞より数段重い価値があるという印象があります。意外に思われるかも知れませんが,この賞もはじめから現在のような賞だったわけではありません。1949年に設立された当初は,応募数が少なく,内輪の賞といったところから始まりました。徐々に関心が高まり,2004年度の応募数は100点を越え,推薦なども合わせると200点以上の中から選ばれる賞に育っています。
 わたしも審査にあたったことがありますが,応募作はまったくの玉石混淆です。すばらしいものからこんなひどいものをよく恥ずかし気もなく,というものまであります。それ故,たくさんの応募の中から数少ない玉を如何にして取り上げることができるのかが,審査員の能力ということになります。過去の受賞作を見ても,あきらかに見る目のない審査員ばかりだった,と思われる年もあります。それでも,全体として誰もが追い求めるような権威を保てたのは,例年選ばれる作品の何点かは,ある程度時間が経過してみると,やはりその時代を代表するような建物であることが広く認識されているからです。そこに,審査員の大きな意味での良識が働いているのです。選定にはいろいろ議論もあるでしょうが,デザイン賞もこうした良識を積み重ねていくことがなによりも重要だと思います。

 賞には当落があります。選ばれれば嬉しいし,落ちれば悔しい。ですから,応募するのにいささか躊躇があるのも当然です。落ちれば恥ずかしいし,面子や立場もあります。土木の場合は公共事業がほとんどですから,関係する人も多いし立場も様々です。面子や立場にこだわれば,怯む気持ちも分かります。しかし,この壁を乗り越えていただきたい。美しい風景を生み出すには,自らの仕事を評価の場に晒す勇気が必要です。至らなければ,次の機会により高いレベルのものを目指せばよいのです。応募してみなければ分からないこともあります。何故,選に洩れたのか,至らなかった点や他の応募作の良い点を深く考えるようになります。対象がデザインですから,審査には審査員の主観も混じります。
 新任の委員長として読者の方々にお願いがあります。応募数を増やしてほしいのです。応募数が多ければ,それだけ選ばれたものの価値も高まります。選考委員会としては,多くの応募が競う中からより優れたものを選び出したいという思いがあります。
 昨年は「美しい国づくり政策大綱」,今年は「景観法」と,時代の潮流は明らかに新たな方向へと向き始めています。政策大綱で示された「量から質へ」という流れは,今後の大きな指標が示されたのだと思います。「景観法」の成立は,この流れを現実のものとする最低限の道具立てが用意されたということです。これからは,実践の場で,土木デザインが本当に世の中のニーズに答えることができるかどうかが試されるのだと思います。
 建築や都市に関する諸団体は,アピールをまとめるなどこの動きに呼応する対応を始めています。本当に豊かな社会を作り出すには,啓蒙することだけでは足りません。いくら大声で叫んでも,いくら法整備をしても,一般の人は実感として分からないからです。ですから,よい事例を示すことがどうしても必要です。賞というのは,世の中に向けてよい事例を示すということです。この機会を捕らえ,土木デザインをおおいに称揚しようではありませんか。デザイン賞が盛況であるかどうかが,政策大綱や景観法に対するこの分野での対応や関心高さを示すことにもなります。この賞を通して,我が国の土木デザインを,世界に誇れるレベルに押し上げようではありませんか。

デザイン賞選考小委員会事務局

 本賞の正式な名称は「土木学会景観・デザイン委員会デザイン賞」(略して「土木学会デザイン賞」もしくは単に「デザイン賞」)である。2001 年度に創設し,今回が4度目の開催となる。第1回は64 件の応募に対し5件の最優秀賞と12 件の優秀賞を,第2回は40 件の応募に対し3件の最優秀賞と10 件の優秀賞を,第3回は33 件の応募に対し4 件の最優秀賞と6 件の優秀賞および1 件の特別賞を授与した。

