ハルニレテラス

所在地:長野県北佐久郡軽井沢町星野 MAP
事業者:株式会社 星野リゾート

 

受賞者

氏名
所属(当時)
役割
長谷川浩己 オンサイト計画設計事務所 代表取締役 ・ランドスケープアーキテクト
・コンセプト提案
・ランドスケープの意匠設計および現場監理
鈴木裕治 オンサイト計画設計事務所 取締役 ・ランドスケープ主任担当技術者
・コンセプト提案
・ランドスケープの意匠設計および現場監理
東利恵 東 環境・建築研究所 代表取締役 ・建築家
・コンセプト提案
・建築施設の意匠設計及び現場監理
斯波薫 東 環境・建築研究所 取締役 ・建築主任担当技術者
・コンセプト提案
・建築施設の意匠設計及び現場監理
桐野康則 桐野建築構造設計 ・ランドスケープ構造担当技術者
・ランドスケープにおける構造設計
星野佳路 株式会社 星野リゾート 代表取締役社長 ・事業者
・基本構想立案
・設計検討体制の確立
丸山忠史 株式会社 星野リゾート グループFM ・事業者側建設担当者
・関係機関との調整

 

講評
軽井沢の林縁に万人が出入り自由の商業空間を挿入する。民間資本のプロジェクトであるから、商業主義が前に出たやかましい空間だろうという先入観があった。応募資料を持たずに実見したが、歩き回ってその水準の高さを思い知らされた。土地は、至る所にハルニレの高木が立ち、地形は渓流に向かって複雑に傾斜する。読み切りがまことに難しい。ここでこれだけの広場展開とディテールとを破綻なくまとめているのは一種の驚異である。卓越したエスキス力と、現場合わせの忍耐の連続によってはじめてなし得た成果だろう。民間資本だからできた。まことにそのとおりだろう。しかし、民間資本でもおいそれとはできなかったというべきだ。植物の根の保護のために張り渡されたデッキは、地形に応じて高さを変え、樹木保存のための穴を穿たれながら、実に多彩な大きさとかたちの広場を林縁に描き出していた。森に引き込まれる広場、森が迫り来る広場、森に抱かれる広場、森と向き合う広場・・・。そんなネームプレートなどないが、場所が随所でこちらに語りかけてくる。変化を生み出す目的で作り出されたのではなく、林縁との取り合いから自ずと生まれた多様性だからだろう。保存されたハルニレは、商業施設の屋根を高々と超え、森のスカイライン形成の一端を担っている。国道146号線に対して低く据えられた駐車場は、林縁の雰囲気を損ねないばかりか丁寧につくられていて小気味よい。隅々まで眼が行き届いた名品だと思う。(齋藤)

 民間資本によって整備し維持管理されている空間を、一般に自由に開放している“曖昧な公共”の好例だ。「民間と公共事業では、管理の状況が違う」という声が聞こえてきそうだが、もはやそういう時代ではない。行政だけで管理することには限界が見えている。だからといって、維持管理のしやすさを優先して、デザインの質を下げるべきではないことは明らかだ。むしろ、市民や企業などと協力して、レベルの高い維持管理とアイデアに溢れた企画運営を実践する仕組みを考えていく時代なのだ。ハルニレテラスは、その最先端を走る上質な土木デザインである。
 清流沿いに設けられた歩行空間は、デッキを支える構造のスパンを飛ばしてできるだけ自然地形や植生を痛めない工夫等、費用を要してでも自然を保護するという理念を徹底的に実践している。その象徴がハルニレの大木の保全である。ランダムに生育するハルニレの木に合わせるように、歩行空間のシークエンスが右に左に展開し、時に水辺へと人々を誘う。デッキや手すり、照明といった人工構造物は、細部に至るまで厳格かつ整然とした納まりで、極めて人工的に創られた空間でありながら、あたかも自然のままの森の中を歩いているような感覚が保全されている。
 有機的な自然の豊かさと構造物のデザインの厳格さが対比的に共存する空間の心地よさと、それを支える設計者の高い技術力・熱意には、深く敬意を表したい。新しい時代の新しい公共の幕開けを感じさせる作品だ。(西村)
 

  • photo:吉田 誠