建設コンサルタント委員会

平成9年度 全国大会 研究討論会

日 時;平成8910日(水)
会 場;中央大学8号館18105教室


テーマ; 「社会資本整備におけるライフサイクルコストの縮減と
建設コンサルタント」

座 長 : 駒田 智久  日本技術開発(株)

話題提供者

 「社会資本整備におけるライフサイクルコストの考え方
            稲村     東北大学大学院

 「社会資本整備におけるライフサイクルコストの縮減 −発注者の立場から−」
            光家 康夫   建設省

 「社会資本整備におけるライフサイクルコスト縮減と建設コンサルタント」
            吉野 洋志   パシフィックコンサルタンツ(株)

 「ライフスタイルコストの縮減と建設コンサルタント−建設コンサルタントの担うべき役割−」
            大野 博久   (株)オリエンタルコンサルタンツ

 「ライフサイクルコスト縮減の一提案−ゼネコンの立場から−」
            渡辺 泰充   清水建設(株)


はじめに 

 来るべき21世紀の高齢化社会に向けて、社会資本の効率的な整備が求められる中で、コストの縮減が大きな課題となっている。その実現にあたって、建設生産システムの川上分野を担う建設コンサルタントの果たす役割は重大とされている。そこで、本討論会では社会資本のライフサイクルにわたるコストをテーマに、その定義、計画・設計のあり方、制度面での課題、建設コンサルタントの果たすべき役割など今後の方向性を探った。

 

駒田 智久

 昨今では、公共事業費の削減や建設工事コストの縮減が国家的な関心事となっている。この問題に関しては、建設省が平成6年に行動計画を策定し、平成8年に実施の効果を中間的に報告しているが、そこではわずか0.4%しか削減できなかったとされている。また、昨年の12月に総理大臣自らの働きかけで建設工事コスト縮減の関係閣僚会議を設置し、平成94月に行動指針を発表した。それを受け、建設省は行動計画を策定し、その中で計画・設計、積算・発注の段階で6%、施工の段階で4% という数値的な縮減目標を示した。

 建設工事コストの縮減に関しては、上流工程における創意工夫の効果が大きく、その段階に関わる建設コンサルタントの責任は重い。(社)建設コンサルタンツ協会は、このことを真摯に受け止め、今年3月に設計改革宣言を発表した。土木学会の建設コンサルタント委員会としても、この動きに呼応すべく研究討論会のテーマとして「社会資本整備におけるライフサイクルコストの縮減と建設コンサルタント」を取り上げたものである。

 政府の行動指針、建設省の行動計画では建設工事コストだけを対象としているが、本討論会では計画・設計段階の重要性を鑑み、ライフサイクル全般にわたるコストという広い視点で捉えている。

 

稲村 肇 :「社会資本整備におけるライフサイクルコストの考え方」

 今回の討論会でまず大事なことは、社会資本を取り上げていることにある。私的財の場合には、消費者が自由に選び、廃棄するにもほとんど費用が掛からないが、社会資本の場合には、それは公共財であり私的財と異なる特性があることを踏まえて議論しなくてはならない。

 次に、ライフサイクルコストについてであるが、その概念は、1969年にライフサイクルアセスメントとして誕生し、それ以降、社会資本にも取り入れられるようになった。昨今では、計画から廃棄までライフサイクルの概念が拡大し、ISO14000よりも期間が長い、計画から解体・回収・廃棄に至るまで、外部費用を含めて考えなくてはならない。環境などよく分からないとか、アセスメントしているからいいではないかという論理は通用しない。しかも、建設コストの削減ではなく、安いものを作れば良いということでもない。建設コストと維持コストのトレードオフの関係、バージン材と再生材の問題など複雑なテーマがある。1900年代の初期に造られた大量の施設が今では更新の時期を迎え、公共施設の廃棄費用もクローズアップされている。

 2の問題は、ライフサイクルで考える場合には、廃棄費用が残り、それは次世代に負担を強いることである。現在価値法で評価する限りは、いくら割引率を低く設定しても、将来時における負担がゼロになってしまうが、実際は莫大な費用負担を強いる。

 昨今、二酸化炭素の排出権を国際間で売買する議論が交わされる時代になったが、社会資本の場合には、国民の判断を仰ぐスタンスが重要である。

 後に、建設コンサルタントの役割について、強く感ずるのはコンサルタントとシンクタンクとを分ける必要がないことである。世界的な定義ではシンクタンクもコンサルタントも同じで、計画から最後の処分まですべてに対する判断力を持たなくてはならない。

 