公募と褒賞の対象について
 本賞では,道路・街路・広場・公園・駅舎・河川・海岸・港湾・空港等の公共空間や,橋梁・堰堤・水門・閘門・堤防等の構造物を対象として,特に,その周囲との景観的,空間的関連の持たせ方や,当該の空間・構造物に対する機能的要請を美的にどう解決したかという観点に照らして,優れた作品を公募する。
 本賞では,空間や構造物の形態を発想し,あるいは形態や空間全体を一つにまとめあげるに際して実質的に貢献した人々に敬意を表したいと考える。したがって,褒賞の対象者は必ずしも設計部門に属する人とは限らない。その形態が計画段階の発想に多くを負うている場合,施工部門からの助言に多くを負うている場合,さらには計画や制度の運用,組織の活動などによって価値ある形態もしくは景観が保全された場合などが考えられ,事業者や施工者,計画や制度の立案者,非営利組織(NPO,NGO)
など褒賞の対象者はさまざまである。

本賞の特色
 本賞は,土木学会田中賞,日本建築学会,日本造園学会等の設計関連の諸賞の長所を取り入れながら,独自の選考方式を採用している.まず,公募対象を広く公共的な空間や構造物に求めている.新たに生み出された空間や構造物だけでなく,計画や制度の活用や組織の活動により景観創出や景観保全がなされたような場合も対象に含まれる.ただし,土木空間や土木構造物を竣工直後に評価することは難しいとの考えから,公募対象は竣工後2年以上経過したものとしている.今回の公募は2001年8月31日以前に竣工したものを対象とする.
 また,応募資格は「主な関係者」のうち1名以上が土木学会個人会員(学生会員,正会員,フェロー会員)であることである.
 公募に際しては,選考委員がそれぞれの選考のポイントをあらかじめ公開することになっている(次ページ参照).選考過程や結果は,Webサイト,学会誌,各種メディアなどで公表され,授賞作品は「作品選集」に掲載され,Webサイトでも紹介される.

選考の流れについて
 選考は7名の選考委員によって組織された「デザイン賞選考小委員会」によって行われる。
 まず規定審査によって応募書類の不備や応募条件などがチェックされる。規定審査通過後,一次選考会(書類審査)において,本賞の趣旨および各選考委員の選考のポイントに照らして,応募作品が一定の水準に達しているかどうかが審議される。一次選考会後には選考委員が分担して現地調査を行い,応募書類に示された内容と現状とを照合し,あわせてスケール感,周辺地域との関係を含めた作品の評価を行う。二次選考会では現地調査の結果に基づいて最優秀賞および優秀賞に該当する作品を決定する。ただし最優秀賞は該当なしとなる場合もある。また2003 年度においては特別賞1 件が選定された。この賞はすでに社会的に高い評価が定まっている作品に与えられるものである。

応募手続きとスケジュール
 募集要項,応募書類の書式,応募方法,選考方法の詳細は,景観・デザイン委員会のWebサイト(http://www.jsce.or.jp/committee/lsd/)に7月1日より掲載する.
 応募に際し,まずE-mail によるエントリー手続きをお願いしている。エントリー期間は7月1日から8月15日まで,応募書類受付期間は9月1日から9月13 日(消印有効)である。 応募にあたり,「主な関係者」の選定や事業者,設計者,施工者等の間の調整に比較的時間がかかることが予想される。エントリー後に関係者の調整が間に合わず応募を断念した例もあるので,早めの調整をお願いしたい。
 選考は9月から1月にかけて行い,2005 年1月末にはWeb 上で選考結果を公表する予定である。2005 年5月開催予定の授賞式では,受賞者による作品プレゼンテーション,選考委員による講評およびディスカッションを行う予定である。

作品の推薦について
今年度より応募が相応しい作品について一般の方からの推薦受付を実施する。景観・デザイン委員会宛に推薦があった場合は,該当する作品の関係者に応募依頼書を送付することにしている。推薦締め切りは2004年7月31日である。

本賞に関する問い合わせ窓口は,デザイン賞選考小委員会事務局である.一般的な質問は上記WebにFAQを用意しているので,こちらも参照されたい.

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