Declaration
※このページの内容は土木学会誌2003年8月号に掲載されたものです。執筆者の肩書きは執筆時のものです。

デザイン賞選考小委員会委員長 杉山和雄

 
1.ユーザーからみた土木構造物
 車で走っていて道路から見える風景に感動することはあっても,その道路そのものに感動する一般ユーザーはまずいない.しかし,もしその道路が違う箇所を通っていたり,道路のしつらえが悪かったりした場合には感動を与えた風景にめぐり合うことはなかったことを考えると,もう少しその道路の計画や設計の上手さを一般ユーザーに知ってもらいたいと思う.ユーザーは,道路の計画・設計についての知識はもちろんのこと,十分な情報に接する機会も少ないため,自身が車を購入する時のように,道路においても技術者は幾つもの選択肢を考案し,その中から最適な案を選択,創造しているということには思い至らない.ユーザーは,より安全に,より快適に,より環境にやさしい道路の建設に向けての様々な工夫や努力を知ることによって,初めてその道路の計画や設計の上手さを理解し,道路そのものに感動することができる.土木構造物は黒子に徹し,ユーザーが道路から見える風景に感動してくれているならそれでよいという考え方もあろう.しかし,土木施設に対して一般ユーザーの理解が深まることは望ましいことでありこそすれ,弊害など何一つない.まして土木構造物に対する説明責任が問われている今日では,機会を捉えては,計画・設計した構造物に対する説明を行うべきであろう.

2.説明の場としてのデザイン賞
 土木学会景観・デザイン委員会デザイン賞は,道路に限らずあらゆる土木構造物を対象として,とくに景観的,デザイン的観点に照らして優れた作品と,その空間や構造物の形態を発想し,あるいは形態や景観全体をひとつにまとめあげるに際して実質的に貢献した人々に敬意を表し,表彰する制度として3年前に発足したものである.つまり,本デザイン賞は土木技術者のデザイン技術の向上に資することをその目的とするとともに,一般ユーザーに対しては土木構造物の景観的・デザイン的観点に照らした「説明の場」でもあるのである.一般ユーザーが,計画,設計,施工等に携わった人の顔が見えるほどにその構造物に対する理解を深めるならば,その構造物に対して感動を覚えることはもちろん,その構造物の存在自体を誇りに思うに違いない.

3.幅広い景観・デザイン的観点
 公共施設として土木構造物が存在する以上,人々に対する配慮の欠けた構造物などあり得ない筈である.しかも,景観・デザイン的観点とは,狭い意味での美の問題に限っている訳ではない.バリアフリーとかユニバーサルデザインという言葉に見られるように,弱者に対する配慮等も包含し,本デザイン賞の重要な着眼点となっている.その意味では,人々に対する配慮の大半は景観・デザイン的観点とオーバラップしていることが多い.このように考えると,本デザイン賞への応募が相応しくない土木構造物というのは究めて少ないものと思われる.当該の土木構造物において配慮した事項を本デザイン賞を通して大いにアピールして頂きたい.

4.事業者の応募を期待したい
 過去2回のデザイン賞では,設計コンサルタントが中心となった応募が多く,事業者が中心となった応募は少なかった.しかし,説明責任の場としても本賞を活用して頂くという観点からは,事業者の積極的な応募を期待したい.ことに橋と川を一体として整備した事例や,さらには周辺地域をも取り込んで整備した事例では,個々の設計はそれぞれの設計コンサルタントが担当し,全体は事業者が統括していることが多い.そのような場合には事業者がその全体を語らなければ設計コンサルタントでは難しい.土木事業が単体ではなく,総合的な整備を目指しているのだということを一般ユーザーに知ってもらうためにも,事業者の積極的な応募を期待したい. 
 
 

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