光家 康 :「社会資本整備におけるライフサイクルコストの縮減−発注者の立場から−」

 日本の発注者の多くはライフサイクルコストの概念を持てていると言えないが、建設省では数年前から建設省総合技術開発プロジェクトで、土木技術における建設工事コストの低減を扱ってきている。維持管理の合理化、例えば、高耐性塗装、骨材補給システム、下水道内部の耐腐食塗装などを研究している。また、非破壊検査技術も開発され、ダムの洗掘現象、コンクリート構造物の外部診断、橋梁床版へのPCの使用などについても研究している。

 リサイクル率を高めるという観点から、都市部では建設副産物の再利用を原則的に義務づけている。今では再生材を使った方が安くなるようになってきた。ISO9000など品質管理システムに取り組む企業も増えている。

 平成612月に建設工事コスト縮減の行動計画を策定した。それは4つの柱から構成されており、その中にライフサイクルコストの概念が取り込まれている。本年4月の政府行動指針にはイニシャルコストへとシンプル化されているが、建設省の行動計画では、計画・設計段階でトータルな検討を行うべく設計VEも取り込んでいる。総合評価方式では技術競争の要素を加えるなど、トータル概念で評価する考えが徐々にではあるが入りつつある。

 今後は、時間、対象いずれにおいてもその範囲を拡大していく必要がある。たとえば更新・撤去を考えた設計とするなどがそれに該当する。実用段階には至っていないが、やっとその概念の広がりが起こりつつある。

 

吉野 洋志 :「社会資本整備におけるライフサイクルコストの縮減と建設コンサルタント」

 ライフサイクルには、企画・計画、設計、建設、維持管理、取壊・撤去までを含み、体系立てた検討ではないにしても、建設コンサルタントは何らかの形で携わっている。ライフサイクルコストを考える場合には、地球環境という要素を含めてトレードオフ関係を考える必要がある。ただし寿命の予測に関しては不確定な要素が多く、長期的な研究が必要である。ライフサイクルコストの代わりに、資材、マンパワー、エネルギーの1つを捉えて、何かを最小化する考えもある。

 (社)建設コンサルタンツ協会は、今年3月に設計改革宣言を行った。この中で、より上流側に力を入れるべく、設計システムの改革、設計基準の見直し、設計者の改革などを掲げ、責任ある行動を宣言している。

 たとえば道路設計システムでは、目的を固めてから設計に着手するが、これまでのように詳細設計に比重を置くのではなく、その前の概略設計の段階でライフサイクルコストを比較検討するのが望ましい。外国におけるコンサルタント業務では、マスタープラン、フィージビリティースタディー、詳細設計、発注支援、施工管理など幅広く行っており、ライフサイクルコストを考えた計画・設計の経験と知識は備えつつある。

 

渡辺 泰充 :「ライフサイクルコスト縮減の一提案−ゼネコンの立場から−」

 社会資本の企画から、用地買収、設計、施工、維持管理、更新に至るまで民間に任せて貰えれば、ライフサイクルコストの縮減につなげることは可能である。まず、企画について言えば、バブル時代に十分経験を積んでいる。用地買収についても民間で対応できる。設計についても、例えばライフサイクルコストのうちの維持管理費を最小化する設計の実績を実務ベースで有している。
 維持管理段階では、現在行っている業務を通じてデータを蓄えれば問題はない。このように調査、計画、設計、施工、維持管理、診断、補強、補修工事などまとめて任せて貰えれば、それを反映した設計は可能である。供用しながら更新する技術などは民間の方が得意である。

 最近、建設省では、国内事業でのBOTの可能性を探りはじめたが、この方式を導入すればライフサイクルコストミニマムを実現できる。

 建築分野ではライフサイクルコストによる最適案の選定の考えが土木よりも進んでいる。数千という材料や設備のデータベースを基に、ライフサイクルコストを算定することが通常である。施主がライフサイクルコストの安い建造物を望んでいる。設計の段階でライフサイクルコストで競争する仕組みを築くのが、確実でしかも速く実用化に向かう道ではないだろうか。

 

大野 博久 :「ライフサイクルコストの縮減−建設コンサルタントの担うべき役割−」

 ライフサイクルを考える場合、物理的な寿命、経済的な寿命、社会的な寿命の3つの寿命があり、建設コンサルタントの立場では、社会的な寿命で決まることのないようにしたい。

 環境影響の費用換算については、特定の対象、例えばCO2などに限定すれば可能であろうが、自然、生活、社会など総合的にコスト換算することは、ディメンジョンの問題などがあり、容易なことではない。公共施設の要件のうち、安全性や経済性は、施設が完成した時点で、一応担保される。しかし、一段高い視点である歴史、文化面の価値については、子々孫々に渡って評価されるもので、視座をそこに据えてライフサイクルコストを考える必要がある。この面では、人文科学、社会科学と融合した科学の発展をめざして、他分野の専門家との協創が必要となる。

 また、建設CALSの実用化が進められているが、維持管理などにおいても、建設コンサルタントは中心的な意識を持ってデータの集積を図り、その早期取り入れに努めなくてはならない。トータル的に良いものを安く国民に提供するためには、計画から廃棄・撤去まで設計図面を中心に、建設コンサルタントが管理のサイクルを回すつもりでTQMを推進する必要があろう。

 


討 論

1)計画、設計段階でライフサイクルコストをどのように評価するか。 

@ライフサイクルコストで評価する場合、長期を見据えて、現在どうしておくかを考えることが重要で、BOTの場合には、30年、40年先にトランスファーする段階で施設を使用できるという保証がいる。安易な導入は禍根を残しかねない。また、高速道路はネットワークが完成することによって利便性が増大するように、公的な機関が独占的に行うことにより一体性を向上させるという視点も、公共事業の場合には重要となる。

Aライフサイクルコストが取り上げられるほど、世の中が変わってきたのであり、コンサルタントの提案を頭から拒否しないように発注者の意識の切り替えが必要である。新しいライフサイクルコストの基準を早く作り、発注者が迷わないようにすべきである。

Bイニシャルコストが高くてもライフサイクルコストが低ければという発想で提案を受け入れるようになるには時間が掛かる。設計VEは、柔軟性を持たせないと機能しなくなるため、技術基準の見直しが急がれる。

C現在はライフサイクルコストを適正に算定する方法の確立に向けて、データベースを構築し、システムデザインする段階にある。初期の段階から予測の信頼性を高めることは難しく、明確となっている要素から順次取り込み、制度的な面でフォローすることで技術が急速に高度化する。

D公共財の観点から、イニシャルコストとライフサイクルコストを考えなくてはならない。50年後にコンクリート構造物の状態がどうなるかを予測し、建設費の3分の1くらいを壊す費用に充てるなど、国民に分かる形で示す必要がある。また、積算過程を明確化することによって、後生の人が納得できるようにすることも重要である。不確実なものに対しては、手段の透明性と積算プロセスの明確化が特に重要である。


2)設計VEDB等を導入する上で、制度的な問題はないか。 

@廃棄物を使用せよ、ライフサイクルコストを取り込めというように、発注仕様書に記載することが重要である。寿命に差がある場合には、ライフを評価に加え、点数化して価格との抱き合わせで評価する方法も考えられる。設計VEは、コンサルタントの能力とゼネコンの知恵を結集できるシステムであり、積極的に導入する必要がある。

Aどの社でも保有している技術の適用を施工条件とされると、それが本当に安い設計であるか明らかでなくなる。DBを導入するなど、各社の特性を生かす方式を採用すればコスト問題を軽減することができる。

B技術提案総合評価方式で性能を明確に規定することはそれほど容易ではなく、イニシャルコストが高くてもトータルコストが低くなる設計、施工を採用するなど仕様書に明記する形で適用することになろう。

C将来的には、たとえばエネルギー最少、廃棄物最少、環境影響最少といったように評価指標がコストだけでなくなる可能性もある。

質問50年の耐用年数という設計VE仕様で、コストが上がっても、60年持つものを提案した場合はどう評価するのか。

応答:設計仕様が50年であれば、60年はムダな設計である。ただし、50あるいは60で割り、低い方を採用する考えもある。

応答50年後からの10年間と今からの10年間とが同一の価値であるかも考える必要がある。

 

3)建設コンサルタントはいかなる役割を果たすべきか。

@建設コンサルタントは官のパートナーであり、施工業と一体となって貢献する構造は難しい。

A建設コンサルタントの役割を考える際には、国民・利用者にどのような価値を提供するかの意識を常に持って取り組まないと次世代に評価される設計はできない。

質問:公共財の場合、誰が誰のためにやるのか。

応答:最終的には社会的な選択に委ねることになろう。どの範囲の人を選ぶかについては、利益を受ける人、害を受ける人、そして税を負担する人が対象となる。

 

おわりに

 本日の討議だけで結論を導くことはできないし、ライフサイクルコストを華々しく進めることもできない。ただ、社会資本整備にライフサイクルコストの概念を導入するためには、官、学、民それぞれが役割を認識し、着実に成果を上げなくてはならないことは事実である。


以上、   平成9年度 全国大会 研究討論会報告

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